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[腕から放された仔犬はしばし不思議そうに青年の顔を見ていたが、黒い魔獣の踏んだ小石がザリと音を立てるを聞けば、そちらへと走る。
わん!と元気な鳴き声が響く。大きさの差を考えれば、目に入らなくとも不思議はないだろう。けれど大きな双頭の魔獣は仔犬の声を聞き、足を止めた。ぶんぶんと振られる仔犬のしっぽ、けれど見れば大きな犬のしっぽもゆらゆら揺れて。大きさは違えどやっぱり犬なのだと思えば、くすりと笑いが洩れた。
それが、悪かったのだろう]
――…
[回復しかけた力は、ゆるゆると金貨の意識を流す。
不安で、不安で、溢れ出しそうなほどの感情の奔流の中にあれど、声は紡がることはない。
何かに縋りたいと思えど思っても、相手が聖印の持ち主だと考えてしまえば、言葉にすることができない。
知らない、彼のことを自分は何も知らない。
四番目の神とは名乗ってしまった、金貨であると名乗ってもいいのだろうか。
何かを言いたいような、言いたくないような、そんな意識を醸し出しつつ、不安定な状態故に再度力尽きた金貨の意識は闇に沈んだ**]
[淀んで停滞していた狭い路地裏に、空気の流れと同時に影が足元に落ちた。横を見るも、やはり人も魔の気配はない。
影に続いて足元にべちゃりと水が落ちた。上を見上げれば、ひとつ目ひとつ角の鬼と目が合った。鬼の口の端からたれた涎がまたひとつ、足元に水滴を作る]
―――……っ!!!
[咄嗟に声を抑えたのは自分でも上出来だ。魔のものはこいつだけではない、声をあげればどれだけの魔が集るか。
鬼の右の手が鈍い動きで持ち上がるのを見て、左に跳ぶ。瓦礫が飛び散って派手な音をたてた]
[幸いなことに、こいつの動きは早くはない。運動神経が少々残念な青年でもなんとか避けれそうなくらいに。けれどいつまでも体力がもつはずもなく、こいつ以外の魔が集れば自分の命などあっという間に消え去るだろう。
事実今の一度の攻撃の音で、建物の向こうに魔が集りつつある声がする。]
(にげ、なきゃ)
[ちゃんと、戻ると言ったのだから。嘘を神は赦し賜わないだろう]
[路地裏は表よりも細く入り組んでいる。見つからないように逃げるには好都合だろうが、見つかった状態では先回りされれば逃げ道は途絶える]
(でも、表は)
[たくさんの魔の集る大通り。どちらがまだ逃げる途があるかと考えれば――]
[目の端を、ひとつ角の鬼が叩きつけた腕をまたゆっくりと持ち上げるのが映る。考えていればいるほど、状況は悪くなってゆく。咄嗟身を翻し、路地裏を駆け出した]
[足音を殺している余裕などない。あったところで心得などない、できるのはただ全力で走るのみ]
??!!
[わぁっと歓声が上がった。人の声、魔の雄たけび、生き物の鳴き声。追え、という言葉が耳に入り、追われるのは自分だと理解した]
[勿論逃げるのは人の身、追いつくだけならすぐさま掴まるだろう。けれど追う魔は遊んでいるのか嬲りたいのか全力で追おうとはしてこない。
魔物の一部が獲物を巡って同士討ちを始める。地を駆けるもの。空を飛ぶもの。思い思いに青年を追い詰め、時折鋭い爪で頬を切りつける。
息があがって、ますます走る速度は落ちる]
[一際大きな影が背後に迫った。足元が掬われ、あ、と思った時には身は地上から離れていた。
大きく跳ね飛ばされ、続いて落ちる。瓦礫に叩きつけられたと思ったけれど、落ちた先はふかりと温かく。ころころとした無邪気な目と視線が合い――]
ポチ!
