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11人目、降魔の使徒 ヴィンセント が参加しました。
降魔の使徒 ヴィンセントは、囁き狂人 を希望しました(他の人には見えません)。
Fiat voluntas tua, sicut in caelo, et in terra.
(御旨の天に行なわるる如く地にも行われんことを)
− 森 −
[魔物の住まう森を確固たる足取りで進む者がいる。
銀の髪に
聖印を刺繍した紺青のサーコートを羽織り、その下には銀色の鎧を着込んでいる。
一見すると王国の騎士のようだが、手にしているのは蕨状の飾り金具を戴いた牧杖だった。]
──…、
[異様な匂いに足を止めた若者は
と、行く手の茂みから凶悪な蜥蜴人が立ち上がり、乱杭歯を剥いて突進してきた。]
[危機──ではない、それは術の効果だ。
待ち伏せしていた蜥蜴人を誘い出した若者は一歩も退かず、構えた杖で蜥蜴人の攻撃をいなし、カウンターの一撃を入れる。
だが、鱗に覆われた蜥蜴人は薙ぎ倒されても怯まず、しなやかに跳ね起きる。
もう一度、襲いかかるつもりだ。]
[呼び声と同時、梢の上から血の河のごとき長大な蛇が飛びかかり、蜥蜴人を薙ぎ倒す。
バキバキと骨の砕ける音がして、それきりだった。
何倍にも広がった蛇の口に蜥蜴の尻尾が呑み込まれてゆく。
これは自然の摂理か、魔族の悪行か。
いずれ神が示されよう。]
[滞りなく“食事”を終えて満足気な隷魔に、若者は常のごとく端正な所作で出発を促した。]
よろしい。 行こう。
[ヴィンセントを名乗る若者にとって、この大蛇は使用人でも相棒でもなく、喩えるならば生徒に近い。
理不尽な扱いをすることはなかったが、大仰に褒めたり自慢したりすることもなかった。
驕らず、慎ましやかであることを美徳と考える性質ゆえに。
加えて、必要以上に親密にならないよう自戒もしている。
この隷魔はいずれ手放さなければならないものだ。]
[呼びかければ隷魔は見る間に姿を変えて傍らへ来た。
上半身は人、下半身は蛇。
その唇はヴィンセントと同じく人の言葉を紡ぐ。
「このあたりは、ずいぶんと魔が濃い」と告げる陽気な声に改めて周囲を伺ったが、今のところ攻撃してくる者はいないようだった。]
長居は無用だ。
[旅の目的はここにはないと告げて歩き出す。
隷魔がついてくると疑うことなく。
もっとも、勝手なことをしようとすれば契約の指輪の力を発動せさてお仕置きをするまでのこと。]
[隷魔は、この先に温泉をもつ集落があると言う。
「身体を伸ばす」という表現を語句通りにとったヴィンセントは生真面目に警告した。]
むやみに人前で魔性を晒してはいけない。
[できれば、今の恰好にも上着を着せたいところであるが。]
お題目…?
[隷魔の暢気な言葉にピクリと眉が上がる。]
おまえが失くした神具を取り戻すことは真摯な目的だ。
温泉はたまたまその途上にあるに過ぎない。
[人の身体はすぐに埃まみれになるものだから湯を使うこと自体に否やはないのだ。
ただ、裸の付き合いなどと言われたら頷けるはずはなく。
牧杖の先でさりげなく寄って来た蛇尾を払う。]
[捨てたとか必要ないとか、あっさり放られた言葉に、今度は眉をあげるだけでは済まなかった。]
悔い改めよ。
衝動のままに振る舞う生き方はおまえのためにもならない。
[牧杖が重くなったのを察して祈文を唱え、お仕置を発動する。]
[お仕置を受けて、赤い幾何学模様の尾が滑らかにローブの裾に消えてゆく。
ローブの中でどんなとぐろを巻いているのか見たことはないが、身長まで少しばかり縮んだのがいじらしい。
「人間にもオマエにも危害は加えていない」との主張には頷ける点もあったが、]
己が流儀を優先することを、衝動的というのだ。
なべて神に従うべし。
[いつものように教え諭す。]
− 過去 −
[天の秘された園。
遠い過去にそこに住まっていた者は天を追われ、残るは空漠ばかり。
見回りは閑職であるが、その性格上、手抜きを考えることもなかった。
そして、天使は禁断の果樹の枝の上に赤い蛇を見つける。]
ここへは許しを得た者しか入ってはいけないのだ。
おまえのことは知らされていない。
迷い込んだのなら出してあげよう。 来なさい。
― 過去 ―
[天界に潜り込んだ小蛇は、目的の木と目的の者を見つけた。
木の枝に身を巻き付け、首を伸ばして舌を出す。
数度、漂う香を堪能したところを見咎められた。
来なさいと呼ぶ声を無視して枝を這い上る。
