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[はきと述べられる通達に、立つままひとつづつ首肯を返す。]
ウルケルが残していった兵站については
確保したものを、そのままお渡しします。
もしか兵舎が溢れるようなら
アンディーヴの屋敷をご自由にお使いください。
元より空き室が多すぎる家ですからどうそ遠慮なく。
──また、港の使える艦についてもよければ、
お使いいただければ。と思います。
ほとんどは沈められて逃げられましたが、
機雷施設艦が一隻と、アンディーヴの武装艦が
二隻動かせる状態で残っています。
改造船は、癖が強いので、
慣れたもの以外に扱わせるのは
少々難があるかと思いますが
……もし、軍人でないものが邪魔にならないなら
どうか、私共々、
海に浮かべていただければ。と
思います。
[庇護を求めない返答は、先に匿いの申し出をくれたルートヴィヒに渡したのと同じ答えだ。]
… 市民らへのご配慮、──ありがたく。
当座で行き詰らぬ蓄えはしてあります。
長引くなら食料と、暖を心配していましたが、
港から船が出せるなら、
問題にはならないでしょう。
[山岳地帯に農地はあるが、それでもシコンの暮らしは食料を交易に頼る面が大きい。それゆえ危惧はあったが、ただ、それらも港が解放されるなら、思うよりも苦は減る筈だった。]
では、退避中の皆への連絡は此方から──、…
[危惧が解消されたことに、危惧の一部を細い息に変えて下ろし]
、
[と。連絡と指示から転調する声と、
ふ と男の手に取られ浮く自らの手に
ゆるやかに薄紫が瞬いた。]
[答えれば、そこで扉が開き、一度会話は途切れた。室内にこうばしい香りが立ち、会話の再会までには少しの時間があった。]
私が海にいたい理由はな。
一考に価しない程、くだらないぞ。
[湯気が前髪に触れる。私情だからな。と添えて、親しんだ香りに目を眇める。]
平和裏に海峡が開放されること望む声が、
戦斧の力に頼み縋りこの海峡を閉じる、
首脳部の石頭にまるで届かなかったことが
… 悔しいと、それだけの話だからな。
[若き皇帝から出された命の内容は、
先に願われた流れを汲み聞こえた。]
…使者の任。確かに、承りました。
[街の保護と引き換えに帝国を自領に招きいれた女領主は任務の拝命に、緩やかに頭を下げた。]
[護衛艦隊の申し出は、使者として赴くなら、ウルケルの領海内を帝国の艦を連れて動くよりも、動かす船は乗りなれた二隻のみがいいとの旨を伝える。
外装に据えた砲門を下ろしてしまえば、、
目ざとい者にはわかられようが
大概のものには表向き、ただの商船と見える筈だ。]
[話を終えれば、皿の上から一枚、クッキーをつまんだ手を引く。]
屋敷にいらっしゃるなら。
…歓迎します。
[一時出た巣の口調を収めながら、久々に自室といくらか以外に灯りがともるだろう家を思うと。含んだ菓子は随分と優しい味がしたような気がする。]
─ シコン港、夜道 ─
[案内に会議室を出れば夜の町の中、階段上の三段目に、一軒ばかり灯りが点ってあるのが見える。
あちらです。と目的地を示す際に、港が見え、ふと、発作、といった言葉と共に視線が向いた海へと視線が留められた。]
……夕食。扶翼官殿の釣果の期待値は、
いかほどでしょうか。
[浅瀬がなだらかに深くなる湾内には魚が多い。漁もできる程度にシコン港の海は豊かではあるが。
発作。といわれるようでは今も期待薄だろうか。とも思う。そういえば、魚が釣れているところを見た記憶がないな。と、表情に出さぬまま道行少しだけ可笑しいような心地を覚えた*]
─ シコン港・夜 ─
[二隻のみでいきたいとの要望は、腕組みの間を持ちながら通された。帝国海軍の軍人が同乗することを容れて頷く。──船に帝国海兵が乗ることを監視と取ることはしない。そも艦をつけてくれることは護衛の意だろう。お願いできるのであれば平服で。と添えた。
どうしてもリオレ周辺に差し掛かれば、警戒中の水上機には見つかるだろうからだ。
たとえ擬装していたとしても、帝国軍に与する船だと看破されれば、会話の余地もなく砲撃の対象となる可能性は高かった。]
水上機の搭載は、カストルになら問題なく。
そちらには乗せられるだけの空間も
荷下ろしのクレーンも残してあります。
[外観がよく似た兄弟船ではあれど、内部構造は大幅に異なる。元々倉庫だった空間を装甲とダメージコントロール能力に回したポルックスでは水上機は積めない。と、船の構造を伝えた。]
─ アンディーヴの屋敷、会食 ─
[案内の途中で話題になったルートヴィヒの釣果は変わらずであったらしい。領民のいる山に吹雪が降らずに助かった。と、真顔のまま冗談ともつかぬことを女領主は言った。夕食にはささやかながら花瓶に花が添えられ、グラタン皿がメインとして供された。]
陛下からの信頼に
応えられるように勤める。
[翼たる青年から来る視線には、そう言葉を置いた。戦でなく言葉での戦いを任じてくれたのは、気性を見取っての差配だろう。その上で、希望を聞き届けてくれた若い皇帝の応えねばならないとも思う。]
[気をつけて。とルートヴィヒから送られる言葉に首肯を返す。]
…
今のことが片付いて、
ゆっくりできるようになったら。
