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[黒鱗の連れが足元に体を伏せる。
彼の肩に錫杖の先を当てて聖騎士叙勲を行った後、顎の下に差し込んで顔を上げさせた。
胸を軽く突き、引き戻せば、彼の胸から抜かれるように銀色の短剣が現れる。
短剣は、掴まれるのを待つように、彼の目の前に漂った。]
それは、ぬしの心の剣。
ぬし以外、触れることはできぬ。
切りつければ、魔をも斬れよう。
[すべてを見透かす眼差しで、ウェルシュに剣を取るよう促す。]
ただしその剣はぬしの心ゆえ、
斬った相手の心と直に触れ合うことになる。
相手を知る覚悟がある時のみ、振るうがいい。
その剣を、余からの祝いの品としよう。
[重々しく告げて、錫杖を軽く払った。*]
[ エディの指がきつく袖を握る。
ウェルシュ、と彼が呼びかけた若者は、 講堂からの帰りに会った者だとわかった。
蛇が、エディとかけあわせてみたらとか唆していた無邪気な子だ。
今は鎖で引かれている。]
…薬を盛られているようだ。
話しかけても無駄だろう。
他の者たちもすべて、心、あるいは純潔を奪われるなどして、聖騎士たる資格を失っているはずだ。
これからは魔物を主人と仰ぎ、その意のおもむくままに愛されて過ごすことになる。
魔王は聖騎士を貴重に思っているから、連れてこられた人間がそう酷い目にあわないよう、魔物たちを教育すべく、この機会を設けたのだとわたしは考えている。
[ そんな分析はエディの悲憤を癒す役にはたたないだろう。
けれど、悪しきことばかりであるとも思えないのだ。]
ああして番う者たちが羨ましくないと言ったら嘘になる。
[ 袖を握る指にそっと、自分の指を重ねた。
魔物たちのように、己の願望に素直であれば、この手を離すことは選ばなかったろうに。
力が、あるいは勇気が足りないのは自分の方だ。]
どのみち、目の毒だ。 用件を済ませて出よう。
[ す、と視線を向けて玉座を見やる。]
あれが魔王だ。
汝は彼と対面し、己が望みを語れ。
汝もまた、招かれし者なれば、魔王は歓待するだろう。
[ 共にゆく、と式典の場へ踏み出した。*]
[ 魔王が聖騎士叙勲を行うなど茶番でしかあるまい。
苛立つ、…きしになれたからおんがえしできた…。
感覚は曖昧模糊としていたが、何かひとつの節目を迎えた気はする。
顔を上げさせられ、魔王を見上げた。
重々しい中にも、深いものを感じる。
冷たい目だとは思えなかった。
彼を憎く思うのは、先入観だろうか。]
[ 自分の胸のあたりから、短剣が姿を現すのを見る。
刺さっていたものが抜かれたような、逆に身体の一部が分かたれたかのような。
心の剣だ、と魔王はおごそかに告げた。
抽象的な話は、魂のどこかに記憶されたが、今は理解が難しいと思った。
何が言いたい、…こんなものをいただけるなんて…
知るために、…ああ…
これを振るえと言ったな、…
ウェルシュは短剣を掴むや、魔王に斬りかかった。*]
[ウェルシュが魔王の前に進み出て、頭を床までつけるのを微笑ましく眺める。
聖騎士に叙勲されるのは誇らしくも感じた。
うちの子が認められるのは認められるのは嬉しい。
私だけの聖騎士。これからはそう呼ぼうか。]
[風向きが変わったのは、その後だ。
我が王がウェルシュに何をしたかは見えなかったが、彼の前に剣が現れ、魔王がそれを『心の剣』だと説明する頃には腰を上げていた。
ウェルシュが剣を掴んだ瞬間には、影に身を躍らせて床の面を疾っている。
魔王に斬りかかる直前に割って入り、背中で刃を受けた。
ウェルシュの中で、小蛇がばたばたと暴れる。]
我が王よ。
私の聖騎士に素晴らしいものを授けていただき、感謝しております。
この子も喜んでおりますようで。
私も早く可愛がってやりたくなったものですから、このまま御前を下がらせていただきましょう。
それでは、失礼を。
[一礼と共に、ウェルシュもろとも闇に溶けた。]
― 自室 ―
[部屋に戻った時には、ウェルシュと向かい合わせに立っていた。
背中の傷は見えないが、はたはたと床に赤い雫が落ちる。]
人間があの御方の魂に触れて、耐えられるわけがないでしょう。
振るう相手は見極めなさい。いいですね?
