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[生々しい吐息が近く、ネロリの香が貪られていく。
彼を支える片腕は、決して膂力を発揮している訳ではないのに、巌のように動かない。戸惑いは腕の中、発した怒気さえ擁し、些細なリップノイズが節を置く。
普通の人間種で在れば、天の怒りに触れたと知った途端、跳んで退き、罪に慄いて、罰を恐れるだろう。だが、彼を抱く老年はそのような殊勝を一抹も見せることなく、鼻先を触れあわせ、彼の眼窩に嵌る蒼穹を覗いた。]
……なるほど、神が後生大事にしているだけはある。
何処も彼処も、完璧な黄金比だ。
[背を抱く五指を立て、僅かに指先が動いて彼の形を確かめる。
受肉していない身体ながら、歪みも偏りも一切見当たらない。
まるで、美術品でも見分するかの男は、彼の開いた唇へ軟体を滑り込ませ、罵声ごと押し返し、肉体の内から侵食。>>190
人と接触する為に、人のように創られている天使を理解し、彼の口内で濡れた音が跳ねる。鼓膜を内側から揺らす音色は、男が立てる卑猥な触診の。]
[口唇の凹凸を重ねるように顔に角度を付ければ、彼に迫る月色は穏やかな色を失い、夜にぽっかりと冷たく浮かぶ天球と同じ色をしていた。
背を探る指は、翼の付け根を通り、肩甲骨の位置を知り。
更なる抵抗を彼が選ぶ前に、ゆっくりと自らの指先を爪で傷つける。
途端、末端から溢れるのは、人の身体に流れる命の赤ではなく、粘ついて淀んだ汚泥。
男を構成するものが、肉と水ではないと気が付こうと遅かった。
緩慢に塗り付けていく澱みは、彼の肩羽に黒く纏わりついていく。
翼を開いても、ねっとりと糸を引く重い泥が彼を空に返さない。
寧ろ、動かすほどに羽と背の間に染み、彼を空から切り取るよう。
丁寧に弄る指先だけが、慰撫に似ていた。]
おや、君でもそれくらいは分かるのか。重畳なことだ。
そう ――――、
[言葉を紡ぐほどに、彼の口腔で舌が回る。>>192
撓めた眼差しに在るのは、人の子には宿らぬ魔の力。]
/*
独り言がチェックボックス式の国久々なので、うっかりすると白で惚気書きそうになって超こわいな…。私にも一応、イメージがね…。
[無垢を抱いた腕から伝わるのは、確かな忌避だった。>>271
彼の持つ穢れ無き魂と翼は、神が寵愛したもの。
白き光と空の蒼、彼は天上の玲瓏を編んで出来ていた。
主神を賛美し謳った唇が、今は朝露以外に濡れている。
蜜を舐めた訳でもないのに、とろりと艶を持ち、拒絶を口にするたび覗く舌にも蠱惑が乗り。それでいて、穢れを察して戦慄いている。
万里を見通す眼を持つ魔物は、審美眼にも長けていた。
黄金比を計って成形されたこの天使は、姿かたちだけでなくその魂も美しく高潔な比率を有す。>>272]
勇敢だね。
恐れても構わないのだよ、私の興が削げるだけだ。
[真実など何処にもない口振りで、彼の啖呵に笑うは悪質な揶揄。
この程度で折れる偽りの輝きではないと知るが故、貴婦人をダンスに誘う素振りで彼の背を支え直した。]
[指先から別離したというのに、彼に纏わりつく漆黒の泥は重力を受け付けず、翼の付け根に蟠り続ける。感触は柔らかいのに、翼を駆動させても払えない。
男は種族として確立した魔族ではなく、単一個体の怪物であった。
彼を戒めるのは、我が身の欠片。背中を這う感触すら、己の五感として拾う食指。
彼の瞳に張る水膜に厚みを持たせ、咽喉を絞る悲鳴に、天の調べを拝聞するよりも恭しく耳を傾け。>>273]
無理に動かすのはお勧めだ。
――― ほう…、翼を開くとここが動くのか。
[背中に張りついた闇色は、人型の五指に代わり彼を知る。
浮き上がる肩甲骨に、細かく落ちる羽毛。
拘束の腕を幾らか緩めても、彼に課せられる不自由に変化せず。
故に、翼を叱咤し、空へ逃れる望みは一縷だけ。
彼が必死に掴めるように垂らした希望の糸。
玩ぶ悪辣に耽る男は、相変わらず虫も殺さぬ顔で笑んでいる。]
[天使の造形を辿る魔の質量、粘つく泥に犯される彼の両翼。
天を司る為の純白も、今は絡めとられたように重かろう。
翼の付け根に巻き付いて、彼に教えるは糸を引く感覚。
泥に汚されていく無垢な白、指で弄るよりも執拗な愛撫。
まるで、背中に罪を背負う宗教画のよう。>>274]
悦い顔をするね。
恥辱に弱く出来ていることを恥じなくて良い。
天使とは往々にしてそういうものだ、
[ひいては我が身を悦ばせる為、そのように存在する。
言葉の続きを舌の裏の隠し、己の傲慢と彼の純潔の味に酔う。
絡めとられてもがくだけで、彼は斯様に淫靡を増す。>>275]
おや、父なる神にそんな卑猥な顔を見せるのかい?
