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哀れ?何故だ
[何故だ、という抑揚はツィーアの波動が紡ぐ単語とよく似ていた]
ただ、触れてみたいと思っただけ
[半液体の中で再生を始めていた腕は、不安定に漂うのをやめて、密やかに沸騰する灼熱へ触れようとする。
焼けるぞ、と聞いて、すこし口元を緩めた]
俺はまだ
痛みを感じられる
……っ、
[低い苦痛の呻きと、流動鉱石が焼ける音。
辛うじて溶け崩れることはない掌は、赤く明滅する劫炎の肉に押し当てられて撫でるように滑った]
嬉しいわけない
ただ、確かめたくて、 …
[何を言っているのか理解できない、と感情を表出した顔は、髪に触れられればやはり怯えたように硬くなる]
…っぐ、ァ
[傷ついた腕に触れていた左手は液中に浮く。
爛れた流動鉱石が修復するよりも早い速度で、胸の組織が灼熱に焦げていった]
お前は、何も
わかっていない
[ チリン、
魔王の頬へ触れていた指が離れる]
ゆうべの自分から今の自分がかけ離れていく
次の瞬間にはもう、今の自分すらいないかも知れない
こわい
これが人間らしさだというのか──?
痛みを喜ぶようになれば、俺は本当の人形になるのか
[魔王の右腕を胸へ抱き込むように両腕を回した。じゅう、と表層の鉱石の組成がほどけていく]
[光を放ってから沈黙を保つ、魔法兵器の中]
朝になったら…出てもいいか
[魔王の前に侍るヒトガタは、
核の納まる中心を視線で示し、淡々と呟いた]
"これ"はあまり、世界を知らないだろう
雑兵達の死で稼ぐのも時間がかかる
何かあっても俺が十分戦えるようになったことは、示した通りだ
[壊されたがるような愚行はしない、と]*
……
[長い沈黙の後、
は、と。ため息のような動きを見せた]
希望をもたせるのも手管のうちかな…
そうするしかない
俺はお前を楽しませる人形で、苦しんでいるところを見て喜ぶようだから
[胸に抱いた灼熱を撫でるようにして、痛みに微笑んだ。
溶けた魔法鉱石は溶岩の如き熱に焼きついて、仮の皮膚のように魔王の腕を覆っていく]
『なんだ、どこへ行くのだ』
[ぼんやりしている間に勝手に進んで行く話>>193に、慌てたような波動が降る]
『外遊びはいいが、寂しいのではないか?
すぐに戻るのか?
私が見たくなったら玩具は連れ帰るぞよいな』
[実際、破光を撃ったばかりの兵器は、さらに破損の修復にも魔力を食われている。
移動城砦としての身動きなるまでもまだ、時がかかりそうではあった]
[魔王の腕から離れ、下がろうとしたヒトガタの動きが突然止まる。
虚をつかれたように眼を見開くと]
…っぁ!
[不自然に跳ねて、液体の中に全身で飛び込んだ。
ビシャ、と粘つく音を立てて我が王に抱き着く──というかぶら下がるというか]
……
[拗ねたような波動は、ヒトガタの喉を借りて音を紡いだ]
『私は触れていたい。
これを介して見る痛みも、全て喜びだ』
[朝になったら遊びに出る、ならば、それまでに触り溜めをしておくのが当然、の気持ち]**
最後の光景…?