[人差し指突きつけて叱ってから、ひとつ息を吐く。
そこそこ痛い。ついでに、いつものようには治らない。
魔王の贈り物というのも、困ったものだ。*]
[蛇の連れ合いが斬りかかってくるのも、蛇が割り込んでくるのも、最初からわかっていたという顔で泰然と眺めていた。
蛇が辞去の言葉を述べるのを、頷いて許す。]
存分に愉しめ。
[闇に消える彼らに言葉を掛け、次の者を待った。*]
村の更新日が延長されました。
村の更新日が延長されました。
我が王にまで切りつけるなんて。
ああ、うちの子素直で可愛い……!
[間に割って入った瞬間の想いだって、魔空間には駄々洩れているんである。]
ですが我が王と言えど、この子の心には触れさせませんよ。
この子の体も、心も、私だけのものです。
[蛇も竜も、執着心は強いものだ。
竜が宝玉抱くように、闇がとぐろを巻いた。]
[ウェルシュは薬で従わされ、他の者達も様々に奪われて、魔物を主人と仰ぐことになるという。
どれほどの許しがたい行いが行われたというのか。
聖騎士が貴重?酷い目にあわないように?
これ以上酷いことがあるだろうか。
魔王を擁護するかのようなことを言った天使の顔を見る。
どうしてそんなことを、と口を開きかけて止まった。
重なる指の温度と、『羨ましい』と告げる声の色に、心が揺らぐ。
あの魔物たちも、共に生きる者が欲しくて聖騎士を求めたのだろうか。
そして同胞たちは、その思いに応えたのだろうか。
ありえない、と否定しきれない自分がいる。]
[促されて、玉座を見た。
そこに座る男の威厳に満ちた態度は、言われずとも魔王であるとわかる。
聖騎士候補を引き込み、魔物に下げ渡した者。
恐ろしいだけの者とは見えなかった。
力ある者の驕慢は無い。慈父のような懐の深ささえ感じる。
天使が言うように、自分が"招かれた"のならば――]
私の望みを……
[言葉をなぞり、頷いて、魔王の元へ向かう。]
[しばらく見ていたから、魔王が聖騎士叙勲の真似事をしているのは分かっていた。
真に聖騎士を志す者としては、あれを受けるわけにはいかない。
それでも彼の前に立たねばならない。
天使の手を一度握ってから離し、玉座の前に歩み出た。]
魔界の王よ。
[膝をつくことなく、魔王の前に立つ。]
[間近で見る魔王には、それほどの恐怖を感じなかった。
剥き出しの害意を向けてきた魔狼とは違う。
人には抗えない自然の驚異めいて、畏怖を呼び覚ますと同時に抗いがたい魅力を備えている。
自ら膝を折りたくなる誘惑に耐えなければならなかった。]
私は正しき聖騎士の道を目指している。
魔の叙勲を受けることはできない。
[拒絶を伝えるにも、気力が必要だった。
そのうえ自分は、己の要求を通そうとしているのだ。
ゆっくり深く息を吸って、肚に溜める。]
だが、私はここに、魔と添わせるために招かれたと聞いた。
私を求める者の手を離すことはできない。
私は彼と、人の世界で共に生きたい願っている。
彼を魔界より連れ出すことを許してもらえるだろうか。
[天使を主と仰ぎ、彼だけの聖騎士になるのではなく、民のために身を捧げる道を行きながら、彼を傍に伴っていたい。
無論それは人狼の王の魂も常に側あることに他ならない。
それも覚悟の上だった。*]
[蛇が闇に消えてより後、堕天使が雛と共に前に立つ。
進み出た雛は膝もつかず首も垂れず、不遜な、或いは気丈な態度で叙勲を拒否してきた。
それを不敬と断ずることもせず、無言で続きを促す。
雛が望むのは、魔に従うのではなく、並び立ちたいというもの。
身の程を知らず、立場をわきまえぬ願いだ。
聖騎士飼いの支援と普及という、此度の催しの趣旨にも反する。
しかし魔王は即座に否定はせず頷いて、堕天使を見た。]
汝の望むことを、望むままにせよ。
ぬしはどう考える?天より降りし同胞よ。
[魔の律を唱え、問う。
魔王自身の考えがどこにあるか、その瞳から窺い知ることはできない。*]
[ 魔王が下賜した短剣は、割って入ったアレクシスの背を撫で斬りにする。]
んっあああ…!
