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―まどろみを漂う―
[ゆらり、ゆらり、
重力から解放されて揺蕩う意識。
ここは空?それとも海?
――暗く、深い、蒼の中……]
―回想・最後の数日―
…私も。
あなたに会えて良かった、ヤコブ。
ここに来たのは間違いではなかったと…信じることにするわ。
[カレン出立前、ヤコブに小さく頷いて>>5:4。
シェットラントが何やら呪を施すのを見護り>>5:16、別れを告げた。]
[テオドールを、救いたかった。
彼が歩むは絶望の道だ。行きつく先は永遠の地獄。
その道を自らも選び、共に歩み続ける道もあったのかもしれない。
だが、それは選ばなかった。選べなかった。
…選びたくなかった。
その方法で彼を救えるとは、とても思えなかった。]
[ヤコブが示したのは、
かつての自分が選びたくて、でも選べなかった道だった。
イングリッドには、それをするだけの力がなかった。
…それを為そうとする、”力”が。
彼の瞳の奥に、希望の光を見た。
その手の力強さに、続く未来を感じた。
自分の想いをぶつけるばかりで碌に説明もしない、途方もないイングリッドの話、
彼はその全てを受けとめ、躊躇いもなく返してくれた。>>5:3
犠牲で成り立つ世界ではなく、笑顔に満ちた世界を諦めないと。
運命もが邪魔しようとも、新しい未来を掴んでみせると。
…ヤコブになら、託してもいいのではないかと思えた。]
[――だから、
悩みながらも、最後の最後に選んだのは。
テオドールではなく、ヤコブの示した道。
それは愛した者への明らかな裏切り行為であったけれど、
それでもそれが、彼の救いに繋がると、信じたからこそ…
…テオドールの為に、ヤコブを選んだ。]*
―門への旅路―
[カレンを離れ、平野を駆けた。
遠くに人間と魔物のぶつかり合う鬨の声が聞こえ、上空からは雷の如き轟音が響く。
少し遅れたシェットラントを振り返れば、その向こうには天をも焦がす炎が見えた。>>5:76]
………。
[こちらの視線に気付き馬首を返して再び駆け始めた青年の言葉からは、もどかしさが滲む。>>5:77
…覚えがないわけではない。だから、ただ無言で頷くに留めた。]
[いくつか魔軍の野営地を経由し馬を変えたが、別段怪しまれることもない。
イングリッドが野を駆け回っているなど、そう稀なことでもない。
人間の補佐官を連れていることは、少々珍しいと言えば珍しかったろうが。]
[陽が昇り、沈み、そうして月の無い夜を迎えた日のこと。]
どうかしたの?空なんか見上げて。
…それとも、偵察のハーピーでも見つけた?
[そこは既に魔境。
厚い雲に覆われ、空はただの闇に過ぎなかった。
しかし傍らのシェットラントは、静かにそれを見つめ続けている。>>5:83]
星が…?
[つられて見上げるが、やはりそこに光はない。
溜息と共に小さな否定の言葉が紡がれる。]
…そう?
もうちょっとだけ、休みましょう。
あなたは少し寝なさい。
…万全の状態で門に辿り着いて貰わなくちゃ困るもの。
[疲れているのだろうか?ペンホールズで声をかけてから殆ど休む間もなくここまで来た。
燃え盛るカレンの平野を思い出す。残してきた仲間が心配なのかもしれない。]
[浅く意識を落とす青年の金髪は、光なき夜にも何故か柔らかな輝きを帯びて見え、]
…星、か。
ここには昔、星詠みの村があったって。
彼らの髪は月の如き黄金色。
夜にも彼らは光を纏い、その様はまるで星のようだったとか。
[ふと、昔カスパルが聞かせてくれた童謡を思い出して。
シェットラントが寝たのを良いことに、独り呟き続ける。]
でもある時、一族揃って、遠いどこかへ行ってしまった…
それ以来、この地に星はない。
星が見えなくなったから彼らが消えたのか、
彼らが去ったから星も姿を消したのか、
或いは地上に輝く彼らが星だったのか。…だっけ。
…ふふふ。ファミルのこと思い出すわ。
もしかしたら、この唄の主人公はエルフの一族だったのかも。
それにしても、どこ行っちゃったのかしらね、あの子。
シェットラントに鷹も取られちゃうし、ヘマし過ぎよ。
今度会ったらただじゃおかないわ…。
[自分に”次”があるのかは大いに疑問だが。
真相を知る者が近くにいながら、
…イングリッドがファミルの事情を知ることはない。]
[ヤコブに、騎士団の青年たちに全てを託そうと決意はしたものの、
