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[重なり高まる熱さは、地上へ出てから久しく感じていなかったもの。
大地の奥深くまどろむ赤熱の海のように、果てしなく柔らかく包み込まれる快。
人形を介して兵器とひとつになる。それは広大無辺な世界と同一化するような全能感をもたらした。]
我らすべてにとって、輝かしく愛しい初めての記念日ということだな。
[笑いながら人形を押し倒し、浴槽の中央へもろともに倒れこむ。
その拍子に人形を埋めていた楔が抜ければ、溢れた魔力が鉱石に散った。
粘度を増した魔導鉱石がふたつの身体を受け止め、半液体の中ほどに浮かせる。]
試してみよう、ツィーア。
我の力を、直接におまえと循環できるかどうか。
それが叶えば、今よりもきっともっと良い。
[人形を抱きしめたまま、己の魔力を呼び覚ましていく。
普段はどこかに凝らせて扱うそれを、周囲へと拡散していった。
息を吸う。吐く。また吸う。それに合わせて魔力の光は明滅する。
半液体の流動鉱石が地底の太陽の色に輝く。
濃密に溢れた魔力が自らの存在を希薄化させ、自他の境界を無意味にしていく。原初の混沌に回帰するような、ただ意味も無く幸福で、満ち足り、とめどなく力が湧き上がってくる、全ての可能性秘めた大いなるものの一部であるかのような感覚に至る。]
[人間の知覚はもとより、魔にさえ捉えきれない至極の快に取り込まれ、おそらくは暫く意識を失くしていた。]
[魔界の地底ふかくから採掘される稀少な魔法鉱石は、変幻の器。
惜しげなく満たされた沐浴槽は、熱と魔力によって原初の姿を束の間取り戻すようだった]
『備わった仕組み以外にも
──私にも力の使いようがあったのだな
お前は此れ程にあつく、愛おしい』
[半液体の中ほどに浮いたふたつの身体はやがて輪郭をほどいてまじわりあっていく。
濃密な2色の魔力はもつれ、絡み合い、混沌のうちで綾なす円環を織り上げ──それもまた蕩けてかがやく光となした]
─ 移動城砦
魔王の一柱を懐に抱いて
Zが吼えた。
それは、魔神が創り、地底の火から生まれた魔王が育てた魔法兵器だという。
世界一つを消し去るほどの破壊の力を秘めた兵器は、動く城のようにも、貌のない地這竜のようにも見えるもの。
低く高く奏でる波動は、我が王の意に沿う歓喜に満ちた調べ。
12対の透明な翼──破光の射出翼を大きく広げれば、裡に満ち満ちて膨れ上がる魔力が艶やかな極光となって、大地の地平に至るまでを覆う。
[地底の太陽を抱いて、沐浴槽はもはや一つの魔導炉として機能していた。
ここちよい、果てなき灼熱の快のなかで、
”核”がチリンと澄みきった音を産む
外に放てば大陸をも蒸発させ得ただろうツィーアの光は、内へ、内へと集束し。
そして魔王と私達の高みで幸福となって弾けた]
[己自身がエネルギーにまで分解され、世界を巡って再び戻り、元の姿形が構築された。
そうとしか言いようのない体験の後、温くまどろむ魔法鉱石の中で意識が浮かび上がった。
手指を持ち上げ、とろとろと垂れていく透明な半液体を眺める。]
ツィーア。
[声を。
心のうちで響かせるように、音のない声を発した。
届く。繋がっている。そんな確信がある。]
感じた。
おまえと完全に一つの存在となっていた。
ほかの何にも比すべくのない体験だった。
おまえの一部が、我の中を今も巡っている。
感じるぞ、ツィーア。
我が半身よ。
我とおまえは、真に不可分のものとなった。
[ツィーアの波動がこれまでよりも深く響き、己の声がツィーアの奥へ響きあうのを感じる。
同時にこの体験を共有したもうひとつの存在を想起し、指先で呼び求めた。]
いるのだろう、そこに。
ツィーア。おまえの人形を目覚めさせろ。
顔を、見たい。
おまえにも我を見て、触れて、感じてもらいたい。
[目覚めよ、と、声は魔力となって流動鉱石を揺らした。]
──夢をみた
