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[
ああ、 ─── これは…
いけないな、と思う。
のめりこんでしまいそうだ。
遊びで、手慰みで散らすには惜しい花。
もっと時間を掛けて折り砕いて、
心も体も屈服させて咲かせたい華だ。]
…………ああ。
俺のものにならなくても構わない。
[自制を。暴走しようとする欲望に手綱を掛けて。
最初とは違う言葉を口にする。]
構わないさ。
代わりに俺を刻み付けてやる。
俺を、おまえの一部として、 生きろ ―――。
[蹂躙することも壊すことも穢しつくすことも選ばなかった。
そうするべきではない、という自制の結果。
ある種の尊敬と敬意の結果として、
自分が彼女の生と交わった証を残したいと望み、
ゆっくりと、彼女の喉元へ唇を下ろした。]
[赤い氷の上に展翅され、のけ反った喉もとに唇を触れさせる。
少しの間、滑らかな肌を味わうように唇を遊ばせたあと、
鎖骨の上へと降りて、歯を立てた。
がり、と歯が骨に当たる感触がして、
鉄錆臭い味が口に広がる。]
我が命の源は汝と共にあり。
[唇を触れさせたまま口にするのは、力ある言葉。
術として成立するほどではないけれども、
言葉自体が力を持って、事象を変える。]
[どくりと身体が震える。
同じ震えを彼女も感じているだろうか。
自分の中にある気を、彼女の中に注ぐ。
魔に親しみ魔を取り込み、先ほども魔素を注がれた自分だ。
その一部が彼女の中に入って、どうなるかはわからない。
ただ、所有する代わりに印を刻むべく、
なにがしかの証を残すべく、気をねじ込んでいく。]
― 温泉 ―
[女の身体が苦悶にゆがみ、魂が軋む。
直接に触れた魔の力でそれを感じながら、
ふと、彼女が耐えきれないかもしれないという不安を覚えた。
しかし、それもすぐに頭から消す。
大丈夫だ、と不思議な確信を伴って。]
おまえは強い。
心も、魂も、強い。
だから。 ───…。
[縋り付いてきた身体を抱き寄せ、抱きしめる。
受け入れろ、と甘やかに囁きながら。]
[そのときだった。
世界が揺れるのを感じて、視線を転ずる。
そこに、先ほどまで無かった扉が現れていた。
扉が開き、人影が姿を現す。
冴え冴えとした金の髪を目にして、笑みを浮かべた。]
ずいぶん遅かったな、シンクレア。
[声に、愉悦の色が戻る。]
[彼が駆けてくるのを見て、女をそちらの方へ突きとばした。
次いで、おとなしく座っていた影の鳥を呼んで、首筋にしがみつく。
駆ける鳥に半ば引きずられながら、どうにか腕の力だけで背中に登った。
光宿した銀光が、鳥の尾羽を幾枚か散らす。]
味見はさせてもらった。
俺としては、もう用はないんだが、…
───どうする?
