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賛成いたしかねます!
[扉を押し開けて声を放つと、幾百もの端正な顔が、
その額に煌めく天青石がいっせいにこちらを見た。*]
[高いところから落ちる感触に、ハッとして目を覚ます。
だがそこは、元のままの岩陰だった。
薄明の頃合い。]
腹へったな。
[そういえば、まだひとつあった、と双子からもらった飴の残りひとつを口にして── >>1:102]
あ゛ん゛の゛カ゛キ と゛も゛
[夢の残滓は霧散した。**]
― (魔王軍進発前日) ―
[岩陰から這い出した先で、巨大な城塞が焼け跡にそびえたっているのを見つければ、小さく呻いた。
蔓草の若い茎を噛んで水気を啜り、口の中の痛みを和らげるも、眉間のしわはしばらく残る。
魔王の居城の後ろは、魔物の闊歩する地。
また少し、人間の世界が狭くなった。]
/*
飴効果で、オオヨシキリのように口の中が赤い、と書こうとしたんだけど、
馬とか竜とか鳥とかのカテゴリーならまだしも、オオヨシキリとまで書くと、ファンタジー世界観薄れるなあと思って、灰に格納。
口の中赤いよ (あーん
ロー・シェンは、城内か?
[シメオンの実験室──天幕が別にあることは知っているが、今回はあれだけの大物だ、魔王に報告なしということはないだろうと推論する。
魔軍にいた時分、あの"動く城"に入った人間は出てこないという噂は、まことしやかに囁かれていた。
だが、ロー・シェンがいる可能性が高いのなら、あの中へ入り込む方法を必ず、見つけだしてみせる。
そう誓って、]
― 回想 ―
[軍学校に入って間もなくの頃だ。
上級生たちがロー・シェンを学舎の裏手に呼びつけた。
”菓子代”を貢がないのが気に食わぬ。皆と異なるその肌の色が目につく。人気があるのが許せない──
ともかく目障りだというので、ヤキをいれておく目的である。
「特別に課外訓練をしてやる。10対1だが、実戦ではそんなことはいくらでもあるからな」
威圧的な笑みを浮かべて包囲を狭めるリーダー格の上級生の顔に、
横合いからバケツ一杯の水がぶっかけられた。]
10対1の状況にしてしまうのは、基本的に指揮官の怠慢というものだけども、
今回の場合、愚行をおかしたのは先輩たちですよ。
とりあえず、10対2に訂正してもらいましょう。
[空になったバケツとモップを携えて歩み寄ったディークに、ロー・シェンは屈託のない眼差しを向ける。
「どうしてモップとバケツ?」と笑い出しそうなロー・シェンに、
間に合うように一生懸命走ってきたのだとか、途中でそれしか入手できなかったのだとか、おまえが心配だったとか、言えるわけないだろ ]
[城に“見られた”気がする。]
──… なんだ ?!
[足元に寄ってきた命があればじゃれかかる癖のある城なんて、触手の生えてる城なんて、前代未聞だ。*]
[光が城壁で明滅し、空気の噴き出すような音もする。
そこに入り口があるのかと、距離を詰める。
見けた。>>127
危険の香りとあいまって、心惹かれるものがある。
噂よりも自身の勘を信じるディークは、魔窟に踏み入らんと試みた。]
[城壁にできた入り口をくぐった瞬間、凶悪な牙の並ぶ口がガチリと噛み合う。
用心していたから傷を負うことはなかったもののの、]
どういう機構してんだっ!
[跳ね上げ扉じゃなかったのかよ、と文句を言う相手も見当たらず。
衛兵が駆けつけてくる様子もない。
再び牙が上下に戻ってゆくのを見て首を振り、視線を奥へ続く通路に向ける。]
[指の間にカードを挟んで弾くと、少し離れて宙に留まったそれは白い焔をまとい、松明代わりとなる。
燃え尽きるまで、しばらくは保つだろう。]
招かれた、ととっていいかね。
[歪んだ美しさをもつ装飾の施された廊下は、観賞対象ではなく、警戒すべきもの。
それでも、つ、と指先で撫でるように触れてから、先へと進んだ。]
[複雑怪奇な意匠の回廊が、部屋が、行手に現れる。
値のつけられないようなものも多いのだろう。
その場にあるものを使って、切り抜けるのが基本姿勢のディークだが、魔王城のものを持ち帰りたいという誘惑は欠片も感じなかった。
額の痣が痛む。
衛兵らしき者の姿はまったく見かけなかったが、時折、視線や呼吸に似たものを感じることはあった。
不意に出現するトラップや、体力を消耗しそうな仕掛けに威勢良く毒づく。
見張りに発見されることを怖れていたらできないはずだが、素直に吐き出していいと感じてしまうのは、遊ばれている自覚があるから。]
[勘の赴くままに進路を選び、上を目指す。
偉いヤツが高いところを好むのは本能のようなものだから、ロー・シェンもきっと上に連れてゆかれているはずだと。]
みてろ よっ
[果ての見えない螺旋階段…なのか回し車なのか?──の途中で、壁に背を預けて息を整える。
と、不意に壁が抜けて、後ろに転がり落ちた。]
ぅおあ…!
