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預けおくだけじゃぞ。
あとで返してもらうからな。
ちゃんと、おまえさん自身で返しに来るんじゃぞ、マチス。
[だから死ぬなよ、と、言外に告げる。]**
準備は万端かね、船長。
[慌ただしく動き回る最中、ダーフィトとコンラートが立ち話しているのに行き会った。]
共和国軍の物資をタダで使いまくれる、滅多に無い機会だ。
悔いのないようにしておけよ。
[支援は惜しまない旨を伝えておく。
死ぬな、とも期待している、とも言わなかった。
そういうのはもう、とっくに伝わっていると思っている。]
して、赤毛の小僧。
[コンラートに向ける呼びかけは粗雑で親密なもの。
"親友の孫"と良くつるんでいる小僧、の認識である。]
おまえさん、また伝説を増やしおったな。
死なずの英雄がそんな冴えない顔で、どうした。
[先の会議で顔を見かけた時から、気にはなっていた。
滑走路の連中>>82がざわついているのは、既に耳にも入ってきている。]
天使相手の戦の最中だからな。
おまえさんへの風当たりもますます強くなろうが…
おまえさんが連中の仲間でないことくらいは、ようわかっとる。
なにせおまえさん、不器用じゃからな。
[裏表のない真っ直ぐな性格だ、と評してからから笑う。]
ほれ、しゃんとせい。
そんなしかめっ面では幸運も逃げ出すわ。
空に突破口をぶち開けるのはあの宇宙馬鹿の仕事だが、
その先を拓くのはおまえさんの仕事かもしれん。
ヤケを起こすなよ。
己の持っておるものを、もう一度よく考えるとええ。
[ひとしきり説教ないし激励のようなものを垂れて、
ではな、と軽い調子で敬礼した。**]
― 「撒き餌」作戦と「繭」攻略作戦 ―
[ダミー宇宙船運用による天使軍誘引作戦、通称「撒き餌」作戦の準備は全軍挙げての急ピッチで進められた。
第一部隊、即ち飛行船所属の魔法兵の中から、さらに「通常飛行船に、特定の船の形状・挙動などを模倣した、ある程度の完成度をもつ虚像を被せる幻影魔術」などというニッチなもとい専門性の高い魔法を使える術士を探し、用意した幻影ダミー船が7隻。
もともと形状がそれっぽい船に工作班が即席で外装を取りつけた、遠目に見れば宇宙船に見える程度の模造ダミー船が5隻。
いずれにせよ1度は騙せるかもしれないが、2度は引っかからないだろう程度の偽装だ。だがそれもまた利点ともなろう。]
[これらはそれぞれ、護衛の戦車を伴って地上運搬中であるように見せかけられたり、他の飛行船と共に小規模の船団を組んで移動中であるように見せかけられた。
そして天使たちの反応を誘うべく適度に姿を現しながら、四方八方に散らばっていく。
天使の部隊と遭遇したならば、敵戦力が少数であれば現地の地上兵力と共に交戦し、敵の方が優勢であれば、あるいは指揮官級天使が現れたならば、適度に抗戦しつつ逃げろと命令されている。
逃げ損ねて撃滅される可能性も少なからずあるが、だからこそ移動力と防御力の高い部隊が選ばれた。]
[「繭」攻略作戦の中心は、ダーフィト船長の《シャドウ・パレス》である。
作戦の最大目標は指揮官級天使を撃破することであり、「繭」の確保は二次的目標であった。
この作戦には第一部隊である戦闘機及び竜騎兵部隊が投入される。
また、強襲降下部隊(隊員内通称"飛んでるダチョウ部隊")が組まれ、専用運搬飛行船から"駝鳥"を落下傘降下させて「繭」上部を占拠する試みも実行されることとなった。
撒き餌作戦に敵戦力をなるべく引き付けさせるため、こちらの部隊は交戦直前まで可能な限りの隠密行動となる。]
[第一、および第三部隊は作戦遂行のために出払い、地上部隊である第二部隊は、今も各地で戦闘を続けている。
今や作戦本部となっている砦には、少数の駐屯部隊のみが残っていた。
そして臨時元帥は珍しいことに、次の作戦を練ると言いながら用意された執務室に引きこもっている。*]
[《シャドウ・パレス》が戦闘に入ると同時、地上より追従していた竜騎士たちが一斉に飛び立った。
同時に、タイミングを合わせて飛来した戦闘機隊が上空より攻撃を開始する。
竜の吐き出す火炎と、機銃より放たれる火箭が、"色付き"と他の天使を分断すべく交錯した。*]
/*
しかしほんとうにこの天使可愛いなと思うことしきりなのですがどうしてくれよう。
このじじいが仮に同陣営だったとしたら、もふりまくっている図しか見えない。
― 執務室 ―
[広い室内の奥、乱雑に物が散らばるデスクで、臨時元帥閣下はなにやら片付けにいそしんでいた。
これまでの戦闘の経過であったり、今後の作戦計画であったり、戦死者の報告書であったり。そんな書類を束ねて揃え、金庫の中へと片付ける。
暫くそんな作業に励んだ結果、部屋の中はそれなりに片付きつつあった。]*
─ 回想 ─
[マチスへと元帥杖を預けた時。
願い返されて、己はにやりと笑い、彼の左胸に置かれた拳に自身の拳をこつとぶつけたのみだった。
言葉はいらんだろう、という仕草で。
まあそう固くなるなと肩を叩いて。
そのまま、慌ただしく別れたものだった*]