モーリスを過ぎる頃には、段々と心の余裕もなくなってくる。
テオドールからの連絡はない。
…カレン南部の駐屯地破壊は、まだ知らされていないのだろうか。
あぁ、しかしそれももうじきだろう。それとも既に――]
[あと一歩で門に辿り着こうかというその時、”それ”はやってきた。
返事をしろ、と。どこで何をしているのか、と。
部下としてではない名で、初めてきちんと呼びかけられて、
…嘘は、つけなかった。>>4:357]
[このままテオドールが門の近くまで来れば、全ては無駄になる。>>5:5
折角ここまで順調だったものを、彼を引き寄せてしまっては意味がなかった。
だから、覚悟を決めてシェットラントに別れを告げる。>>4:363>>5:29]
あなた達の想いは、私もたしかに受け取ったわ。
必ず、できるはず…信じてるわよ、シェットラント・シンクレア。
[去り際、一瞬振り向いて小さく笑みを向ける。>>5:96]
もてないっていうの、あれ冗談よ。
…クールに見えて熱い男は、嫌いじゃないわ。
[互いに、さよならは言わない。
彼が生きて使命を果たさんことを、ただ見えぬ星に祈った。]**
[…名を呼ぶ権利がないなどと。>>*9
そんなわけがないのに、…何度でも、呼んで欲しいのに。]
…最後まで、ずっと、貴方のお傍に。
そう、約束しましたから。
せめて心だけでも、ここに。
―― 貴方と一緒に、手にしたい。
こうじゃない現在を…希望に溢れる未来を…
[テオドールの手に、自らの手をそっと重ねて。>>*10]
―回想―
[いつかの皮肉を引用するシェットラントに軽口で返したものの。
…彼に背を向け歩き出したイングリッドの顔は、なんとも情けないものに変わっていた。
これから、テオドールに会いに行く。
止めなければ…彼が門へ来るようなことがあってはならない。
だが、今の自分がそう時間を稼げるとも思えなかった。
カレン南部の駐屯地が落とされたという情報は、テオドールの耳に入ったことだろう。
なぜイングリッドは連絡しなかったのか?
なぜモーリスの近くまで、わざわざ足を運んできたのか?
…“あかいこえ”があれば、何も問題はないはずなのに。
きっと彼は気付いている。イングリッドが裏切ったことに。]
[そちらへ向かうから、待っていて欲しいと。
頼み込むような言葉は、押さえようとしても震えていた。
テオドールの道に反したけれど、彼の敵となったわけではない。
彼を裏切ったけれど、向けるのは刃ではなく、変わらず愛だった。
…だから、それを知って欲しくて言葉を紡いだ。
違う、違うの。…焦る心は、事情も何も説明せずにただ一つを伝えようと、
――それが、彼の怒りを煽るだけと思いもせずに。]
[こちらから、と伝えたものの、それに返事はなく。>>5:5
程なくテオドールはナイトメアに跨ってやってきた。
釈明はあるか、と問う声に、全てを悟る。>>4:365
イングリッドの言葉は、今の彼が最も必要としないものだった。
彼の救いを望むということは、彼の選んだ道を否定し、彼のかけてきた年月、人生の殆どを無に帰すようなもの。
だから、彼の怒りは当然の反応だった。
その覚悟はできていた。…はずだった。
…ただ、謝ることしかできず、”その時”を待つ。]
[あの日、イングリッドを信じてテオドールは全てを話してくれた。
過去の”イングリッド”との関係にも言及し、
それでもおまえを駒として扱う男だと、失望したなら出て行けと言った。
…それに対して、自分は何と言ったのだったか。
これからも傍に…そう願ったのではなかったか。
その言葉を、行動を、彼が実際にどう感じたのかはわからない。
けれど、今までと変わらぬ忠誠を誓ったこの女を、テオドールは信用していたことだろう。
クロイスの双子について調べるよう命じた時もそうだった。
頼りにしているという言葉。おまえの報告ならばという、言外の信頼。]
[…あの時にテオドールの元を離れていれば。
今、これほどまでに彼を傷付けることはなかっただろう。
彼のためだったはずなのに。これは、彼の心に刃を立てる行為だ。
怒りのままに振り抜かれる剣>>5:6に、そっと目を閉じる。
――貴方の救いを願いながら、他ならぬ私が貴方の心を殺した。
貴方が私の死を望むのであれば、私はそれを拒みはしない。
…願わくば。
貴方が人として、人らしく、”最期”を迎えられますように。]
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