情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新
[ 帰ろうとしたところへウォレンから絆の声が飛んできて、黒狼の耳と尾と心が元気に上がる。
現金なものだと我ながら思う。]
大きすぎるものがそれなりに。
運ぶのに手を貸してください。
[ いそいそと駆け戻って迎えに行こう。]
[ 体は休息を必要としていても、状況判断をさぼったりしないルートヴィヒの声を腕の中に聞く。
下に降りたらこの状態ではいられないだろうから、今しばらく特権を堪能しておこう。]
確かに手土産のひとつも渡したいところだが、
あれを落とす策があるか ?
[ 得物は護身用の拳銃と簡易ナイフくらいしかない。]
なにか見つかったらしい。
ちと行ってくるな。
[頭上の相手にも声を掛けて、腹心が駆けた方へ向かった。*]
[ 戻る途中でウォレンと合流する。
面白そうな冒険をしている時の彼の子供みたいな好奇心いっぱいの顔が好きだ。
久しぶりに背中に乗ります ? と伏せてみる。]
[策を求められて、暫し思案する。]
果実は熟れれば落ちるように出来ていますから、揺らすなり継ぎ目を切るなりすれば落とせるはずです。
ですが、落ちた反動で枝が揺れれば、私たちも振り落とされかねませんね。
私が枝にしがみついていますから、あなたが実を落としてみてください。
念のため、身体を枝に縛っておきましょうか。
[縛るなら、先ほど脱いだ服もあることだし。*]
おっ。いいな。
久しぶりにおまえと駆けるか。
[誘いに嬉々として乗り、狼の背中に跨がる。
馬とは違う躍動感と疾走感がまた好きだった。]
おまえが見つけたものを、おれにもみせてくれ。
[狼の視線で、速度で世界を見るべく、身体を低くする。
それだけで世界の色が変わるのだ。*]
[ 剛い狼の毛をウォレンの指が鷲掴みにする。
痛いどころか気持ちいいくらいだ。
低い重心での騎乗態勢をとった彼は、ほとんど狼の一部になったように感じられる。
彼は人間のみならず、獣の扱いもよく心得ているのだ。
いやはやまったくもう。
ワォンと一声あげて、黒狼は大地を疾駆した。]
[ 見つけたもののところへいちいち案内して、探索の成果を見せびらかす。]
ここに服を置いていくとか、何があったんでしょうね。
[ 別段、争った形跡もなさそうだと鼻をきかせる。*]
[ 落下しないように縛っておくべきという判断を吟味して、くすりと笑う。]
縛られているおまえというのはレアだな。
最初に会ったときを思い出したぞ。“牢名主”殿。
よし、救命胴衣の金具を使って固定するとしよう。
まずは一緒に美味しそうな実を選ぼうか。
あちらも出かけたようだから、ゆっくり慎重にいこう。
[ 立ち上がって枝の上を移動すべく促した。*]
[狼の背に乗って駆け抜ける気持ちよさは他に代えがたい。
後ろへすっ飛んでいく風景のトンネルを、風になってくぐり抜けていくようだ。
探索の成果をひとつひとつ見せびらかしてくるのは、褒めてと尾を振る犬そのものだったから、頭と良い首筋といい、撫でまくってやった。]
絵の具?はよく分からんが、あのパンは美味そうだったな。
なんで落ちてんのか知らねぇが。
剣が落ちてるってのは、ここらもやっぱり物騒なのか。
妙な形だったが面白そうだ。
帰ったら真似して作らせてみるか。
[謎の紙については、よく紙が落ちてるなという感想を抱いただけだった。]
服……服か。でかいな。
生地か分厚いな。暑くなって脱いだんじゃねぇか?
[適当なことを言いつつ、検分する。]
これの上なら飛び降りてもいけるんじゃねぇか?
