情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新
[ なんの躊躇もなく手すりの外側へと重心を傾ける主に、一瞬の浮遊を許した後で引き戻す。
腰に回した腕を離すことなく、後ろざまに抱え上げて倒れ込んだ。
甲板への接地は自分の背からであったけれど、しなやかに半回転して主を仰けにし、覆いかぶさる態勢になる。]
ご無礼を。
[ 死ぬまではいかずとも、海に落ちればもろもろあるし、事務処理をする側も大変だろう。
自死めいた行動に制止をかけてしまうのは、もはや魂の問題であった。]
溺れたいのであれば──別の場にて。
[ 具体的にプランがあるわけではなかったが、献身をもって叶えましょうと、唇に指をあてがった。*]
[ 主の愛は深く、その表出は時として苛烈になる。
そのすべてを讃えよう。
舐められた指が解放されると、濡れたままの指先で、主の喉元に筋を引いた。
誓約のサインを記すように。]
御意。
[ 誠実に答えて、先ほどまでとは逆に、主を横抱きにする。
パニエが嵩張るけれど、扉をくぐれないほどではない。]
部屋についたらすぐに脱がせてよろしいですか。
[ 脱がせ方がよくわからないから、少し強引な方法になってしまうかもしれないけれど、きっと愉快そうな声をあげてくれるだろうと思う。
では、広い湯船を探しにゆこう。*]
[ 案内されたオーシャンビュースパは、二人で入るのに広すぎず、窮屈さもなく、ジャクジーの弾ける泡が喜悦を掻き立てるかのようだ。
予告どおり、すぐさま服に指をかけて解放戦に挑む。
卵の殻を剥くように艶やかな肌が露出するまで。*]
[ 浴場で服を脱ぐのになんら不思議はないのだけれど、周囲に衣類の残骸を累々と積み上げてゆくのは、なかなかに非日常的でなにやら愉しくなってくる。
手間暇かけても求められていることがわかるという感覚は、こうして再認識するのもいいものだ。]
ああ、
[ 抱きしめたい気持ちを抑えて、わざと身を捩らせて逃げた。
広い浴槽にイルカのように滑り込む。
捕まえてみますか、と悪戯めいた眼差しを投げかけて。*]
[ 暖かな湿度に笑い声がこもり、飛沫が舞う。
ここは二人きりの遊戯場だ。
浅い傷がほんのり熱い。
湯の色を染めることもないけれど、確かにそれは酩酊の根源だ。
潜水して主の脛に口づけ、
長い髪を手首に巻いて沈め、水を通して潤んだ眼差しを交わす。*]
[ 上になり下になり、泡沫と静寂の中を行き来して、ひとつの行為に耽る。
主が望むままに、浮かせて。蕩かして。沈めて。
息が絶えるまで溺れた。
人の子の死とは異なるけれど、騎士道を旨とする身にとっては過分なほどの享楽だ。
この方ゆえの、唯一無二。
愛しさは、時を満たし、溢れ出す。]
[ やがて波渦が静まり、温もりの中で放埓に四肢を委ねる主を、後ろから抱え上げるようにして自分の上に乗せ、共に空を仰ぐ形で揺蕩う。]
お目覚めを。
世界があなたを待っております。
[ 囁きと口づけを、その耳に落とした。*]
[ この腕の中に蘇る主は、奇跡の具現。
ただ愛によってのみ、と贖い主は告げた。]
── 今も、いつも、いつまでも。
[ 純粋な歓びをもってそれを見守る。]
[ 気前よく、望みを求める主に、そっと微笑む。]
真の望みとは、叶えてもらうものではなく、自ら叶えるものなれば、
我が望みはただひとつ、
身を尽くしてあなたにお仕えすることです。
あなたを愛し尽くすことをお許しください。
[ 絶えることのない喜びを、言祝ごう。*]
情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新