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[必死に声を押し殺す様子もまた可愛らしいもの。
いずれは、身も世もなく喘がせてみたい。
なにか鬱屈したものを抱える心をすべて暴き立ててみたい。
そんなことを思いながら、心行くまで血の饗宴を堪能し、
力果てた彼を闇の手に任せて、再び霧の中へ戻っていった。
その一部始終を、鴉の元にいる狼の前に映し出してやったのは、
ほんのささやかな親切心である。]
残念だったな。
君がここにいる理由は、もうわかるだろう?
[やや離れた場所から声を掛ける。
魔剣は今はこちらの傍らに浮いていた。]
― 地下ホール ―
聡いことは好いことだ。
[淡とした答えに満足を示した。
指を上げれば、魔剣が宙を滑り、元のようにリエヴルの腰あたりに収まる。]
その子が、もう少し共に居ても良い、と言うのでね。
[使えと言うような刃鳴りが、高い天井に反響した。]
私も、偶には狩りをしたくなった。
[滑り台で遊ぶ梟が血を熱くした故、などとは彼が知る由もないだろうが]
出入口はあそこにひとつきり。
君は、私を殺してもいい。
ここでの出来事は、全て不問に付す。
[ごく端的に状況だけを語って、役者のように両手を広げる。]
[名乗りと共に吹き付けてくる気迫を、目を細めて受ける。
剣気とでもいうべき鋭く冷徹な気。
眼光が、真っ直ぐにこちらを射ぬく。それを受ける心地よさ。]
名高いコウ家の血、見せてもらおう。
[赤い舌で薄い唇を湿らせた後、ふわりと身体を前へ投げだした。
一瞬前までいた場所を、真紅の楔が貫く。]
[水中を泳ぐようなゆったりとした足取りで、宙を駆ける。
その速さは、人間であれば白い風としか見えぬほど。
相手の左腕側へ回り込むようにしながら手を翳す。
彼の周囲に漂う霧がいくつか凝って小蛇の形を取った。
牙を剥く蛇たちが一斉に飛びかかる。
細い牙の先端からは、透明な雫が滴っていた。]
なるほど───。
[楽しくてたまらないという笑みで右腕を翳す。
渦を巻いて霧が集まり、盾の形を成した。
魔剣の一撃を完全に防ぐことはできないだろうが、威力を削ぐ程度の役には立つ。
彼の身体を噛む蛇たちを確認すれば笑みは深くなる。
激しい動きに必死に食らいついているあれらも、わずかなりとはいえ血を奪い続けるもの。
牙より滲む毒液は、相手の手足を麻痺させる。
引き換えのように、身体の中心に熱が倦んでいくような、そんな毒だ。
動き回ればそれだけ早く毒は回る。
それを待つのもまた楽しい時間だ。]
― 地下ホール ―
[上空からの勢いを乗せて、魔剣が降り来たる。
盾を斬り裂いた刃が肉を食む。腕の半ばまで達する斬撃。
盾が無くば、腕どころか体にまで刃が届いていただろう。]
それでこそ。
[じん、と駆け昇る痛みに吐息が湿る。]
[霧を散らした時には既に相手は大きく下がっていた。
身体を一瞬霧化して空間の裂け目から逃れ、流れるように後を追う。
片膝をついた彼の姿に、目を細める。
あの毒を受けたなら、当然の帰結と知れていた。
このまま弱り切って動けなくなるまで待てば、苦も無く狩りは終わるだろう。
普段ならばそうしていただろうが]
まだ、
[呟きと共に速度を上げる。
ほとんど、床を這うような低さで飛翔し、腕を伸ばした。]
愉しませてくれるだろう?
[肩から先が銀の大蛇に変じ、膝をつく彼の喉首へと牙を剥く。]
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