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[軍艦ではなく客船も造りたい。と言っていた少年だった頃のウェルシュの言葉を思う。軍艦に憧れる気持ちはやはりわからないまま、ただ、語られる言葉の熱の籠りように、ああ。これが、自分には──無いものか。と思ったことを覚えている。]
同じ国では、つまらない。か。
[言われた言葉を聞きながら、あれはどうかこれはどうか、と思案されながら造られたストンプの艦を思う。画一されない、多彩な艦を生み出す気質が、その言葉にも表れているように思えた。]
[ウルケルはウルケルとしての誇りを持って、とそう表情を引き締める若き領主に、ひとつ頷きを返す。]
垣根なく、また──安全に。
沈むことも沈めることもないストンプの船が、
海をいける日がくればいい。
ストンプ候の意思が、
首都へも──届く事を願っているよ。
[そう、言葉を締めくくった後に、領主としての名を呼ばわる声に顔はタクマへと向けられた。]
────、
[口にされる話題に、養い子との関係を知ること頷きで示しながら、薄紫はタルワールに手を置く男の顔から動かされないままに、続く言葉を聞いた。]
[いつか、彼の上官たる現在の総司令官から言われたのと同じ言葉に、僅かに痛むように目が眇められた。]
… 許せないといいながら。
それでも、貴方は私を、
ここで斬り捨てる事をしない。
[つぶやく推測は。きっと、もし刃を晒すことがあったとしても、同じ結果だっただろう。と思えた。]
貴方は無抵抗の、
丸腰の人間を私情で斬らない。
身の内に、…どんな感情を、溜めていたとしてもだ。
[そうだろう。と、身一つで艦に乗り込んだ信用と──卑怯な計算の一端を明かして、小さく背信者の女領主は微笑んだ。]
[自身の感情を零した言葉は、静かに落ちるままになる。この先の海の状況を伝えながら、引き返せ、という男に、ウェルシュが口にしたカルボナードの意向を態々、問うことはしなかった>>266。]
伝言、承った。届けさせよう。
[届ける、ではなく、届けさせる。と口にして、]
確かに今の私は、ウルケルの民ではない。
帝国の人間だ。そうして、
陛下から頼まれた任を 持っている。
[先ず目指す場は──個の願いを託そうと決めていたはストンプではあれど、元より命は浦々に声を届けよ、とそう言われてある。
そう言葉にはせずとも、引き返せ、との言葉にうなずくことのないまま、来た時と同じままに、小型艇の元へ戻ろうと席を立った。]
[そうして。別れ際に送る切り花は今はなく、代わりに互いの間には見えぬ線引きがそこにある。]
罪のない花にまで、裏切りと。
…その名を被せられるのは、無念なことだな。
[裏切りの花。と、そう呼称される可能性を嘆く男に、指先に棘を指したように、ほんのりと眉を寄せた]
[そう、告げた後には、自分を乗せたランチに乗り、新造の船に招かれた客は、。
よく似た二隻が並ぶ海へと戻っていった。]
***
─ 偽装商船カストル ─
[戻り引き上げられれば、
甲板に控えていたものが傍に来る。]
会談は済んだ。機関部に火を。
[戻ったときには未だ水上機の準備はされないままだった。航行できるだけの準備は整っています。と答えに頷く。]
─ 偽装商船カストル ─
[甲板から見る巡洋艦は、多くがどちらがどちらともつかない筈の双子艦のうち、過たずにぴたりと快速を誇るカストルに狙いをつけていた。]
───。
[おそらくはウェルシュからの助言なのだろう。]
…両艦ともに前進して速度を上げながら、
ポルックスは、カストルと、
巡洋艦、三隻との間へ移動させつつ
進路は、西へ。
[ひとまずは、水上機を飛ばせるだけの距離を取るのが目的だ。ウェルシュ・ストンプとの会談叶ったこと、巡洋艦三隻がさらに西へ向かっていることを伝えるのが、まずは、専決だった。]
[ただし、]
速度を落とさず西へ向かいつつ、あちらが
見えない方角へ向かいたい。
[向こう側が、本来の目的通りの方面へ航路を取るなら、そこから離脱するように。とも命を出す。]
無事離脱が叶ったなら、水上機を出した後
アーレント方面に舵を取る。
[そのままに、シコンへ戻るつもりはない。
それは可能なら、離脱後すれ違いを狙う指示だった。]
[排煙の煙が立ち上る。一歩下がる斜めの位置に相似の姿を置きながら、二隻は東へ向けて、速度を増していく。
──シコンへ戻れ。とタクマが言った言葉に反して。]
─ 偽装商船 カストル ─
[三隻と二隻の横腹が並ぶその瞬間。砲火は照準過たずに火を噴き──カストルの船体を揺らした。]
っ
[暴音とともに、船体は横倒しに傾き、
甲板が派手に水を被る。]
このまま走らせろ!!
