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[ ようやく取り戻せた平穏を確かめようとするかのように、腕が回された。
唇を重ねる文字通りの接吻けの感触に、面映さと喜びとを同時に感じる。
乙女が恥じらうように目を瞬かせ、指の背で紅の髪にそっと触れた。
傷口へと移った舌に、わずかに身を硬くするも、したいようにさせておく。
癒しであると理解していた。 ]
もっと、
[ 足りなければ血を供するとのつもりで告げたが、それは欲する言葉にも通じる。 ]
[溢れる血潮はこの世のどんな銘酒よりも甘く滋味深く、口に含めば舌が歓喜に溶けるかのよう。
喉を下る流れに沿って身体が熱を帯び、指先にまで伝播していく。
我らにとって血は甘露そのもの。
愛する者の一部であればなおのこと。]
おまえの血が私を蘇らせるよ。私の愛しい子。
こうしておまえとの時間を過ごせるのだから、攫われるのも悪くない。
[だからやめられないのだ、とまでは言わないけれど。
寂しさが募れば出る悪癖だと、彼の"兄弟"は知っていることだろう。
でなければ、魔物専門の人身売買組織の調査に、直接乗り込んだりするものか。]
[揺るぎない忠誠の眼差しがこちらに向けられている。
それが心地よく愛おしい。]
ではこのまま、
……ああ、おまえをここに寄越した子が外にいるね?
私から無事を知らせておこう。
あとのことも、あの子なら任せておけばいい。
[連絡は思念ひとつで事足りる。
短くも濃密な遣り取りのあと、おそらくは人知れずゴムボートは消えていくだろう。
攫われたあげく船旅で優雅に過ごす間の諸々の雑事も、きっとうまいこと処理しておいてくれるはずだ。
帰った後のことは考えないのが吉である。]
[必要なことを済ませてしまえば、これからのことに意識が向く。
そう、ウエルカムパーティーがあると言っていた。
仮装でもいいらしい。
これほど大きな船なのだから、あちらこちら見て回るのもいい。
その前に、手荒に扱われた痕を流してしまいたい。]
洗っておくれ。
彼らは私をあそこに放り出しておきながら、湯も使わせなかったのだよ。
[もはや体調は十分なほどに回復している。
それでも抱かれ運ばれるのを求めて、彼の首に両腕を投げかけた。]
[もっと、と告げられた言葉が耳の奥に滑り落ちる。
禁欲を課す子が自ら求めることなど無い、と理解していながら、その唇が紡いだ音は官能の熱を呼び覚ました。]
もっと ──?
[なぞった音の語尾を柔らかく上げる。
してもいい?と、して欲しい?と、両方の意味を絡み合わせ、殆ど引き倒すほどに彼の背を抱き寄せた。]
── 欲しい
[言葉の意味を帰着させ、彼の首筋に顔を伏せる。
髪の根本に舌を遊ばせ、耳朶を唇で食み、耳の下の窪みに口付けて、血の澪に牙を刺し込んだ。]
(64下に挿入おねがいします)
[ 白磁の牙が首筋を穿つ。
命を与える行為は、いつだって歓喜に満ちたものであった。
修道院時代に行っていた、束ねた縄で背を打つ行為にも似て、温かな法悦に身を任せる。
腕の中の主が満足して傷口を舐め、甘く濡れた唇で、攫われるのも悪くないなどと囁くのを聞けば、そっと腕に力を込めた。 ]
この身を役に立ててくださることをありがたく存じます。
けれど、御身が心配です。
[ 叱責でもなく懇願でもなく、ただ衷心から述べる。
容易に滅びることのない肉体であっても、痛めつけられた姿を見るたびに憐憫の情を覚えると。
それは最初に出会った時から変わりない反応であった。 ]
[待てと言われベッドの上に残されていた間、ころり転がってバスローブの感触を楽しんでいた。
戻ってきた彼に再び腕を投げかけ、身を委ねて運ばれる。
つま先に掛けられた湯を蹴って跳ね散らし、弾ける水滴に笑い声を立てる。]
気持ち良いよ。
とてもいい。
[溜められた湯の中に身を沈めれば、白い肌が淡く染まった。
おまえもと手を伸ばし、相手が着衣であることなどお構いなしに引き込もうと画策する。]
おまえを心配させるのは心苦しいな。
気を付けよう。
[案じる言葉は胸に刺さる。
その言葉が、心からの信愛の情から発せられていると知っているから、なおさらだ。
これからは少し手控えようと思う。たぶん。少しだけ。]
おまえの手で清めておくれ。
全身、くまなく。中も。
[世話を焼く手を求めて体を擦り付け、腰を上げて揺らす。
狼藉を受けた体は、奥にまだ違和感が残っていて気持ち悪い。
なにより、触って欲しくて疼いていた。*]
[ バスタブは二人が入っても広かったが、身を寄り添わせた。
