情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新
[――どれほどの時間が経っただろうか。
ジェフロイはハッと目を瞬かせた。
両手は肘まで血まみれ、一糸まとわぬ全裸。
本人には見えなかったが、口の周りも血だらけだった。
おまけに目の前には、首がほとんどちぎれる寸前まで噛み裂かれ、腹を食い破られた女性の死体が転がっている。
――ああ、やっちまった。
ジェフロイは天を仰いで嘆息した。]
ほんまに、ごめんな。
おいも腹が減っとったがよ。
[素手で土を掘って女性の遺体を埋めた。
運ぶ途中、頭がぐらぐらして千切れそうだったのでヒヤヒヤしたが、何とか無事に(?)穴に寝かせることが出来た。
墓標は手近の石を積んで代わりとした。
子供の頃、育ての親に教えられたデタラメの祈りの言葉を唱えて、目を瞑って手を合わせた。
虎になっていた間のことは、薄らぼんやりとしか覚えていない。
はっきりしているのは、蔓にぶら下げられてシルキーに血を吸われた辺りまでである。
飢餓状態で気が立っていたとはいえ、初対面の女性にいきなり襲い掛かるとは、思い出すだけで恥ずかしくていたたまれない。
餓えていた時も虎であった間も、視界が赤く染まっていたような印象があって、自分であって自分でないような奇妙な感じがする。
決して飲血を欠かしてはいけない、という恩人(吸血鬼に変化させた血親である)の教えはまっこと正しかった、としみじみ噛み締めた。]
[祈り終えると、これからどうしようか、と思案した。
元々、放浪の旅に生きる者として、頭の切り替えは速い。
悩んでも解決しないことには、心を残さない習性ができている。
生きるために生命を奪うのは生き物の自然の営みと心得ているのもある。
それが、かつての同族であるヒトだとしても、ヒト同士、生き延びるためでもないのに喰いもしない殺しを行うのに比べたら、吸血鬼がヒトから血を奪うのは遥かに正当な行為だ。]
取り敢えず、シルキーさんに謝っとくべきかのう……
あとジャンにも。
[顎に手を当てて、顔をしかめる。
あんなに熱心に探すくらい大事な人を、目の前で、許可も得ないのに襲いかかる、というのはやっぱりまずかった。]
[自分の身体を見下ろして顔を赤らめた。
取り敢えず服を着よう。
手で大事なところだけ隠して、慌てて城へ走った。
服のある場所を探して、無いならカーテンでも何でも、体を覆うものがないかと、窓から手近な部屋に入り込んだ。]
― 部屋 ―
[適当に入り込んだ部屋は、何故か茶の支度一式のある応接間だった。
一口大の菓子やサンドイッチといった軽食が盛られたティースタンドに、ティーポット、ティーカップなどの茶器。
茶がほかほかと湯気を立てているところを見ると、まるで茶会の途中で全員が席を離れただけにも見える。
だが、この部屋は無人で、人の気配はまるでない。]
どがいな仕掛けになっちょるんじゃろ。
[首を捻りながら室内を物色。
カーテンよりはこの方が動きやすかろうと、テーブルクロスを引っぺがして腰に巻いた。
ついでにナプキンを湯をに浸して、ざっと顔と身体を拭いた。]
[あっという間に積み上がる、真っ赤になったナプキンの山。
本当なら水浴びしたいところじゃがのう、と独り言ち、改めて服を探しに行こうかと思った矢先。
何か扉の外から、聞き慣れた鎖のジャラジャラいう音が聞こえるのだが。]
え。チェーザルけ?
[そろーっと廊下を覗いて見ることにした。]
― 廊下 ―
[角を曲がって、姿が見えて確信した。あの原色の塊は間違いない。
爆弾タイマーの効果音付きとは不吉極まりないが、無事でよかった。
わっと胸に込み上がるものを感じて、目頭が熱くなった。
のに、銀鎖が絡んだ腕ごと飛びかかられて、ギャッと青褪めた。
今は服を着ていない。イコール銀への防御力ゼロ。]
わっ!わっ!!わ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!
