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[宙を飛んだ人形は壁の魔導管に衝突して床へ落ちる。
弱き人間の記憶だけを参照するならば、背部への強打で咳き込みもしたところ。
ヒトガタはすぐさま立ち上がり、オークのそれを思わせる低い姿勢で身構え、]
「……く、そ」
[眉を顰めて片手で顔を覆った]
成功か?
壊れずに餌を集め来やるか
新しい遊びも出来ようか──
[弾む波動、我が王が示す満足にこそ、ツィーアの喜びは募る]
[近づく手へ瞼震わせて怯えを滲ませる表情、
顔を歪めながらも、触れられるに従順であろうと努める葛藤も、最初の素体の特性が色濃いもの]
…ゆこう
私が私の餌を獲れば、私もお前も嬉しいな?
[興奮は兵器にも伝播する。
科された枷を甘く鳴らし、魔導の波がうねった]
─ 目覚め、進軍 ─
[玉座にある魔王は光り輝く黄金。
人間の砦へ──
此度の軍勢の侵攻には、聳え立つ城砦も速度を合わせよう。
破光の魔法を満たすまで、杯に注がれるべき触媒はあと少し]
[軍勢が砦へ到達するよりも少し前。
移動を続ける地這竜のごとき城砦の口が開き、木偶人形が一体外へ出た。
魔王が気に入った人間の男を模った、魔法鉱石のヒトガタ。
様子を違えているのは、纏う衣装のみだった。
先日までの軍服と同じ型と仕立てながら、色は薄青と銀糸の2色。レオヴィル王族であることを示す紋章は再現されず、そこにはただ金で縁取られた黒の空白だけ]
…お前が俺の馬か?
[ゴブリンが曳いてきた馬型の魔物を見上げ、無表情をわずかに緩めた。
青肌の馬魔の首を撫で手綱をとる]
[率いるのは、有力氏族でもない低級の魔物。
平地の地中を好むワームと、頭数だけのゴブリン達。いずれも、全滅させて良い"餌"だった]
攻城よりも功ある任が与えられた、聞け。
…既知の通り、ミュスカの森のエルフ達が来ている。
既に聖樹を毒に侵された死に損ないだが、手負い故に死に物狂いで我が王を狙うだろう。
[凛と響く声は、どこか平坦に]
あれらは足が売りの少部族だ、人間の籠城には加わるまい。
エルフが現れたなら殺す──それが俺と其方らの仕事だ、良いな。失態は許されない。
奴らの足を止め、その枯れ弓をへし折り、命を捧げよ。
首級を獲った者には、応じた褒美が与えられるだろう。
…城と移動天幕の周りへ散り、待機。いけ!
[知能の高くない者達へどれほど通じたものか、頓着せず馬の蹄を鳴らした]**
─ 進軍前夜 ─
[焼け跡の近く、沈黙する城砦]
[暇を持て余した無智の亜人が時にツィーアの足元に遊ぶ。
兵器はその気配を感じると足をあげ、あるいは触腕を蠢かせて、文字通りに取って食おうとする。
犬類が手元のボールを齧るのと同じで、害意でもなくじゃれかかるだけの狩りは]
──
[その小さな気配>>121がもう少し近づいて来ないかと期待して、地面に近い増幅筒に光を灯らせた]
[長耳双子に嫌われて落ち込んで以来、ちょこまか逃げる動きの早そうな気配とはどうやって遊ぼうか、兵器は学習の途中。
その小さいのが足近くまで来るのならば、単純に踏み潰そうとする代わりに跳ね扉のような"口"を腹に開け、興味を惹こうと彼是光や音で誘ってみるのだった]
[魔王が玩具の改良を楽しんでいる頃、ということはツィーアもまたそれを喜んで上機嫌であるということだった。
そもそも、この兵器の不機嫌とは拗ねたり退屈したりという程度]
──
[小さな獲物が腹の中に入ると>>128
凶悪な牙の並ぶ口を思い切りよく閉じた。
どぅん、と振動が広がった後、拍動するような明滅は金から青へと弾むように色を変える。
奥に続くのは一見して単純な廊下、魔的な装飾や魔導の経絡が波打ち彩っている以外は]
[あるいはうまく噛み千切れるかという試み──が外れると、また外へ繋がる扉を開いてみる。
もう一度顎の間に来たら今度こそ挟めるか。
戯れの延長、そも闖入者を脅威と感じて排泄するような意志はない]
[本質は居城ではなく呪具であり魔導の機構であるゆえにその構造も複雑極まるもの。
異様な浮遊物を抱いた転化槽が無数に並ぶ部屋や、煌めく光が複雑怪奇な回路を走る高天井が連なっていた。
逃げ場の少ない内部を動く、人間の気配や小さな焔。小さな気配が何かに触れる>>139と、深く響く波動が楽しげにささめく。