いつでも手を差し伸べられるよう。
さらなる奉仕を要求されて、主の腰を太腿に乗せる。
中も、という意味を汲みかねて戸惑ったが、主は手に手を重ねて導いてくれた。
綻びた蕾。
主を捕らえていた男たちが、見慣れぬ武器を駆使したことを思えば、合点がいく。
自身は手にしたこともなかったが、そこを責める拷問器具があるという話は知っていた。あるいは拘束具だったか。
力を削ぐために薬を挿れられたのかもしれない。牙を恐れるならば、口よりも確実だと。
おいたわしい、と眉を寄せる。 ]
[ 特殊な武器や薬でない限り、傷自体はほどなく癒えるはずだ。
だが、つらいのは肉体ばかりではないことを、臨床奉仕に尽くしてきた経験から知っている。
あなたを、そしてこの身体を大切に思っています──
そのメッセージをこめて、優しい手つきで触診するように指を這わせた。 ]
[素直に入ってきた体を水の中で受け止めた。
水しぶきが跳ねて、湯が溢れ出す。
鍛えられた肉体は、濡れればなお美しくあった。
張り付いた布が無自覚になまめかしい。
同じ湯に浸かりながら、彼に身を委ねて寛ぐ。
洗って欲しいところがあれば仕草で主張したし、必要なら彼の手を導きもした。
肌を洗い清める彼の手つきに荒々しいところはなく、看護に慣れた手さばきは絶妙で心地いい。
彼の奉仕を受けるうち、身も心も洗い流されたような心地になった。]
[中も、との要求に、愛し子はなにか物騒なことを思い浮かべたようだ。
眉を寄せたその表情でなにを思ったのか察したが、訂正はしなかった。
それに、さほど間違いでもない。
自分を攫った者たちは心を折るための手段として犯したのだろうし、貫かれている間は逃げる計画に思考を集中させることなどできないだろうから。]
[後ろから触れる指先はどこまでも優しい。
だからこそ心地好くて、蕩けてしまいそうで、自然と腰が動いた。]
そこ―――、いい …もっと ……
[彼の指を奥へと誘い、気持ちいいところを声で伝えた。
腰が砕けてしまいそうになって、彼の腕に縋る。]
[満足する頃になっても湯が冷めないのだから、最近の湯船は良いものだ。
すっかり満ち足りた気分で彼の腕の中に納まり、心地よくまどろんでいたが、どこか遠くで鳴った時を告げる音に目を開いた。]
そうか。パーティーがあるのだったね。
せっかくだ。覗いてみようか。
[気分が高揚している今、思い立ったら行動は早い。
放っておけば湯から出てそのまま歩いていきそうな勢いだった。*]
[揺れ動く身体を抑え込むことなく、こちらが合わせるようにして触れる。
こんなに反応するようであれば、ちゃんと医師に診察してもらった方がいいのかもしれないとは頭を過ぎったが、対応できる医者が船内にいるとも思えない。
それに、今のところ、辛そうな声ではなかった。
癒してほしい場所を教えながら、むしろ、むず痒そうに笑っている。
多分に、戯れてもいそうだ。]
存分に──
[ 飽くことなく奉仕すると、濡れた髪のかかる耳元に告げる。 ]
[淫靡なこととは無縁でいながら、どうしてこの子はこんなにも胸疼かせるようなことを言うのだろう。
耳をくすぐる吐息に身をくねらせて笑う。
全てを委ねて悦びに溶けてしまいたいほどだ。
医者に、などと言われていたら、それこそ笑って彼を湯の中に押し倒していたかもしれない。自分に不調など無いと証立てするために。
彼との刺激的な時間を持てたことに、何だったら誘拐犯たちに感謝しても良い。]
[肩をバスタオルで包まれ、何処でと訊かれてはたと立ち止まる。
そういえば詳しいことは知らない。]
どこかに詳細があるのではないかな。
[連中が座っていたソファーに近づき、テーブルに散らかっている書類を一瞥し、それらしき案内を見つけて手に取った。]
ディナーとパーティー、両方開催されるようだよ。
プールは仮装でもいいらしい。
おまえはさっきのままでも仮装で通じるかな。
[帯剣した彼の姿は見慣れたものだが、時代錯誤だということも一応理解している。
からかうような口調だったが影は無い。]
しかし仮装となると何か身に付けなくてはならないね。
どうしたものだろう。
[少なくとも服を着る必要は理解した。
問題はそれをどこで手に入れるか、だが、基本的に衣服は誰かが用意するものなので、自分で調達するという発想が無い。
自分の術で手っ取り早く織り出す手もあったが、それよりは面白げなことを思いついた。]
そうだ。
彼らがなにか用意していないかな。
[わざわざ"商品"を豪華客船で運ぶのは、船の中か寄港先に取引相手がいるのだろう。ならば着飾らせるための服があってもおかしくない。