木の天辺に近い枝に、ひとつだけ実る禁断の果実。己の鱗と同じほど赤い実に尾を絡め、枝を噛んでもぎ取った。
天使の顔をもう一度見てから、木の反対側に身を躍らせる。
首の後ろからせり出した皮翼を広げ、空中を滑り降りて着地したあとは、果実を咥えたままで茂みの中に潜りこみ、逃げ出しにかかった。]
[秘園に潜り込んだ赤い蛇はしなやかに身をくねらせて幹を登ってゆく。
それは大きな脅威から逃げようとする無垢な本能にも見えたけれど、禁断の果実を捥いで滑空する様は一転して狡知を感じさせた。]
── 神のものは神へ。
[瞬時に捕縛と奪還に目的を変更した天使は仄青い翼を広げて舞い上がる。
茂みの揺れから蛇の居所を探ろうと目をこらした。]
[皮翼を畳んだ蛇は細い隙間を潜り抜けて先へ行く。
普段ならば音もなく葉を揺らすこともなかっただろうが、今は少しばかり急いでいる上におおきな荷物を咥えている。
草の間から時折見え隠れする赤い鱗は、空からでもよく目立っただろう。
舞い上がった天使の気配を知覚しながら蛇は迷いなく進む。
蛇を導いているのは秘園の風に混ざる微かな匂い、空間のほころびを示す異質な粒子だった。]
[蛇を追う天使は、茂みのかすかなさざめきを読み、その行く手に回り込んで蛇の動きを止めんとする。
だが、蛇は巧みに逃げるのだった。
ついに天使は両手を掲げて光を集め、蛇の周囲に撃ちこんで檻を作る。
ふぁさり、と翼をたたんで下り立った天使が見たものは──]
[するりするりと身を躱し、行く道を変えて天使の追及を逃れゆく。
それでも距離は次第に詰められ居所は察知され、やがては空から光が降り注いだ。
周囲に突き立つ光の檻に驚いて鎌首を上げ、ジャァァと尾の先を鳴らして威嚇する。
だが、ちろりと出した舌に、異質の気配がさらに色濃く香った。]
[威嚇を止め、鼻先を地面に擦り付けてほころびを探る。
やがて見つけ出した空間のほつれに頭を突っ込み、身体全体をのたくらせてほころびを拡げ、十分に大きくなった穴を潜り抜けて、天界から落ちていった。]
[檻の中に赤い蛇の姿はなく、あろうことか亀裂が秘園を穿っていた。
そこから蛇が逃げたのは火を見るよりも明らかだ。
天使は即座に追うと決め、言伝代わりに羽根を一枚、上空へ飛ばす。
そして、光の矢となって地上へと走ったのだった。]
[禁断の果実に巻き付き、天界から地上への長い長い距離を落ちていく。
地上の木々が見えてきたころ、天の一角に光が生まれた。
振り仰いだ蛇の目に、眩い輝きが映る。
瞬かぬ目でしばらくそれを見つめたあと、重荷となっている果実をどこかへあっさりと放り投げ、皮翼を開いて滑空を開始した。
赤い稲妻の形を空に刻んで、蛇は森に降りる。
そこは魔性の森。地上のなかでも濃く魔が溜まる場所。
歪に伸びた枝に絡み、奔り来る光を待ち受けた。]
[二筋の光が天より地に走った。
ひとつは楽園に忍び込み、天に属するものを持ち出した蛇。
もうひとつはその蛇を追い、盗まれたものを奪還せんとする天使。
古い森の奥で天使は蛇に迫いついた。]
[だが、その地は──どこか天使の心を騒がせた。
蛇は闇雲に逃れたのではなく、ここを目指したのか?
かつて、自分はこの地に降りたことが?
初めてでは、ない? ──思い出すことのないように
目眩を押して蛇と対峙する。]
[街道に出ると、アチコー村はもう近くだった。
ヴィンセントは回想の中断を余儀なくされる。]
あれは…、
[神具があると目指してきた方向に天へ伸びる黒い光の柱を認め、目を細めた。
良い感じはしない。]
村で休んでいる余裕はないようだ。
[隷魔に言いおくように呟き、足を早める。]
[降りてきた天使へ向けて首を持ち上げ揺らす。
断続的に尾を振って威嚇の音を鳴らしながら、飛びかかる隙を伺うよう。
蛇の表情を読めるものなど多くはないだろうが、この時、蛇の顔は喜色に輝いていた。
生ける太陽。真昼に輝く月。
欲しいと思ったそれを、この場所へ誘い出した。
たくらみの成功に、喉を膨らませる。
ここまでは、とても順調だったのだ。]
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「いわゆる一般的な魔法あり中世欧州風ファンタジーワールド」で、抹茶とかビニールとかいう言葉を見るとは思わなかった。
ここはペア村で緩いからいいけど、王道ファンタジー戦記村ではやらないでねw
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