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『────……、』
[振り返り、空を仰いだその時に。
脳裏に直接囁くように響いた言葉>>59を反芻して、その答えに詰まる。
私が、死ねない、理由…?
ぐるり、ぐるりと巡る問いに、意識は遠のき絡め取られ。
近づく深紅だけが鮮やかに。
ドサリ
どこか遠くで聞こえた音は、一体…?*]
― 異界門 ―
[どこかから、話し声がする。
それに気づいた瞬間、微睡から意識を引き抜くようにして、男はおもむろに瞼を押し開けた。
体を起こせばそこは、見知らぬ場所。
…男にとっては、“色彩を欠いた”地だった。]
…ここは…
[ゆるりと辺りを見回せば、そこは不思議な光景であった。
冷たくて白い、かと思えば、薄紅色の花、それと…あれは何色だろうか。
しかしひときわ目を引くのは…見慣れた赤…――]
『死ねない理由は、あるかい?』
[呼ばれるように呼応する、問い。
その問いへの答えは、そうだ、持っていたはずだ。]
…死者に口無し、
正義を語るは生者のみ…
[小さく呟き、立ち上がる。
身に着けていた記憶のあるものは、何一つかけていないようだ。
浚われたにせよ、相手はひとまずこちらを害するつもりはないらしい。
傍らに落ちた軍帽を拾い、頭にかぶり直し。
…集まる数人へと視線を巡らせて、僅かに眉間に皺を寄せた。]
[立ち上がり、言葉を交わす青年と女性二人を眺めたところで、声をかけられ>>89振り返る。
気配には聡い方であるが、一瞬気づかなかったのは不覚と言わざるを得ない。
しかし、警戒は一瞬で塗り替えられた。
どことなく…異なる、気配。
半ば無意識に、男は被ったばかりの軍帽を脱ぎ、片手で胸元へ抱える。]
…雪花。
[雪花に導かれし者、と問われ、男は暫し口を閉ざす。
それから、ちらり、先ほど目にした白くて冷たい物を見やった。]
[立ち上がり、言葉を交わす青年と女性二人を眺めたところで、声をかけられ>>89振り返る。
気配には聡い方であるが、一瞬気づかなかったのは不覚と言わざるを得ない。
しかし、警戒は一瞬で塗り替えられた。
どことなく…異なる、気配。
半ば無意識に、男は被ったばかりの軍帽を脱ぎ、片手で胸元へ抱える。]
…雪花。
[雪花に導かれし者、と問われ、男は暫し口を閉ざす。
それから、ちらり、先ほど目にした白くて冷たい物を見やった。]
なるほど、あれが。
[雪、と呼ばれるもの。
知識としてはあったものの、未だ実物を目にしたことの無かった男は、その白をしっかりと視界に収める。
それから戻した視線で、否の答えを返した。]
…申し訳ありませんが、私のおりました地では、
雪は見ることが叶いませんでした。
[ですから、人違いでございましょう、と。
問われたことにはっきりと言葉を返す。
先ほど投げられた問いと、声の主が異なることには気づいていた。
しかし、その声が、己を呼び寄せた者であるとは、未だ思い至らぬまま。
意識を失い、目が覚めたら見知らぬ地にいるという異常事態には、まるで動じぬ素振りで、淡々と、言葉のみを返す。*]
私の国は、温かい土地でしたので。
[雪の降らぬ地に驚きだろうか、思うところのある反応を見せられて>>101、男は端的に付け加える。
四季がなかったわけではない。
だが、雪花が花開くには、いささか冷気が足りない。
しかしいずれ、北へと侵攻してゆけば、雪降る大地をこの足で踏むこともあるのだろう。
…それは、この相手の纏う気配のような、鋭さを帯びたところなのだろうが。]
……。何か。
[視線を正面から合わされ数瞬。>>101
まるで頭の中を覗き込まれるような居心地の悪さを感じつつも、ゆっくりと瞬きを一つするのみで、男は目を逸らすことはしない。
見つめられる分だけ見つめ返せば、何かを得心した様子。
逸らされる視線を追いかけるように、つられてあたりを見回した。]
『そなたの心に氷は宿らぬ』
[評された言葉を、胸の内で繰り返す。
氷。
冷たく、温度を奪うもの。
時が経てば、解けて消えて無くなるもの。
それに抱いた感情は、憧憬、と呼ぶものにどこか似ていた。]
[それよりも。
別の言葉の方が、気にかかる。]
『異界に呼ばれても…』
『我が
[異国での戦では、予期せぬことが起こることが常である。
見分はいくら広めたところで、未知なるものへの出会いは必然。
それ故、思考は常に柔軟に努めている。
…とはいえ。]
……。
[この状況は、いささか特殊すぎる気はした。]
[眺めていた青年が、流した視線でこちらをとらえる。
何やら困惑顔を見せてくるが、それを表情一つ変えずに眺め。]
………。
[生憎、表情一つで正確に心の声を読み取れるほどエスパーではなかったようだ。
しかし、唐突な流れについていけないのだろう、とだけ理解して、最終的にはやはり拒否権は無いようだ、と認識。
しかし、くるくるとよく表情の変わる奴だ、と思うがやはり顔には出ない。]
[そんな折。
視界をかすめる、灰色の影。
誘われるように、そちらを見やればそこには二頭の獣。>>110
灰色、だろうか。
いやもう少し、色が濃いかもしれない。
それとも、褐色か。
そのあたりの微妙な色味は、男には判別がつかない。
しかし、何よりも印象的なのは、その瞳であった。]
狼…か…?
