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領主公女 アプサラスは語り手 に投票を委任しています。
領主公女 アプサラス は 領主補佐 ギィ に投票した
[祭りの炎の熱はすっかり冷め、冷たい乾いた風から
身を守る様に家々の扉はしっかりと締め切られ、
外で賑やかな声を聞くことは少なくなりました。
いつもならそれがこの領土での日々でしたが今年は違います。
二つの領土の合併と、私たちの成婚を祝って
来たる新しい時代を喜ぶように、楽し気な声が響き、
家々も少しばかり飾りを付けるところも多いのです。
そんな領民たちを見て、私はこれは二人だけの事ではないと
改めて自覚し踊る胸を押さえて民たちの事にも
心を裂く日が続きます。]
これから毎日、出来れば一時間、無理なら朝昼夕夜と
天気、風の向き強さ、雲の形、星の位置を記録しましょう。
そして作物や森の恵みも細かく記録して。
長老だけでなくおじいさまやおばあさま達は
こんな風が吹き続けた時は嵐が来るとか
色々ご存じじゃありませんか。
それをちゃんとした記録に残しておけば
これから何が起きるか予想が付くかもしれません。
備えることで民が受ける被害を最小限に出来るかも知れません。
[突然治世に口を出すようになった私に、お父様は少しの困惑と
苦い顔をなさいましたが、何処か思うところがあったのでしょうか。
それこそ朝昼晩と再三お願いし続けた結果、
試験的に記録を作ってみることにしてくださいました。
これから私たちが慈しむ領地は大きくなったのです。
全ての民が出来るだけ笑顔でいられるように、
賢者から頂いた知恵を活かそうと必死でした。
婚約者に夢中で腑抜けだとは言われぬように。
当然そんな心もありました。]
……ねぇお母さま。
私、この刺繍手を加えても良いでしょう?
[それでも部屋に戻れば考えるのはギレーヌ様の事。
ヴェールを飾る蝶の刺繍はほぼ完璧です。
ですがモチーフ通りを刺しただけの私には少し不満。
だってギレーヌ様の為にちょっと手を加えたいと思うのは
当然だと思うのですが、こればかりは
お母様が頑として認めませんでした。
曰く、私の絵心だけは成長させられたなかった、ですって。
いくらお母様と言えど、失礼ですわと膨れてみたけれど
お母様のこめかみの青筋は刺繍したみたいに消えませんでした。]
おかしいわ。
少しくらい良いと思うのだけど。
[それでもばあやたちまでお母さまに同意されては
手を加えない方が良いのでしょう。
ちょっと膨れたままの気持ちで大事な刺繍をするわけには
いきません。
代わりに私の心を癒すように舞い込んだ手紙を
温かい紅茶とクッキーと共に広げました。
あの方からのお手紙は一番に広げて何度も何度も読み直しました。
いつもの便箋とは違い、女性の表情を見せる便箋に私は微笑み、
迷うような痕に何を書こうとしていたのか、想像するだけで
口元が綻びました。
中指の腹で何度も触れるうちに、少しだけでもあの方の
お心に触れることが出来たような気がしたのです。]
私ばかりちぐはぐな事を書いている気がするけれど
大丈夫かしら。
[あの方のお心を気遣うことなく急かせているのではと
心配にはなるのですが、胸の高鳴りは抑えられないのです。
休憩もそこそこに、机に向かうとお返事を書くのに夢中になって。
ポットまで冷めてしまった事に驚いたほどでした。]
我が伴侶 アプサラス殿
手紙を拝見した。
今も恥ずかしさで頬が火照る。
私の気持ちを、すべて見通されている気がしているよ。
貴女の懸念、貴女の疑問。
私は既に先の手紙で殆ど答えてしまっている気がする。
貴女が言う通り、私達の手紙は入れ違いばかりだな。
何を書けばいいだろう。
ペンを持つ前は、落ち着こうと思っていたんだ。今は初めて恋文を書く少女のように、何もかも書きそうになっている。
刺繍は、母上から合格を貰って、ようやくヴェールに刺し始めた。とても緊張するね、これは。
歩き方はまともになってきたようだ。スカート姿でも歩き難いとは思わなくなった。
婚約の話を始めて聞いた時、確かに何かが欠けたような気持ちになった。
今はそんなものは微塵も無い。
私の中は、色々な感情でいっぱいだ。不安もあるけれど、それすら嬉しく感じるんだ。
手紙を読んで、もうひとつ、新たな喜びを得られた。
子、と。
その言葉に、目が覚めるような思いがした。
私は自分が親になる事などないと思っていたから。
貴女と共に、私達の“子どもたち”を慈しみ、守っていきたい。
父として、母として。
大きな家族になるのだな、私達は。
とても素敵だ。
また長々と書かぬように、今日はこれぐらいで筆を置こう。
愛をこめて
ギレーヌ
[先の手紙で書き損ねた言葉を、今度は添えて。
便箋の色は薄く薄く紫の色。]
[続く便箋が一枚。]
追伸。
同封の品、宜しければ貴女の身近に置いていただけないだろうか。
扇と、もうひとつ、鹿皮の手袋だ。
扇は異国の品と聞いた。シンプルだが凝った透かし模様だろう? 蝶の羽根が美しい。
手袋は、私が仕留めた雌鹿の皮で作らせた。
柔らかく、手袋を嵌めたままでも指を動かしやすい。これからの季節に、使ってくれ。
〜 愛しい妻であり夫であるギレーヌ様へ 〜
改めて妻とか夫とお呼びすると照れてしまいますね。
本当は直接お会いした時にお呼びしたかったのですが、
先にしたためておいて良かったと思います。
他の誰でもないギレーヌ様だけの為の呼び方です。
書いている頬が秋の葉より赤くなった気がします。