[ 体内で蛇が暴れ、短剣を取り落としそうになって、とっさに刃の向きを変え、自分の胸に向ける。
そのまま引きつけた。]
[ それは自傷行為ではなく、出現した場所に鞘があるという直感に基づく収納方法である。
《心の剣》は心臓の位置に再び飲み込まれた。
そしてウェルシュ自身はアレクシスが呼び出した闇に飲まれる。]
──…、
[ 影の中から取り出された時、アレクシスが最初に投げかけたのは教育的指導だった。
それを聞く間も、目の焦点が虚ろだったのは、彼を斬ったことで"知った"ものゆえ。*]
[ 魔王の前に進み出たエディは、人間ならば当然、受けるであろう畏怖に晒されながらも、誰の手にも頼ることなく地を踏みしめていた。
それは信心にも武芸にも頼らぬ、純粋な魂の強さであろうと思う。
魔王の叙勲を断るに述べた理由は人の子の理。
正しい聖騎士などというものは雲を掴むようにあやふやなものだ。
けれど、それを語るのがエディであるからこそ、燦然たる輝きをもって掲げられる。
堕天使は、その身に沿う影のごとく、一歩下がった位置に立っていた。
自分だけの聖騎士を得んとした魔物たちと、はからずも同じく。]
[ エディが魔王に"望み"を伝えたときには、わずかに唇を開き、固まる。
魔王の下問を受けて、その眦が、ほのかに染まった。]
これが、わたしが監督した候補生だ。
その責は我にあり、また我はこれを請い求める。
粗相をしたらお仕置きだと言っておいたでしょう?
それとも、お仕置きされたかったのですか?
いけない子ですね。
[そんなこと言っていない。
が、蛇にとっては些細な事である。
お仕置きにかこつけて何をしようか、とウェルシュに手を伸ばした時、初めて彼の異変に気付いた。]
どうしました?
まさか私の……なにを見たんです?
[焦点の合わない目の前で手を振り、そのまま顔の輪郭に手を添わせる。
心配の眼差しで彼の様子を見ていたが、途中で我慢しきれなくなって唇を寄せた。*]
[愛しい子が何を見たのか、蛇の知るところではない。
ただ、斬られた時に感じたのは、風の匂いと陽光の温かさだった。
蛇の内側に広がるのは
蛇の鱗が光さえ吸い込むような黒鱗であるのと同様、その魂もまた全てを呑み込む虚無であった。
己の虚を埋めるものを求め、己の魂を温めるものを求めて様々なものを呑む蛇は、やがては太陽すらも呑み込むだろうと予言されている。
ゆえにその名を
[ぷりぷり怒ってるところも可愛いとか、もっとなかせてみたいとか、とろとろにとけてるところも捨てがたいとか、一週間くらいずっと交わっていたいとか、スライムプールならうちの子の体力自動回復で大丈夫かなとか、いっそ中に仕込んでおけば永遠に交わってられるんじゃないかとか、もっと欲しいとおねだりさせたいとか、嫌いなのにいかされちゃうの悔しいなんて言わせてみたいとか、雑念は様々に溢れかえっているが、
ともかくも、手中にした珠に夢中だった。*]
[ アレクシスの中に見えた漆黒の空間は、以前、投げ入れられた水牢の比ではなかった。
そのあまりの果てのなさに目眩がする。
虚ろに酔ったというべきか。
立ちすくんでいると、なにやらピンクの霞が視界を埋め尽くす。
意外と子煩悩なのか?
相手を"知る"はずが、余計にわからなくなった気がした。 ]
[ 声が届く。呼びかける声。
はっと意識を取り戻せば、アレクシスの顔が近かった。
その唇の奥に牙があるのはわかっていたから、とっさに平手を飛ばす。*]
[責任の所在を言い、求めると告げた堕天使の目を暫し見つめた後、重々しく頷く。]
求めるならば、果たされよう。
人の身を得んとするならば、ぬしに宿る天の力を余に捧げるがよい。
[鷹揚な要求とともに、錫杖の先を堕天使に向ける。
先端から溢れ出したのは、黒く粘つく不定形の何かだった。
闇でもない。触手や粘体などでもない。
艶やかな黒は光を帯びながら光を拒み、液体のように波打ち飛沫を上げながら、霞のように朧でとらえどころがない。
それが、堕天使の胸に張り付く。]
[黒が脈打ち光を吸い込む。
ほんの一呼吸か二呼吸ほどの接触だった。
黒がほどけて杖に戻り、代わりにこぶし大の玉を吐き出す。
受け止めた魔王の手の中で、それは内側から透かすような金色に煌いた。]
天の使いを地に根付かせるは、そこに住むものの愛のみである。
仕上げはぬしが選んだ者に委ねよ。
これは、ぬしの力より生じた余禄である。
余の叙勲を受けぬ雛に祝いの品は授けぬが、これは持っていくがよい。
[かつて天使だった、今は何者でもないものへ宝玉を差し出す。
手を近づければ、指輪の"瞳"が開くのに気付くだろう。
宝珠は、月の魔力を備えていた。]
[魔王はうっすらと笑って告げる。]
月に一度きりでは狼とて飢える。
飢えれば狂いもしよう。
それはぬしの裡より狼王の魂呼び覚ますもの。
今少し頻繁に出してやるがいい。
酒と肉を馳走してやれば、あれも喜ぼう。
[これで終わりとばかり、錫杖をゆるりと振った。*]
ぬしも、それでよいな? 狼王よ。
[呼びかけるのは、魔空間でくつろいでいる元天使の同居人に向けてだ。]
あの二人で遊びたいなら、ぬしもうまく立ち回るがよい。
人界であまり目立てばぬしとて狩られもする。
つがいの肉体が失われては、あの雛が不憫よ。
なに。ぬしが退屈せぬよう、あれらが心尽くしてくれよう。
存分に愉しめよ。
[ 魔王が造り出したそれは、片手に収まる宝珠。
小さな月であった。]
あなたらしい采配、と言えようか。
[ 堕天使が受肉することで力を失えば、自分に宿る魔狼もまた力を失うであろうと憶測していた。
その一方で、魔狼が恒常的に優位に立つ可能性もあった。
魔王の処置は、それを諸共に回避する方法といえる。
望んだタイミングで魔狼を化現させられることの価値は、それが月に二度以上に増えても比べ様にならない。
魔狼王にとっても、悪くないトレードなのではなかろうか。]
酒を?