いけないよ、お父様には秘密にしなくては。
[薄く笑う表皮には邪気が無い。>>276
彼を苛み、嗤う色を見せるのは赤味を帯び出した眸だけ。
舌先から滴る銀糸を認め、背を抱いていた掌が尾骶骨までを撫で下ろした。]
そうだね、君に性を与えるのなら私と同じ形にしよう。
君に……、義務ではない快楽を教えよう。
――― お父様の逆鱗に触れるソドミーだ。
[臀部の丸みをなぞった指は、未来の示唆。
非生産的な享楽は、天が許す営みの埒外。
彼の神経を声で言葉で爪弾きながら、威勢を張る姿に恍惚の色が露わ。]
[そのまま腕を下せば、彼にとっての好機が巡る。
我が身にとっては、巧緻に張り巡らせた罠が。
翼を拡げれば、天は彼を僅かに引きあげるだろう。
御使いにのみ許された光を糧とする地上からの別離。
些か見上げるように、微かに顎を持ち上げ。]
―――― おいで。
[赫く眸と薄い笑み、或いは堕落への引力。
彼の背中を重くしている泥が声に応じて泡立ち湧く。
じゅる、と汚らしい音を立てて肩甲骨に吸い付き、翼と背中の境目を泥が埋めては流動的に巡り出す。祝福以外に触れることを知らず、まして、触れられることなど知らぬ彼に与えるは焦燥。
翼に走らせるは緊張と不快。そうして、泥が彼の背を地へと突き落とすように重量を変えた。
花嫁でも抱くかの如く誘って拡げた、怪物の腕の中へ。**]
[男は彼の厭う邪で出来ていた。
泥が触れた場所から彼の身を夜の気配が侵食する。
前戯とも言えぬ児戯であるが、幼心を有する彼には丁度良い。
さて、天の調べを謳う彼の唇は、斯様に濡れていたか。
閃く舌は婀娜を持つ紅であったか。
彼の神聖が警鐘を鳴らせども、変化はネロリの香りを甘くする。
それが猛進であれば、彼が持つ光も本能のまま強く抗っただろう。
だが、男が教えた違和は、陽が落ちる速度よりも緩く。
洛陽に歯止めを掛けるなど、其れこそ神にすら難なること。>>339]
――――……、
[無垢に出来ているのに、彼は悪事以外に明晰だ。
楽し気に開いた腕が、小さく揺れ、五指を折る。
地の底へ供物を捧げる引力が微かに増して。>>340]
いいや、君は物覚えが良い。
“あちら”では、熱心に躾けてやらねばならぬかと考えていたが、私も存外楽しめそうだ。
[彼は変化を自覚するほどに、耐え難い怒りに打ち震えてくれる。
真っ新なカンバスは、どんな色をも拒めない。染まり、色を乗せ、己の五感に忘れていた筈の昂りを思い出させていく。>>341
侭ならぬほど従順な身体を持ちながら、水際で奮い立つ精神もうつくしい形。これで気が乗らぬなら、邪なる怪物であるまい。
彼を天へと釣り上げる神の加護。
彼を地へと引き摺り下ろす魔族の誘引。
高度が下がる最大の理由は、彼の自覚と天への隠蔽に因る。>>342]
はは。
恐れることは無い、勇敢なる御使いよ。
知ることは実に愉快だ、視ることは誠に痛快だ。
君に、甘い甘い、堕天の味を教えてあげよう。
[舞い散る羽毛が、花弁のようだった。
それに見惚れるだけの余裕が男にはあった。
拒む彼を腕中に侍らせるだけの、力と傲慢を備えていた。
彼を見やる赫き眸は、何時しか愛玩の色が混じる。>>344]
[どれだけ天に焦れても、最早彼に空は掴めない。
