情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新
― 運動場の片隅 ―
[ 砂色の騎竜は、ご機嫌だった。少しお腹は空いていたものの、優しい先輩竜のカルモの側で、若竜達と遊んでやっているのは、結構楽しいし、もう少しすればおやつも持ってきてもらえるはずだ。 ]
ピー
[ 時々小鳥の囀りと間違えられる小さな鳴き声は、その機嫌の良さの表れだったが ]
ピ?
[ 突然届いた鳴き声と、続いて降ってきた虹色にざわりと砂紋をゆらめかせて、ノアは空を見上げる。 ]
ピッ
[ 虹色と精霊力に気を惹かれ、思わず咥えようとしたところで、カルモの警告の声が届き>>45慌てて口を閉じ、ぺいっ!と鼻先で虹色の菓子を弾き飛ばした。* ]
― 運動場の片隅 ―
ノアッ!
[ 青年が騎竜の元へと帰り着いたのは、丁度、虹色に向かって相棒が口を開いた所で、慌てて声をかけたが、幸い飲み込む前にノアは気を変えたようだ。 ]
はあ、まったく...落ちてるものも落ちてきたものも食べちゃダメだからな?
[ 受け止めたのは、虹色の小さなマドレーヌだ。美味しそうに見えなくもないが、精霊力の気配に、掌がざわざわする。 ]
カルモ、止めてくれたんだね、ありがとう。
[ ピイピイと何やら言い訳めいた鳴き声をあげるノアから大体の事情を聞き取って、青年は面倒見の良い先輩騎竜に感謝を向けた。 ]
あっ...えっ?!
[ 手の中の虹色が、いきなり飛び出したのは、その瞬間だった。 ]
ちょ...あれ、生きてるの?
[ ぴょーんぴょーんと、跳ねながら逃げていくマドレーヌのシュールな姿に、しばし呆然としてしまったのは、許してほしい。 ]
いや、まあ...逃げるならこれ以上被害は出にくい、かな?
[ 遠い目をして呟いた青年の表情は、やがて、精霊魔法によって拡散されたローランドの声>>76を聞けば、すっと引き締められた。 ]
ノア、おいで。倒れた人を見つけたら運ぶよ。
[ 騎乗はせずに、そう呼べば、ノアはゆるりととぐろを巻いた体を解き、地を滑るように騎竜師の側に擦り寄る。
地の精霊の加護により、地表の砂を動かして身を運べるのは、この竜の特性だった。
傍目には大きな蛇っぽく見えなくもないので、一部の学生にはびびられているというのは余談。 ]
[ 青年が向かったのは、人が密集していると見えたステージの方角 ]
おーい、倒れた人は、一旦、こっちに運んでくれ。まとめて救護所に連れていくから。
[ 声をかければ、混ざっていた同期の学生達から、ばらばらと了解の声が返る。 ]
[ 視線を巡らせると、てきぱきと倒れた人々の介護や、虹色捕獲にあたっている一団が目に入った。>>85
なんとなく怨念めいた気合いが感じられるが、めちゃくちゃ統率がとれている...ように見える。 ]
えーと...そっちも運んだ方がいい人、いるかな?
[ 青年は、「これ、邪魔していいのか?」という、懸念混じりで、恐る恐る声をかけた。*]
[ 人を運ぶのは体格のいい男子学生が請け負うのが多い中、元気に名乗りを上げた女子学生の声>>125 ]
ああ、ありがとう。大丈夫?
[ 思わず手伝おうと駆け寄ったのは反射的な行動だ。* ]
[ 大丈夫、と、答えるのは、明らかに後輩と思える女学生だ。>>138手を貸したいという衝動はあるものの、気合いを入れて頑張る表情を見てしまえば、逆に失礼かと思い直す。 ]
じゃあ、無理しないで、ゆっくり運んで。その方が運ばれる方も負担が少ないから。
[ 代わりに、そう伝えてから、小さく微かな口笛を吹いた。
その音に込めた願いを聞き取ったノアが、するすると、アイリに近い位置に移動する。 ]
[ これで、少しは運ぶのも楽になるだろうと、息をついた時、虹色の光が煌めいたのが見えた。 ]
...っ待て!