しかし、でかいな。
あー。そうだな。
あの三角のやつくらいなら運べるか。
良い鍛錬になるな、こいつは。
[上下揃いの赤い服は、厚みがあって十分なクッションになりそうだ。
運べそうなやつだけ引きずって持っていくか、とヴォルフから降りる。
おまえも手伝え、と耳の間をわしわしした。*]
なにを想像しているんですか。
もう昔の話でしょう。
……その名で呼ぶなら、あなたを顎でこき使いますよ。
[何しろ、牢名主は皇帝より偉いのだから。
自分たちの運命を決めたあの一日を思い出しながら、促されるままに立ち上がる。
足元が不安定なのは小舟も枝の上も同じだったから、枝を踏み外さないようにだけ気をつけて移動を始めた。]
果物は枝の先端近くに生るものの方が美味しいそうですよ。
あとは良く陽を浴びる場所のものが良いとか。
[探索の合間に、交易商の跡継ぎ時代の知識を口にする。
枝を歩くのはともかく、他の枝に移るのはちょっとしたアスレチックだった。*]
顎でこき使われてこそいないが、口調は当時から変わらないな。
[ 思い出し笑いを続けながら、危うげなく枝を渡っていく。
なるほど、体が慣れている感じがするのは、波の上と似たような揺れ具合だからかと合点がいった。]
先端近く ?
[ この状況で目利きを発揮するルートヴィヒを頼もしくも愉しくも思いながら、おまえはこの辺で、と頑丈な枝の近くに押し留めて、カラビナで安全確保してやる。
自分はナイフを咥え、舳先のような梢へと歩を進めた。
よさげな実の軸を蹴って落とせるか試してみる。*]
[ わしわしと撫でられまくって、身震いしながら目を細める。
獣でいるのも居心地が良いが、新しい形の剣の話になると、耳をそばだてて程なく人の姿に戻った。]
これは籠手と柄が一体化した感じでしょうか。
突くのも切るのもいけそうですね。
試用するならお相手しますよ。
[ 嬉々として、そんな談義をしている。]
[ 縁飾りのついた円錐形の天幕のような布を持ち帰ろうとウォレンは決めたようだ。]
鍛錬、ですか。
[ 異世界に来てもするんだなあと感心する。]
任せてください。
[ 自分の方が背が高いからと縁の方を担ぎ上げ、ウォレンには後ろのポンポンがついた方を引っ張ってもらうことにした。*]
[剣の話にヴォルフが乗ってくる。
使い方について、ああだこうだと議論するのも楽しい。
新しい武器は刺激になる。だから妙な世界に流されるのも嫌いじゃなかった。]
おう。
さっきの続きもしねぇとな。
[試用の話に、予定を重ねる。]
[三角の巨大な布は、多分帽子だろうと思うがよく分からない。
布とはいえ桁違いのサイズのそれは、白いポンポン部分だけでも一抱えより大きかった。]
おし。行くか。
[気合いを入れて運び始める。向かうは彼方にそびえるリンゴの木の根元だ。
先ほどヴォルフに乗って駆け抜けた道のりも、重量物を引きずって歩くとなれば相当の距離である。
目的地に着いた頃には、すっかり汗だくになっていた。*]
あなたが変わって無いということですよ。
[変わっていないのはお互い様だと言う口調は冷ややかだが、表情は柔らかい。
変わらないあなたこそが私の道を照らすのだと、口にするにはまだ照れが残る。]
[不安定に揺れる枝の先端へと進むアレクトールを、瞳に不安の色を宿して見守る。
こんな時、自分がもっと鍛えていれば半身を支えられるのにと思う。
今は彼に繋がる錨の役を果たすだけだ。]
気をつけてください。
実が落ちた瞬間が最も危険です。
[黙って見てはいられずに、口うるさく注意を促した。*]
[ 後ろから飛んでくる腹心の声を応援とも警告ともして作業を続けた。
柄に切り込みを入れ、ルートヴィヒが脱いだ服をロープ代わりに結ぶ。
よい頃合いに、地上組が真っ赤な布を引きずって戻ってくるのが見えた。]
この下に頼む !
[ 呼びかけて、彼らの到着を待ってからロープの端を持ってルートヴィヒのところへ戻り、力をあわせて一緒に引いた。]
せーの !