拒絶や排泄の意志を見せないかわり、殺意の篭るじゃれつきもしばしば降り注いだ]
──
[廊下の半ばに転移魔法がかけられて無限ループを演出したり、なぜか人間が入るサイズの回し車がいきなり置かれていたりもした。
探索者はなにか期待をこめた眼差しのようなものを感じたかもしれない]
─ 出立の前・玉座 ─
[シメオンの穫ってきた王族が運ばれてきた時、ヒトガタは離れた位置に控えていた>>147]
…。
[昏色に沈んだ瞳に、薄く光が乗って濡れる。
魔王が弟の体に触れて何か言い、それに対してツィーアが魔力の波動を用いて話しかけている。
『斯様なところに置くか…喰らいたくて困る』などと]
……
[俯くかに顎を引き、そのまま。
命があるのは、やがて移動する兵器がモーザック砦に近づいた頃。
改良した玩具の働きぶりを試したい、とツィーアはヒトガタを立ち上がらせ、外へと出した]
『双子? ああ…あれか』
[罠を避けろと王から声をかけられ、ツィーアはそわそわと煙を吐いた>>135]
『闇双子… ああ
では
そう、砦へ行かせず長耳共の死を刈るか
あれらは人間などよりもよほど美味かろうな』
[そして、ヒトガタは砦攻めではなく、ミュスカの森のエルフを殲滅するために、残ることとなった>>117>>118]**
─ ツィーア下層 ─
[階段構造から転落した小さな気配>>160
その下は、破光兵器の魔導炉が息衝く空間だった。
全ての経絡の中心、祭壇のような装置の中心には拳ほどの窪みが]
『…お前?』
[思い出した、というように、不意に波動が空気を震わせた。
その波長を汲み取れるものならば、城が囁く音声として聞こえるだろうもの]
『覚えている、その妙な命
人形と話していたな』
[お前の死を貰い受けるとヒトガタに言わせた相手だ。
ではそうしようか、と喉を鳴らすように]*
─ ツィーア下層 ─
『何故だ?人形遊びは面白い』
[疑問系ではあるけれど、会話の体をなすことない波動。
耳目のない兵器は、感じ取る気配を目標として捉え、]
『お前も少し楽しい。好きだ』
[空気が帯電し、白い光が鋭く渡った。
魔の雷は焔まとったカードの一枚を貫く。
苛烈さを増した戯れは、カードと人間の区別つかずに断続的に弾けた。
往生際の悪いという獲物、いずれにせよ体力という概念は考慮されない。
延々と続く放電の攻撃は、飽きるか、逃げられるか、遊び以外に興味を覚えるまで]**
─ 魔軍本体 ─
[ツィーアは怪訝そうに塔を揺らした。
夜空を焦がす炎]
『消えた。あれは好かぬ罠だ』
[魔の軍勢に含まれる亜人達が罠なり反撃で死ねば、兵器にとっては触媒を得る食餌の時となるはずだった。
しかし、命の気配は知覚範囲から減っていくのに、立ち上る死のエネルギーが足りていない。
不満げな唸りと共に尾を打ち振れば、魔法兵器の後方で不運なゴブリンが数体、死の花を咲かせる]
[やがて砦が近づけば、炎の回廊と幻術の落穴が魔軍を挫き、減らしていると知れた。
我が王の苛立ちはツィーアの苛立ち。
下された命>>199に従い、城砦は大地を引き裂くが如き咆哮をあげた]
[攻城兵器は翼を外へ露出させる。
マルサンヌの生き残りならば決して忘れないだろう、災厄の光を放った射出翼。
人為的に短く切り落とされた翼は12対、臨戦を示して共鳴する魔導の波動は、衝撃波となって張り子の城へと吹き付けた。
まだ触媒は足りない。
ギシ、ビシと火花を散らしながらツィーアは前方へ進む]
[馬防柵を前に停滞していた魔軍が混乱と恐慌と共に、左右へと割れ別れていく。
逃れそびれた魔物達を踏み潰しなぎ払いながら、攻城兵器は炎の回廊を目指す。
計らずも、それは魔軍の分断と撹乱を狙ったエルフ戦士団の助けともなった。
南からの現れた大鹿と騎馬の戦士達は、乱れた魔軍の右翼を強襲し食い破り、新たな悲鳴と怒号が草原に広がっていく]*
─ ツィーア下層 ─
[斬り裂かれた魔導の経絡>>196はエネルギーを振り零す。高密度の死は魔導炉に注がれ、あるいは床へ落ちて瘴気を撒き散らした。
機敏に動き始めた気配を追って、雷撃が幾度も閃いた。
あるいは壁の装飾が崩れ、物理的にも襲う]
『ロー・シェン?』
[なんだそれは、という反応の暫く後、
竜巻のように舞うカードへ火花を叩きつけながら音声は続いた]
『レオヴィルの王族か。あれは美味そうなのに。
だがお前も、美味そうだぞ?