[見上げた薄蒼の瞳に映るのは終末の光ではなく、魔王の白皙。
語られる"最後の先"はまるで創世の神話のようだった]
今の俺には
あまりに 遠すぎる 話
[声に乗るのは不安や困惑ではなく、何か畏れのようなもの]
……子供たち …
[そこに行けるかもしれないと言う魔王の真意は。
遥か未来の幻視を見定めようと寄せられていた人形の眉は、
別の意志によって体の主権を奪われるに至って、不意の恐慌に染まる]
な…待、 『欲しい』
い 『分かち難きものだろう?』 や
[触感として知覚する彼の存在、チリンと核が澄んだ音を立てた]*
─ モーザック崩壊翌日 ─
[拗ねるツィーアを宥めるのはヒトガタに負える仕事ではなかった。
この核を乗せた人形以外にも、魔王を鑑賞して楽しむための専用の目玉を城に作ってやればいいのではとも、言えず]
……
[とはいえ翌朝、魔法兵器の腹から出てきたツィーアは上機嫌にチリンと鳴る。
退屈嫌いは、自由に出歩くヒトガタでの散歩にも、それなりに魅力を感じているようだった]**
─ 5年前 ─
[ツィーアの核を運ばせるために作り上げられたヒトガタは、人間そのもののような出来栄えで魔王を満足させ、魔将シメオンを驚かせたが。
この頃はまだ長時間意識を保てず、ひどく消耗しては1日の殆どを眠ったように過ごしていた。
故に]
『……』
[ヒトガタを取り囲む双子が胸を張った直後>>220
ぱちりと眼を開けたのは、人形が覚醒したのではなくツィーアが手動で動かしたもの]
[さて、それがいけなかった。
クレステッドの記憶がまだ魔法鉱石の体に馴染みきれていない、よりもはるかにずっと、ツィーアはこれの動かし方をわかっておらず。
ついでに言うと密かに気に入っていたのに遊べなかった長耳双子を見つけて、テンションも上がっていたせいもあった]
『ケケケケケかかケケケ!』
[ことほどさように、
物凄い勢いで両手を真上に万歳し、そのまま足を揃えたややブリッジ紛いの海老反り姿勢でジャンプして近づこうとする──という恐ろしい怪奇現象を巻き起こしたのだった]
[……後日。
双子を見かけると核がソワソワするので、ヒトガタは彼らに友好的に接しようと試みるようにはなっていた。
彼らの反応がどうだったかについては、燃え上がる嫉妬の炎とかその他もろもろ]
…また逃げられたな
[しばらくするとツィーアもある程度──当時よりは、自然に操ることが出来るようになったが。
大雑把な指令程度で、普段の行動をヒトガタの自律機能に任せっぱなしで黙っているのは、やはり自分で動かすのがなんか難しいから、らしい]*
─ モーザック砦跡 ─
[最初にヒトガタが向かったのは、瘴気の雨降る地だった。
亡きクレステッド皇太子が何度も訪れた場所、迷うことなく歩き回り、瓦礫を越えて地下へも入った]
…魔王カナン・ディ=ラーグは何故、このモーザックでお前を使ったのだろう
[問いかけるような声に、近くにいたコボルトが反応したが、それが独語だとわかると興味を失ったようだった。
雨を遮るフードを上げ、構造が保たれた地下階を歩いていく]
……
お前は、俺に話しかけてはこないな
話し相手は他にいる、か
[ぽつ、ぽつと呟きながら、やがて武器庫に入り込んだ。
軽量で目ぼしいものは既に持ち出されている──脱出した人間か、あるいは亜人達の収奪によって]
魔王が怪我をしたのはわかっていたのに、
実際にこの眼が見た時、お前は動揺しただろう
何故だ?
[足元に、小さな笛が落ちていた。
楽器というよりは子供用の素朴な玩具、誰か兵のひとりがポケットにでも忍ばせていたのか]
……これはこうやって、
[穴を指差し、唇にあてる。
吹き込むと ふぃ、と掠れた音がした。
チリン。 ]
[武器庫の奥、布を被せられた幾つかの遺骸を見つける。
彼らがアンデッドとして起き上がることはもうないから、焼いて破壊したりせずに置いていったのだろうと思う。
傍に片膝をつき、伸ばした手は一度聖水の加護に弾かれたが、ヒトガタを壊すほどではなかった。
布をめくり、その下を見る]
ヴェ、
[兵士ではありえない、記憶にある顔。
暖かな邸宅、星降る夜──一人息子を抱いて微笑んでいた彼女]
……そうか
こんなところで──
『誰だ?』
[独り言に、重なる別の独語]
なんだ、話しかけてくるのか?
……彼女は、クレステッドの知り合い
もう死んでいるから美味くはない
[ならばここにもう用はない、とツィーアの核は判じたらしい。
それ以上親友の妻には触れず、聖別された布を元に戻してヒトガタは立ち上がる。
去り際、武器庫全体に弱い隠匿結界をかけた。
入りたいという意志のないものから軽く注意を逸らし阻害するだけの魔法。強制力はないが、対象は虫や鼠から瘴気や湿気のような非生物にも及ぶだろう]**
─ めぐり ─
[日中、ヒトガタは馬を駆って西へ向かった。
エルフの戦士達がまだ森から来るかもしれないという期待は多少あったがそれらに出会うことはなく、
また戦線が川を挟んでいた頃は橋に駐留していたレオヴィル王国軍も既に退却済みだった。
途中で花摘みをしたり兎を追いかけたりと、およそ魔軍配下らしからぬ寄り道を繰り返した末]
…帰るのか
[ヒトガタはため息を吐いた]
[シャスラ村近くまで行っていれば、シラー解放軍と魔物の残党が戦っていること>>206に気づいたはずだから、かの村はツィーアの餌場になったのだろう。
衝突が避けられたのは、魔法兵器の実質的な本体である核が、移動城砦がいる位置から離れすぎることを嫌ったため。
ヒトガタは、山地に潜んでいた難民──シャスラ村からアルテスを目指したものの、身動きをとれなくなっていた人間達──の死だけを刈り取って、モーザック跡地へ帰還することにした]*
[夜は渓谷の近くまで出かけ、人間の張った陣で死んでいく魔物達の死を集める>>225
日中の行動は様々だった。彼方此方へふらりと出かけ、あるいは野営地で過ごし、または城砦に篭って出てこない]
─ モーザック砦跡地では ─
素晴らしい槌捌きだ
いつまでも聞いていたくなる
[鉄底族の宿舎はツィーアが気に入った。
何が楽しいかわからないが、武具の手入れをする闇ドワーフ達に興味を抱いたらしい。
向こうにしてみれば蟠りのある相手だったが、ヒトガタは、素体の育ちの良さと礼儀正しさ(と腕相撲)を最大限利用して、彼らの矜持を傷つけずに見物の許しを得たのだった*]
─ 閑話休題 ─
[くぼみに置かれた、ごく軽い感触が何なのかはツィーアにはわからなかった]
誕生日?
