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只今、戻りました。
[ 濡れ鼠のままではあったが、男は真っ先に、アデルの元へと足を運び、帰着を告げて頭を下げる。 ]
キタミ殿の御力を借りて、無礼な蛇には道理を聞かせて参りました。
姫君は、お怪我ありませんか?
[ 戻れば離れた間の無事を真っ先に問うのもいつもの事だ。* ]
[ 姿を見れば無事とは知れても、アデル自身の口から大事無いと聞いて>>135男の肩から漸く僅かに力が抜ける。 ]
この程度で風邪をひくほど柔ではありませんが...見苦しくはありますね。
はい、そうします。
[ 気遣う言葉をかけられ不承不承ながら頷いた直後、降り注ぐ碧の光。 ]
これは、水霊の癒しですか。
[ 疲れを溶かすような光に目を細め、小さく吐息をつく。 ]
...御意。
[ 重ねるように休息を命じられたのは、回復したのだから、すぐに職務に戻れるか、と、考えたのが読まれたのかもしれない。 ]
姫君、もしこの後、ユウレンの旗艦に御連絡されるなら、ナハティガルの騎竜師殿に私からの礼をお伝え下さい。
蛇の気を引いてもらって、助かりましたから。
[ ノトカーが、こちらに向けて贈った敬礼も>>128縄梯子から振り向いた時に目にしていたが、返礼する余裕がなかった。
せめて礼は伝えておきたいと、休息に入る前に、アデルに願いを告げておく。 ]
[ その後、服を乾かすために精霊師を探す途中、ミヒャエルの姿を見つけて>>134声をかけた。 ]
キタミ殿、さすがの術の冴えだったな。おかげで私も五体満足で戻れた。礼を言う。
[ 胸に手を当て、敬意を込めた一礼を贈ってから、顔を上げ ]
今の騒ぎが片付いたら、改めて、一度酒か飯でも奢らせてくれ。
[ 告げた口調は、男にしては、珍しい程、砕けたものになっていた。* ]
― 『澱み』の集う場所 ―
[ ミヒャエルへの礼を告げた後、服を乾かし、アデルの厳命に従って暫しの休息を取った。
それでも、最低限の時間でアデルの元へ戻るのは最早お約束の域だったが。 ]
また嫌な気配だな。
[ 精霊術を使えずとも、淀んだ大気は、その海域の異常を伝えてくる。
そう感じたのは、もちろん男ばかりではなく、水軍全体に緊張が広がった。 ]
[ やがて現れた、鈍色の巨大海老や蟹の姿に>>139刀の柄に手をかけながら、男は皮肉に口の端を上げる。 ]
また出たか、海産物。
[ あまり、美味しくなさそうに見える、この海老や蟹は食料になるのだろうか?と、考えてしまったのは止む無しか。 ]
[ どうやら戦いは避けられぬ様子と見定めて、足を踏み出した所へ、今度は蒼い煌めきが降ってくる。>>139 ]
これも、水霊の?
[ 僅かに身体が軽くなったように感じるのは気のせいか。 ]
水面を駆けることが出来る?それはまた...
[ やがて伝えられた効果に>>140男は目を瞠り、次にその視線を海面に向けた。 ]
そう聞くと、試してみたくなりますね。
[ 言うものの、今はまだ、護りを優先とするべきだろう、とは、解っている。 ]
[ 抜き打ちで薙いだ刃は海老の殻を破り、その身に食い込んで跳ね飛ばしたが、両断するには至らない。 ]
前よりも硬いか?
[ まだびちびちと跳ねている海老の頭に、男は刀の切っ先を向けた。 ]
[ 動かなくなった海老を蹴り避け、周囲を見渡す。種類が増えた分、雑多な印象の海産物達は、やはり、あまり美味しそうには見えなかった。** ]
― 水軍旗艦『八幡』・甲板 ―
[ 見渡した海面には、『淀み』の根源に近づくことを阻むように、鈍色の生き物もどきが群れている。
不気味とも見える光景に、臆する色なく道を拓くと名乗り出たのはミヒャエルだった。>>157 ]
キタミ殿なら必ず我らの進む先を拓いてくれるでしょう。
[ 見送るアデルに>>164静かに告げて、男は船縁まで歩みを進める。 ]
[ 背後では、アデルの檄に応えた>>165乗員達が気勢を上げ乗り込んで来る海老や蟹を、文字通り捌いている。
海上の鈍色を貫き浄化していく光の矢の軌跡を>>168見つめ、口の端を上げた男は、偶然に矢の射程を外れた海鼠のような生き物が、船縁に取り付いたのを目に止めた。 ]
運の悪いやつだな。
[ 刻まれた海鼠は、ばらばらと海面に落ちていく。 ]
姫君に浄化された方が楽だぞ?
[ 次に飛び込んで来たのは大帆立だ。 ]
...っ!