やはりギレーヌ様とお呼びした方が馴染みますね。
前置きが長くなりましたが、お手紙拝見いたしました。
私の手紙が届くよりも早く出されたと自惚れさせていただきます。
ギレーヌ様のお心を聞けて感謝と喜びに私の胸は震えております。
あなたと一緒に歩めることが嬉しくて仕方ありません。
私の言葉がギレーヌ様のお心を少しでも良い方向に
向ける手助けが出来たのなら幸いです。
お会いする時を楽しみにしております。
お父様がスカートを履いて歩く様子を想像したら
少しおかしくなりました。
エレガントに歩くのは少し難しいとは思いますが
ギレーヌ様なら大丈夫です。
常にご自分は新芽の様に柔らかく、傷付きやすいと思いながら
指先にまで気を付けて見てください。
馬の上から見る世界は、あなたの隣で駆ける世界は
どのように見えるでしょうか。
命の尊さに私は更に成長出来るでしょうか。
どんな事も二人でなら大切に過ごせるでしょう。
祭りの踊りも一緒に踊りましょう。
楽団ではなく、農家や職人の方たちが楽器を鳴らすので
リズムはバラバラですし、音も取るのは難しいでしょう。
ですが皆舞踏会の様なすました顔ではなく、
本当に楽しそうに笑いながら踊るのです。
その輪の中で一緒に笑って踊りましょうね。
百合の花に重ねてくださるなんて光栄です。
あの花の様に気高くあろうと思います。
私はアゲハ蝶の刺繍をしています。
黒は使えないので金と白金の色を使っておりますが、アゲハ蝶です。
ご存知でしょうか。
アゲハ蝶は光の境を飛ぶそうです。
昼と夜の間を飛ぶ蝶の様に、私たちは領土の境を越え一つになり、
女性と殿方の二つの境をひらりひらりと舞いましょう。
一点残念が事があるのです。
お母様が蝶のモチーフから私が手を加えることを許して下さらないのです。
なんでも絵心は成長しなかったとかで。
仕方ないので今度ハンカチーフに私なりの刺繍をして
贈らせていただきますね。
この刺繍の糸がずっと伸びて、ギレーヌ様に届けば
良いのにと思っております。
子供の様な我儘ばかりでごめんなさい。
それでは花嫁修業頑張ってくださいね。
愛しています
あなたの夫であり妻であるアプサラスより
[取り留めなく思いついたまま書き連ねた便箋には
同封したものを際立たせる白を使って。
薔薇の香から一枚、一番良い形の花弁を封筒に。
赤いハートの形をした花弁に思いを込めて。]
[一気に手紙は書き上げたけれど、見直すことすら恥ずかしくて。
私の想いは手紙と封の中に込めたのですから
後はギレーヌ様に届くと信じて召使へと渡します。
残るお手紙はどれだけ嬉しくても暫くは文を通じての
交流も許されない今は心の癒しにして。
慎ましく伴侶となる方とお互いを深め合うには大切な時間だけれど、
友人への気持ちも降り積もっていくのです。]
まぁ……すっかり冷めてしまってたわ。
夢中になっていたのね。恥ずかしいわ。
[ゆっくりとお返事を考えましょう、とティーカップに
手を伸ばしたのですが、湯気を忘れた紅茶に
どれだけ時が流れたのか驚いてしまいました。]
アデル様はさすがに博識でいらっしゃるわ。
ラートリー様とどの様なご夫婦になられるのかしら。
お二人とも知識豊富な方ですもの。
知力長ける土地になるのかしら。
[お二人の手紙を並べながら、どんな家庭を、
どんな領地を作られるのか想像するだけで楽しくて。]
夜空をお二人で見上げて過ごされるのかしら。
ラートリー様がアデル様の体調を心配されるのかしら。
案外夜空に慣れていらっしゃるのはアデル様の方かも
知れないし。
アデル様がラートリー様を気遣ったり……。
[それはとても美しい風景に思えました。
私も目を閉じて暫し夜空を思い浮かべます。
隣に並ぶ相手は言わずもがな。]
[瞼の裏の光景に気を取られてアデル様の騎士姿と
謎のインクの染みの事はすっかり抜け落ちてしまいました。]
む、何故私の体験談だとばれたのかしら。
[またうっかり淹れ直した紅茶が冷めてしまいそうになりました。
慌てて口に含み、クッキーも口に運びながら、
何度も書き直された修業中のお友達からのお手紙に
目を細めます。]
随分頑張っているのね。
春祭りも楽しそうだわ。
私のところは去る季節を惜しむけれど、
向こうは来る季節を祝う感じかしら。
[説明のはずなのに、彼女が溢れていて読んでいるだけで
楽しくなって仕方ないのです。
世界中のお祭りを巡れたら楽しいでしょうが、さすがに
それは出来ません。我慢です。]
すぐに魅惑的な女性になって私なんて追い抜かれてしまうわ。
[天真爛漫だけれど本質を見抜く目を持つ友人は
きっと素晴らしい妻になり、民の母になるでしょう。
お互い交流が栄えて、祭りで出会ったときに
どんな風になっているか今から楽しみが増えました。]
はっ!
いけないわ。
休憩している場合じゃないわ。
負けないように頑張らなくては。
[手紙に触発されて、私は休憩を切り上げて
また刺繍に取り組むのです。
他の大切な方たちに胸を張って会えるように。]
そう言えば……オクタヴィア様はどうされているかしら。
[心残りはどうしても言い出せなかった大切なお友達への謝罪。
法案が出された以上判ってはいるけれど、
私からちゃんと話していないことが胸に残る小さな棘。
交流が解放されたら、真っ先にお手紙を書こう。
そう決めて私は絹のリボンに刺繍を施すことにしたのです。]
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