[我が王がそれ以上は何も言わなかったので、夜が長い日の謎もそのままになる]
私はいつ生まれたのだったか──
[気がつけばただ退屈だった。
アーティファクトに意志が宿った明確な瞬間などなかったのかもしれない]
お前が現れる前の世界など数えようもない
……お前は?
私を見出すより前はどう過ごしていたのだ
[ツィーアが未来ではなく過去へ関心を向けることはほとんどなかったから、これは珍しい部類の問いだった]
─ 宿営地南 ─
[渓谷地帯よりも西、モーザック砦よりも南の平原地帯には、野生の馬が群れを作って住んでいた。
が、だから何、ということもなかった。
動物とて死ねば多少の触媒になるが、然程美味しいものでもないようで]
…帰るのか?
[呟いたヒトガタは、土がむき出しのなだらかな丘を選んで、転移の為の陣を描き始めた]
[その足元を影が走る。
西から東へ、太陽を横切り陽を遮った何か。顔をあげて目を細めた]
─ 鉄底族宿舎・使者訪れた頃 ─
決闘
[鷲髭のゴルバの元に人間が来た、と聞いてヒトガタは眉を寄せた]
…なるほど
[族長へ正式に接見を求めたならば、横から手出しするのは彼らの面子を軽んじたことになる。
そちらの方へ顔を向け、ヒトガタは少し思案した]
受けるかどうかも彼の裁量か
もし約定を交わし決闘を執り行うに立会人を求めるなら、俺が務めようと伝えてくださるか
[認められるかどうかはともかくとして]*
─ 平原 ─
[大きな鳥翼、あるいは黒竜が舞ったかと思った影は、
ヒトガタへ向けて飛翔の先を変えた>>302]
なんだ…?
[逆光、
いや、それすら凌駕する光る剣。
降り注ぐ殺気と捉えたヒトガタはその場で腰を落として身構えた]
……!
[急降下した獣の影が、眼前で鋭く動きを変える。
大きく飛び退ることはせず最小限の距離で躱そうとした胸の布地を浅く白刃が裂いた]
──っ
[間合いをとり身を守るよりも、狂猛に傾いて植えつけられた戦闘記憶が即座に反応する。
引いた足を軸に回転をかけて、人間離れした軌道で跳躍した。
急上昇するグリフォンを片手で掴み、地上を離れようとする加速度に逆らって騎手である男の背へ蹴りを放つ]
物見遊山…それは楽しかったか
[問いのようで問いでない波動]
つまりお前が私を見出した時に、私と共にあるお前も生まれたのだな?ならば好い
お前が変容させた私は、私の誇りだ
私はお前のためにあろう
お前の死を得る時までは
[永遠を誓う宣を告げる波は、嬉しげに揺らいでいた]
[落獣した男に続いてグリフォンから飛び降りれば、獣は鳴きながら上空へ一度離れていく]
…ヨシュか?
[片手剣を抜いたヒトガタは、ぽつと呟いた。
体を傷つけなかったはずの胸で、しゅうしゅうと薄い煙を吐いて魔法鉱石が表面を溶かしていた]
[男が口にする名>>314は、彼が親友を呼ぶ時に用いたもの。
相手を眺め、切っ先の軌跡を追う]
……うばわれるまえに
[突きの動きで迫るそれをまともに受ければ、どうやらこの体は容易く破壊されるよう。
だが、相手の動きには記憶にある彼の剣技の鮮やかな精彩──怜悧さが足りないと見えた。
突きを躱すのはやはり紙一重。体のどこかに熱が走る。
踏み込み、すれ違う動きで胴へ向け剣を振るった。
黒のプレートメイルへのそれは斬撃というより力任せの打撃に近くなる]
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