粘性の羽枷は、彼の些細な変化も逃さず、まるで背を抱くよう。
彼は反抗的だが、愚かではない。
自らに言い聞かせる言葉とて、自覚があるからだ。>>345
男の興味から外れぬ限り、天は遠ざかるばかりだと。
天へと彼を引いていた力を、己の執心が上回る。
ぽすん、と落ちていた彼は、想像よりもずっと軽かった。
抱きとめる腕が、彼を胸に引き寄せ、煌めく金糸の眸が細く。>>347]
おや、私の名を覚えていたとは光栄だ。
しかし、君の名を聞き忘れていたね。私もまだまだ気が若い。
[怒気を浴びながらも唇は三日月を模し、相反して喜色を上げる。
彼の唇は主神に助けを求むよりも、己を認識することを選んだのだ。強く、気高い、眼差しと共に。>>348
さすれば、彼の発露する抵抗も小動物の戯れと変わらない。
心音の響くことのない胸板に彼の耳を押し付け、抱き込む男が額に唇を寄せた。彼に与えるは、祝福ではない。>>349]
アガペーしか知らぬ君に、リピドーを与えよう。
なに。その内に、君の方から欲しがるようになるよ。
[聖歌を編んでいた彼には無かった色が、今は香り立つ。
白皙の肌に、瑞々しい眼。男を誘う術をもう身に着けている。
ちゅ、と小さなリップノイズを立てて額に接吻を。
途端、彼に流し込むは微かな酩酊。
放り出していたステッキが勝手に起き上がり、彼を取り返すようにざわめく原に円陣を描いた。
本来、自分以外を伴う転移は、膨大な魔力を使うが、行先は既に決めてる。我が屋敷に攫ってしまっても良かったが、何分魔界でも深層に位置する領域は瘴気が濃い。
中って気でも触れられたら興醒めだった。]
開け、開け、開け。
帰還を迎えよ、獄門よ。
我が名を徴とし、境界を歪曲させよ。
[彼を抱く男を中心に、巧緻な闇色の魔法陣が浮かび上がる。
享楽の髄を極めし、道楽者の庭園へ。>>7>>8
ぐにゃりと空間が断裂し、次元の界域を越える。
裂けた空間に足を踏み込む際、彼に与えるは強い倦怠感。
最後まで、彼を逃さず姦計を張り巡らせた男は狡知をひけらかす。
後に残るのは―――、
ただ、光を失い、枯れた草花が揺れる原。*]
―― 天獄の泉:回廊 ――
[闇に包まれたのは刹那の時。
距離と時間に干渉した誘拐は、地上から魔界まで一足飛び。
ザッと紫昏が晴れれば、其処は堅牢な城壁の内側。
武骨だが趣味の良い娯楽施設は、砦を思わせる。]
さて―――、テオに挨拶……は、まぁ、良いか。
不義理を嘆くほど、殊勝でもあるまい。
[同じ穴の貉、同じ俗物。
彼の芸術家しての才と妙な凝り性は、神に並ぶ。>>375
飽き性な我が身にはない探究心を躾の場とするも一興。]
ふむ、龍人の気配もあるか。
矜持の高い彼らにしては珍しい――…、
喜びたまえ、君の同胞も幾らか居るようだ。
[顎を持ち上げ、力の大きさと気配を赫の眸で計り。空間転移したばかりの彼を煽るように、穏やかに微笑んで見せた。*]
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こう、じわっと、堕ちますよ堕ちますよ…!と示唆してくれるうちの子天使かな。
調教されているのは、寧ろ此方では?
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