イルザも交えて、お茶にしよう。
私も彼女に会いたい。
[気をつける。と。そう言葉にする代わりに、未来の話を添える。緩く瞬けば、サフランの庭に翻っていた水色のワンピースと笑い声が蘇るようでもあった。]
…我がアンディーヴも含めて。唯一、現時点でも自由にグロル海峡を抜けられる国の船がある。
[グロル海峡を保有する国、
ウルケルの船だ。]
──、その特権を、ウルケルは、
安くは明け渡したがらないだろうな。
[茶器の中の琥珀色に視線を伏せる。今の首脳部が考えを変えない限り、まず衝突するだろう、と零した言葉は空の青色が薄く重ねられた琥珀に落ちた。]
─ 現在、アンディーヴの屋敷 ─
[懐かしく香った花の追想から今に戻り、
目前の青年を見止める。]
我がアンディーヴの船は
昔からこのグロル海峡を、
自由に走り抜けてきた船だ。
もしも、早くに情勢が傾くようなら
首都の顔ぶれが慌てふためく様子でも、
叔父の渋面ついでに眺めてこよう。
[冗談めかせて、大丈夫だと そう添える。]
[──また、本来、何もなければファミル・アンディーヴが死ねば家督と商会の長としての権限は、今は首都にいる叔父のものとなる段取りであるが、家ぐるみで敵国と通じた、と判じられれば、その権利も剥奪となる可能性はあった。それが、全くの事実無根であっても。]
(叔父上のことだから
上手くかわしているとは思うが)
[汚名を雪ぐに、姪の首を落としにかかる可能性はあるな。とは思ったが、しかし叔父は何かを率いる長になりたがる人でもない。
ただ、判断に情を差し挟まない叔父のことだ。今も首都にて淡々と仕事をこなしているだろうとは思えた。
それが、どのような内容の命令であったとしても。]
[視線は、窓の外に一時向く。壁に阻まれて、何が見えるわけでもなかったが。]
[そうして会話を交えながらも皿に乗った料理は片付けられる。普段よりは遅めとなった食事を終えれば、領民の下へ街の安全を伝えるために と、場を辞した*。]
─ シコン港・夜 ─
[夕食の席を辞したあとには、伝令をおいてある別棟で出向き、街のの無事なこと。帝国軍からの接収はないこと。離れるか戻るかは選べることを通達するようにと連絡を出した。]
また、ここを離れるなら申し出るように。
船を用意させる。
…対岸にわたりたいものがあるなら、
それも構わない。
[輸送船を使い途中までは送れるだろう。その後は小船ににのりかえて、逃れてきた態をとればウルケル側も、民間人に手はだすまい。
裏切りの首謀者なら兎も角として。いっそ市井のものらの方が、帝国軍の寛容を示す使者としては役を成せるだろうと思われた。]
[そうして、己が向かう先の領主の事を少し想った。気弱げで腰が低くて優しい新米の領主は、今、どうしているだろう。]
…
あそこの港にいくのはいつも。
…少し複雑な気分だったな。
[昔から。と、思い起こせば苦笑が漏れた。]
─ 回想 ─
[ストンプに訪れるのは大体が父に連れられてのことだった。ファミルの父は、ストンプに負けるな。と子とあるごとに口にしてはいたが、造船所と、ウェルシュの父にあたるそこの領主をごく好いてtいたように思う。
「私も昔はここで造った艦に乗って
どかんとやったものだ」、
なあ。とそれが誇りの名残であるように、軍務についた経歴を持つファミルの父は、前ストンプ領主へ向けてよく笑っていた。]
[父は海と船と、英雄譚が好きな男だった。
「男は強いのが一番だぞ」と、ややも押し付けがましい物言いは、
若年だったウェルシュにも構わず向いていた。
その様を見ながら、母親似の顔と父に似ない性格を持った自分は、実は叔父の子供なのではないか。と、当時には少し疑った。]
[父は後継を兄と決めていたし、兄が生きている間、父がファミルに望むことは「アンディーヴ商会に強い男を連れてくること」だった。父がこれと決めた相手が度々断ってくれている間、ファミルは自由でもあったが、それは子として期待されていないことの裏返しでもあったろう。
その娘の立場からは、ウェルシュ本人がどう思っているかはおいても、父が彼に構いたてる様子は少し、複雑で、羨ましくもあった。]
…ウェルシュは
どんな船が好きなんだ。
[いつだか、ストンプの造船所に訪れた際、父親同士が話し込み、子供同士が放り出された場で、そう尋ねたことがある。]
軍艦より客船の方が好きだと言えば、
父上にはやはり娘だなと笑われた。
[そう、不意に疑問を投げ掛けた理由を明かせば、年下の、まだ少年といえる年頃だったウェルシュはどんな顔をしていたか。
必要を理解しても、好きにはなれないな。と零した言葉が、人が立ち働く活気に紛れたのを覚えている*。]
***
─ 明けて・洋上、擬装商船カストル ─
[湾を抜けだした船の上を、カモメが一羽高く飛んでいく。
会食の翌日に、昼になる前にはシコン港を出た二隻の船は、
海峡北の海岸沿いに進路を取っていた。
航行を監視するリオレ島からは距離をとりつつ、
フリカデル島を回りこみストンプを目指す航路は、
途中まで、普段商船が使うものをなぞる。]
────。鳥、か。
[空に向けてかざした双眼鏡の円の中を
カモメは東の方へと過ぎていった。]
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