[姿を認めると同時に、帽子を抱えていた右手を、腰のサーベルへとやり、柄を握っていた。
しかし、その瞳を目にし、男はそのまま刃を抜かずに硬直する。
戦場において、肉食の獣は概して敵である。
基本的に、彼らは人の気配に近づかない。
人間とは武器を持っており、身が少ない割にリスクが大きいことを知っているからだ。
しかし、わざわざ近づいてくるのであれば、そこには何らかの理由がある。
戦場であれば、多くの場合、住処を荒らされ獲物を無くしたか、事故にしろ故意にしろ、子供が殺されたか、といったところである。
つまり、姿を見せる獣は、危険である。
しかし。
目の前の狼は、こちらをじっと金色の
[狼たちは、こちらを見つめるばかりで、唸り声ひとつ立てない。
牙を見せることもしない。
数呼吸の後、男はゆっくりと、握った柄から手を放す。
それを目にしたのだろう、狼の一頭が、ゆっくりとこちらの足元へと近づいてきた。]
…君、は、
[ ぱくり
声を、かけようとした。
しかし狼は無造作に、落とした軍帽を咥えあげる。]
…え
[ぱっと身を翻し、駆け出す狼。
もう一頭も、その後ろをついて行くようだ。
あっけにとられた男は、一瞬出遅れる。
軍帽を咥えた狼が、ちらりとこちらを振り向いて、尾を揺らす。
おいで
呼ばれた気がして、つい、一歩を踏み出した。]
ッ、
[ぐ、と一瞬、男の表情が歪む。
踏み込んだ脚を、駆け上るようにして腰まで走る痛み。
普段歩いているのであればどうということもないが、迂闊に踏み込むと、蘇る“傷”。]
待って、
[呼びかけると、足元にまつわりつく、するりとした温もりに気づき、見下ろす。
目が合った狼の、眼差しの意味は分からないが、しかし暖かな何かを覚え。
何故だろう、安堵する。
見れば、数m先で、軍帽を咥えた狼も、こちらを振り返るようにして待っている。]
…ありがとう、大丈夫。
[呟き、何事もなかったかのように歩き始めれば、傍らの狼もこちらを誘うように歩き始め。
ちらりと他の、おそらく“呼び出された”女性たち、そして“呼び出した”者たちを眺めやってから、歩き出した。
きっと、彼らの導く先に、己を“呼び出した”誰かが待つのだろう。
そう、漠然と感じながら。*]
[狼たちに誘われるまま、歩みを進めてどの程度であったろうか。
木立の間を進めば、人の気配などあたりに感じられない。
しかし、狼たちが、止まる気配もない。
先導する狼は、時々こちらを振り返り、こちらの歩みを確認しているようだ。
傍らのもう一頭は、こちらに歩調を合わせてくれるらしい。]
君たちは…御使い…?
[傍らの狼に問いかけるも、見上げた瞳からは返答は読み取れず。
たどりつけば、わかるのだろうとは思うものの。
ふぅ、と小さくため息をつく。]
[ふと、人の話し声>>126>>142が聞こえた気がした。
一瞬止めかけた歩みを促すように、傍らの狼が、袖を咥えてぐいと引く。
仕方なしに、再度歩き出せば、唐突に視界が開け、そして。
目に飛び込む、赤。]
――……。
[一瞬、見とれた。
男の彩度の低い視界にも、鮮やかに咲く赤に。
自然、立ち尽くした男の視界のに、先行していた狼が、その赤い人へと歩みより、咥えてきた軍帽を渡すのが映り込んだ。
ちらり、と、もう一人の姿へと目をやってから、再度男の視線は赤へと返されて。
数瞬の後、ようやく足を踏み出す。]
……。
[堂々たる体躯。
目に鮮やかな、燃えるような緋色の髪。
明らかに作り物などでは表せない、立派な質感の双角。
どう見ても、人ならざる者であるその人は、しかし先に言葉を交わした雪の御仁よりも、あるいはあの青年を招いた蓮の花持つ人よりも、そして今現在、傍におられる方よりも。
ずっと、現実味を帯びて感じられるのは、何故だろうか。
注がれる、金色に似た色の眼差しを見上げて、男は問う。]
…私を“呼び出した”のは、貴方でしょうか。
[人ならざる者を前にしても気圧されることのない、銀に近い蒼が、まっすぐにその瞳を見返した。*]
― 回想・異界門 ―
[三人の様子は、少し離れたところから、何とはなしに見守っていたものの。
余り混ざる気の無かった男は、声をかけられたのが己であることに、一瞬気づかなかった>>171。
一拍遅れてこちらを見る少女の姿に気付けば、視線のみを返す。
それから、ひとつ、頷いた。]
…あぁ。
[間。
初対面で、境遇が似ているとはいえ、仲間でも無ければ一騎打ちの相手でも無い。
名乗り合う、という発想に至らなかった男は、そこで止まる。
三人が名乗り合うのは見てはいたが、その名も記憶に留まっていたかどうか。
尋ねられれば、怪訝な面持ちを見せたであろう。
再度名乗られてしまえば流石に、名乗りを返すが、それもデンプヴォルフ、と姓のみを。
男が正式に名乗るのは、まだしばらく後の話。*]
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