[振り落とされないよう、手摺に捕まりながら、
艦橋の方へ声を投げやる。]
ポルックスは進路を敵艦に寄せ
船体をぶつけて航行を妨げろ!
──このまま、行けるところまではいく。
[着弾の衝撃のびりびりと震えるような音の中、声を張り上げる。]
─ 偽装商船 カストル ─
[砲撃の音が複数続く。続いて砲撃を受けたポルックスが、カストルの後方に下がりゆく。それでもカストルばかりは、悪あがきに似た走りを、船はやめない。]
損害個所はどこだ!
[左脇、どてっぱらに、と声が戻る。航行ばかりは続いているも、]
ランチ・カッター──無事なだけ洋上に下せ!
退避できるものは退避しろ!
[そう指示を出すと同時に自身もぐらつく看板の上手摺を頼りに連絡用の船を洋上に押し下す作業の手伝いに回る。]
[足下から悪寒を伴わせる振動に船は震え続け、甲板から見る水面は秒ごとに近くなっていた。]
(結局、撃たせてしまったな)
[名高い砲撃手の手によって沈む。と、緊張の限界を突破したような高揚を覚える一方、冷静な己は皮肉にも思う。ぐらつく船から見る波間は手招くようにも見えて、眉を寄せた。]
[せめてあの二人の手柄になるならマシな死に方だなとそう思う反面で、裏切り者と呼ぶことを、残念だと思うと言った男の顔を同時に浮かべる。
いっそ。裏切り者だと。
そう呼んでくれた方がとも思える。
残念だ、などとは言わずに。──そうも思えどそう願うことも憚られて、口に出しはしなかったが。]
[そう思う間に船員たちと共に押していた連絡船が落とされてまた視界の端では乗せられた一機の複葉機が下された。斜めに、重ねられた翼が傾くのが見えた、
──その直後に。
どん と、大きく内側から船体が爆ぜた。]
[或いは、シコンの港で燃え沈んだ艦に似て
黒煙を伴い炎が噴き上がる。]
[爆発で 金属片が散る。
伴った赤色は、波間に溶けていく。]
[噴き上がった風に、金鎖に下げられた
ロケットペンダントが飛び
空に撒き上がり、やがて 海へと落ちていく。]
[「そんな高さ届くわけない」「危ない」
「やめよう」「無茶すぎて見ていられない!」
いつだか、帝国領に出向いたときに、
うっかり窓から落としたペンダントが、
高過ぎる樹のの枝にひっかかった時にも。]
[揃いで誂えたロケットが、
東の海に沈んだときにも。]
[いつも──届かずに]
[ただ、今だけは。
手摺から手放された指がちり、と金色を掠める。
そうして一瞬の水の王冠が作られたその後。
燃えゆく船の爆発音にまぎれるように
跳ねる水音が上がった*。]
[兄弟船の片割れが火を上げて沈みゆく。
残る一隻は、船体に砲撃を受け
兄と同じに身を傾けながらも
沈むを見守るようにも
取り残されたようにも
今少しの間、浮いていた。
海面には、過ぎた軌跡にかきまぜられた名残の、
白い泡がたゆたっている*。]
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