[ 空気を蹴るように跳ねた水晶細工の子猿のような姿が、アイリの背に飛びかかるように見えて、慌てて駆け寄る。 ]
よしっ!
[ 捕まえた子猿もどきには小さな翼もついていて、何やら道化師めいている。凶暴には見えないが、とりあえず後輩の背に届く前でほっとした。 ]
[ アイリが、突然の動きに驚いているようなら、こいつが悪さしそうだったから捕まえたんだ、と、子猿もどきを示して説明しておく。 ]
すぐ行くよ!待ってて。
[ ヴェルザンディの呼ぶ声にも気づいて>>146子猿もどきを持ったまま手を振った。 ]
[ アイリが運んだ人をノアの背に乗せる所までを手伝って、ヴェルザンディの方へと向かう。バルタザールも、或いはこちらへ向かっていただろうか?_ ]
お待たせ。すぐに運ぶからね。
[ 待つ間は不安だったろうと、微笑みかけてから、おや、と目を瞠った。 ]
君、確か、ステージで歌ってた...
[ 騎竜師の訓練は厳しいもので、戦闘にも耐えるように鍛えるわけだから、女性でもある程度の力があるのは珍しくない。とはいえ、後輩女子に少しは頼り甲斐のある先輩と思われたいのも男心......なのだったが ]
あ、うん...
[ ヴェルザンディから向けられた極上の笑顔に、>>162 何故か背筋がピンと伸びる。そして続いた自己紹介>>163の声はとても綺麗で、激しく温度が低かった。 ]
そう、か...ハンナくん、だったんだね。
なんか、ごめん。
[ たぶんなんか地雷を踏んだ、という自覚はあったので、へにょりと眉を下げて謝った。 ]
俺はクリフ・バルト。
[ それから気を取り直して、微笑みを浮かべ、まずは自己紹介を返す。 ]
君の歌、屋根の上からでも良く聞こえた。
とても綺麗な声だね。
[ 青年の耳は、人よりも少しだけ良く音を拾う。だから、本当に告げたかったのはこちらの言葉だったと、少女には通じたろうか? ]
ノア...俺の騎竜は静かに動くのは得意だから、後は安心して任せて。
[ なんとか最後は先輩らしく...締めくくれているといいのだが。** ]
[ 静かに動くのが得意な砂紋竜は、実は静かにしか動けない。生まれた時から小鳥のような小さな声でしか鳴かない、どこかひ弱な印象の仔竜だった。
けれど、強くはなくとも聞き分けが良く、優しい相棒を、青年はずっと大切に思って来た。 ]
ノア、その人達を運んだら、ちょっと探索をしよう。
[ 騎竜師学校に入学し修練を始めても、ノアは強い竜になる気配は無かった。父を追って王国騎竜師団を目指すなら、このままではいけないのでは、との迷いを払拭出来たのは、学生と騎竜の特性を正しく汲んで柔軟な指導をしてくれたローランドのおかげだ。 ]
[ 運んだ人々を医療班に任せると、青年は騎竜に騎乗して、ふわりと上空に浮き上がる。
相変わらず、飛翔というより凧が空に揚がるような緩やかさで、高度をあげてから、微かな口笛で合図を送った。 ]
ピィ
[ 小さく鳴いた騎竜は、その口から細かい銀色の砂の粒子を吐き出す。
銀色の煙のように漂う砂つぶは、風に乗り、周辺へと薄く薄く広がっていった。 ]
ん、中央には、もうあまり濃い気配は無いね。四隅に逃げていった感じかな?