連中はなにを着せるつもりだったのだろう、という興味100%でクローゼットの扉を引き開けた。
そこで見つけたのは、 アランセーター と ゴスロリ 、そして ナイトガウン というラインナップだった。]
…なるほど。
[ナイトガウンだけを羽織ってみたが、傍らから懸念の視線が飛んできた。
セーターだけ、というのも同じだろう。
ならばこれを着てみようか。一式揃っているようだし。
手を借りて着つけた服は黒を基調としており、フリルとリボンの装飾がふんだんに為されていた。
スカート部分にもギャザーがたっぷりと寄せられ、パニエで膨らませれば重ねられた布地が綺麗な層となる。
首元は喉のあたりまでレース地で隠され、友布の手袋とガーターストッキングも身に付けれは、肌の露出はほとんど無い。
揃えて置かれていたレースアッブーツも、全てサイズは合っている。
誂えたようにぴったり、というかたぶん誂えたのだろう。]
連中が私をどういう目で見ていたのかが良くわかるな。
[あるいは買い主がか。
全てをきっちり身に着けた上で、納得の頷きをする。
ヒールのせいもあり、かなり背が高すぎる以外は恐ろしいほどに似合っていた。
髪も上げた方が良いのだろうが、どちらもそんな技術は無いから肩から流したままだ。
長いヴェールのついた帽子を合わせれば、それでも様になる。]
これでどうだい?
[くるり回って見せれば、ふんわりとスカートが広がった。*]
そう見えるかい?
[黒後家という評価に笑み浮かべる。
どこで調達したものやら、唇までほんのりと赤い。]
ならば連中のことも少し悼んでやるとしようか。
彼らがこの服を用意していたのも、予感があったからかもしれないね。
[なんて、自分の手で消し飛ばした連中に思いを馳せる。
ほんの一瞬だけ。]
そうだ。
仮装なのだから、名も変えよう。
この船にいる間は、ギィと名乗ることにするよ。
おまえのことはフィオンと呼ぼう。いいね?
[浮ついた口調で、唐突にそんなことも言い出す。
実のところ、それはこの部屋の乗船チケットに書かれている名前だった。
ここにいた連中が本名を名乗っていたとも思わないので、これは誰でもない名前だ。
非日常にもうひとつスパイスを振りかけて、機嫌よく彼に手を委ねる。
手折って差された花は華やかに香って、さらに心を酔わせた。]
そうなのかい?
それは残念だ。見てみたかったのだが。
盾も良いけれど、邪魔ではないかい?
[無理というなら仕方ない。
盾を携える姿も良いが、手を塞いでしまうのは困るだろう。
全身鎧もなかなかに動きの邪魔だろうというのは、既に思考の彼方だ。
そんな遣り取りの間に店員が用向きを伺いにくる。
彼のために服を見立てて欲しいと告げれば様々な服を携えてきた。
騎士風の仮装と理解したのだろう、それっぽい服が並べられる。
その中からシンプルなものをいくつか指差した。]
これなどどうだろう。
飾り立てないほうが、おまえの身体が引き立つからね。
[生成りのロングチュニックにサーコート風の布を被ってベルトで止めれば、それだけで様になるだろう。
彼の視線を追って白い翼に目が留まれば、暫し頭の中で想像する。]
あれは天使の羽のつもりかな。
あれもおまえに付けてみたいものだ。
[よく似合いそうだ、と想像の中で羽ばたかせてみたりもした。*]
[果たして船に馬場はあるのだろうか。
あるならば、嬉々として己の騎士を馬に乗せるだろう。
躍動する彼を見るのはとても心躍ることなのだから。
そのためならば金などいくら費やしても構わない。
そもそも、金が大切なものという認識も薄かった。
そんなことを気にしていると知ったなら、笑って抱きしめたことだろう。
おまえの心が愛おしい。
おまえを喜ばせるならば、私は何をしても惜しくはないのだ。
なんて、言っていたはずだ。]
[天使の羽を固辞する表情は真剣だったから、重ねては勧めなかった。
ただ、言いようが気になって、彼の胸を指で突く。]
おまえを罪に問えるのは、私と、おまえ自身だけだよ。
[既存の倫理も信仰の戒律も知るものか。
例え神そのものからの断罪であれ、おまえを好きにさせたりはしない。
彼と出会い、己が元に迎えた時から変わらぬ自負だった。]
[ともあれ、彼を試着室へ追いやって着替えさせる。
いかにも騎士という装いになった彼に満足して、再びパーティー会場へ歩き出した。
さて、まだパーティーは続いているだろうか。**]
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