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[位置を入れ替えたギィに羽交い締めのような形で背後から擦り寄られれば、動かぬ翼はその上から覆い被さるよう。]
ギィ
[共鳴して滴り落ちる恋慕と怯懦と逡巡と決意と、声に出して紡がれた名──天使がギィに対し自ら選択した柵──が、打ちのめされた意識を導いた。]
愛しい者のところへ帰らせて。
[切望は憑依の、記憶の封印を引きちぎる力を求め、引き出す。]
[抱きしめていた体ががくがくと震えだす。
異変を感じ、なお抱く腕に力を込めた。
悪態と共に黒いものが吐き出されれば、身体を伸ばして素早く追いかけ、ぱくりと咥える。
蠢くそれを吸い込むようにして口に入れると、そのまま飲み込んでしまった。]
魔喰いの蛇 ギィは、闇を綴りしもの を投票先に選びました。
[正面から向き合えば、天使はほんの少しその雰囲気を変えていた。
纏う光輝も表情も、どこか柔らかい。
掛けられた声もとても温かくて、懐かしかった。]
思い出したのか?
[熱いものが胸にせり上がる。]
……嬉しい。オレも。
[指を伸ばし、躊躇いがちに天使の頬に触れる。]
[ギィの指が頬に触れる。
そうすると温もりだけでなく、想いが響くのがわかった。
かつてはそうして話していたように。]
おまえの声が聞こえたんだ。
だから、支配を打ち破れた。
おまえも、嬉しいと言ってくれるのか。
よかった…
悪い霊に憑依されていたわたしの言動はおまえを失望させたと思う。
[ふるる…と翼が戦慄く。]
ああ、それだけではない、
今なら、どうしておまえが天界に忍び込んだのかわかる。
わたしを探しにきてくれたのだね。
神への奉仕者として洗脳を施されたわたしは、おまえを思い出さず、善に導くという口実の下におまえの好意を誤ったものとして退けてきた。
おまえにとっては理不尽だったろうに。
[直接心に響く懐かしい感覚。
身体の中が温かく満ちていく。]
いい。
[悪霊に憑依されての言動も、
洗脳されていたときの態度も、
ひとことで、過ぎたこととして退ける。]
オマエとまた、こうして触れていられるから、
だから、あとはいい。
[それだけで胸がいっぱいだから。
言葉にならない想いも、直接響き合う。]
[天界にある資格を失ったと語る天使へ、気遣うような視線を投げる。
だが考えてみれば自分はこの天使を天界から連れ出しに行ったのだ。
表情はゆるりと喜びに変わっていった。]
ならオレの国に行こう。
地下の国だがいいところだ。
オマエが来ればみんな喜ぶ。
オマエは太陽だから。
[はしゃいだ声を上げて手を繋ぐ。]
それでオレと子を作ろう。
たくさん作ろう。
きっと可愛い。
[そこまで言って、はたと固まった。]
……そうだった。
おまえはできないんだった。
[番う行為はできないのだと、告げられた言葉と目にした体を思い出して少し消沈する。]
[…が、すぐに気を取り直して、絡めた尾の先で天使の足をさする。]
オマエが雄にも雌にもなれないならそれでもいい。
一緒にいたい。
気持ちいいこともしよう。
[嬉しげに希望を口にした。]
[誘われて、天使がほんとうに思い出したのだと実感する。
差し招かれた尾でゆるく巻き付き、羽根の間に忍ばせた。
揺れる尾の先から、しゃらしゃらと微かな音が零れる。]
好きだ。
[尾をこうして入れるのも、一緒にいるのも、天使そのものも、
全部をまとめてひとことに。]
新しい絆?
[求めにきょとんとしたあと、疑問を笑みに溶かして頭を摺り寄せる。]
伴侶になろう。なりたい。
オレはオマエのもので、オマエはオレのものだ。
[新しい絆はどちらが上ということもない。
互いが望む限り一緒にいられる契りだ。]
オレもオマエの髪が欲しい。
交換しよう。
リングは、壊したから…
[右耳に触れて、少し小さくなる。
あれはお仕置きされる嫌なものだったけれど、良いものでもあったから。]
[天使が示したリングには、小さな欠片がひとつ増えていた。
届いた証。
繋がった証。
舌先を伸ばして舐め、感触を確かめる。]
これがあったから、オマエが来てくれた。
嬉しかった。
[そのまま幾度か指輪と指を舐める。]
[顔を寄せ、髪を絡める。
体温が近い。温かさが流れ込んでくる。]
オマエとオレが混ざり合って、ひとつになる。
互いに───…
[言葉よりも。
綻んだ唇に視線が吸い寄せられる。
同じように、自分の唇が綻ぶのがわかる。]
ヴィン………
[愛だ、と。
伴侶となった天使の口から紡がれれば、言葉が熱を持って輝きだす心地がした。]
愛、だ。
愛してる。ヴィンセント。
[湧き上がる気持ちのままに言葉を繰り返し、
二度目と、三度目の誓いを立て続けに交える。]
[天にも昇る心地というのは、こんな気持ちを言うのだろう。
天界へ昇って行ったときも期待に胸が躍っていたものだが、今は、足元から髪の先までが浮き立つような心地がする。
そんな幸福と歓喜で満たされた心の中に、一筋の影を見つけた。]
ヴィン、すぐにここを出よう。
[天使の腕を掴み、声に焦燥を滲ませる。]
ここにいるとオマエが危ない。
オマエが死ぬのは嫌だ。
だから、すぐ離れよう。
[先ほど流れ込んできたイメージが、再び脳裏に蘇っていた。]
[天使の翼が抱くのは、優しい太陽の暖かさ。
眩くも愛しいその翼から名残惜しく尾を引き戻す。]
いつものように、だな。
[戦いの装束を整えた天使を眩しげに見やって笑い、自らも赤い蛇へと姿を変える。
その頭には小さな星のように銀の鱗がひとつ輝いていた。]
[赤い蛇はさらに大きさを縮め、小蛇となって天使の足元に這い寄る。
そのままするすると体を登って、翼の間に落ち着いた。
ちらと舌を出して翼の温もりを味わい、身体を擦り付ける。]
しばらくはこのまま行こう。
……行きたい。
[昔のように思念を通わせて告げる。
幸せに浸っている気持ちも、たぶん伝わるだろう。]
ああ、 一緒だ。
[囁きを響かせて翼を広げる。
二人の姿そのものがメッセージである。
闇に迷える魔物も愛を見出してくれればいい。]
[天使の背に乗って空へと高く舞い上がる。
それはすがすがしく心躍る体験だった。
いつ魔物に襲われるかわからないという状況でなければ、もっと楽しめるのだろうけれど。
湯煙立ち込める高さから抜け出せば、視界が広がった。
黒い結界が渓谷全体を覆っているのが見える。
あれを抜けさえすれば、魔物の脅威も減るだろう。]
抜けられるか、やってみよう。
無理でもオレが食い破って穴のひとつくらい開けてやる。
[一緒にいればなんだってできる。
結ばれた絆の強さの分、自分もまた強くなれる気がした。]
頼もしい。
[二人で力をあわせて結界を突き破るべく、さらに飛翔の勢いを増した。
信じていると言葉にせずとも伝わる絆の強さ。
蒼穹目指して駆け上る。
暁の星は落ちることなく。]
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