― 執務室 ―
[気配を感じた、というわけではない。
単に、扉の開く音を聞いただけだ。]
なんじゃ。
ノックぐらいせい。
[声を掛けた後で、扉の向こうに誰もいないことに気づく。
───いや。いるだろう、と思えばその周辺が不自然に翳っている気がした。]
最近の天使は礼儀がなっとらんな。
姿くらい見せんか。
[勘と推察だけで、そんな声を掛ける。]*
なんじゃ。
やはり天使か。
それとも、死神かね。
[隠形解いた相手の姿を見て、眉を跳ね上げる。
天使、という言葉のイメージからは、相手の姿はやや外れていた。
地面から湧く刃。影の矢。
報告書にあったそんな言葉をふと思い出す。]
なるほど。おまえさんが"壊し屋"かね。
[各地の施設を破壊していったものたちを、現場の兵たちはそんな名で呼んでいた。]*
― 「繭」上空 ―
《シャドウ・パレス》の船長と"色付き"の天使とが接近距離での戦いに移行した頃、低空から数機の飛行船が上昇した。
昔ながらの、動力を最低限にした飛行船だ。
ほぼ音もなく上がる船体は、鏡のように磨き上げられている。
光を反射し、空の明るさに紛れる試みが、天使に通用するかは不明だが。
これらの飛行船は、各々四角い格納庫を吊り下げて、「繭」上空に接近した。
たちまちに飛来する迎撃の光の矢に晒されながら、格納庫を投下する。]
[投下された格納庫もまた光の槍に撃ち抜かれてバラバラになっていく。
その破片の間から、さらに飛び降りるものたちがあった。
自律式二足移動軽機関砲、通称"駝鳥"たちがパラシュートを広げながら、次々と「繭」に降下を試みる。
「繭」の上部に取りついてしまえば天使の攻撃も大胆な物にはなり得ないだろう、という推測。及び、「繭」へ直接攻撃を仕掛けられれば、敵兵力をさらに引き付けられるだろうという思惑であった。]*
天使だの悪魔だのには詳しくないが、
そうか。領分が違うか。
[どこか不快げな気配に、笑み浮かべる。
感情らしきものがあるようだ、とは口に出さぬ感想。
名乗られて、名を問われ、ふんと鼻を鳴らした。]
じじいで構わん。 …とはいかんか。
ロワール共和国元帥、クレメンス・デューラー。
今は、頭に臨時、とついておるがな。
[名乗りを返し、やれ、と椅子から立ち上がる。]
用件を聞くのも野暮であろうな。
だが、おまえさんはそこらの天使よりは話ができそうだ。
一つ聞かせてくれんかね。
人間が、粛清でもなく空を諦めるでもない道を模索するのは、完全に無駄、と思うかね?
[デスクの前に出ながら、腰の軍刀に触れるでもなく、問いかける。]
[紅眼の天使の答えに、く、と笑いを零した。]
どうやら天使も軍隊も変わりはないようだな。
命令あれば戦うのみか。
だが、その言葉聞いて安心した。
天使を滅ぼしつくす以外に空を目指す術がないというのでは、ちとあやつも荷が重かろうからなあ。
[くかか、と短く笑って軍刀に手を置く。]
機会があれば儂が言っていたと他のやつに伝えてくれ。
まだ目はある、とな。
[纏う空気を文字通り変えた相手へ、いろいろな意味で場違いな依頼をした後、ふっと体を沈めた。
踏み込みからの閃。
老いたりとはいえ、身体を鈍らせていた覚えはない。
一太刀なりと浴びせんという気迫と共に、逆袈裟の一閃を抜き打ちに放つ。*]
[ひとつ、天使は読み違いをしている。
老将は、"使える全てを"囮に使ったのだ。
故に、ここに影の天使が現れたのは、ある意味では作戦通りだった。
無論、死のうという気はなかった。
だが、死ぬ可能性を含めて、準備はしていた。
あわよくば、ここで仕留められればという思いもあった。
話ができて良かった、とも思っている。]
[鞘走らせた白刃が、相手の腕に受け止められるまでの刹那の時間、そんなことを考えていた。
この天使が部屋に現れた瞬間から、死を覚悟したからだろう。
己の命を使ってどこまでやれるか確かめる気でもあった。]
伝えられたら、で構わんよ。
[依頼への返しに、そう答え、
宣と共に繰り出される短刀が胸に吸い込まれるのを、奇妙にゆっくりになる時間の中で眺める。]
───軍人はな。
[ごふ、と血を吐いて、 わらう 。]
死にどころは、己で決めるのよ。
[囁いて、左手を動かし、
腰に下げていた手榴弾のピンを抜いた。*]
― 同時刻―
「杖の下部を開けてください」
「杖の下部を開けてください」
「杖の下部を開けてください」
[老将が命終えたのと同じころ、元帥杖から音声が流れ始めた。
所有者の死亡を契機として発動する魔法が掛けられていたのだ。
少し調べれば、杖下端の飾りが回り、外せることが分かる。
杖の中には空洞があり、筒状に丸めた紙が収められていた。
1枚は、マチス・プロッツェをこの戦いにおける総指揮官に任命する、という正式な書類である。
もう1枚は、手紙だった。]
「小僧。
後は任せた。
すまんが、儂の夢も一緒に連れていけ。」
[短い文章の後に、クレメンス・デューラーの署名が入っていた。]**
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