[問いかけは、女と男と、両方に向いた。]
[なにをする、という雰囲気でもない2人の様子を見て、鳥の足を緩める。
離れた場所に立ち止って、彼らを顧みた。]
次、を期待させてくれるとは、楽しみだな。
[魔女の言葉に、冗談のような言葉を返す。
その表情からは、先ほど見せたある種の真剣さは消えていた。]
[シェットラントが呼びかけるのには、軽く首を傾げた。
君自身の君。
意味が分からないと少し眉を顰めたが、時折感じる違和感・不快感を思い出して、不愉快だという顔になる。
それも、ほんの少しの間のこと。]
ならば、準備を整えて待っていることにしよう。
───おまえはどうやら、同朋ではなくなったようだからな。
たたかうのに、なんの遠慮もいらない。
全力を尽くしておまえとたたかうのは、
さぞ楽しいだろうなぁ。
[言葉通り楽しげに笑って、ふたたび鳥を走らせる。
その姿はやがて、白い湯気のどこかに消えた。]**
― 赤の宮殿 ―
[温泉を後にして向かったのは、本拠地と認識している宮殿だった。
治療や休息を、と思えば、ここに繋がるものらしい。
なにか治療の手助けとなるものが欲しかった。
熱湯に晒された両足は、ひどい火膨れを起こしている。
早急に治療しなければ、歩くのもままならない。]
[だが、宮殿に一歩足を踏み入れた瞬間、強烈な気配に意識を取られた。
身体の奥で共鳴するものがある。
呼び合っている。そう感じた。
気配に導かれるまま、宮殿の奥へ鳥の足を進める。
そして、それを見つけた。
もっとも豪奢なその一室、謁見の間とも言うべき部屋の中央に、赤い肌の悪魔が佇んでいたのだ。]
ほう。こいつは───
[思わず声を上げた瞬間、それがこちらを見る。
赤熱した石炭のように輝く目と、暫し見つめ合う。]
呼んでいたのはおまえか。
[臆することなく、召喚師は炎の悪魔の前に立った。
この程度の悪魔なら、幾度も見ている。
敵意が感じられない以上、恐れるものもなかった。
それに、これは影だと直感する。
自分が時折呼び出して使う程度の、ほんの小さな欠片をもとに実体化しているだけの投影体。
あるいは、砕かれ散った存在の名残か。]
自分の力を取り戻したいのか?
俺の中に、おまえの力があるとでもいうのか?
───…そうか。
[不意に認識した。
自分の中に、これと同じものがあることを。
鼓動持たぬ自分を動かしているのは、この力だと。
───違う。
自分は───……
否定の言葉は記憶の網から零れ落ちる。]
ならば、おまえの望みを叶えてやろう。
おまえの力の欠片がもう一度ひとつになるように。
[言葉を聞いてか、赤い悪魔が動き出した。
なにかを受け取ろうと、あるいは掴もうと伸ばされる手を冷ややかに眺め、懐から小さなナイフを取り出して悪魔へ投げつけた。
ほんの小さな、おもちゃのようなナイフだ。
細かな鱗持つ悪魔の肌にほんの小さな傷だってつけられそうにない刃は、案の定、鉤爪のついた足に跳ねかえって床に転げた。]
冥獄にそびえし無慈悲なる壁よ
死者を苛む刃の群れよ
我が求めに応じ ここに顕現せよ
[術の発動とともにナイフが砕け、破片が煌めきながら広がって悪魔の足元を囲む。
次の瞬間、無数の回転する刃からなる壁が悪魔の周囲に出現し、赤い肌を切り刻み始める。
怒りと苦悶の声が、宮殿に響いた。───9(20x1)]
[刃の壁は赤い悪魔を存分に切り裂いたが、
完全に仕留めることはできなかった。
傷つき炎の血を流しながら悪魔は怒り狂い、炎吹き上げる長剣で無数の刃を薙ぎ払う。]
おっと…。
さすがに一撃というわけにはいかないか。
[少し残念だという顔で呟いてから、素早く懐から小さな木片を取り出した。見ようによっては人形の形をしたものだ。]
我が身我が息吹はこれにあり
[呪文とともに木片に息を吹きかけ、入口の方へ投げた。
同時に、自分の周囲に召喚時用の防御陣を張り巡らせる。]
[床に投げられた木片は砕け散り、
代わりに術者の幻影が立ち現れる。
宮殿の外へと駆け出した幻を追って、
怒り狂った赤い悪魔は地を蹴り翼を羽搏かせて出ていった。
防御陣に守られた、本物の術師には気づかぬまま。
幻影の行く先は設定していなかったが、
