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…──腹を壊すぞ?
[喰えるものか。そうは言わずに、冗談めかした音を響かせた。
どちらがと言うこともない。
拒絶する音ではない。けれど受け入れた響きでもない。
ただ笑みの気配のみ乗せた唇は、今は明確に引き上げられる]
…はッ───…!!!!
[防御も何もあったものではない。
そこにあるのは、ただ、命を捨てた気迫と相手への執念のみだ。
身体ごとぶつかる勢いで、捨て身の攻撃を繰り出した。
突き出す剣先が狙ったのは、胴体だ。拙いとすらいえる攻撃。
けれど今はそれが、怪我を負った身の精一杯だった。
いつもの彼にならばきっと交わされるだろう、
そうして交わされたなら男はその場に崩れ立ち上がれまい。
全力の攻撃だった。二撃目のない、攻撃だった]
[どれ程共にあったろう、どれ程近くあったろう?
失くしたくなかった喪いたくなかった、
──── ギィ!!!
[なくすならばこの手でしかない、なかった。
だから討つのだ、討たねばならない……何のために?
己の名を呼ぶ友の声に叩きつけるように名を呼び返す腕に、]
な、
[───どん、と。意図せぬ衝撃が伝わった…いや。
意図した通りに、意図せぬ相手へと剣先は伸び]
……に… ?
[目が、見開かれた]
― 礼拝堂 ―
抱え込、む… ?なにを、言って、
[何も抱え込んでなどいない。
そう否定しかけて、黒狼を、そしてその向こうの友を見る。
彼もまた、血に染まっていた。その姿を見ると、]
────…
[つきりと、怪我とは別のものが傷む]
馬鹿な、こと───…
[ずるり。と、足の力が抜けて剣突きたてた男へと、
倒れこむような形になった。もう色々と限界だ。
意識が急激に遠のいて行く感覚に、焦りと…安らぎを感じる]
… して、
[誰が。どっちが?
己にこたえる声はないまま、
一度力を失った身体は最早言うことをきこうとしない]
────…、
[もう言葉を音につむぐ力も、残ってはいない。
また、と。唇の形だけで返した笑みを、友は最後に見止めたか。
きっと通じただろう、その確信が───信がある。
そのまま、意識は闇に呑まれた。
漆黒の狼の化身に身を預けたまま、その姿もまた中空へと*掻き失せた*]
/*
wwwwwwwwww
この状況に噴いてもいいと私は思ってる。おもってる。
wwwwwwwwwwww
wwwwwwwwwwwwwwww
― 馬上 ―
[その身に負った怪我は深く、意識は未だ混沌とする。
深刻な怪我は手当てされども、喪った血がすぐに戻るわけもない。
意識は深遠と表層の狭間を彷徨うまま、
僅かに傍にあるぬくもりを感じていた。
それが人のものか獣のものか、はたまた馬のものかも判然とはせぬ]
― いつかの時 ―
[いつものように赤毛の友と剣を打ち合わせて、
そしていつものように心地良く疲れ果てて笑いあった。
互いの癖から良いところまで。
お互いに話しながら、次第に話題が移り変わるのも常のこと]
お前とテオドール様にだけは、
[ある日、語ったものだ]
…実戦で勝てる気がしない。
[では他はどうか。
世の中には猛者が居る、彼らの技量は更に上であろう。
けれど彼らにはどうにか対抗し得たとしても、
それでもこの二人にだけは実戦で勝てる気がしない。
甘いのかも知れない。けれどそれも、良いような気がした。
この大切な友と、尊敬する師匠の二人。
彼らを斬る刃を自分は持たない。それで良いように思った]
[それを告げた友の顔はどうだったろう。
自分は、すぐに笑った。冗談めかして、軽やかに笑った]
もっとも負ける気もしないがな。
あの、盾を食らって倒れこんだ時のお前の顔ときたら…!
[くっくと笑っていると、笑いすぎだと怒られた。
それを甘んじて受けながら、まだ笑ってやった。
自分は、友を斬る刃を持たない。そのようなことはないだろう。
もし万が一あるとするなら──仮定の話だが──
恐らくは勝てないだろうとも思った。
彼を斬って一人生き残るなど、想像すら出来そうになかった──*]
― いつか、モアネットにて ―
…それで、ゲルトの様子は?
[アデルからの報告を受け、彼へ逆に問い返す。
変わりなく元気にしている、孤児院の子どもたちが会いたがっていると言っていた…そんな報告を、頷きながら受けた。
逆に問うなら、呼び出してしまえば早いのだろう。
けれど今はそれをしない。
…来ない。というのも、彼流の意思の示し方だろう。
いずれは呼ぼう。いや、折を見て向こうから来るであろうか。
来なければ此方から赴いても良い。
けれど今は、そのままに敢えてしておく。
これもまた、部下に向けた信だった。
他からしてみれば滑稽でも、これがゲルトとの在り様だった]
― 執務室 ―
…ふむ。ゲルトが発ったか。
ああ、構わない。いつものように承認を。
私の命で向かった、と。…なに、形式でも構わん。
それが重要となることも、あるものだよ。
[ゲルトの動きは素早い。
ことに最近、より一層身軽く動くようになったように思う。
それは訓練の賜物か、そのように彼がしてきたが故だろう。
だからこそ、重宝でもある。だからこそ心配でもある]
[新参の彼に身軽く動かれては、面白く思わぬ者も居よう。
足を引く者の出ないとも限らない。
故に男は、それを己の指揮下にあるものとして形を整えた。
取り立ててゲルトに言ったことはない。
隠してもいないから知っているかもしれないが、
別段口に出して彼へ告げたことはない。
ただ、彼を直接指揮下に置くにあたって始めたことだ。
彼が彼らしく、その力を揮えるように…自由にあるように。
上は責任を取れば良い。
そのように在れるだけの信頼は、彼の上に置いたつもりだ。
綺麗事だけじゃない。そうして部下が最大限の力を奮えるなら、
それは必ずやランヴィナスの為になるはずだった]
…野盗討伐のための援軍を?
[そのゲルトが出先で野盗討伐を行ったと聞いたのは、
彼の出立から少し後の話だ。
恙無く討伐した──と届いた報告についで、
当のゲルトが負傷したらしき旨の報告が遅れて届いた。
別部隊からの報告だ。恐らくは最初は口止めをしたのだろう。
そう察せられたから、男は短く苦笑を零した。
さて──これが知れれば、黙ってはいられないだろう人々がいる。
けれど部下の気持ちは理解出来てしまったから、
男は彼らに告げるよりも直接物資を手配する方を選んだ]
野盗討伐にあたって負傷した者らへの手当てとして物資を送れ。
ああ…あまり大々的にはならぬ程度に。
ゲルトには「暫し落ち着くまで様子を見るよう」伝えよ。
機は、あれに任せる。此方の処理は問題ない。
[怪我を当地で癒すというなら、そのままで構わない。
どちらにせよ、処理すべき仕事はあるはずだ。
ならば怪我人であろうと、現地にあるのはありがたい。
そんな打算と案じる心があい半ば。
恐らくその意は、かの部下へと通じるだろう]
終わったら…呼ぶか。
[そろそろ”機”であるやも知れぬ。
そんなことを思う間、自らの身に異変起きるなど、
その時は知る由もなかった*]
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