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[指揮車の中から双眼鏡を覗けば、"爆心地"の上空に無数の翼が舞うのが遠望できる。
数限りないとも思える光の翼を相手に、人間の意志乗せた翼は互角以上の戦いを繰り広げていた。]
おお、おお。
ようやりおる。
[人間の意地と意思が天の威光を押し返すさまに、嬉々として拍手喝采する。中でも目覚ましい動きを見せるのは、鋼の"天使憑き"らの一隊だろう。
天使を翻弄するように飛び交う鋼の翼は、個々のパイロットの力量もさることながら、全体が1個の生き物のように見えるほど連携の取れた戦い方をする。]
[双眼鏡の向きを転じれば、これまた目立つものが視界に入った。
古色蒼然たる空の帆船。堂々たる黒塗りの船体を空の大海に浮かべて進む姿に、唇の端が上がる。]
なんとまあ、大仰なものを持ち出してきとることか。
儂が若い頃にはよく見かけた型の船だが……
[ふむと唸り、得心の頷きをひとつ刻む。]
あの
こういう騙され方ならば、歓迎だというに。
[やはり生きておられたか、と。
諸々が組み合わさった先の喜ばしさに、手を打った。]
[かくして、それぞれの奮戦によって生じた空隙、
蒼穹翳らせる天使の群れの亀裂を捕らえ、
黙したまま、力強く敬礼した。]
…しかし。
[ふ、と思うのは、相手の動きのこと。
最初の襲来の時よりも、幾分か動きが鈍く、単調だ。
だからこそ、想定よりも容易く相手の層を分断できているのだが。]
ふむ……。
拙速、が今は吉かもしれんぞ、小僧。
[人間はもう抗戦の意思を失くしたのだと天使が油断してたのなら、願っても無い好機ではある───**]
臨時元帥 クレメンスは、天の子 マレンマ を投票先に選びました。
― 多脚戦車隊 ―
[地上にあって上空を狙う多脚戦車は、三輌を1小隊として行動する。
クレメンス直下の隊は、4小隊を纏めた中隊規模であった。
六脚を滑らかに動かしながら進む多脚戦車は複雑な地形をものともせず進み、発砲する時には足を縮めて姿勢を安定させる。
起伏も遮蔽物も多い山岳地帯こそが、彼らのフィールドだ。
暫くは降りて来る天使相手に上空に無数の花火を咲かせていたが、いつからか下に降りて来る天使の密度が減り始めた。]
小僧が昇りおったか。
それとも、天使共の頭が戻ったか。
[戦場は地表近くから高い空へと移り始めている。
その空気を嗅ぎ取って唸った。]
[相手の注目が逸れたならば、その隙に相手の重要拠点を叩くのが常道だが、どうやら天使たちは上空の巨大船以外の拠点を確保していない。
なんともやりづらい相手である。]
ふん。ならば鈍くさく低空に残っている連中を叩けばよい。
馬鹿でかいとはいえ、船一隻に乗る数など高が知れておるわ。
数さえ減らせば、そのうち尻尾を巻いて帰っていくだろう。
[そんなふうに兵たちを叱咤して、未だ飛び交う天使たちを落とすべく、あるいは注意を割かせるべく再び砲弾の華を咲かせる。
だが当人はいくらか懸念を抱いてもいた。
もしも天使が減らないとしたら。
最悪のシナリオは、心の隅にある。*]
― 北部山岳地帯 ―
[指揮車のハッチから戦場を双眼鏡で覗いていた老将は、むうと唸る。]
消耗戦だな。
[相手に頭が戻ってきた、となれば戦術上の有利は無い。
数の上では相手が圧倒的に有利なのは変わらぬこと。
おまけに、相手の総大将らしきものが空に高みに現れたとくる。]
潮時だぞ、小僧。
やみくもに押しても届きはすまい。
勢いと根性だけで戦はできぬぞ。
[不機嫌に言って、配下の戦車に撤退を促す信号弾を用意させた*]
[北の地で、黄色い煙をたなびかせながら信号弾が高く上がった。
それを目視した隊も同じ信号弾を上げていく。
戦場をぐるりと取り囲むように同じ色の信号弾が打ち上げられた。
撤退の合図である*]
[地上からも箱舟とやらの飛行と、それに続く異変は見えていた。
あれほど巨大なものが推力も無しに浮かぶとは驚嘆のひとことであるが、あの程度で驚くほど伊達に年は取っていない。
その後、繭になったのはほんの少々驚いたが。]
むん?
ダーフィト船長、だと?
[臨時元帥付きの魔道通信兵から連絡を受けて、例の黒い帆船から着艦場所の打診を受けたと知る。>>194]
ならば北部のファレーズ飛行場を空けてやれ。
あそこはまだ潰されていなかったよな?
[にやりと笑ったのちに山岳地帯の中ほどにある飛行場を指示する。
半ば谷に隠れている飛行場は、天使の攻撃も受けずに済んでいたはずだ。
代わりに侵入角がシビアで、飛行船乗りには魔の飛行場と呼ばれているが、それで音を上げるようならあんな船には乗っていないだろう。]
[ファレーズ飛行場は、普段は引退した艦の保管場として使われている。
臨時元帥の元乗艦である飛行戦艦カルカリアスもまた、今は退役してここに眠っていた。]*
― 臨時元帥府 ―
[地上部隊の撤収は速やかに行われた。
機甲兵は三々五々戦場から離れて各々の補給基地へと戻っていく。
第二部隊の射手や魔法使いたちもまた、輸送車両部隊の援護を受けながら撤収を始めた。
これらの地上部隊は、爆心地近辺の戦闘が終わったのちも小賢しく出たり消えたの戦闘を続ける予定である。
航空戦力に対しては、生きている基地での全力の迎え入れ作業が進められる。
こちらも急ピッチでの整備が進められるだろう。
臨時元帥府、と名付けられた指揮車は首都から北西にやや離れた場所に止まっていた。]
[もともとは古い砦が建っていた場所だ。
人間の気配がないから、天使にも見逃されたのだろう。
地下格納庫などはまだ実用に耐えたから、多少の規模の軍を駐留させるのに不足はない。
なにしろ、首都の制空権をがっちり押さえられたままの戦いである。
首都近辺に軍を置けば民間にも被害が出るだろう、と考えれば、やや離れた砦は無難な選択肢ではあった。
にわかに人も兵器も増えたその砦には各軍の指揮官も集まりつつあり、ちょっとした作戦本部のかたちを為しつつあった。*]
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