[ 魔王のつきあいの広さならば、あれの好みを知っていてもおかしくはないと思った。]
覚えておこう。
[ 受けた恩義、学んだ愛とともに。*]
くっく、ぐるる…
ぬしも悪よのぉ。
[ いっぺん、言ってみたかったらしい。]
ヒヨコを追跡する手間がはぶけたぜぃ
天使に憑いてアガリというのもつまらぬものだと思っていたところだ、
新たに強いヤツを食らって力を蓄えるニューゲームも愉しみよ。
[ いつかは、この魔王にも挑んでやろうかの、などとご機嫌で考えていた。*]
[痛い。痛かった。
いい音を立てて掌が頬に命中する。
その手首を捕えて押さえこみ、強引にキスを敢行した。
牙は立てない。でも舌は出す。
ちらり舌先差し込んで舐める程度の接触で、今は解放する。]
いけない子にはお仕置きですよ。
それともお仕置きされたくて、そんなことをするのですか?
可愛らしいこと。
[既に、下半身は蛇の姿に戻っていた。
機嫌良さげに尾の先がうねっている。
同じリズムを何倍かに速くして、小蛇も尾をぴたぴた振っていた。]
[とはいえ、今はお仕置きよりも別のことが頭にある。]
もうあなたは私の聖騎士になったのですから、これ以上修道院に留まる必要もないでしょう。
記念パーティーも開かれるようですが、私は早くあなたを私の棲家に連れて帰りたい。
何か持っていきたいものがあれば言ってください。
暫く人間の世界には戻りませんからね。
[そんなことを言いながら私物をまとめ始める。
尾の先端が、ウェルシュの足首にくるりと巻き付いていた。*]
[魔王の前に立って頭を上げていられたのも、影のように傍に立つひとを感じ、守護者になると誓ってくれた証の羽根を胸に差していたからだ。
魔王の視線が彼に向けば息を詰め、遣り取りを見守る。
同道を拒まれたなら。
そんな弱気もあったが、求める言葉が響き合い木霊する。
胸に灯が点る思いだった。
受肉を求めた彼がどうなるのか、人である身には理解が難しかったが、示してくれる決意が嬉しい。]
[魔王が天使の求めを了承し、錫杖を向ける。
その先端から黒いものが飛び出すさまに、息を吞んだ。
攻撃の意図を感じていたら体を張ってでも庇っただろう。
けれども禍々しくはあっても害意は感じなかったから、黒いものが蠢くさまを、拳を握って見つめていた。]
[黒が離れ、金色の珠が渡される。
魔狼を呼び出すものだという。
今でも、あれが目の前に現れることを考えると恐ろしい。
けれどもふたりで行くためには克服しなければならない。
その瞬間をこちらで決められるのなら、いくらでも覚悟できる。
ご馳走を周囲に山盛り用意したら、さすがの狼も大人しくなるのだろうか。
あの肉球の手で、グラスを持て余す姿を想像する余裕もできた。]
感謝する。
[寛容かつ思慮深い魔王の対応に、万感を込めて礼を言う。]
[そして改めて、旅路を共にすることになった彼と向き合う。
この場合、伴侶、と言うべきなのだろうか。]
これから、よろしく頼む。
[師であり守護者である彼へ、いくらかはにかみながら、抱擁を求めた。*]
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