情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新
[スコーンをもう一つ手にしたところでその動きが止まる。
天井を見上げてゆっくりと目を閉じると頬を伝う一筋の涙。]
暖かいですね。
この家は暖かい。
[厳しい暑さも過ぎ季節が漸く秋へと変ろうとするころ。]
こらこら、そんなところで遊んではいけませんよ。
ちゃんと公園に行きなさい。
[教会の前でボール遊びをする男の子を優しく叱る神父。
遊びたい盛りの男の子は中々いう事を聞いてはくれない。]
お友達も公園で待ってますよ。
[いつも一人で遊んでいる男の子]
『嫌だ!だってあいつら僕のことを馬鹿にするんだ!』
[男の子はとても貧しい家に生まれた。
ただそれだけで男の子は同年代の子供たちから虐められていた。
ただ一度だけただ一つだけ両親から買ってもらったボールだけが彼の遊び相手だった。
神父はそれを知っている]
ではこうしましょう、今から私と貴方は友達です。
だから一緒に公園へ行きましょう。
[少し驚いた顔の少年へ優しく微笑みかける神父。
男の子はその笑顔にうっすらと涙を浮かべた]
『うん!!』
[その涙を腕で拭おうとしてボールがその手から零れ落ちた・・・]
『まだお若いのにね』
『なんでも子供を庇ったって話だよ』
『神父様のお話好きだったなぁ』
[葬儀に参列した人々は神父の思い出を口ぐちに、その死を惜しんでいた]
『神父様・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい』
[目を閉じて棺に横たわる神父の傍らで涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら謝りつづけていた]
いいのですよ。
・・・・・・貴方が無事で本当によかった。
[もう、その声は男の子には届かない]
いえ・・・・・・私のスコーンにも少し辛しが混ざっていたのかもしれませんね。
[そう言って不意に流れ落ちた涙を拭い優しい少年へと笑顔を返す。]
いいですよ、一緒に探しにいきましょう。
─ 洋館・屋根の上 ─
[いつも間にかシュナとクリフの前から姿を消してルイスは一人屋根の上に座っていた。]
司教様はわかっておられたのか・・・だからここに行けと。
目的も何も告げず、教区すら違うここへただ行けと。
[なぜここに?]
未練・・・?私に?
私はこの身を神に捧げた。
そんなはずはない。
[吹き付ける秋の風の冷たさを感じる。
──確かに感じている。]
─ いつかの教会 ─
[その女の子は両親に連れられてきてはいつも端のほうにちょこんと座って本を読んでいた。
いつも騒がしくそれはとても子供らしくはしゃぐ男の子たちとは対照的に行儀よく物静かに。]
マシュー君、人を傷つけるようなことをしてはいけませんよ。
[少し乱暴者のマシュー君。いつも誰かと喧嘩していつも誰かを泣かせて。
でも本当は優しい心の持ち主。彼がいつも小さい子たちの面倒を見ているのを知っている。]
そうですか。
フフ、本当はあの子のことが気になって仕方ないんですね。
[そういうとムキになって精いっぱい否定して、精一杯あの子の悪いところ並べたてて。
でもそれは、それだけその子のことを一杯見ているってことでもあって。]
─ 屋根の上 ─
[空を見上げてふと思い浮かぶ。
いつも教会で物静かに本を読んでいたあの女の子。]
──大丈夫ですよ、貴方は貴方のままでいいのです。
[そう伝えたかった。だけど伝えられなかった。
知っているからだ。自分らしくなんてそんな生き方を簡単に許すほど世界は優しくないことを。
自分を変えずあるがままに生きられる者なんてわずか限られた者にしか許されてなどいないということを。]
だから私は恐れた。
心地のよい言葉がかえって彼女を苦しめてしまうのではないかと。
[なんという未熟。
皆から神父様と呼ばれていても小さな女の子一人の道しるべにもなってあげられなかった]
これもまた未練、なのでしょうか。
──Freude trinken alle Wesen
an den Brüsten der Natur;
alle Guten, alle Bösen
folgen ihrer Rosenspur.
Küsse gab sie uns und Reben,
einen Freund, geprüft im Tod;
Wollust ward dem Wurm gegeben,
und der Cherub steht vor Gott!
[空に向けた歌声は今夜集った諸人の耳へと響き渡るだろうか]
[血が道を赤く染めようとして、雨がそれを押し流す。
何もできなかったし今も声を掛けることすらできない。
なぜならもう私には肉体が無いから。
いつからだろう?どれだけたったのだろう?
クリシュナ。
いつも教会に来ていた女の子。
私にはもう貴方を救うことはできない]
『ルイス神父、貴方に仕事を任せます』
・・・司教様?
[そして私はここに来た]
司祭 ルートヴィヒは、洋館の ベルティルデ を投票先に選びました。
[トールの声に返事もせず目を閉じて祈る。]
・・・・・・主よ。
空を見上げて下さい。綺麗な星空を。
知っていますか?太陽の昇る青空も月の昇る星空も同じ空だということを。
見え方が違うだけで同じ空なのです。
[まるで教会で信徒に語りかけるように]
届きますか私の声が。
聞こえますか私の声が。
可愛いクリシュナ。
気づいてください。
貴方が生きているこの世界はこんなにも美しい。
ここは不思議な場所ですね。
まるで子供の頃に見た楽しい何もかもを詰め合わせたような。
とても懐かしいような気がします。
・・・良かった。
ここに来ることができて。
[トールが視線を外した、それでもう誰も神父を目にとどめる者がいなくなった。
それで神父の姿がスーっと消えゆく。]
本当によかった。
最期にここに来れて。
楽しかった。
[声は僅かに吹いた風にさえ消え入る]
[救うなどとは思い上がりも甚だしい。
彼女はそんなに弱くは無かった。
大丈夫、ちゃんと自分の足で歩いていける。]
・・・・・・救われたのは私のほうですね。
情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新