[片方の口に小さな魔犬の首根っこ咥えた双頭の魔獣は、背に人ひとりを乗せてもその速度を落とすことはなかった*]
『救うのは、ただ一度きり。人の子よ』
[聞いたことのない声。というよりも、耳に入る声はそんな言葉ですらなかった。なのに青年に聞こえる声は、そう言っている]
―…、ありがとう、ございます…あの。
[杯の神より賜った力、なのだろう。神は言葉通じぬものとも意思を通わせることができると言った。こちらの言葉は相手に伝わるのだろうか。分からないながら、他にどうすればいいのか分からずに感謝の言葉を唇に乗せる]
……。あの。
[戻らなければ、いけない。ポチはもう大丈夫だから、眠っている相手にした一方的な約束だけれど]
本がたくさんある部屋…は、どこに、ありますか?
[黒い魔犬は>>0:#09(10x1)を駆ける。風景が、流れる]
― 黒い太陽の平原 ―
[中天には日の光。にも関らず太陽は明るく照らすことはなく地には魔が溢れている。双頭の魔犬は魔の中でも力が強いのか、風のように駆ける姿を追ってくるものはあれども追いつけるものは少ない。時折爪を伸ばしてリヒャルトの身を引きずり下ろそうとする魔がいても、赤い口から吐き出す炎の塊に巻かれて悲鳴を上げながら転がり流れてゆく]
ポチ…
[わん!と元気な声が聞こえた。片腕を振り落とされないよう魔獣の片方の首に掴まり、片方の口からぶら下げられている小さな双頭の魔犬に腕を伸ばす。
魔獣は彼が害を及ぼすことはないと理解してくれたらしい、ぶら下げたままだった仔犬を片腕の中に落としてくれた]
― 浮遊する群島 ―
わぁ…
[声が零れた。石は地にあるものという固定観念を打ち壊す風景。思わず声が出たのは感嘆のものではなく、岩と岩の上を魔獣が飛び移るたびに投げ出されそうで必死で掴まっているため。片腕の中の仔犬ももちろん離せないし。
こんなところははじめて見た。魔界は自分が思っていたよりも、ずっと広かったらしい。
けれど呑気に眺めている余裕はなく、ここにも追っ手はたくさんいる。魔獣は他を圧する力を備えてはいたが、さすがにここではそらを飛べるものの方が速い。
時折追いすがろうとする翼あるものたちを、大きな魔犬とちいさな魔犬が炎を吐き出し距離を作り―>>0:#03(10x1)]
―っ
[青年を捕まえるには黒い魔獣を落とさなければならない。そう判断したらしい鳥の翼と顔、そしてひとの体を持った魔が黒い魔犬の毛を嘴で毟る]
「ぐわぉう!!!」
[途端、魔犬はくるりと身を反すと腕を翻し、鳥の頭を岩へと叩きつける。動きについていききれなくて、一瞬身がふわりとした感覚に襲われてひやりとする。ここで落ちたら、多分命はない。必死で掴まって。
魔犬が叩きつけた魔はここでは強い方であるのか、追いかけてくる魔は数を減じ――9(10x1)]
― 狂気の研究施設 ―
――?
[静かだ。ここに追っ手は差し向けられていないのだろうか。今までたくさんいた魔たちの姿が見えない。
さすがに疲れてきたのか、今まで駆け続けていた黒い魔獣はゆったりと歩く]
……?
[木々の間、建造物が見える。いや、あるのはおかしいとは言わないのだが…
一階部分が石造りの古い造りなのに、二階部分が金ぴかとか。一階部分に比べて二階部分は小さいし。]
――…。
[魔の者のセンスはよく分からない。]
[ふと、流れ込んできた感情。なんだろう。この感情は、自分のものではない。
疲労感――不安?
こんな風に、だれかの心が流れ込んでくるなんて。ただひとりしか、知らない]
―…、ベネディクト、さん?