[ 帆立の殻を避け、身を両断しようとした瞬間、貝から砂混じりの潮を吹き付けられ、動きが鈍る。その隙に、ガチンと噛み付くように、貝殻が男の右腕を挟んで閉じた。 ]
く...舐めるなっ!
[ 持ち替えた刀で、右腕に食らいついた帆立貝の殻の継ぎ目を貫き壊す。
忽ちかぱりと開いた貝の身を、挟まれて血を流す右腕で、掴んで引き摺り出し、ざっくりと、今度こそ両断した。 ]
貝に喰われかけるとは思わなかったな。
[ 溜め息ひとつ落として、刀は左手に提げたまま、また油断なく海上を見据えた。** ]
[ 空から聞こえた注意事項>>192に、男がちらりと視線を動かしたのは、先程斬った帆立の身。なんとなく刺身っぽく貝殻の上に乗っていたそれを、無言で海へと蹴り落とした。 ]
さて。
[ 気を取り直した様子で、男はミヒャエルが切り開いた海の先を見る。 ]
これで届くな。さすがの腕だ。*
海龍?
いや、あれも「もどき」か。
[ 鈍色の殻を割って現れた存在に>>223男は、不機嫌な視線を向ける。船員でなくとも、海洋国家であるシンシャにとって、龍王の眷属たる海龍は格別の存在だ。
その姿を模倣する『澱み』なぞ、認められよう筈もない。 ]
[ やがて、ユウレンの精霊師から対処法が伝えられれば、ミヒャエルやダーフィトが露払いした海上を、旗艦も進み始めたか ]
姫君、大丈夫ですか?
[ 海龍もどきに接近するまでの間に、男はアデルの元へ一旦戻って、声をかけた。今度の問いは怪我ではなく、『澱み』にあてられ、疲弊していないかの確認のためだ。 ]
近づける所まで近づいたら、私も一度船を降りてキタミ殿と合流して援護します。
[ 答えを得れば、そう、先の行動を予告して ]
龍の逆鱗...見極めて壊すなら、その目と術を持つのはキタミ殿であるという気がするのです。
[ 海に生き、海を読み取る一族の裔たる彼ならば、と、そう告げた。** ]
[ 問い掛けに答えたアデルの言葉は>>242半ば予想通りのものだった。 ]
はい。
[ 限界を正しく見極め、前を任すと託されれば>>243緋に濡れた右手に剣を握り、アデルの前に捧げ持つ。 ]
我が姫の御心、我が剣にお預かりします。
[ 力だけではなく、心を連れて行く...そう宣して ]
後ろは、お願いします。
[ 笑みを残して踵を返し、白炎宿して輝く刀を手に>>245甲板から海面へと飛び降りた。 ]
は...!本当に走れるものだな。
[ 文字通りに波を蹴って走るという経験は二度とは無かろうと、どこか楽しげにさえ見える顔で駆け抜ける。水と風の加護の効果か>>231先駆けのミヒャエルと、双剣を揮うダーフィトへと追い付くのは早かった。 ]
はっ!
[ 気を散らすように双剣を揮い続けるダーフィトを嫌ってか>>239打ち払おうとするように振り回された海龍もどきのヒレの先を斬り落とす。落ちた部分は忽ち白炎に呑まれて燃え尽きた。 ]
貴殿、もしや、海坊主を沈めた御仁か?
[ 遠くにあって顔は見えなかったが、ダーフィトの身のこなしには覚えがある。そう気付いて、斬撃の合間に声をかけたが、相手に答える暇はあったかどうか。 ]
これは頼もしいな。
[ 答えが無くとも、その腕の冴えと覇気は確かなものと伝わって、男は、ダーフィトの背を守るような位置に立ち、続けて刃を揮う。 ]
ミヒャエル・キタミ!姫君からの命だ!
[ 砲撃や>>247精霊術も飛び交う中、奮戦するミヒャエルに、上意を伝える声を張り上げる。 ]
海を見定めるお前の目で、この海龍もどきの逆鱗を見極めて、叩き砕け!*
応!
[ 返されたミヒャエルの意気を受け>>257男は口の端を上げる。
ふと気付けば、もう一人、ユウレンの旗艦から駆けつけたらしい小柄な人影が目に入った。>>250 ]
これはまた...
[ 一瞬見事な剣技に息を飲み、目を奪われたのは、剣士の性か。 ]
おっと...!
[ 隙をつくように上から落ちてきた鋭い爪を刃で弾き返す。白炎の力が無ければ、出来ない技だったろう。 ]
顎の下...そうか。
[ ミヒャエルが見定めた逆鱗の位置を聞き、その求めに頷く。>>262 ]
承知!
[ す、と身を沈め、そのまま、先刻弾いた海龍もどきの脚目掛けて跳躍し、刃を一閃。脚への斬撃から逃れようとすれば、自然、身体は起きる筈との狙いだった。* ]
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