[感動の再会を台無しにする勢いで逃げた。]
[ツェーザルは顔面スライディングして目の前を通り過ぎた。
少し可哀想になったが、それも言葉の洪水を聞かされるまでのこと。
立て板に水とまくし立てられ、呆気に取られてしまった。
恐らく別れてから以降のことを報告しているのだろうけど、やっぱり全然分からない。
それでも、変わらない様子にホッと安堵して]
……おまぁは相変わらずじゃのう。
安心したちや。
[などと苦笑していたら、見計らったように服を差し出された。
満面の笑み。しかしこれはシスター服だ。]
・・・・・・・・・・・・・
[たっぷり2(10x1)病は間が開いた。
もう一度、ツェーザルの顔を見る。
自分はいいことをしたと、まるきり疑念を感じていない良い笑顔。]
…………。
[自分の格好を見下ろす。嘆息。
黙って手を差し出して、服を受け取った。]
何ちゃ、可笑しゅうないかあ?
[苦心惨憺、シスター服を着込んだ後。
身を捩って、後ろ姿を気にするあたり、図らずも乙女っぽい仕草である。
なんちゃってコスプレシスター服でなく、リアリティを追求する本格的な修道服だったのが幸いだった。スカート丈はそれなりに長い。ミニスカだったら爆死していた。
紛れも無い成人男性の、しかも痩せ型でなく、程よく筋肉のついた男でも着れるシスター服って……と思わなくもないが、ここで追求したら終わりだ。]
[応接間の丸い縁のついた鏡を覗き込む。
どうでも良いが、ジェフロイの血統は鏡に写る。]
……おおう。
[カッティングがいいのか、修道服自体が体型を隠すように作られているせいか、着痩せしてほっそりして見える。
長い髪を下ろした姿は、自分でも怖くなるくらい似合っていた。]
こぃがおい?
[切れ長の目の美女が、少し驚いた顔でこちらを見ている。
思わず見とれてしまった。ヤバイ。癖になりそう。]
[ツェーザルに手を引かれて、ハッと我に返った。
こんなことをしている場合ではないのだった。
行こうと一生懸命(かどうかは疑問の余地があるが)誘っている以上、何か見つけたか、誰かと合流したのは間違いない。
前に言っていた「トモダチ」に教えてもらったとかいう何かと関係しているのかも知れない。]
おし。何処へ行けばええんじゃ?
[手を握り返して、外へ]
― 廊下→ ―
[ツェーザルはジェフロイの手を引き、道を知っているかのようにずんずんと進んだ。
それが急に途中で遅くなり、遂には立ち止まってしまった。]
どげぇしたがじゃ。
[兎の言うことには、道は二通りあるらしい。
出口と、もうひとつ。
うーんと考えて]
……ひょっとしたら、何か大事な品物なり、手がかりなり仕掛けなりがそっちに置いてあって、そこへ寄らんと出口に行ったら出られんちうことかも知れん。
そいか、罠か。
考えてもしゃあないけえ、行くぜよ。
どえらぁ目に何度も遭うてきたが、そんたびにやり過ごしてきたおいたちじゃ。何とかなるじゃろ。
[ニカリと笑って決断した。全く根拠の無い自信だが。]
― ダンスホール ―
[そろそろとホールに足を踏み入れ、あたりを見回す。
天井を覆う見事な壁画に、ほえーと大口開けて見とれた。
澄んだ青空を、写実を通り越して本物と紛う鳥が飛び交い、蝶が舞う。
筆のタッチが見えなければ、ガラスの天窓が開いているのだと勘違いしたかも知れない。
天井画に見入っていたせいか、奥のソファに人が寝そべっているのに気付くのが遅れた。]
……アルビンけ?
