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12人目、魔喰いの蛇 ギィ が参加しました。
魔喰いの蛇 ギィは、囁き狂人 を希望しました(他の人には見えません)。
― 森 ―
[梢の上に呼び名が届く。
その呼びかけこそが魔力を持っていたかのように、蜥蜴人の頭上に赤い影が落ちた。
気配もなく音もなく飛びかかった影は、蜥蜴人の首筋に牙を立て長大な身体を巻き付ける。
それは、巨きな蛇だった。
全身を覆う鱗は棗のような赤。濃淡が美しい幾何学模様を描いている。太さは大人が片手で抱え込む程度。大人三人分の身長ほどもあろうか。
それほどのものが、まさに降ってわいたように現れたのだ。]
[蛇に咬まれた蜥蜴人が暴れたのは、ほんの数秒のことだった。
大人しくなった獲物を締め上げ息の根を止める。
骨の砕ける嫌な音が森に響いた。
完全に動かなくなった獲物に喰らいつき、頭から呑みこんでいく。
さしたる時間も掛けずに蜥蜴人を丸呑みにした蛇は、満足げにとぐろを巻いて尾の先を揺らした。]**
[出発を促されて、赤紅の蛇は鎌首を持ち上げた。
喉を震わせ口を開いて蜥蜴人の残骸を吐き捨てる。
普通の蛇ならばひと月も掛けて消化するものだろうが、この蛇が喰らっているのは獲物の血肉ではなかったから、さほどの時間も必要なかった。
身軽になって降魔士の方へ向かう蛇の姿は見る間に縮み、姿を変えていく。
最終的には人間の1.5倍ほどの長さに収まり、蛇の頭の代わりに人間の上半身を生やした姿となっていた。]
今の蜥蜴はなかなか美味かったぞ。
このあたりは、ずいぶんと魔が濃いな。
[陽気な声で語り掛けるのは、鱗と同じ赤い髪を頂いた男。]
この先にあるのはアチコー村だったか。
あそこは温泉で有名な村だ。
久しぶりに湯に浸かって身体を伸ばしたいな。
温泉はいいぞ。是非入ろう。
[いつの間にか纏ったローブのフードを目深に被っているが、その奥の瞳は縦に裂けている。
饒舌に話す舌の先も薄く、二つに分かれていた。
長く引きずる裾の下で器用に蛇身を折り畳みくねらせているが、注意深い目なら異相に気づくだろう。
ローブ意外に身を隠す衣服はなく、裸身をいくつかの装身具が飾っている。
赤い鱗を持つ蛇の身体と成年男性の上半身を持つこの魔は、ナーガの一族の王の血を引く者だった。]
[人の形に近くはなっても、その動きは滑らかだ。
足音をたてることもなく身体の軸をぶらすこともなく、するりするりと若者の後を追い、時に追い越して振り返る。]
そう固いことをいうな。
お題目ばかりだとオレも気が滅入る。
たまには息抜きも必要だぞ?
人間たちも言ってるだろう。
裸の付き合いは大切だと。
[饒舌に話しかけながら尾の先を伸ばす。
古い皮が折り重なって層になっている尾を、降魔士の足首に巻きつけようとした。]
失くしたんじゃない。捨てたんだ。
あれはオレには必要ないものだから。
[真摯な目的と言われたものを、あっさりと言い捨てる。]
オマエとの契約のうちだから探すのには付き合う。
だがオレはあんなものよりオマエ自身に興味がある。
あと、オマエが呼ぶ魔にも。
[払われた尾の先はそのまま牧杖に巻き付けた。
するすると這い登り、今度は手首を目指す。]
いつっ…
[祈文の効果が発揮されるやいなや、びくりと身を竦ませる。
雷で打たれたような衝撃が全身を走り抜けていった。
降魔士の指にあるものと同じ意匠のピアスが右の耳に下がっていて、今は淡く光を放っている。
蛇身の時にも頭の後ろあたりにあるそれが、契約の証。]
[尾を引っ込めて、元のようにローブの裾にしまい込む。
見かけ上の身長も少しばかり低くして、頭の位置を下げた。]
ひどいな。すぐそうやってお仕置きする。
人間にもオマエにも危害は加えていないぞ?
