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こんなの、駄目だ。
オマエがいい。
[思考はとりとめなく、しかし、ただひとつを想って注がれる。]
[焦らすかのように逃げた声はどこか切羽詰まっていて、手練の憑依霊はその初さを笑う。]
してごらん。
もっと思うさましてごらん。
[足を開いて巻きつく尾を受け入れ、腰を揺らめかす。
とはいえ、その股間はいかなる性も示していない。]
天使の肉体のつまらぬこと。
だが、おまえの毒を注ぎ、たっぷりと精を浴びせれば、この身体は変わるはずだよ。
[堕天は魔形化を伴うものだ。
そうとは教えないままに、天使の身体を穢すよう唆した。]
[位置を入れ替えたギィに羽交い締めのような形で背後から擦り寄られれば、動かぬ翼はその上から覆い被さるよう。]
ギィ
[共鳴して滴り落ちる恋慕と怯懦と逡巡と決意と、声に出して紡がれた名──天使がギィに対し自ら選択した柵──が、打ちのめされた意識を導いた。]
愛しい者のところへ帰らせて。
[切望は憑依の、記憶の封印を引きちぎる力を求め、引き出す。]
がは、 くはあっ
[淫らに腰を振りリードしていた天使ならざるものは不意に激しく咳き込み痙攣する。
異変を察し、自らの身を掻きむしろうとした。
だが、その身体はガッシリと蛇に押さえ込まれて動かせない。]
畜生め、 もう少しだったというのに…!
[罵声を追うように黒い瘴気が口から抜け出る。
憑依していた悪霊であった。]
[翼に光が宿る。
それは峻厳な青白い輝きではなく、蛍火のような柔らかな色をしていた。]
ギィ
[身体を取り戻し、最初に口にしたのは、やはりその名だった。]
[ようやく自由に動かせるようになった視線を、背を抱く者へと向ければ、ギィは逃げ出した悪霊を丸呑みにしたところ。
自分のように乗っ取られてしまうのではとハラハラしたが、やがて戸惑いがちにかけられた声はよく知るギィのものだった。
身体の強張りがとける。
そっと引かれる尾を追うように向きを変えて、ギィと正対した。]
ありがとう、 ギィ。
戻ってきたよ。
身体も、記憶も、すべて取り戻した。
また会えて嬉しい── 本当はずっと前にそう言うべきだったのに、
遅くなってすまない。
[ギィの指が頬に触れる。
そうすると温もりだけでなく、想いが響くのがわかった。
かつてはそうして話していたように。]
おまえの声が聞こえたんだ。
だから、支配を打ち破れた。
おまえも、嬉しいと言ってくれるのか。
よかった…
悪い霊に憑依されていたわたしの言動はおまえを失望させたと思う。
[ふるる…と翼が戦慄く。]
ああ、それだけではない、
今なら、どうしておまえが天界に忍び込んだのかわかる。
わたしを探しにきてくれたのだね。
神への奉仕者として洗脳を施されたわたしは、おまえを思い出さず、善に導くという口実の下におまえの好意を誤ったものとして退けてきた。
おまえにとっては理不尽だったろうに。
[直接心に響く懐かしい感覚。
身体の中が温かく満ちていく。]
いい。
[悪霊に憑依されての言動も、
洗脳されていたときの態度も、
ひとことで、過ぎたこととして退ける。]
オマエとまた、こうして触れていられるから、
だから、あとはいい。
[それだけで胸がいっぱいだから。
言葉にならない想いも、直接響き合う。]
[純粋無垢な蛇は短い言葉で今を選んだ。
おずおずと口にされる問いかけの言葉。]
ああ、怯えなくていい。 もう、天が介入して我々を引き離すことはないよ。
天へ帰還する門を開けなかったのは、神具がなかったせいではない。
おまえとふたたび出会ったことで、わたしは天界にある資格を失ったのだ。
この身はすでに、おまえのものと天は認めたに等しい。
おまえの望みを叶えたい。
我らの新しい門出を、何から始めたいか聞かせて。
[言いなさい、との命令形はもう使わない。
それだけで心なしか表情も柔らかになる。]
