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いのりの形
純白の翼へ眩しそうに蒼を細め、
謳うように唱えられる"言葉"には
微笑んだ あるいは少し哀しそうに
清らかな音立てて翅を鳴らす
無限とは無であり、無とはすべてである
この無垢なる御使いに 祝福があるように
ゆると首を傾げる
綺麗と言われれば、 褒められているのは神の造形
ハレルヤ、その全能のみわざのゆえに
笑みながら瞬けば、またアクアマリンの涙が天の空へ滑り落ちた
祈るものとは別に二本の腕を伸ばし、幼若に透き通る天使の頬へ触れる
包み込むように撫でて
指が解かれれば、
ゆらゆらと翅を震わせ 滑るように宙を漂い出した
天の地を見下ろす
其処此処に染みのように滲み視える、 負の心
― 草原 ―
宮殿の楼閣を望む丘
誘うべき虫も鳥もいないこの天界で、花は可憐に苛烈に 咲き乱れる
誘われた虫のように 可憐で苛烈な花の上を漂った
ふと 何かに気付いたように蒼が止まる
手折られた花 その傷口から匂い立つ香
手折られた幸運の四葉 その祈り
ふるりと瞬く
摘まれ、捧げられることを歓びとした花へ、指を伸ばした**
御霊の声 シェイは、天使 エレオノーレ と 魔物? ユーリエ を能力(結ぶ)の対象に選びました。
摘まれた白い花の気配に誘われて
ゆらり ひらり
草原を離れ 堅い建物の方へ流れていく
四葉のクローバーが十字架に喩えられるように、
シャムロックもまた 三位一体の象徴
神の庭に相応しいその草花の、慎ましやかな蜜の香
― 収容施設 ―
漂い 留まり 風に吹かれながら
やがて、神の峻厳さを体現する頑健な門を潜る
トレイを手にした殉教者に出会えば
淡く空気へ紛れるように一度輪郭を薄れさせ、
また姿を見せた
ひら ひら 翅が揺らめく
躊躇うような緩い動きで少しだけ近付いて
大きく開いた双眸を瞬かせる
天使、と聞かれ
妖精、と尋ねられ
腕の一つで天の高くを示す
近寄ってくる人の子から、歩幅半歩分だけ身を退り
そろそろと首を伸ばすような仕草で顔を近付けた
ふす、と鼻を鳴らす
人の子の指から、捧げられた花の蜜の香がしていた
路を譲られた収容施設の扉と、人の子とを交互に見て瞬く
強い意志と信仰を抱く殉教者
彼女が動けば、怯えたように距離を取る
じっと動かぬならば、蜜の香する指へ鼻先を寄せて
愛おしげに目を細めた
この天使には等しく見える
清らかな身と血を捧げる生贄の子羊も
清らかな花と蜜を捧げるクローバーの花も
― 収容施設前 ―
天の御薗に虫はいない
だから、蜂という単語にも緩く瞬くだけ
見たこともなければ、知識を得たこともない
差し出された手の指先へ 鼻が触れる寸前の近さ
頭垂れて祈りを捧げるように、彼女が手を引き戻すまで
十字を切る仕草へゆらりと距離をとる
胸の前で指を組み、去る背を見た
十字架は、人の子が神に愛された証
かつて人の罪を負う為に、遣わされた神の子の徴
(──あの時もこの口は何も言わなかった)
ロザリオはきっと人である彼女の拠り所なのだろう**
― 収容施設 ―
花の香は建物の内へも連なっていた
ゆら 匂いを辿って
指が触れる前に、扉は音立てずに開く
中へ滑り入れば陽光は白亜の壁に遮られ
淡い翅は薄緑の燐光を灯らせた
ここには前にも来たことがある
最近のことか大昔のことか、 些細なこと
施設の守護者はこの天使を遮らなかった
時の概念は薄い
ゆらり ふわり 緩慢に漂いながら
並ぶ牢の間へ
囚われた魔物達の前を滑り抜けて
花の香りの強い檻に辿り着くと 中を覗きこんだ
白いモノ 済んだアンバー
中にある姿はかつて見たものと変わらない
ただその頭上に、花冠を戴いていた
凛、と翅を鳴らす
くる、と首を傾げる
また来た。 そう、前にも来た
頷くように間を置いた。言葉はなく
向き合うのは白い魔物の檻
鉄格子に指を伸ばす
鉄格子の向こう、白い花冠へ
送る思念にも言葉はない
映像として送るのは、一面の花畑
慎ましやかに咲く小さな白い花々と清らかな香
小高い丘に降り注ぐ神の光
クローバーの花に遺された記憶を再現し
問うように、思念は余韻を置く
花畑に座り、花冠を編むユーリエの姿を映像へ重ねた
[その映像は彼女が望んでいるもの
その映像の中だけでも自由になれた気がして
ただ純粋に彼女は笑う]
『───っ!』
鋭い息が漏れた
ぴり 指先に痺れがあり
それが相手にも痛みを与えたかはわからない
驚いたように輪郭を明滅させながら、
背後へ。 白い魔物の方へ後退さる
守りの白い光が指先に宿っていた
白い天使に分け与えられたそれを見下ろす
ひどく。 困ったように
眉を下げた
天使の守護の行使が、このように働くとは
初めての感覚 感情に漣が立つ
『………』
痺れた一本の腕を胸元へ抱き寄せ、
翅が揺れて、身を翻す
花冠の魔物の鉄格子へ、手を触れた
──カシィン
弾けるように金属の響く音
檻に掛けられた鍵 封印の魔力は、
天使シェイの体を通そうと効力を解いた
そのまま檻の扉が開けば、通路から牢の内へと滑り入って
花冠の魔物のすぐ傍ら
向かい側の檻の方を振り向く
睨まれている
ゆらゆらと首を揺らす
薄く涙の膜が張った瞳を幾度か瞬かせて
花冠の魔物へ、腕の一本を差し伸べた
頭上の花を指差した後 胸の高さへ降ろす
掌を上に 誘うように
魔物の害意に反応した守護の力は 今は沈黙している
目を丸くした
どうやら、想定していた行動とこの花冠の魔物の行動が一致せず
細く柔らかい手が、儚く細い手に重ねられる
たじろぐように体を揺らして
向かい側の檻を見た
こちらを睨む魔物
まるで怒鳴られるのを恐れるように
『………』
唇を開き、閉じて、全身の輪郭が薄れる
開かれた檻の鉄格子はそのまま。
封を解くことはしても
封を施すことはしない、それはこの身の役目ではない
あるいは魔物を牢の外へ放ってはならない、ともこの身は命ざれてはいない
花冠を魔物の白く長い髪の上へ載せて
ひら、 翅を揺らした
薄れさせた輪郭は、今度は戻ることなく
そのまま最後まで空中のエーテルへ溶けて 去った**
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