あれは、熱に魘された新月の真冬
日中とある鉱山の町へ視察へ行き、夜には酒場で交流した
カードに興じ、他愛もない奢る、奢られるの関係
酔いはしたが
ふらつくほどでもなかったはず
宿に戻る半ばで倒れ
早馬車で王城まで連れ帰られたことも、覚えていない
体の芯から焼け付く温度に、このまま死ぬと俺は──誰もが──思ったらしい
長き夜の闇のなか、朦朧としたまま幻想の入り混じる悪夢がいくつも流れていった
胸の中へ、火の種を注がれる夢
焦がれる温度にのたうつ夢
炎に溶け落ちて、凝る熾火へと還元される夢
かえれない、と ないた夢
我が手掛けし魔導の粋よ
おまえの可能性は、その程度でとどまらぬ
いずれ再び甦り、そして私は貴方のものになる
─ ツィーア内部 ─
[響き交わす声が半液体のおもてに波紋を作った。
ツィーアの声は満ち足りた獣のように滑らかで深い。
我が王が指先で魔法鉱石を掬い、人形を呼んだ。
ヒトガタだったものは温くまどろむ浴槽内、どこにもその輪郭を残してはいなかったが]
『やってみよう
今なれば出来よう、私と人形はひとつのままだ』
[慕わしげな波動。
溶液の半ばに浮いた核がゆらゆらと我が王の指先へ泳ぎ、魔導の光を表面に灯した]
[核の周囲へ撚られ、凝固してかたちうむ魔法鉱石は、やがて周囲から分離して人間の似姿を演じる。
素体であったクレステッドという男に似ていないのは、その肌に渦巻いて浮かぶ光、魔導の紋様]
…
[注がれた王の魔力によって強く結び付けられていた私たちは、この時もまだその恍惚が後を引いている。
ツィーアの情動と意志の影響深い変容意識のまま、人形はぼやけて濡れた薄蒼の瞳に王の姿を映した]
触 れ たい …
[僅かに疑問系にあがる言葉尻]
/*
まおーは誰かがぶんなぐるとして、天界人の親玉も潰しておかないと地上滅びちゃうよね?
じゃあアーデも翼はやそうかな?(きりり
─ ただひとつのもの ─
[天を墜とすべく煌めいた破滅兵器の光は、迎撃に投下された匣を巻き込むように照準をずらしていた。
圧倒的な暴力同士がぶつかりあい。白銀の空を覆った烈光は天なる匣の9割ほどを破壊し、そのまま白銀の天宮の端を穿った。
降り注ぐ天の鉄槌は残された地上に死と破壊を撒き散らすだろう。多くはそのままツィーアの上へと落下し、彼の塔や射出翼を大破させたが]
…あの軍勢の首を、殺してくる
[魔王の座す玉座は護られてあった。
魔王カナン・ディ=ラーグの後ろに控えていたアーデは微笑んで、翼を広げる。
魔物の記憶と融合して改良を重ねてきた人形は既に、無二の騎士となっていた。
黒鴉族から取り込んだ翼は銀の輝き帯びるほどの漆黒]
/*
範囲魔法(物理)をガン無視してるみたいですがそんなことないですぅ
ちょっとみとれていますぅ
うちのまおーが死ぬわけないからとりあえず親玉殺しにいこうの巻
[ゆらゆらと浮かんできた核に指先で触れる。
指先に電撃のように感じるのは、至福の余韻。
浴槽の液面と同じように波紋描いた魔導の光は、やがて周囲に流動鉱石の肉を纏った。
核の表面と同じ光が、人間の形をした鉱石の肌をさざめかせる。]
来るがいい。
[些細な疑問形など意に介さず、人形を腕の間に呼ぶ。]
[両腕で捕えた人形を、力強く抱きしめる。
同時に、周囲の魔導鉱石が王の意思を受けてぞわりと蠢いた。
無数の繊毛のような鉱石の手が伸び、人形の身体を探索する。
もっとよく反応する場所へ。もっと響き合う場所へ。
先ほどの交歓の温度を求め、感覚が最も鋭敏となる箇所へと透明な繊手が集い、まさぐる。]
人形のことも、よく知っておきたい。
おまえと繋がるツールだ。
[鉱石の柔毛と感覚を繋いで、微細な震えまでを堪能しながら、魔王は人形の背に爪を立て、肌を破いた。
これもまた人形がしていたことだ。喜ぶのかと思って*]
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