[ リンゴのために汗水垂らして働くこのウォレンは一国の皇帝なのだが、どこに行ってもウォレンだなぁと思う。
彼と一緒ならすべてが挑戦で、楽しい。]
あとは温泉でもあったら嬉しいですが、ここの温泉は海みたいに深いかも。
[ おしゃべりをしながら木の下へ戻り、上からの声に基づいてクッション代わりの布を設置する。
頭上で揺れている果実は、なかなかの質量兵器になりそうだった。]
[視線の大半は我が太陽へ向いていたが、葉の間から見える地面に赤いものがよぎっていく。
見下ろせば、地上のふたりが大きな三角帽子を運んでくるところだった。
縦に長い帽子はちょっとした小舟ほどもある。]
あんなものを良く運んでこられましたね。
[小舟を運ぶのは馴染みがあるが、あの帽子は舟より持ちにくそうだ。]
[戻ってきたアレクトールと力を合わせて即席ロープを引く。
真っ赤な果実が揺れて、木が軋む音がした。]
もう少し…
[軋んでいた柄がぱきりと音を立て、ロープの先から重みが消失する。
ふわりと足元が弾み、慌てて我が半身に腕を伸ばした。
縋ったのではなく、支えようとしたと主張したいところ。*]
ここのサイズの温泉だからなあ。
出るには壁登りが必要になりそうだぞ。
うまいこと川辺に湧いててくれりゃあなぁ。
[話している内に湯に浸かりたくなってきた。
頭上の連中は美味そうな実に目星をつけておいてくれたらしい。
ゆさゆさと揺れる実を見上げる。]
跳ねたり転がったりするとヤベェな。
[なんて言いながら眺めるうちに、リンゴが枝を離れて落ちてくる。
狙い過たずにリンゴは赤い布の上に着地し、軽く地響きを立てた。*
数度弾んで、ゆらりと止まる。
甘い香りがふわり漂った。*]
[ リンゴが落下するや、ルートヴィヒが予告していたとおりの反動が枝を跳ね上げる。]
おおう、
[ だが、あらかじめ気をつけていたから、大丈夫だ。
ルートヴィヒから伸ばされた腕と腕を絡めてバランスをとる。
ダンスパーティのエスコートのようだと愉快に思った。]
なければ自分たちのサイズの風呂を掘ればいいでしょう。
[ また肉体労働になるけれど、ウォレンはそういうの嫌いではないはずだ。]
でも、まずは腹ごしらえですかね。
[ 落ちてきたリンゴがどう跳ねても大丈夫なように構えておく。
幸い、割れることもなく赤い布で受け止めることができたようだ。
上の人たちに結果を知らせる。*]
[こちらは足元が揺れて冷や汗をかいたけれども、私の陛下は楽しそうだ。
腕を絡めてバランスを取り、下を見ればリンゴは無事に三角帽子の上で止まっている。
うまくいったと下からの声も知らせてきた。]
あなたと一緒に飛び込むのは何度目でしょうね。
[最初に出会った日から、物理的にも精神的にもいろいろなところへ飛び込んでいる。
それでも、ふたりなら飛べない場所はない。]
いつでもいいですよ。
行きましょう、トール。
[恐怖心を興奮で吹き飛ばして、跳ねる枝を蹴る。
ふわりと身体が浮いた。*]
おれたち専用の風呂か。悪くねぇな。
そう言うってことはおまえ、さては温泉の匂いを嗅ぎつけてるな?
[ひとっ風呂の前に労働するのも嫌いじゃないし、野趣溢れる温泉も好みだ。
後の楽しみをひとつ数えて、まずは落ちてきたリンゴに手を掛ける。]
上の連中はこのまま落ちてくる気だな。
リンゴ退かすぞ。
[ごろごろと大玉転がす要領でリンゴを移動させていく。
上から楽しげな声が降ってきていた。*]
[ ルートヴィヒの笑顔に視線を向けながら、頷く。
そのまま、出会の時から相変わらず高揚させてくれる片翼と共に翔んだ。
下では二人組が着地地点を確保してくれている。
赤い布の海に、ルートヴィヒと思い切り転がろう。]
感謝するぞ !
リンゴは遠慮なく受け取ってくれ。
[ 温泉の匂いと言われ、あっちの方、と指し示しておいた。]
ちょっと距離はありますけど、まあ皆、健脚みたいですし。
[ 背中に乗せるのはウォレンだけだと言外に主張しておく。
空から降ってきた二人も互いに仲が良さそうだから、そっちはそっちでいいようにやってもらおう。]
で、リンゴどうしましょうか。
[ 風呂より先にリンゴを穿ることになりそうだと思う。*]
[本日二度目のダイビングは、スリルのある遊びのようにさえ感じられた。
短い浮遊の後に、ふわりとした布に落ちて転がる。
はしゃぐような心地は、子供の頃に返ったようだ。]
[それでも立ち上がったときには普段通りの冷静な顔で、軽く衣服の乱れを正した。]
お怪我はありませんか?