シメオンになどに獲られてくれるな』
[フォローのような響きを帯びさせつつ]
─ 平原の戦場 ─
[森の賢者エルフの生き残りは、寡兵ながら一人が十騎にも百騎にも及ぶ戦士であり、
また強大な精霊魔法の使い手もあった。
吹き荒ぶ風、歪みに敵を飲み込む地裂。
疾駆する大鹿の動きすら捉えきれぬまま、魔軍本体の右翼は大きく削られていく。
彼らの狙いは移動城砦が戴く魔王、その人。
だがツィーアに顔があったとしてもそちらを一顧だにすることはなく、ただモーザックの前に張られた罠を薙ぎはらうべく進むのみだった]
来たか
[馬上、魔軍本体のやや後方にあったヒトガタは南へと馬の鼻を向けた。
強襲者を強靭な城砦へ十分に引きつけ、その機動性の利を抑えて攻勢を防ぐべき。人間の記憶はそう判じたが]
……刈り取ればいいのだろう
行くぞ、敵遊撃隊を殺せ!
[号令と共に馬魔へ拍車をかけ、ヒトガタは狂乱する戦場へ突っ込んでいった]*
─ ツィーア下層 ─
[気に入りの黒竜へ向けるよりも、攻撃は苛烈だった。>>228
人間が逃げるばかりでなく反撃してくるのが面白かったようで。
この城が我が王以外へ言葉を向けるのは殆ど初めてでもあった]
『自慢?』
[問い返す音声の波動は楽しげなもの、カードが集まればこれまで散漫だった気配の集簇として知覚する。
そこを目掛け、雷撃を練った]
『そのシメオンはお前たちの砦へ向かったのだ。
完成したロー・シェンに会いたいならば、
もう暫し長生きせねばなるまいよ』
[それは魔軍本体の進撃が始まる前。
魔将が先行したことを教えたのは手土産代わりか、殺意とともに放たれた太い雷撃は、
ひらり人間の気配に躱され、下層の壁へ大穴を穿った*]
[戦場を吹く森の嵐が雑兵を切り裂き、短弓の剛が狼牙を貫く。
鉄底族の大盾はエルフの魔法をも防いだが、大鹿の速度に対応出来なかった。
数を減らしていく魔の軍勢の間を、ヒトガタは青肌の馬で駆ける。
満ちる死を収穫して核が鳴いた──チリン]
ぅおお!
[右に片手剣を抜き、ヒトガタの左の指が結んだのは爆裂の魔法。
鞍上に腰を上げた人形の背後で空気が弾け、
爆風を受けて凄まじい勢いで跳躍した。
不意打ちそのものの激突は、回避できなかったエルフの腹へ深々と刃を貫かせる。
そのまま大鹿ごと引き倒すように大地へと転がり、ゴブリンを一体巻き込んで止まった。
絶命したエルフの体にめり込んだ剣の柄には手をかけず、ヒトガタは起き上がる。
腰から短剣を引き抜く動作は、爆裂や衝突を痛みとして認識しない静かさで]*
─ 炎の回廊・上 ─
[行儀よく止まった魔法兵器の前で、砦の出丸が黒い汚泥へと変じていく。>>236
広げた射出翼は絶えず光を帯びて、優美なほどのこの世ならざる景色を作り出していたが]
──
[黒竜が痛みに鳴いた直後、兵器の翼や体にも巨大な矢が飛来する。
それらはツィーアの外装を損ね、青白い火花が散った。
汚毒の霧に降り重なるように、死を練り上げたエネルギーの破片が瘴気と変じて散る]
[核を乗せたヒトガタとの距離は開いている。その分だけの弱体化は、矢を受けるたび剥落する浅い傷となった]
『…私にも下がれと?』
[竜が傷ついた気配、でありながら死なせるにも至らない攻撃に、ツィーアの声は不満の波動を起こした。
拗ねるような声を響かせながらも、前進の足は逆回転を始める]
『もう少しで満ちるが、この砦へ放って良いか』
[砦から遠い、平原の戦い。
血赤に染まった大地には夥しいゴブリンや、有力氏族の死骸が転がっていた。
けれどそれらを成し遂げたエルフ族も、その数を減らしている。
一体の人形は隠匿と毒蜘蛛の狡智、不死者特有の再生と、剣技や武術の枠から外れた狂猛、すべてを以って森の賢者達を狩り立てていた]
……
[氷の魔法が、腕に絡みつく。
エルフの戦士長の上に馬乗りになった姿勢で、ヒトガタは拳を見下ろした]
これでは。…滅ぼすに足りない、長よ
[完全に凍りついた右手をそのまま、相手の顔面に振り下ろす。硬いものと柔らかいものが砕ける音がした。
右腕が壊れるに構わず、二度、三度と殴打を繰り返し、横ざまから飛来した矢から身を躱すために飛び退る。
顔面を破壊されたエルフはそのままでも呼吸困難で死に近い。それを待たず、倒れた戦士に群がるのは最も低級な魔物であるワーム達だった。
チリン
加勢に現れたエルフへ向かっていくヒトガタの背後で、やがて大きな死が咲き誇る。
場違いなほど澄んだ音を立てて、核はその死を喰らった]**
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