[神父服に身を包んだその人物は、あの優しい青年(実は年上だが)に見えた。]
[アルビンの声を聞いて、近づき掛けた足が止まってしまった。出会った時のアルビンと全然雰囲気が違っていて戸惑う。
一緒にいたのは短い間でしかないけれど、どこか悲しそうで、こんな荒んだ空気をまとわり付かせた人物ではなかった。]
着られる服がこぃしか無かったんじゃ。
[格好を揶揄されて赤面した。]
[気を取り直し、足を前に踏み出す。
アルビンに襲われると思ったのか、ツェーザルが自分を盾にして後ろに隠れているけど。]
……血が足りんがじゃったら、おいが分けてもいいぜよ。
少しくらいなら減っても大丈夫じゃろ。
[既にアルビンは、女性を殺して血を吸ったことに気付いていると思った。
結果として無辜の人間を死なせてしまったのを思い出して、心が痛むけれど。
今は、生きているアルビンをどうにかするほうが大事だ。]
[怒ったような顔で、大股でソファに近付く。
アルビンの胸ポケットを探り、自分が以前見つけたと似たような小瓶を見つけると、確認のためアルビンの眼前にかざす。]
こいを飲ませればいいんじゃな。
[アルビンが頷けば、ガラスの栓を抜いて、ぐっと一息に呷る。
そうしてアルビンの上に屈みこむと、自分の唇をアルビンのそれに重ねた。]
[習慣的なもので、唇が触れた瞬間も目を開けていた。
仰向いたアルビンの顔は、妙に艶のある表情で、瑣末なことなのにドギマギしてしまう。
とにかく飲ませねば、と唇の合間から少しずつ、口に含んだ液体を流し込んだ。]
[揶揄われ、またも赤面。
それでなくとも頭に血が上っているのに、顔まで火が着いたように熱い。
何か言い返そうとして口を開いたが、何も思いつかなかった。
ただ、誤魔化すように手の甲で唇を拭った。]
[空き瓶を取っておけと言われ、まだ握り締めていた小瓶に目を落とす。]
……分かった。
[シスター服のスカートの隠しに大切にしまった。
それから三人連れ立って、書斎へ。
神父にシスターに何だかよく分からないのと、奇妙な三人連れである。]
― 廊下 ―
[しかし、ツェーザルの主導で歩くと、何故かサクサク進む。
時折視界の隅に、グンニャリ曲がった柱やいきなり消え去る壁なんかがチラ見えするのだが、気にしたら怖いので止めた。
空間を歪めるだとかワープだとかは知識に全くないので思いつかなかったが、恐らく何か不思議な力が働いているのだろうとまでは理解した。]
― 書斎 ―
[目的地に着いたようで、扉を開けると大量の本がズラリと並んだ書架に――は無くて、本は床に散乱しているし、血と草の汁みたいな匂いの青臭い赤い液体があちこちに飛び散ってるし。
とどめにみじん切りになった植物の残骸が。]
おおう……
[絶句。
そこで、シルキーに気が付いて、違う意味ではあるがまた頬を赤らめた。]
[何かぞろそろ壜が出てきた。
回復アイテムとして要所に配置していたらしいから、当然なのかも知れないけれど。]
形だけではのうて、重さが必要なんかのう。
壜何本の重さみたいな。
両方ぴたりと揃わんと、開かんようになっとるんじゃろか。
[どんどん空き瓶を入れてみることにしたらしい、物置の中を眺めて唸った。]
[見上げるツェーザルと顔を見合わせる。
やっちまったものはしょうがない。
鍵が開いたのだから良しとしよう。
……ひょっとしたら、余計なもんを置くと、トラップが発動したり、危険なモノが待ち受けているかも知れないけれど。]
魔物なあ……
大丈夫じゃなかか?
[主にツェーザルをじっと見つめて言った。
これが死にかけたら多分、
おいはここから出られたら何でん良か。
合格とか何とか、おいには関係ないきに。
[ニカリと笑って、アルビンに力強く頷いた。]
[ツェーザルに袖を握られ、クスっと口の端を上げて。]
何でもないがよ。
[前衛と言われて前に進み出た。]
おいも専門家ちう訳じゃなかが、こん中では場数を踏んだ方じゃと思うけえ。
[頑丈さという意味では、兎の方が強いかも知れないが、これを先行させたらロクでもないことになる気がした。]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新