[ 砂つぶに混ざる精霊力が、別の精霊力に触れると、それを感じ取ることが出来る。使う機会は少ないが確実性は高い探索方だ。 ]
あっちの方に気配があるよ!
[ 大体の当たりをつけると、青年は地表近くまで下降して、菓子や魔法生物を探している学生達に、声をかけて方角を教えた。
前線に立つのではなく、探査や運搬を後方で担う、そんな役割の騎竜師がいてもいい、と、今の青年は思っている。* ]
ナイスキャッチ!
[ 伝えた情報をうまく受け取り、ついでに逃げ回る虹色の飴を上手く捕まえた少女の様子に>>224手を振り返す。
彼女の他にも、全体に少し捕獲のペースが上がっている気がする。ローランドのご褒美作戦も、多分に影響しているだろう。 ]
一位目指して、がんばって!
[ 倒れた人達も無事に運ばれ、会場全体が、虹色との鬼ごっこで別の意味で祭りらしい賑やかさを取り戻している。青年も、その空気に相応しい笑顔で、後輩に激励を贈った。 ]
もう倒れてる人も居なさそうだね。
[ ふわりふわりと高度を変えながら、目視でも全体を見渡し、取りこぼしが無い事を確認しておく。 ]
身内が倒れたりすると、やっぱりなあ...
[ 思い返すのは、父を頼むと言った少女の顔だ。>>223色々感情が波立っていたのはきっと、父親への心配もあったろうと思う。 ]
彼女の歌はまた聞いてみたいな。
[ 落とした呟きに、歌が聞こえている間、ご機嫌に尾を揺らしていた相棒が、ピィ、と、同意の声をあげた。 ]
あれ?ローランド教官、と...シエル?
[ カルモや若竜達はどうしているかと、一度様子を見に行くと、丁度、仔竜が飛び立つ所に出くわした。>>260 ]
あ、おい!
[ 明らかに逃げ出したという雰囲気に、後を追おうとするものの、ノアでは素早く追跡という速度は出ない。代わりに、虹色の光が目前を掠める。 ]
『ぷぎゅっ!』
[ 伸ばした手に、思い切り体当たりしてきた子豚は、ぽよんと跳ねて、その勢いのまま飛び去って?行った。 ]
...なかなか個性的、だった、な。
[ 残念というより、気分は、ぽかーん、である。魔法生物の造形は、青年には謎すぎた。 ]
教官!
[ ふわりと、地に降りて、青年はローランドに声をかける。>>255 ]
シエル、捕まえた方がいいんですか?
[ 最初に響いた声を聞き分けた青年は、なんとなく、この異変にはあの仔竜が関わっている気がしている。
だが、仔竜を探すという指示が出されていない以上、捕まえればいいというものではないのかもしれない、と、考えての事だった。** ]
― 運動場 ―
そうですか。分かりました、無理には追いません。
[ ローランドの返事に>>270、青年は素直に頷いた。 ]
友達、ですか。そうか...シエルも、みんなと一緒に、もっとお祭りで遊びたいのかもしれないですね。
[ 綺麗な虹色の菓子と、小さな魔法生物達、最初から、そこに悪意は感じられない。
声を交わした後輩の元気な返事や>>284鬼ごっこのように駆け回っている学生達が、楽しげに見えたのを思い出す。 ]
それじゃ、いっそ思い切り遊んであげるのがいいのかな?
[ 思いを口にすれば、『遊ぶの?』と嬉しげに相棒が尾を揺らした。 ]
うん、シエルに会えたらね。頼むよ、ノア。
[ ピィ、と返った鳴き声はなんだか張り切っている様子。仔竜の面倒を任されたお兄ちゃん気分らしい。
そんなノアの頭を撫でてから、青年はローランドに軽く手を振った。 ]
ありがとうございます、教官。シエルの気持ちが少しでも知れて良かったです。
[ おかげで、心が大分軽くなったと礼を告げて、ふわりと再び高度を上げた。* ]
情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新