[傍らの人の無事を確認した後、救出活動してくれたふたりに一礼する。]
白薔薇プリンスの宿以来、ですか。
また意外なところでお会いしますね。
[我が片翼とどこか似ているひとりはともかく、もうひとりとは奇遇にも面識があった。*]
よし、決まりだ。
後で行こうぜ。
あー。リンゴはそうだな…。
[素手では割れないし、かぶりつくにもでかいし。
最初にリンゴを発見したのと同じ悩みを繰り返す間に、空から人が降ってくる。
即席クッションは無事に人間も受け止めたようだ。]
よう、お疲れさん。
何とかなったな。
あ?そういや見た顔だと思ったら、あそこで会った奴か!
おう。元気そうじゃねぇか。
[ひとしきり、再会の言葉を並べたあとで、真顔になる。]
ところでおまえら、いい刃物持ってねぇか?
リンゴ切るにもひと苦労でな。
なけりゃ、少し先にあるでかい剣のところまでリンゴ転がしていくしかねぇな。
[いっそリンゴは固いところに落としてもらって、割った方が良かったかもなとも今更思う。*]
[ 上から落ちてきた男二人のうち、ひとりはウォレンと顔見知りの挨拶をしている。
ウォレンがナイフを探しているようだったから、背の高い方を指差して教えておいた。]
彼は武器を携帯しているみたいですよ。
[ 金属の匂いがするから。]
[ 挨拶はそつのない副官に任せておく。
あちらの副官とおぼしき男にはなんとなく見覚えがあった。
というか、鏡で見た感じ ? ]
武器 ? ナイフも拳銃もあるが、まあ必要なのはナイフだろうな。
[ 先ほど、柄を切りつけるのに使ったけれど、まだ刃は鈍っていないと思う。
サクリとリンゴの皮に突き立ててみせた。]
[ヴォルフがふたりの片方を指差して、武器を持っていると言う。
別に注意喚起じゃないだろう。
腰のあたりを叩いて、良くやったと示しておく。
しかし、改めて見ると似てるなと思う。
別世界に生き別れた兄弟とかだったりして。]
おう、ナイフがありゃ十分だ。
せっかくだし一緒に食おうぜ。
四人で食うなら十分だろ。
[遠慮無く受け取ってくれとは言われたが、うまいもんは大勢で食べた方がもっとうまいもんだ。
それはそれとして拳銃ってなんだ?と思ったので、後で見せてもらおう。*]
おれが給仕しましょう。
[ ウォレンが見比べて何やら楽しげにしている相手からナイフの主導権を譲ってもらう。
この程度の長さのナイフであれば、狼の爪でも代用できるかなと思案したが、ナイフがあるなら使うにこしたことはない。
よく知るサイズになるように切り抜いて、厚い皮は剥いておく。]
先に毒味したいです ?
[ 生真面目そうな向こうの青年に欠片を差し出してみよう。*]
[彼らはリンゴをこの場で食べる気らしい。
動かすのは難しい大きさとはいえ、ここで呑気にしていて良いものだろうか。
それに、色も形もリンゴに見えているが、実は毒があるかもしれないものを口にするのは良い度胸だ。
と思っていたら毒味を勧められた。
何を見抜かれたのだろう。]
そうですね。いただきましょうか。
[欠片を受け取って口に入れる。
甘い。]
……リンゴですね。
甘いですよ。
[そう結論づけて、わが片翼にも勧める。
腹をくくってしまえば、これも楽しい経験だろう。
抱えきれないほどの好物を食べる夢は、子供の頃に見たものだ。]
[この後どうなるかは分からないけれども、半身と共にあるならそれも良い。
いずれはあるべき場所に帰るだろう。
それまでは楽しんでいこうと思う。
とんだ休暇になりそうだ。*]
[ 毒味役が納得したようなので、リンゴを配って歩く。]
まずは邂逅を祝して。
お楽しみはまだまだこれからですよ。
[ それは疑う必要もないと、にこやかに告げて寿ぐのだ。**]
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