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“邪魔ではないよ”
[蝶から返るあえかな囁き]
“君も、この子を気にかけているのだとしたら、それは当然のことだ”
[鼓膜を震わせる事なく届いた囁きに、瞬いた]
こっち?
[蝶が示したのは廊下の方。
閉ざされた色の違う壁を前に、しばらく考えることになる]
[幼子の脳裏に送り込まれたは、直截的なイメージ。
ドアノブを掴み、捻り、扉を開く、
その身体イメージを、主観映像とともに再現する。]
[酷くぼんやりと頼りなく、断片的なものではあったが]
[同様の導きは、幼子が浴場に辿り着くまで根気強く続けられた。]
[ここに辿りつくまで、いちいち行く手を遮ったドア達を開けたり、
見た目で階段が上りか下りかを判断出来ずに立ち往生したときのように、
ボタンを外すイメージが流れて来ることを、少し待ってみたりもする]
―浴場―
[評議員の誰の趣味なのか、
古代帝国様式の、広大な浴室に、ふんだんに湯を湛えた大理石の広い浴槽が設えられた、かなり贅沢なものだった。
湯気の籠った浴室で、シャツを纏ったまま、何かを待つように己の姿を見下ろす幼子。
その髪の中から、白蝶が不意にふわりと飛び立って消えた。]
ああ──本当に。
[感極まったかのように苦笑を含んだ声は、幼子のすぐ背後から響く。]
君は、愛らしい。
[背後より伸びた繊手が、愛撫さながらに幼子の胸の上をを這い、湿ったシャツのボタンをひとつずつ外してゆく。
その背には、確かな質感を持つ肉体が押し付けられる触感が広がる。]
[屈み込んだ背の丸みに沿って、衣服越しに皮膚が合わさる。
小さく跳ねた身体の驚きも、押し留める腕の抵抗も。
もろともに抑え込むように、
或いは、それが恐怖を生むものでないと悟らせるように。
ゆっくりと触れた身体の温度をなじませる。]
[腕の中の肉体の緊張が和らいだのを感じ、背骨に触れた唇が深い笑みを形作る。]
僕は、コンラート
[それはいくつかある呼び名のひとつでしかないが]
君は?
[ボタンを外す指が再び動き始めると同時、やわらかい唇が蠢いて皮膚の上に問いを落とす。]
[白い手は胸の上を滑り、ボタンを外されて開いたシャツの内側に滑り込む。
悪戯な指先が胸筋をまさぐり、滑らかな隆起のひとつひとつを辿って下へ降り──]
[はだけられるシャツに、居心地悪いのか少し身じろいだ。
舐めて癒せなかった部位に残る細い鞭の傷は、まだ肉が薄く盛り上がった治癒途中の痕を残している]
……ディーク。
良い響きだね。
[ごくさりげなく。笑みさえ含んで。
言祝ぐ言の葉は音楽的な響きを伴う。]
[腕のわずかな動きで、シャツは幼子の肩から滑り落ちた。]
[胸を辿る手の感触は、もはやシャツとは関わりのない動きをみせていた。
滑り落ちる布が肌の表を擦っていく、柔い摩擦。
下へと降りた手が腰のベルトの縁を撫でて、その先へ戯れを伸ばす。明らかな侵入の意]
…っ!
[瞠いた眼の、
瞳孔が僅かに広がって、虹彩の色が人離れした緋色に色を変えた]
なに、してる
[声の質は知と鋭利さを一時、取り戻す。
背後を振り向こうと首を捻った]
──恐れなくていい、
[肩越しに見える白い貌に浮かぶは、穏やかな笑み]
ここに、君を傷つけるものはいない、
そう言った筈だよ。
[もっとも、自失していた幼子がそれを憶えているかは定かではないが]
傷…
[見えた笑みの穏やかさに、眼差しの剣呑は薄れるが]
ちが、 何してるって、訊い
[赤い双眸は困惑に揺れる。
悪戯な手を抑えるように手首を掴み、緩く握り込んだ]
ほら、
[遮る動きに悪びれもせず。
剥き出しの肩に顔を寄せると、刻まれた線状の鞭の傷痕を、舌先でなぞる。
濡れたものが這う感触の後には、傷は一見して分からぬほど色味が薄れていた。]
ん……
[問いには答えず、縛められた手首はそのままに。
滑るように腰を落とし、背や脇腹に残る鞭痕にねっとりと舌を這わせてゆく。
それは紛れもなく癒す行為ではあったけれども。
同時に、幼子の皮膚にざわめきをもたらすには充分なほど執拗に、技巧を駆使した愛撫でもあり。]
ン…
[肩に触れる濡れた感触とそれがもたらす変化に、
押し殺した声が洩れた。
身を捩る動きは弱いもの。抵抗の意図よりもざわめく皮膚をもてあまして。
細めた双眸の緋色がじわりと濃くなった]
は
― >>425から>>430 ―
もういい
…コンラート?
[のろのろ首を振って、掠れ声で訴えた。
白い手首を捉えた指は離す事も出来ず、力を篭める事もせずにただ緩く握ったまま]
これ、何か なに。へんな
[もう一方の手は、二度もたついた後に慣れた動作を思い出す。ぎこちなく金具の音をさせてベルトを自力で解き始め。
逃げ場を浴槽の中へ求めながら、脇腹を執拗に這う舌には目許を染めて切ない息を吐いた]
[三度目の拒絶に、びくりと打たれたように退くは、酷く稚い、傷ついた子どもの顔。
縋る眼差しの暗いいろを、我が事さえおぼつかぬ幼子が感じ取れたかどうか。
が、それもつかの間、
白い面は伏せられ、すべての表情は垂れかかる前髪の陰に隠された。
その後は、自力で何とか衣服を脱ごうともがくディークの動作を、最低限補助するように手は動く。
そこにはもう、甘やかなものはなく]
―浴場―
[それ以上は、幼子に触れることはなく。
トラウザーズを脱ぎ落とす際に裾を引っ張ってやったりと、衣服と格闘する幼子の動作の、要所にだけ手を貸すに留めた。]
[不可解な疼きをもたらす刺激が去り、
乱れた息は凪いでいく。
傷を癒すためにされたことだと、もたらされた結果の一つを素直に受け取って。
血で繋がった彼の心情を察するには、絆は薄い。まして、かつてのように人の機微に敏い耳目は残されておらず]
ありがとう、 …
[距離が離れればそれはそれで、心許なく。
衣服との格闘の間も握り込んだままだった手首を離したのはしばらくして。
髪を流す間、浴槽に身を沈める間も、時折視線を動かしてはあかがね色がまだそこにいるか探した]
[幼子の、競走馬の如くに引き締まった肉体が湯に沈むを、浴槽の縁にぽつり立ち眺めた。
つい先ほどまで幼子の膚に触れていた唇は、何かを求めるようにうっすらと開いたままで。]
[所在を確かめるように時折こちらを向く、ディークの視線にも気付いてはいる。
それが、目を離した隙にふと親がいなくなりはしないかと案ずる幼児のようだとも。
けれども、彼我の距離を縮めることはしなかった。]
―浴場 ―
[それが破られたのは、顔の半ばまで湯に遣った幼子の口の辺りから、ごぼりと大きな泡が洩れた時だった。
[息を呑み、さっと顔色が変わる。]
――ディーク!!
[浴槽の湯を蹴立てて、幼子に駆け寄る。]
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