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[衝立を押し立てた歩兵の集団が進む。
ほとんど前は見えていない。
次第に衝立が破壊されてゆけばその間隙に弩のボルトが飛び込み、苦鳴と共に頽れる者が出る。
橋の下流から渡河を開始した者が手を伸ばして負傷者を受け取っては北岸へ連れ戻してゆく。
その頭上を火炎瓶と、北岸からの投石が越えてゆく。
革紐や手巾といった小物を使って放たれるスリングショットは狙撃性能や貫通力では矢に及ぶべくもないが、なにしろ石はそこらに転がっている。それが南岸に雨霰と降り注いだ。]
正規軍じゃ習わないよな、こんなの。
[投擲攻撃が期待された効果をあげて待ち構える敵の陣に混乱が生じた。
だが、指揮官の掌握の声に、大多数は己の任務を遂行せんと踏みとどまる。>>93
その結束力はさすがだ。]
[解放軍の先兵が橋を渡り切り、もはやほとんど使い物にならなくなった衝立を捨てて武器をかざす。
部隊側面の兵は、さきほど騎馬隊の阻止に使われた網を広げ、槍衾を絡めとる準備をした。
敵弩兵が下がり、重装歩兵が行く手を塞ぐ。
かつての同胞同士の白兵戦を前に一瞬の沈黙が戦場を支配するが、わずかな均衡が破れた瞬間、解放軍の兵士は雄叫びをあげて突進した。
後続のための道を作らねばならぬ。]
投石中止!
歩兵200、橋へ。
[乱戦となれば投擲武器が使えないのはこちらも同じ。
続けて歩兵を送り込む。]
[川の上流側では、牧羊犬に導かれた羊たちがバシャバシャと水を蹴立て、川面に雲のように浮かびながらゆっくり南岸を目指している。
小舟の運行を邪魔をしていることなど、むろん気にも留めていない。
中には流されて橋桁にひっかかってめぇめぇ鳴く羊もいる。
溺れかけた羊は牧羊犬が岸へ引きずりあげていた。
剣戟のすぐ脇に、のどかというには違和感ある光景がそこにある。]
[川の下流側を徒歩で渡ろうとしている歩兵たちには、北岸で待ち構える弩兵に反撃する手段がない。
転ばぬよう流されぬよう川を渡るのに一生懸命なのは羊も人間も大差なかった。
唯一、取り得る手段が潜水である。
水の中ではボルトの威力は格段に落ちる。
上流で羊が掻き回して濁った水の中では狙いもつけづらいはずだ。
そして、斜線が直線であるボルトを水中に向けて放つには水際に近づく必要がある。
渡り切った者が弩兵に組みついて乱戦になれば弩は使えまいという作戦であった。
しかし、橋から落ちてくる者や、炎をまとって飛び込んでくる敵兵、弩に射られた者、負傷して北岸に戻される者などが入り混じって流されぶつかり、緩慢な動きとなっている。**]
[橋の東側では、川に追い込まれた羊たちが呻吟しながらも順次、南岸へと辿り着き、やれやれといった調子で草原の草を食み始めた。
橋の南岸を守る正規兵たちが東へ向って移動するようなことになれば障害となろうが、そうでもない限りはひとまず背景の態である。
ただ、しきりと牧羊犬が吠えるので川面を見やれば、何頭かの羊が舟に乗せられていた。>>129]
おい、こんなときに羊泥棒か? 返せ。
しかし…医療船じゃないんだよな、あれ。
[何をしているのか気になったので近くに偵察を走らせる。
とりあえず羊を解放しない限り犬が吠え続けて追尾するだろう。]
[橋の下流側では、渡河に挑んだうち100名ほどは負傷者を支えて戻ってきたり、流されて戦域から離れてしまったりしていた。
残りは渡り切っていたが、ほとんどその場から動けていない状況だ。
流水に思いのほか体力を削られ、円陣を組んで防御に徹するのが精一杯という有様である。
遠く近く岸を疾駆している騎兵の姿もまた兵らを戦かせていた。
先程のコリドラスの姿が、馬蹄の響きが、彼らの脳裏に焼きついている。
疾風のごとく南へと引き上げていった赤笑鬼が、ふたたび槌を振るって突撃してくるかもしれないと。
そして、自分たちの守護獣マーティンはもういないのだ。
その死を伏せられた老将は去りてなお脅威であり続けた。
兵らは砦からの撤退時と同様、カークから自己判断で投降していいと言われているが、今はまだ守りに専念している。]
[橋を挟んだ攻防。
南岸に踏み込んだ解放軍の頭上に、上から槍が叩き下ろされる。>>131
槍自身の重さも加えた攻撃は突く「点」ではなく「線」の幅で解放軍を襲った。
槍同士が交錯しない隊列の組み方は正規軍ならではの実用的な美しさ。
鎧の上からでも有効なその攻撃に、解放軍側はたまらず踞る者が続出する。
投石攻撃を倍返しで食らったようなものか。