[目を覚ましたのだろうか。目が覚めて、自分がいなくて…こんなに、不安で。
試しに彼が名乗った名を呼んでみるけれど、こころが繋がったのはほんの短い間]
大丈夫ですか?なにかありましたか?
[呼びかけてみるけれど、眠る神には届いていない。彼が一度目を覚まして、すぐに眠ってしまったなんて知らない。かえらなきゃ。焦燥感は募る]
― 記憶の書架 ―
[しばらくの後。本棚の並ぶ広い部屋に戻る人と魔の姿]
あの。ありがとう、ございます…
[去っていくかと感謝の言葉を告げてみるが、ここまで来るのに随分体力を消耗したらしき双頭の魔は、本棚の間で狭そうに身を丸める]
―…。帰りました。
[マントに包まり自分の聖印の上に手を被せたまま、疲れ切った様子で眠る神?に。一度だけ額に手を触れる]
…ごめんなさい。
[無理を、させて。]
ありがとうございます…
[こんな自分でも、探してくれて。]
[多分、今なら気付かれない。額に触れた手を滑らせてもう一度垂れた髪を耳にかけなおし]
あなたが神としておわす世界なら、わたしは喜んで参りましょう。あなたがわたしを、いらないと告げるまで。
[ずっと迷っていた。けれど。いつか>>0:41を、もう一度]
――
[黒い毛皮の間に小さな魔犬が潜り込み、黒い艶やかな魔獣の腹の間からもこりと顔を出す。一緒に休もうというようにきゅーと鼻を鳴らすけれど、小さく笑みを返すと眠る神の隣に腰を下ろす]
――おやすみなさい。
[ふぁ、と小さな欠伸ひとつ。ひとりと一神と二匹、静かな空間に眠りが落ちた*]
[その小さな頭がマントを羽織った肩の上に落ちたのは、眠りに落ちる前か無意識の産物か――*]
[眠る聖職者の髪をあやすように梳いてから。炎によってこげた毛先、頬に走る真新しい傷、返り血と泥で汚れた衣服へ視線を落とす。
何故、彼がこんな目に合わねばならなかったのかと思わずにはいられない。
元の世界から連れて来られ、神々のくだらない争いに巻き込まれ、魔界などに落とされて……]
――…ここから出られたら、元の世界に返しましょう。
[彼の祈りはとても綺麗なのだ。自分の世界可愛さに、汚していいものではない。我欲にまみれた神の世界など見せたくはない。
覇権を争う
見せたくない、巻き込みたくない。
そうしなきゃ保たない世界なら、それこそ滅んでしまえばいいのではないかと。奇しくも、聖職者の決意とは真逆のものを、金貨は心に抱くのだった。]
[飽きるまで彼の髪を梳いた後、そっと頬に舌を這わす。
なぞった跡は静かな光を湛え、鋭い爪でつけられただろう傷を塞いでいく]
……借り物の力ですいません
[借りた力は便利とはいえ、相手が起きている時にはちょっとどころではなく使いにくい力だった。
見える範囲の傷を癒やせば、またうとうとしはじめるだろう。
いつの間にか増えていた傷のこともある、今度はぼんやりしながらも、目を閉じようということはない**]
……、
[温かいものがふわりふわりと触れる気配に、未だ目は開かないまま甘えるよう身を摺り寄せる。体は思うよう動かないけれど、意識は次第に浮き上がり]
――…。
[膝の上から落ちた手のひらが、床の上置かれた聖印を持つ手の上落とされた。
眠る前にはあった筈のピリピリとした痛みがなくなっていることには、怪我をしたことさえ忘れていたために気付かない]
[意識がはっきりしていれば、ここまで躊躇いなく甘えたりはできないかもしれない。なにせ彼は神で、自分は神を称える聖職者。
けれど目が覚めきっていないからこその素直な行動。自分とは違う体温にくちびるの端に笑みが浮かぶ]
―、…
[呼ぶ声は、ほとんど言葉にならないまま呼気だけが吐き出される]
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