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掴んだ刹那、僅かに流れ込む感情
不安 焦り あるいは怯え
負の気配
見上げる
強く気高き天使達の長が 揺れているのだろうか
涙の膜が張った蒼い瞳を瞬かせた
頭を撫でる手は微かに震えていた
細く息を吐く
二人の方へ向き直り、頷くように顎を引いた
片腕で天を示す
飛べる?と尋ねるように首を傾げ
彼は高くは飛べないらしい
では
シメオンを見る
飛べる?と
帰らなければならない
この身の役目は 地上では果たせない
連れて行って欲しい、と
天を仰いだ**
胸の前 両掌を上にして
瞼を閉じる
全身に淡い緑の燐光が灯り
背に伸びる透明な翠の翅
『………』
拡げた四枚の翅 翅脈が一度煌めいて
先端から弱く薄く光を失ってほどけていく
掌の上に、翅と同じ色の小さな光
生み出したそれは
翅が全て消える頃、掌から零れる大きさの光球になった
蒼い瞳がシメオンを見つめる
よろめくように
一歩踏み出して "力"を差し出した
求める者へ
純粋に、もてるものは与えようと
天界に漂っていた頃は抱かなかった感情で
悪意をもって魔の者が触れようとすれば、
与えられた能天使の護りの翼が彼を損なおうとするだろう
そんなことは意識の外**
『…』
悪魔認定、という言葉を聞いて僅か 哀しそうにする
浅く息を吐いた
光を捧げる腕に、赤黒い染みが浮かび上がっていく
模様のように見えるそれは、
強く掴んで引き回された指の形の痕
手首の皮膚は赤く擦り切れ 血が滲み出す
大小の内出血の痣
盗賊達の、欲望という人の業をこの身で贖って出来たもの
怪我を覆って薄めていたのは人ならざる力
淡い緑のそれを注ぎ出すことで、
人に似た肉体は外傷の痕跡を顕に晒す
渡そうとするのはエーテル体の天使には活力であり
生命そのもの
属性を帯びない純粋なエネルギーの塊ならば
何者であれ、糧となり助けとなるだろうと考えて
[天界にいる時に渡した守りの羽。
それが微かに光り、声なき声を届ける…]
…ルキー…様……聞こえ…ま…か…?
ウェル……です…
もし、声……届……に…いましたら… 居場所…伝…下さ……
[羽を通じて聞こえる声…先ほどよりは明瞭に、はっきりとした響き。]
シルキー様!!ご無事で!!!!
森を…草原、ですね。
今、会話……で、流れを追って……も、特定……ます。
すぐにお迎えにあがります!!!
能天使に渡された白い羽
そこから伝う声は聞こえてはいた
朧げに 響く聲
やがて草原に落ちた大きな翼の影
旋回するそれへ
天を仰ぎ見れば 眩しい光が網膜を焼いた
ふらつく
痛み
羽を介して 感情の欠片が滲み伝う
初めて 地上で出会った人の子達
彼らの魂は無明の闇の淵にあった
欲望に負け 自らに罪を負わせて
苦しんでいるのが
哀しくて
この世界には彼らのような迷える者 ばかりなのかと
胸の張り裂けそうな
目の前のシメオンへ微笑んだ
両手で抱いた光を差し出すまま
歩み寄ろうと踏み出して
よろめく
膝から崩れ
沈むように 頽れていく
これは……
[シルキーの発する気配とは異なる、淡い思考の欠片。
天界で会った亜人形状の天使のものだとは気付かない。]
…………
[ただ、この瑞々しい感情の流れは、
自分達能天使にとってはとても馴染みのあるもの。
無垢な天使が、初めて地上に接した時の悲しみ、嘆き。]
…シルキー様の他に、誰か…落ちたのだな…
私は能天使ウェルシュ。
シルキー様と共にある天使か?
今、そちらに向かっている。
…人間は、とても弱くて…
とても、強い。
意味はまだわからなくて良い。
ただ、その感情にだけはひきずられるな。
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