ガッツのある者たちは盾を頭上にかざして耐えながら、槍隊の懐に転がり込むチャンスを伺って、じりじりと間合いを詰めていた。
行軍の先が詰まってしまうと、橋の南端近くで川に飛び降り、足を濡らして上陸を試みる兵も出てくる。
彼らは左右の槍隊の北側面から攻撃を仕掛けた。]
伝書屋 カークは、老将 チャールズ を投票先に選びました。
[だが、橋へ、向こう岸で武を振るう若い将のところへは儂が行く、とチャールズが宣言するのを聞けば、ぐ、と奥歯を噛み締める。
その傷で、とは言っても届かないのであろう。]
親父の墓に酒を備える役はあなたにしか頼めません。伯父貴。
[父の”兄”に一礼して馬腹を蹴った。
その後を兵が追う。
能う限り、疾く。**]
― マーチェス平原 川の北岸を西へ ―
[急ぎ、隊から分けた150名を伴い、西へ向う。
チャールズの指示で同道する兵は砦での撤退戦を生き抜いた者たちを中心とした軽装の民兵であった。
協力して作戦行動を遂行した経験は意志の伝達を強める。]
──ゆこう。
[「態々と明かすに及ばず」とチャールズは言った。
カークはふたたび”盟主”の声を作り、西を目指す。
ディークを扶け、チャールズに遅れることなきよう。]
[獲物を何日も追い続ける狼のような持久力を誇る森の民たちにペースメーカーを頼んだ。
心は焦るが、全力疾走で戦場についたところで疲れ切っていては意味がない。
地を摩り急ぐ。
そこへ先行した10騎のうち2騎が戻って来て、遭遇の経過を語った。
敵騎兵隊は10騎を対応に残して先行した、その殿軍としばらくその場で打ち合ったが、彼らは散り散りに平原の方へ逃げた、仲間が追っているが戦力外とみてよかろうと。こちらも西へも2騎を出したが、数が少ないため敵の西進阻止は無理であろうと。
西へ抜けたダーフィトとサシャとの遭遇は、いまだカークの知るところにはあらず。]
20騎で先を急いだか。
思い切りのいい判断ができる指揮官だ──
──あれは?
[行く手に火の粉をまぶした白煙が上がるのが見えて、鞍から腰を浮かす。]
[狼煙ではない。おそらくは火計だ。
葦の浮き橋が燃やされていると考えるのが妥当である。
味方がやったのならいいが、その線は薄い。]
行軍そのまま続行、あの煙を目指せ。
俺は先にゆく。
あんたたち、来てくれ。直衛兵ってことでよろしく。
[戻って来たばかりの騎兵ともう4騎ばかりの伝令兵に声をかけ、カークは西へ向う隊列から抜け出した。*]
― マーチェス平原 サクソー川北岸 西の浮き橋近く ―
[同道した直衛兵のひとりが指笛で仲間だと知らせつつ走れば、威嚇の矢は飛んで来なかった。]
よく凌いだ。 間もなく援軍も来るぞ!
[鼓舞をひとつ。浮き橋まで移動して報告を受ける。
解放軍騎馬隊に続いてディークが浮き橋を渡っている最中に橋に、船から火が放たれたらしい。
そこら中にある水を使って消火活動に勤しんでいる最中、敵騎馬隊が突入してきたと。
煙で視界の悪い中、迎え撃つ長柄部隊も健闘して半数ほどは阻止したものの、馬の尾のような髪をなびかせた隊長以下、10騎余りは南岸へ向ったと指差す。]
ディーク──
おまえの天命はこんな場所で尽きはしないはずだ。
[馬を下り、重い鎧を外してゆく。]
追うぞ。
焼かれても水に浸かっていた部分ならば残っている。
少人数ずつ伝って渡ることはできるだろう。ローブはあるか!
/*
羊、北岸にあげられたのか…! すまん、読み落とした。
どうも現状で北岸は自軍のエリアという認識があって、相手側がこちらの反応を待たずに何かやりおおせるという状況を想定から外しているようだ。気をつけないとー
[ぽかんとしたサシャの顔を見て、守りたい日常をまた強く思う。
そんな未来の続きを語らうには、だが、まだ早い。]
頼りにしてくれていいぞ。
[サシャの目を見て告げ、その視線を兵らへと広げる。]
[川の南側はさらなる乱戦の様相を呈していた。
そこへ、浮き橋を渡った兵が順次、繰り出してゆく。
拿捕した舟に馬を乗せて運んだ工作兵が、カークに手綱をとらせた。
指揮官らしく騎乗せよと。
盟主の姿は二つあっても、命令が二つあってはならない。
以降のカークは、周辺を守る兵100ほどに「ついて来い」とだけ命じ、他隊の指揮はディークに従うものとする。]
──我らが生きる道は前にあり。 勇猛なれ!
[馬上に背を伸ばし、差し出されたラモーラルの軍旗を掴むとガツと地を穿った。*]
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