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[見透かしたかのように、庭師はその夕にやってきた。
前回よりもさらに険しい表情をしていたけれど、見ぬふりをして礼を言う。
"今度は一週間待てたことを褒めて頂けますか。
貴方様が直接触れられるのだと考えると、この手紙すら羨ましく思います。
御礼を申し上げたいというのは口実です。
貴方様をお慕いしております。"
いつも添えられていた署名と花紋はなく、かわりに"Lisa"としたためてあった。]
リーザ、……。
[面と向かってそう呼べる相手ならどんなに良かっただろう。
活け替えられた沈丁花のかぐわしさが、一層胸を抉る。
言葉にすれば本心が口をつきそうで、ぐっと唇を噛みしめる。]
──今日は、お返事を書かせてください。
他の部屋をまわった後、もう一度来て頂けますか。
[そう伝えれば、庭師は不安げに眉を寄せて頷いた。]
[そして、ふたたび花の香薄らぐ一週間後。
沈丁花はそろそろ終わりだからと、他の花を抱えた庭師がまたやってくる。]
今日は難しい顔をしていらっしゃらないのですね。
[そう声をかければ、老人は小さく頷く。
「狡い方だ、と。笑っておいででした。」
狡いと言いつつも、彼も笑みを浮かべている。
つられて己も笑った。]
["隣国にゆかれるその日まで、週に一度、リーザ様のお好きなものをひとつずつ教えてください"
──それが先週、悩みに悩んで書いた、たった一行の返答だった。]
["今の季節は苺です Lisa"
彼女からの答えに、自分には好きな果物はあっただろうかと思い巡らせる。
彼女が嫁ぐ日まで、果たしていくつ知ることができるかはわからない。
それでも、花と手紙が届くたびに、可愛らしく気取らない"もの"の名称が、決して手の届かぬひとであった彼女の輪郭を少しずつ描いてくれるようで。
目に見える文は残らずとも、その一枚一枚が重なるのと同じ速度で、静かに想いは積もっていった。]
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もどりました。
今日だけ見てると狼の見本市みたいなフィオンも、
「今日」の検討が薄いように見えるシメオンも胡散臭くて、
これってどっちにしてもフェリクス吊れてバグ勝てるんじゃないでしょうか←イマココ
[短い手紙の遣り取りが始まってどれくらい経っただろう。
普段の予定よりも一日早く花が届くことを寮母が教えてくれたのは、己のもとにあの忌々しい伝令が来た翌日であった。
あんたは花が好きだからね、と笑った彼女に他意はなくとも、その知らせは己の心を騒がせるには十分すぎた。]
[──夕刻、部屋を訪れた老人は、手紙を持ってきてはいなかった。
「本日は私の勝手で参りました。
……ヴェルナー様、お願い致します。
何卒、姫さまをお引き止めください!」
ひれ伏さんばかりに腰を折る彼を慌ててなだめ、どういうことかと訊ねれば。]
[件の部隊の困難さを気に病んだ王妹殿下が、己を部隊から外すよう兄王に直談判すると言い出したのだという。
それを聞いて己も青褪めた。
一兵卒に過ぎぬ己の身を妹君が案じたとあっては、腹を探られることは間違いない。
"隣国にゆかれるその日まで"、その言葉が通ったときから、彼女とは心をともにしていると思っていた。
けれど、考えてみればあの夜以来、直接に言葉を交わしたこともないのだ。
己のために無茶はすまい、と考えていたのが蹉跌であったと思い知らされる。]
──お会い、できますか。
[震える声で訊ねれば、庭師は頷いて一枚の紙を差し出した。
「通行証です。
姫さまの装飾品を作る職人のうちに、顔に重い火傷を負ったために口を利けず常にローブを目深に被った者がおります。
その者が来ると門番には通しておきましたゆえ、これより半刻後にお越しください」
一介の庭師にしてはできすぎていた。
しかし、それこそが彼がずっと妹君の側に置かれ居た理由なのであろう。
無言で頷くと、ヴェルナーはすぐに支度を始めた。]
[王宮に来るのは久方ぶりだった。
あの後、不寝番の増員がかかることもないではなかったが、軍に若い兵卒は山ほどいる。
己にその番が再び回ってくることはなかったのだ。
目深にローブを被り、まともに目も合わせず通行証を見せたが、門番兵はろくに確認もせず己を通した。
庭師の信用ゆえかもしれないが、その杜撰な仕事ぶりに腹を立てた後、今は感謝すべきだったかと苦笑する。
途中で老人と合流し、部屋までを案内してもらったが、道中すれ違う人間の誰もこちらに不審を示さなかった。
腹心の部下とはこういうものかと、改めて彼に敬意が芽生える。]
[「姫さま、私です。……お連れ致しました」
無断でヴェルナーを連れてきたことは既に通してあると、道中彼は言っていた。
『お入りいただきなさい』
扉ごしとはいえ、ずいぶん長く耳にしていなかった声音にどきりと胸が跳ねる。
庭師がゆっくりと扉を開けたのに続いて、意を決して部屋へ足を踏み入れる。
と同時、右膝をつき、右手を左胸に当てて頭を垂れた。
『……お前は、下がっていなさい』
彼女の言いつけに、老人は深々と一礼すると踵を返し。
扉が閉まれば、そこには己と彼女しか居ないようだった。]
[少しの沈黙が流れた後、彼女が静かに口を開く。
『あの者が、勝手なことを致しました』
柔らかな音はゆっくりと耳朶を滑り、鼓膜に甘く響く。
あまり長居してはいけない、そう思い小さく息を吐いた。]
いえ。私も望んだことでございます、エリザベート様。
[己の視界には、ランプの光をしっとりと反射するドレスの裾だけが映る。]
[庭師の願いを容れたのは、もちろん彼女の行動を止めるためだった。
けれど、決死の部隊にゆく前に、もう一度声だけでも聞きたいと思ったのも事実だった。
今それが叶ったのに、叶えば次は、この面を上げてひと目見たいと願っている自分がいる。
己の浅はかさに、ぎり、と奥歯を噛みしめる。
『……せめてご無事でいて頂きたいと、願うことすら……わたしには、許されませんか?』
僅かに震えた声に、胸が締め付けられるように痛い。]
[言わなければ。
それが己の願いに反しても、言わなければ、この方は私のために危ない橋を渡ろうとしてしまう。]
確かに、この部隊が命懸けになろうことは存じております。
しかし、だからこそ、
──リーザ様。
私は、貴女の隣に立つ資格を得るために、この部隊を必ずや成功させたいのです。
[彼女が息を呑む音が聞こえた気がした。
顔を見ることすら許されない立場で良かったと、このときばかりは思う。]
お許しを頂けますか?