ひょっとすると、なにがしかの縁がある者に引かれていくかもしれない。たとえば、先ほど気を注いだ相手、とか。]
[悪魔が完全に宮殿から出ていったのを感じてから、
防御の陣を出て、悪魔が立っていた場所に影の鳥を進める。]
……まあいいさ。
力の欠片は回収できなかったが、目的のものは手に入った。
[楽天的な口調で独言を落とし、鳥から滑り降りて床に膝をつく。
召喚された刃の残骸は既に消え、床には大量の血痕のみが残されていた。]
[悪魔の血で魔法陣を描き、陣そのものを触媒として術を編む。
複雑な術式はいらなかった。
呼応しあうものがある。
すぐ側に蠢くものを感じる。
世界の理が術と共振する。]
─── 来い
[力ある言葉で命じれば、魔法陣が沸騰するようにざわめいた。]
[地の底から湧きだすように、無数の影が蠢き這い出る。
翼あるもの牙持つもの、のたくるもの這いずるもの。
姿も形もさまざまなそれらだったが、力を渇望し、たたかいを望み、欲望に突き動かされているのは同じだった。]
俺に従え。
おまえたちに力を食わせてやる。
[異形のものらの前で宣言すれば、一瞬の沈黙の後、奇怪で雑多な鳴き声が一斉に上がる。
あるいはそれは、歓声だったかもしれない。]**
― 巨大な門が立つ荒野 ―
[黄砂の村に集うものたちが休息の時を過ごしている間、
召喚師もまた治療と回復に努めていた。
ただし、穏やかとは言えない方法で。
黒髪の死霊術師と戦った場所に赴き、瘴気吹き上げる門へ近づく。
門の影に潜んでいた
さあ、力を寄越せ。
俺とおまえは同質だ。
[門の前まで進み出て、影の鳥の背から降りる。
痛みを押して歩き、門より立ち上る瘴気に身体を浸した。]
[この力なら、良く知っている。
あの御方と同じ力だ。
敬愛し、崇拝し、いつかその地位を奪おうと思っている
瘴気は魔素の身体への侵食を加速し、
傷を塞ぎながら新たな烙印を残していく。
すっかりと癒えた身体は、むしろ以前より軽いように思われた。]
いいぞ。こいつは具合がいい。
どうだ。おまえも浴びていくか?
[影の鳥を呼べば、おとなしく側に来て蹲った。
不確かでとらえどころのない影の物質でできた巨鳥の中に、瘴気が濃く流れ込んでいく。
その体はたちまち質量を増し、さらにその姿をも変えていった。
大地を蹴る強靱な足はそのままに、翼は大きく広がり、尾羽もまた長く伸びる。首の付け根が盛り上がったかと思うと、新たな頭が生えて高らかに奇声を上げた。
ふたつ首を持ち、炎の代わりに瘴気を纏う禍々しい
準備はすべて整った。
では───奪いに行くとするか。
[闇の鳥に跨り、召喚師は進軍を開始する。
神の力の波動が最も集まっている場所、黄砂の村へ。]
[同質の、あるいは相反する力の気配を辿れば、
一か所に集まっているものが6つ。自分の側に2つ。
そしてもう1つ、離れた場所にあるものは]
こちらを片付けてから、取りに行けばいい。
なに。ほとんどを手に入れてしまいさえすれば、
あのような欠片を叩き潰すなど造作もない。
[待っているものは待たせておけばいい。
まずは大きな力へ向かう。]
― 黄砂の村 ―
[いっときの平穏を享受した村に、再び戦いの足音が迫る。
先触れは、遠く長く響く地響きだった。
無数の異形の者たちが立てる音。
蹄もち地面を穿つもの、大地を踏みつけ踏み鳴らすもの、
無数の鱗をくねらせて地を削るもの。
雑多な音が、うねりと振動となって村に届く。
本来は赤の亜神に仕えるべきものたちだろう無数の妖魔の群れは、今はひとりの召喚師がけしかけるままに破壊の旋律を奏でようとしていた。]
[当の召喚師は、群れの後方より巨鳥を駆っていた。
未だ飛ぶよりも地を駆けるのを好むらしい鳥の脚に任せ、妖魔の群れを追う。
厳密には、あれらは自分が召喚したものでもなければ、支配しているものでもない。
ただ、赤き悪魔の血を用いて主だと錯覚させ、欲望を向ける先を示し、破壊衝動に方向性を与えてやっただけだ。]
こいつらを相手にどう戦うか、見ものだな。
[そして、どのように自分の前に現れるか。
楽しみで堪らない、と笑みが浮かぶ。]
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