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― 森のなか ―
すかー…
[その頃、村に恐怖を与えた人狼は木の枝の上に体を預けて寝ていたりした。朝早かったし、寝るの大好き夜行性。昼は狼に変身できないので、進めないし。めりーの死体は一応隠したから、そこまで怪しまれはしないだろうと。詰めが甘いと言わざるを得ない。
ところで、「ウサギとカメ」という話を知っていますか。**]
― 森の中 ―
ふぁーあ……ん。
よく寝た……あれ?ここ、どこだ?
[眠い眼をこすり、あくびをひとつ。]
……ああそうか、村、出てきたんだっけ。
[思い出したように、ぽつりと呟き。
枝の上に立ち上がると、ひょいと身軽に飛び降りた。]
[後ろを振り替える。
未練がまだ、残っているらしい。
彼と…ヨアヒムとろくに挨拶もできず、別れてしまったことに。]
……女々しいね。全く、嫌になるよ。
[自嘲気味に笑うと、ヨアヒムからくすねた飴をポケットから取りだし、口に含む。
甘くて、少し、しょっぱい気がした。
自分で、決めたことだ。
人間に心は寄せないと。この血は相手を、不幸にしてしまうだろうから。
……それなのに。
戻りたくなる心は、確かにあって。]
……情けない。
[吐き捨てて、歩みを再開する。]
[空を見上げる。
旅を始めたのは、いつのことだっただろう。
物心付いたときには、既に祖父と二人で旅をしていた。両親は、ゲルトが赤ん坊の頃に、人狼騒動で死んだという。詳しいことは、祖父が苦しげな顔をするから、聞けなかった。代わりに聞いたのは、旅をする理由。]
『それはわしらが、人を喰らって生きる生き物だからじゃ』
[ゲルトの頭を撫でながら、祖父が教えてくれたのは、自分たちは人とは相容れぬ存在であること。
人と人との間をわたり歩き、近づいてはまた離れ。万が一にも騒動が起きぬよう、群れにならぬように他の人狼との接触も避けて。それでも、人との暮らしに近づいていったのは、人との付き合いかたを孫に教える為と。祖父自身、人から完全に離れてしまうのは、寂しかったんじゃないかと思う。]
[一つの場所に留まるときには、その場所に縁のある者は食べないように。旅人や、いなくなっても気にされないような、罪人などを狙い、死体は必ず隠した。自分たちの存在を知られぬように。…村の近くで見つかったという死体は、少なくともゲルトの仕業ではなかった。
そして人間と仲良くなっても、いずれは離れなければならない。何故なら、自分は彼らを食べる生き物なのだから。
この辛さを子どもに背負わせる気はないから、女性と付き合ったこともない。どうしても寂しくて、男性と肌を重ねたことは、あるけれど。
祖父が死んでからは、本当に一人ぼっちになった。苦手意識を抱きながらも、モーリッツを完全に避けなかったのは、祖父を思い出していたからだろう。 ]
ヨアヒムと、離れたく、ないよ……
[祖父のことを、様々なことを思い出しているうちに、溢れてしまった本心。]
寂しいよぉ……
[しばらく、前に進めそうになくて。
その場で、泣きじゃくっていた**]
………。
[どれくらい走ったか。
会いたかった姿を見つければ、一度足を止め。
ゆっくりと歩いて近づいていく。
けれど、数メートル程距離を開けて、止まった。
ヨアヒムが近づこうとすれば、止まって、と静かに告げる。]
……一人で来たの?
危ないよ、森の中を一人でうろつくなんて。
[普段通りの口調で、注意を促した。*]
……黙って出ていこうとして、ごめんね。
きっと、別れられなくなると思ったんだ。
だけど……
[どうしても、一目会いたくて。
誘惑に負けて、戻ってきてしまった。]
……僕はもう、あの村には居られないんだ。
[鼠色のマントの裾を握りしめて。]
意味、わかる?わからないかなあ。
[小さく笑う。
内心、怖さと悩ましさに苛まれているけれど、表には出さない。言ってしまえば、後はどうにでもなる。]
――僕、人間じゃないんだよ。
君たちが人狼と呼ぶ、魔の一種だ。
だから、村には帰れない。
[ヨアヒムに恐怖されるのは怖い。
けれど、それなら、彼はきっと、戻ってくれる。
ヨアヒムに恐怖されないのも怖い。
そうなったら……]
何で……
僕は、君たちを食べる生き物なんだよ?
君を……、食べてしまうかもしれないのに!
人間だって、何人も殺してきたんだよ!
[やや強い口調でヨアヒムに叫ぶ。]
…………っ、
[言葉に詰まる。
連れていってしまえば、彼を、危険に……
人狼の運命に巻き込むことになる。]
好きだから、幸せで居てほしかったのに……
危ないことも、させたくないのに……
なんで、わかってくれないの。
[ぱた、と涙が零れた。]
僕の正体を知っても、そんなこと、言うなんてさ。
…………、
………一人が、もう、我慢出来なくなるじゃないか。
[差し出された手に、恐る恐る、自分の手を伸ばす。]
姉さんに、会えなくなるよ。
それにこそこそと、暮らさなきゃいけない。
命を狙われることもある。
その覚悟は、出来ているの?
[手を握る事は、できずに。
声も手も、震えていた。
これが最後だと、忠告をする。]
……………
[もう、耐えられそうになかった。
誰かと仲良くなっても、真の姿を打ち明けることは出来なかった。
そうやって、ずっと、一人きりだったから。
温もりを知ってしまえば、元には戻れない。
抱きしめられて、撫でられる。
ヨアヒムの肩に涙を落として。
――ああ、こいつもちゃんと男だったんだなあ、
等と失礼なことを思って。]
[ぎゅっと目を瞑って、涙を止めると。]
ヨアヒム、行くならさっさと行くよ。
追いつかれる前に。
のんびりしすぎた。
見つかりそうになったら、木に登って隠れよう。
そうだね、いっつも登ってたね。
それじゃ、攫わせてもらうよ!
[いつものように笑ってみせて、ヨアヒムの手を握ると、走りだした。
ここに来る前にめりーの血の跡を残していたのには気づかなかったけれど、今はすっかり乾いているだろう。
木々に隠れるようにして進めば、逃げた方向はきっと、枝葉が隠してくれる。]
[ゲルトの体力は、人間時でも若干高い。
成人男性の平均より頭二つくらい上、という所か。
それが個人差なのかは知らない所だが。]
頑張りなね、まあ疲れたらおんぶしてあげるけどさ。
あと、夜になったら運んであげるから。
背中に乗せた方が絶対早い。
[そんな励ましをしながら、ヨアヒムの手を引いていく。]
まあしばらくは、別の意味での
狼にはなれそうにないけどー。
そこは我慢してね!
そのうち、すっごいことしてあげるから。
[あはははー、と笑った。]
[彼を、愛する家族や友人や、故郷から引き離し、
心通わせて、愛されて。
共に来てくれると言ってくれる人が居てくれるのは、
どうしようもなく…罪深くても、幸せで。]
……君が盾なら、僕は、盾を護る牙になろう。
[この大切な人を、どうか守れますように。**]
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