オレはオレの流儀に従っているだけだ。
衝動に流されてるような言われようは不本意だな。
[口ではそう言いつつも再度の接触の試みはせず、今はおとなしく降魔士の隣を進んでいる。]
− 過去 −
[天の秘された園。
遠い過去にそこに住まっていた者は天を追われ、残るは空漠ばかり。
見回りは閑職であるが、その性格上、手抜きを考えることもなかった。
そして、天使は禁断の果樹の枝の上に赤い蛇を見つける。]
ここへは許しを得た者しか入ってはいけないのだ。
おまえのことは知らされていない。
迷い込んだのなら出してあげよう。 来なさい。
[降魔士の口から神の名が出てきたところで、蛇は口を閉ざした。
これ以上の議論は無意味かつ不毛だ。
黙ったまま、先を行く若者の横顔を眺める。
なにを考えているのかわからないが、早く他の魔物が出てこないかとか今晩どんなごちそうが食べられるかなどといったことではないだろう。
寡黙で生真面目な降魔士に従えられている現状は不本意ではあったが、それほど不愉快でもなかった。
このまま面白おかしく旅を続けるのでも構わないとさえ思っている。
そう口に出せば、また怒られるのだろうけれど。]
― 過去 ―
[天界に潜り込んだ小蛇は、目的の木と目的の者を見つけた。
木の枝に身を巻き付け、首を伸ばして舌を出す。
数度、漂う香を堪能したところを見咎められた。
来なさいと呼ぶ声を無視して枝を這い上る。
木の天辺に近い枝に、ひとつだけ実る禁断の果実。己の鱗と同じほど赤い実に尾を絡め、枝を噛んでもぎ取った。
天使の顔をもう一度見てから、木の反対側に身を躍らせる。
首の後ろからせり出した皮翼を広げ、空中を滑り降りて着地したあとは、果実を咥えたままで茂みの中に潜りこみ、逃げ出しにかかった。]
[秘園に潜り込んだ赤い蛇はしなやかに身をくねらせて幹を登ってゆく。
それは大きな脅威から逃げようとする無垢な本能にも見えたけれど、禁断の果実を捥いで滑空する様は一転して狡知を感じさせた。]
── 神のものは神へ。
[瞬時に捕縛と奪還に目的を変更した天使は仄青い翼を広げて舞い上がる。
茂みの揺れから蛇の居所を探ろうと目をこらした。]
[皮翼を畳んだ蛇は細い隙間を潜り抜けて先へ行く。
普段ならば音もなく葉を揺らすこともなかっただろうが、今は少しばかり急いでいる上におおきな荷物を咥えている。
草の間から時折見え隠れする赤い鱗は、空からでもよく目立っただろう。
舞い上がった天使の気配を知覚しながら蛇は迷いなく進む。
蛇を導いているのは秘園の風に混ざる微かな匂い、空間のほころびを示す異質な粒子だった。]
[蛇を追う天使は、茂みのかすかなさざめきを読み、その行く手に回り込んで蛇の動きを止めんとする。
だが、蛇は巧みに逃げるのだった。
ついに天使は両手を掲げて光を集め、蛇の周囲に撃ちこんで檻を作る。
ふぁさり、と翼をたたんで下り立った天使が見たものは──]
[するりするりと身を躱し、行く道を変えて天使の追及を逃れゆく。
それでも距離は次第に詰められ居所は察知され、やがては空から光が降り注いだ。
周囲に突き立つ光の檻に驚いて鎌首を上げ、ジャァァと尾の先を鳴らして威嚇する。
だが、ちろりと出した舌に、異質の気配がさらに色濃く香った。]
[威嚇を止め、鼻先を地面に擦り付けてほころびを探る。
やがて見つけ出した空間のほつれに頭を突っ込み、身体全体をのたくらせてほころびを拡げ、十分に大きくなった穴を潜り抜けて、天界から落ちていった。]
[檻の中に赤い蛇の姿はなく、あろうことか亀裂が秘園を穿っていた。
そこから蛇が逃げたのは火を見るよりも明らかだ。
天使は即座に追うと決め、言伝代わりに羽根を一枚、上空へ飛ばす。
そして、光の矢となって地上へと走ったのだった。]
[禁断の果実に巻き付き、天界から地上への長い長い距離を落ちていく。
地上の木々が見えてきたころ、天の一角に光が生まれた。
振り仰いだ蛇の目に、眩い輝きが映る。
瞬かぬ目でしばらくそれを見つめたあと、重荷となっている果実をどこかへあっさりと放り投げ、皮翼を開いて滑空を開始した。
赤い稲妻の形を空に刻んで、蛇は森に降りる。
そこは魔性の森。地上のなかでも濃く魔が溜まる場所。
歪に伸びた枝に絡み、奔り来る光を待ち受けた。]
[二筋の光が天より地に走った。
ひとつは楽園に忍び込み、天に属するものを持ち出した蛇。
もうひとつはその蛇を追い、盗まれたものを奪還せんとする天使。
古い森の奥で天使は蛇に迫いついた。]
[だが、その地は──どこか天使の心を騒がせた。
蛇は闇雲に逃れたのではなく、ここを目指したのか?
かつて、自分はこの地に降りたことが?
初めてでは、ない? ──思い出すことのないように
目眩を押して蛇と対峙する。]
[降りてきた天使へ向けて首を持ち上げ揺らす。
断続的に尾を振って威嚇の音を鳴らしながら、飛びかかる隙を伺うよう。
蛇の表情を読めるものなど多くはないだろうが、この時、蛇の顔は喜色に輝いていた。
生ける太陽。真昼に輝く月。
欲しいと思ったそれを、この場所へ誘い出した。
たくらみの成功に、喉を膨らませる。
ここまでは、とても順調だったのだ。]
[前を行く若者を眺めているうちに森が途切れた。
街道の向こう、湯煙の上がる村がもう見えている。
さらにその向こうにそびえる、黒い光の柱も。]
美味いものが良そうな光だな。
[表現は違えど降魔士と似たような感想を抱く。]
村、寄らないのか?
風呂は? 温泉卵は??
温泉まんじゅうもきっとあるぞ?
[足を早めた降魔士の後を慌てて追い、言いすがる。
それでも相手の意思が翻らないことは知っていたから、散々駄々をこねながらも従った。]
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