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[口答えしかける兵を手で制して首を振る。]
相手が悪すぎる。
おまえたちは戦うにしても、正規兵に当たれ。
[しがない民兵と見れば、傭兵たちは身代金目当てに捕虜にする必要もないと躊躇なく斬りに来る。
正規兵ならばまだ同胞意識が期待できた。
逆に、過去にディークと交流のあった者たちとは異なり、傭兵がカークを影武者だと断定する可能性は低いはずだ。
ならばカークはそこに賭ける。]
俺には、熊の
簡単には、届かせない。
[民兵を下がらせ、単騎、傭兵隊の前に立ちはだかる。
解放軍盟主らしく、"影"の意地と技をもって。]
[あえて両手は空である。鎧もない。
それでも、軽い身のこなしをもってすれば、攻撃の一度や二度、躱し、受け切ることができよう。
あるいは敵の武器を奪って反撃する。
だが、その先は。]
…オクタヴィアスが何と命令しているかによるよな。
[“盟主”は殺すなと指示してあるのか。生死は問わずと告げてあるのか。]
この身をもって確認してやる。
[「奴が盟主か」と一人が呟いた。そちらへ泰然と視線を流す。
否定のないのが答えと思わせ、馬腹を蹴る。
その動きに場の均衡が崩れ、「捕らえろ!」と声が上がった。>>53
間合いに入れば、傭兵たちは盾を翳して馬を威嚇し、脚元を狙ってくる。
おそらくは生け捕りを指示されていると読めた。
その間、後じさりに下がった民兵への注意は忘れぬまでも、率先して襲いにゆく動きはない。
オクタヴィアスらしい差配だ。そして傭兵たちもよく従っている。
これは、一度きりの契約のつもりではないかもしれない、と思う。]
は…、新しい技術だけでなく新しい民も受け入れるか。
[嘆息している場合ではなかった。
引っかけて鞍から引きずり下ろさんとする鳶口めいた矛を、背を反らして躱し、柄を掴む。
奪われまいと傭兵が踏ん張った瞬間に逆に押し返して蹌踉めかせた。
チャールズに習った槍の捌きを応用すればこんな動きもできる。]
…っう、
[激しい動作に抗議するように胸を走った痛みはガートルートとの戦いでつけられた傷だ。]
女につけられた傷は治りが遅いってね…
[馬に後脚を跳ね上げさせて、包囲を狭める敵を蹴り飛ばす。
投げつけられた丸盾を空中でキャッチして、手近な敵兵に叩きつける。
鐙を外して爪先で蹴る。流れる血すら目つぶしに使う。
父親ほどの豪腕もなく、理に適ったチャールズの武も極めず、
エディのように馬をよく御すに足らず、サシャのような卓越した射手でもなく、
ディークのごとき天命も持たず──
これが俺だ──命燃やす中でそう魂が叫ぶ。
それは戦うというよりは踊るに似て、同時に、懸命にもがく生の発露であった。]
[周囲100人を同時に相手にするわけではないとはいえ、
ガツガツと突き出し振り下ろされる武器のすべてを躱すことはとうていできない。
中でも的確な一撃が脇腹に入り、息を詰まらせる。]
…っく
[鎧って重要だね、と思うも今更で。
逆に鎧をつけていたら、こんな機敏には動けなかったろう。
それも、ここまでだ。 身体が傾ぐ。]
[数多の手が伸びる。空が翳る。折り重なる。痛み。
ドウ、と馬が倒れ、襟首を掴まれ、地面に押し伏せられた。
蹴る、足掻く。
首筋に刃が突きつけられる。]
──やめろ…!
[声を上ずらせたのは、雄叫びをあげて加勢に入る民兵の姿が傭兵の向こうに見えたから。
偽物とバレないようにではない、彼らは今そこにいるカークを助けるべく忠告を振り切って救援に入ろうとしていた。*]
[ 行きたい──、生きたい。 ディークのもとへ。
動くな、と首筋に突きつけられた刃に構わず顔を上げる。
生け捕りを命じられている兵が危機感を覚えて刃を引けばと、
その一瞬の隙を生じさせるべく。]
[傭兵は、カークの突発的な動きにも見事に反応した。
自傷を避けようと、刃が逸れる。
そこへ、ディークが傭兵隊のただなかへ馬を飛びこませて来たのだった。
カークは軋みをあげる身体に鞭打って、頽れる傭兵を躱して立ち上がる。
まだ縄をかけられていなかったのは幸いだった。
伸ばされたディークの手を掴む。
紅に濡れた帯に気づいたが、疾走する馬との交錯は一瞬だ。
離せば、次はない。]
──ああ!
[求め応じる声と共に身体は宙を舞って引き上げられた。]//
[掴んだ手の強張りで、傷の深さは予測できた。
こんなに血も流して。それでも、]
…後悔、しないか?
[ここからは影武者の手は使えないけど、と、投げるのはいつもの軽口。
その眼差しにあるのは、闇夜に炎を見出した旅人の安堵と感謝の祈りにも似た色だった。]
[返ってきたのは、変わらぬ毅然とした声。]
ああ、
二度と戦争しなけりゃいいだけだ。
[馬にも無理をさせているとわかっていたから、その背から滑り降りてご苦労さまと撫でてやり、ディークを見上げる。]
── “影”は、性格も似てこそだろ。
[悪びれず言を弄しながら、ディークの意に逆らう意図はないと頷く。]
[そんなカークのもとに、先程の民兵が軍旗を運んでくる。]
お、助かる。
[素直に受け取り、石突きを地に立てた。
大地の緑と空の青、血の赤に塗り分けられた地を踏みしめる
実際のところ、カークは旗を支えているのではなく杖代わりにしている。
先程の乱闘でさんざん殴打をくらった身体は声なき呻きを訴えていた。肋も折っていよう。傷も開いていよう。
だが、膝をつくことはしないのだ。*]
[命を繋ぎ、守り育てた彼には、誰よりも、ディークの行く末を見届ける権利があったはずだ。]
オクタヴィアス、
おまえが示せるのはそれだけなのか?
おまえの作ろうとしている新しい世界を、語ることもなしに?
違うだろ? おまえの中にも熱いものがあるだろう?
[俺は知りたい。 知らねば、ならない。]
[訥々と、だが次第に溢れ出すように語られてゆくオクタヴィアスの
その熱は戦場となったラモーラルの大地にも、静かに伝播してゆくかと思われた。]
ありがとう、 受け取った。
[懐かしささえ覚えて、口元を緩める。]
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