[地下のナーガの王国。
それはこれまで暮らしてきた天界とはまったく異なる世界だろう。
記憶を取り戻した今も、忠実な御使いたるべく叩き込まれた教化まで無に帰したわけではない。
闇に対して反射的に安堵よりは忌避を感じてしまうのを止めることはできなかったけれど、
ギィが故国と国民を誇らしげに語るのを聞けば、先入観も次第に温かく溶けていった。]
おまえと共にいられる場所が、わたしの楽土だ。
[そう告げた想いに偽わりはない。]
[子供が欲しいという無邪気な要望に困惑を覚えるより早く、それでもいいと妥協を摸索するギィの気遣いに、本当に深く想われているのだと感じる。]
おまえはわたしの身体に巻きついて温まるのが好きだった。
羽根の間に尾を入れるのが特にお気に入りだったね。
これからはまた、そうすることができるよ。
[足に擦り寄る尾を差し招く。]
ギィ、 おまえと新しい絆を結びたい。
使役者と隷魔としてではなく、伴侶としての契りを交わそう。
おまえの髪を一筋おくれ。
わたしの髪におまえの色が混じるように。
/*
>>53「逆十字に蜷を巻く蛇」
うち今、そんな感じの構図になりつつあるような。
だけど禍々しくないよ、ラブラブだよw
>>38 「ギィ、と扉が軋む」
ギィが呼ばれてる?! ってなった人がここにw
[リングを壊したとギィが呟く。]
壊して、わたしを呼んだのだろう。
わたしのところに飛んできたから、おまえの元に駆けつけることができた。
[噛み砕かれた欠片──今は指輪にくっついて嵌ったそれを見せる。]
これはもう役目を果たしたのだ。
綺麗だからとっておこうと思うけれど。
今度はなくなったりしない。
互いの一部としてあり続ける。
[顔を寄せて髪を直接、絡めた。
小さく唇を綻ばせる。]
こんな時、誓いは、言葉よりも──
[唇が柔かに重なる。
初めての接吻け。 そして最初のひとつ。
身体が震えるような喜びが走り、翼が小さく打ち震えた。]
わたしはおまえのもの、
おまえはわたしのもの──
[認識を新たにすれば、羽根に潜り込んで鳴る尾の先が、指の間を這った細い舌が、髪の絡まり合う体温が鮮やかに歌い巡る。]
嬉しい ── 愛している ── 幸せだ。
[言葉と接吻けを交互に息吹で感じられる近さに見つめるギィの面差し。
その情熱的な赤い髪は銀の一刷を添わせ、ギィの瞳に映る自分の姿には銀の髪に一筋の赤が走る。
愛は天魔の柵を越えるのだ。
天使にとっての感覚器官である翼はいっそう明るんで、春のうららな日差しの色となる。]
[その光は、この地においては危険なものでもあった。
誘蛾灯のごとく魔を呼び寄せる。
それを思い出したか、あるいは何かの予感に触発されてか、ギィは速やかな移動を促した。
二人が目指すべきは、この禍々しい結界の外。
ギィの故郷だ。]
わかった。
敵に遭遇した場合は、いつもの連携で。
[短く打ち合せを済ませ、光を紡いで装備を整える。]
しばらくはこのまま行こう。
……行きたい。
[昔のように思念を通わせて告げる。
幸せに浸っている気持ちも、たぶん伝わるだろう。]
[王冠のように銀鱗を戴く小さな蛇が翼の間に収まる。
懐かしく心躍る感触。
指を肩越しに回して接吻け代わりに一撫でをしてから、軽やかに地を蹴った。]
ああ、 一緒だ。
[囁きを響かせて翼を広げる。
二人の姿そのものがメッセージである。
闇に迷える魔物も愛を見出してくれればいい。]
抜けられるか、やってみよう。
無理でもオレが食い破って穴のひとつくらい開けてやる。
[一緒にいればなんだってできる。
結ばれた絆の強さの分、自分もまた強くなれる気がした。]
頼もしい。
[二人で力をあわせて結界を突き破るべく、さらに飛翔の勢いを増した。
信じていると言葉にせずとも伝わる絆の強さ。
蒼穹目指して駆け上る。
暁の星は落ちることなく。]
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