[魔が高みを悦ぶというのも稚気であると思う。
いかに高い塔をたてたところで、天の世界には届かぬものを。]
「かほどに人間に肩入れするならば、地上へ赴き、人の間で暮らしてみるがよかろう」
「人間に失望したら、ここへ帰っておいで」
「その時は、おまえも人間の”浄化”に賛同してくれるはずだ」
[長く長く落下した先。(その感覚は過去にどこかで知っている)
祭壇めいた魔導炉が息づく。(天の正反対にある、決して相容れぬ力)
ディークはカードで自分をバウンドさせて落下の衝撃を相殺し、魔導炉を踏まないよう、宙に浮かせたカードの
上に立って、その光景を見下ろした。
あまり近づくと、魂が染まってしまうような──危機感が脈搏つ。]
しゃべった…?!
[空間に波動が反響して肌を揺らす。 それを声として認識する。]
人形遊びの趣味はないぞ。
[意気がってみせるのはいつものことと、減らず口を返したが、”人形”が何を指すかはすぐさま理解した。]
貸しがあるってか?
[傷を癒してもらった。
一緒にその恩恵を受けた傭兵隊の連中は、すでに命を落し、いまや残るは自分だけだろうという、あまり思い出したくない認識も一緒に戻ってくる。]
[波動が肌に魔導炉の意識を伝える。>>186
同時に、容赦のない電撃が左手から入って、灼熱に痙攣させた。]
…っう ぐぁ!
は…あ、 効くねえ!
[灼かれたカードが毟られた羽のように散り、骨が軋んで、引き攣った笑みを乗せながら、ディークは首を振ってみせる。]
お気に召していただき、恐悦至極──って言うと思うか、雷電君。
楽しみは、分かち合うと倍になるってよ!
[その意のままに、陣を離れたカードが翻り、魔導炉の経絡に斬りつける。
それは、雷雲と戯れる竜巻にも似て。
力を見せびらかして面倒事に巻き込まれるのは面倒くさい、という主義のディークが、このように全力でカードを展開するのは、極めて稀といえた。
それだけ、ここはコアだと直感で掴んでいる。
自らはカードを踏んで位置を変え、追いかけっこを誘うように走り出す。]
こういうの好きか、おまえ。
遊んでやるのはやぶさかじゃないが──しゃべれるなら教えてくれ。
ロー・シェンを知っているな? 食ったか?
[関心を自分から逸らすのが目的ではなく、一番、知りたい相手のことを率直に訊いた。]
[洪水のような瘴気が立ちこめ、電撃によって剥がれ落ちた壁が降り注ぐ。
その様相はさながら、ミニチュア再現された魔界にも似ているだろうか。
一瞬一瞬が命がけの綱渡りだ。
避け切れなかったエッジの切り裂いた肌から滴る血が床に触れる前に蒸発する。
その間隙、鞭のように愛撫のように、”城の核”の声が届く。>>208]
そこまで言われると、靡きたくもなるが。
ああ、俺も、シメオンは丁重にお断りする。
[その点では、合意がなった。]
俺を獲ったら、シメオンに自慢していいぜ。
[だいぶ削られて寂しいカードを手元に寄せ集め、目の前に反射鏡めいた盾を作る。
そうして、狙い澄ました攻撃を誘った。
攻撃が放たれれば、バク宙をきめて避け、背後の壁に穴を穿たせるべく。]
あいにくと、俺は煮ても食えない男だそうな。
[ここが退き時、と勘が告げていた。
収穫はあった、またいずれな、と穴から外通路に抜け出す算段。*]
[残った手札を掻き集めて誘った雷撃は、狙い通りに壁を破壊する。 が、]
… な にっ
[ロー・シェンの名と共にもたらされた情報が、ディークの動きを硬直させた。>>239
ここにいない。 届かない。 もう、
それは、わずかな、だが、致命的な遅れだった。
奔流から弾けた猫の髭のような電撃に刺し貫かれ、足場を踏み越えて、城壁の外側まで身体を吹き飛ばされる。]
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