分不相応な願いを抱いた私を……
[最後は消え入るように、声は弱くなる。]
[戻らない覚悟だった。
いや、部隊を成功させようというのは、敬愛する己の上官に誓って本心だ。
けれど。
そこで己は死んだことにしてもらおうと、思っていた。
部隊の成功を見届けたら、彼らが帰りつく直前に、己は姿を眩ませてしまおうと。
だから。
……いずれにせよ、嘘をついた。
それは、覆らない事実だった。]
[しばらくの沈黙に、動悸は早くなる。
聡明な彼女のことだから、見ぬかれてしまったかもしれない。
緊張と不安に揺れる時間の後。
『ひとつだけ、お願いがあります。
いえ。……命じます。
面を上げなさい。』
凛とした声だった。
ならぬ、と。思った時にはもう、導かれるように顔を上げていた。]
[『信じております。必ずや、ご無事でお戻りくださいますよう。』
射抜かれるほどにまっすぐな視線だった。
そして、──大輪の花咲くような、笑顔だった。]
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回想書き終えたと思ったら灰残25ptでした(やりとげたかお)
勝利陣営によるエピロルの分岐とかかんがえてないんですがががg
[(>>+354)後頭部に優しいてのひらを感じて肩を竦める。
頭を撫でられる、なんていうのは何年ぶりだろうか。
まるで子どもみたいだ、と思いつつ、少し緊張がほぐれたように感じた。]
[しばらくして、管理室を出る、と言い出した隊長に]
あ、私も行きま……
[いつもの癖で「随行する」と言いかけて、止める。
管理室内に図書館の職員たちが入れないよう、己はここに留まらなければなるまい。
制御装置のつけられたペンダントを、シャツの上からぐっと握りしめ]
お気をつけて。
[そう言い直すと、会議室を映し出すモニターに目をやった。]
[シロウとダーフィトがまだじゃれて取っ組み合っているようなら、くすりと笑って声をかけよう]
二人とも、そろそろこっちに注目しませんか?
いずれにせよ、結論が出るようです。
……バグが勝つようなら、すぐ行動に移す必要があるかもしれませんし。
[そして、しばらくぶりに無線の受信スイッチをオンにした。]
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マリエッタのRPは、読みやすくわかりやすくていいですよね。
今回ほぼ直接絡めてないのが残念でならない、というラスト独り言。
[着替えてくる、と言ったマリエッタを見送った後すぐ、壁を叩く音にぴくりと反応し、音のした方を見やる。
管理室を占拠してからそれなりに時間が経っている。
マリエッタが戻ってきたにしては早過ぎる。
職員が誰か戻ってきたのか、と思いきや、どこをほっつき歩いていたのやら、例の扱いにくい後輩の声。]
あぁ、お前か。
[何だかんだでタイミング良く管理室に戻ってくるあたり、いいとこ取りされているようで腹立たしい。
とはいえ、あれだけの脱落者が出た部隊に新人ながら食らいついてきた底力は素直に認めていた。]
……待ってろ、すぐ開ける。
[ともに結果を確かめたい気持ちは、少なからずあるのだ。
スイッチを確かめ扉を開けてやる。]
[後輩の「助かりました」などという言葉は初めて聞いたかもしれない。
思わずまじまじと彼の顔を見やれば、軍帽を被っていないことにはすぐ気付いたが、会議室の妙な静けさのほうが気にかかり指摘するのはやめておいた。
どうせまたはぐらかされるか、からかわれるかの二択だろう。
その後の戯れ言も適当に流しておくことにする。
続いて飛び込んできたマリエッタに、おかえり、と声をかけると、再びロックを閉めた。
思うことは多々あれど、こちらから手出しをできないことだけははっきりしている。
固唾を飲んで、モニターをじっと見つめていた**]
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