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『愛国心溢れるソマリ・フル・アレイゼル殿
まず最初に、徒然なる侭の文章になることをお許しください。
私なりの言葉で、貴方にお話したいと思ったのです。
変わらぬ御健勝の様子、なによりです。
そちらの土壌も、さぞ良い緑が芽吹くのでしょう。
新鮮な風が新緑を揺らしゆく光景が、今から垣間見えるようです。
貴方が解放軍にいることを、嬉しく思います。
クロード・ジェフロイは烈火のごとき夏の日差しに似ています。
秋の実りの為に、夏の晴天は必要ですが…
日照りが続けば大地は枯れ、人は雨を欲します。
適切な潤いは、人々の営みに必要不可欠なのです。
貴方は、その雨になれる御方だと、私は評しているのですよ。』
『十の春を越え、二十の四季を見送る…――。
もし本当に、そのようにゆっくりと変わってゆくのであれば、突然のことに未だ覚悟定まらぬ皆様も、前へ赴く勇気が生まれるかもしれません。
けれど。私には、解放軍と名乗る彼らが其れを望んでいるようには、見えませんでした。
もっと忙しなく、もっと慌てて。
劇薬を飲ませて病を癒し、「ほら治っただろう」と言うような。
そんな嵐のような変化に、感じました。
身体は治るかもしれません。
けれど、其れは極めて危険性の高いもの。
一歩間違えば、命を亡くすかもしれぬ薬です。
クロード・ジェフロイは、此の国を、劇薬でも使わねば治らぬと断じたのでしょう。
けれど劇薬は、身体の弱い人にとっては、持ち応えれぬものかもしれないのです。
国民の皆様に劇薬を飲ますことに、だから私は賛同出来かねました。
薬を飲めば病が治るかもしれなくとも、万が一を懸念して、真に信頼できる薬か見定めるのも、必要な所作だと思ったのです』
『私に王たる資質を見出せないのは、ご尤な見解です。
何故なら、私は巫女姫なのですから。
このところは、少々既存の領分を外れてはおりますが。
戦の矢面に立つのも全て、国民の皆様の豊かな明日を願ってのこと。
少し、別の御話を致しましょう。
益為らぬように見える虫も、時には花粉を運ぶ役目を担うこともあります。
花にとって必要であれば、受け入れることも吝かではありません。
ただ花を、根付く大地から剥がし、其の土を全て払い、鉢に植えて鑑賞するというのならば、……
幾ら変わらず花が咲き、風に花弁を揺らそうとも、花は淋しく思うでしょう。
根付いていた大地が、恋しいからです。』
『もし国を開くのならば。
強くなる為、ではなく。
豊かになる為、でありたい。
国民の皆様が、貧富の差なく四季世豊かでありますように。
シルキー・カノエ・ナミュール――』
[巫女姫の印が蜜蝋で押された信書が、
真白な鳩の足に括られ天を駆ける。
ほどなくして其れは、アレイゼル領のソマリの元へ届けられただろう*]
……。此の巫女姫の役も、好きですけれど。
“シルキー”としても、笑ってみたい。
…そんなささやかな、ものです。
[かつて“キール”として過ごしたように、無邪気に*]
………違う!! そんなこと、聞いてませんっ。
今の声を説明なさいっ、 …あれは、 ……!
[あんなに、つらそうな]
もう、いいのです。
いいの、………
[でも。そうして、二人で、積み重ねてきた、日々も。
決して悪いものではなかったから。愛しい、記憶だから]
………、あれく …しす…
[心の絆が半分捥ぎ取られたかのような、喪失感。
嗚呼。 影は、――――…天の蒼色に、溶けたのだ]
…貴方に届けます。
きっと。 何処にいても、届けます。
だから、……
[見守っていてください。
最後の言葉は、口にせずとも伝わっている気がした**]
― ブラバンド ―
[その日――――…。
王府の高台にて、天を睨むような巫女姫の立ち姿があった。
頬を滑り落ちていた涙は、乾いて痕を残すのみ。
今は此れ以上を落とさぬようにと、…強く、黎明を見据えている。
周囲は人払いされて誰も居ない。
ただ噂話によると、添うような影が…薄れゆく様が見えたという**]
[夜陰に紛れるように、首都ブラバンドを出立する一団の影があった。
その数、400強。
かつて
当代巫女姫その人自身が。
人々の意識がオプティモに向けられている隙を縫い。
ナミュール北西に位置するドルマール神殿に向けて、密やかかつ迅速な移動を開始した]
[翌日。首都ブラバンドでは二つの動きがあった。
ひとつは、“重篤な病にて面会謝絶”となっているマチュザレム共和国大使カナン・リリが養生している宿>>4:340で起こった。
巫女姫シルキーからの公式な信書が届けられたのだ。
『先日の御提案いただいた件、折り良い返事をお返ししたく存じます。
御足労をお掛けしますが、どうか、ドルマール神殿までお越しください。
…もしかすると、貴方がこれを読む頃には近づき難くなっているかもしれませんが。
お得意の空の道はあいております
シルキー・カノエ・ナミュール――』
いつ、彼が見るかは知らない。
けれど巫女姫からすれば、空の風来坊と連絡を取る手段は、此処しか無かった]
[そしてもうひとつ。
ブラバンドの臣民へと、巫女姫からの声明が発表される。
『巫女姫シルキーは、皆様が暮らすブラバンドの街を、戦場にしたくは御座いません。
此処は古くからの営みが紡がれる、私にとっても愛しい場所。
されど解放軍と呼ばれる方々は、古き因習を壊さんと、王府の崩壊を目指して兵を向けてまいりました。
今、王府の一切を任されておりますのは、この巫女姫シルキーです。
古き因習と言うならば、私こそが其の象徴でありましょう。
であれば私さえ此の地におらねば、皆様の安然は保たれます。』
『ブラバンドに解放軍が押し寄せてきたら、どうぞ白旗をお挙げください。
貴方がた傷つくことは、私の本意では御座いません。
新しい時代の嵐は、確かに恐れも感じます。
けれど、…時間が掛かってもいい。それでもいつか、
臣民の皆様が、心豊かに、黎明を迎えられることを祈ります。』]
[ドルマール神殿は、長きに渡って巫女姫と宝珠を護ってきた、堅牢なる砦にも似た場所。
そこに巫女姫率いる400強がたどり着くのは、もうまもなくのこと**]
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