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[21年前。友ノイアーに息子が生まれた。
オクタヴィアスと名付けられた子の誕生を祝いに行くと、アルブレヒトは、らしからぬほどに笑み崩れていたものだ。
美しい奥方に似たなと言えば、そうだと、これまた随分素直なこたえが返った。
この子も父同様、先に生まれたダンクラード様を支え、ラモーラルを守る柱となるであろう。
そう語り合うと、お前のところはまだかと水を向けられた。
チャールズと妻の間には、子がなかった。
少し身体の弱かった妻は13年前、政変を見ることなくこの世を去り、再婚となる前にかの政変が起きたものだから、チャールズは結局、子のないままこの年まで過ごしている。]
― 7年前・回想 ―
子どもなあ…。
そりゃあ、望まなかったといえば嘘になるが、
[ある時、マーティン相手に話をしたことがある。
7年ほども前のことだ。
カークの話から、何とはなしに兄貴に子どもはいないのかとか、そんな話になった時であったか。
男は酒を傾けながら、火を眺めつつ語ったものだ。]
……充分な「息子」を得ているからなあ。
[微かに笑み浮かべて、頬に示すのはディークのことだ。
少年期を抜けて青年に向かいつつある彼も、今はまだ男たちの目にはまだまだ子どもだ。
昼に存分に身体を動かし疲れたのか、火の傍に居眠りをするディークの姿に、男は目を細めて酒を煽った。]
贅沢なもんさ。
[ゆっくりと立ち上がって、ディークの元に赴く。
彼は主である。……が、同時に男の自慢の息子であった。
そのように思い、だから慈しみ、時には存分に叱りもした。
甘やかしてはこなかったつもりである。
けれど、寝顔を見下ろす男の横顔はただ愛情に満ちている。]
風邪をひく。寝るならば寝床で休まれい。
[ぽん。と、眠るディークの肩を叩いた。
寝ぼけ眼と目が合えば、軽く眉など上げてみせる。]
明朝は夜明けとともに森を出る。
寝坊したら置いていきますからな。
[明日の遠出の予定を改めて伝え、ディークの顔を見る。
まだ少しぼうっとした様子の彼の髪を、自然と出たといった風の掌でくしゃりと撫で、また目尻に深い皺を刻んだ───*]
[2年前。
ウォーレン・コリドラスが将軍を辞したとの報が耳に届いた。
チャールズは時折、別の名前で手紙を書く。
あて先は様々だったが、やはり州都に宛てたものが多かった。
宛先にハーウェンと記されたこともある。
通信に用いる経路は当初様々だったが、一時期からは専らカークに任せるようになっていた。最も信頼が置けると、特段口にしたわけではないが、そのままを以って示していたことになる。]
― 2年前・回想 ―
ディーク様。
ウォーレン・コリドラス将軍を覚えておいでですかな?
[その報を受け、男はディークにこう話を持ちかけた。
不審げな表情が過ぎるならば、彼について客観的な一通りの話をし、最後に自らの知る彼の人となりなど付け加える。]
かの政変の折には、クリーク砦を守り抜いた男です。
己の信を貫く男でしてな。
指揮は冷静沈着。
将の中でも、その判断力は群を抜いていた男です。
此度はノイアーに遂に弾かれたとも見えますが、
……恐らくは本人が引き時と見たのでしょう。
彼は恐らく、ノイアーに忠誠を誓ったのではない。
彼が誠を誓い守り抜かんとしたのは、
ラモーラルそのものなのだと儂は見ます。
故に引いた。落ち着いたと、見たのでしょうな。
[実際、ラモーラルは落ち着きつつある。
幾つかの不満は燻ってはいるものの、表面的には平穏なものである。
将軍が引き際と考えても、おかしくはない。]
だが、もしも乱が起きれば───
[乱は起きる。そう遠くない未来にだ。
そうなることを…そうすること未来を、自分たちは見据えている。]
……再び戻ることもあるでしょうが、
[だからこれも、ほぼ起こりうる未来の一つとして描かれる。]
彼が真に守らんとするのは、この国、ラモーラルです。
だからダンクラード様、もし彼にこちらこそがラモーラルを再び安定させ守り得ると思わせられるならば、引き込める可能性のないではない。
…少なくとも話をする余地は、あり得ると考えます。
[話が通じない相手ではない。
だがそのような相手であるが為に、逆に事前に味方に引き入れる如き細工は些か危険を思わせ難しいと思われるがと添えながら]
お心に留めておかれませ。
[ひとつ、名を彼の心に置いた*]
[様々な報告と情報を得ながら、男はそれを時にディークに知らせ、教えてきた。
彼が州都を追われた時、彼は未だ小さかった。
いかに聡い少年であったとはいえ、流石に全てを把握しきれたはずもないだろう。
だから、それを補うようにチャールズは折に触れて彼に対して様々な講義を行った。彼の父の成していたこと、彼の父に仕えていた者らのこと、その行く末に彼らに対する人物評まで。
それもまた、男が自らに課してきた「守役」の務めであった*]
ああ、止むを得まい。
…もとより分かっていたことだ。
[厳しい戦いになる、と。
彼の言葉に頷き、僅か唇の端を引く。
内乱を企図したのはこちらの側、
ウェストマールが手を出さないのは当面ありがたいが、
何のことはない、消耗せず見守ることにしただけだろう。
厳しい戦いになる。
それは内乱だけではない───その先も、また。
恐らくそれも分かっているのだろうと、目前の青年を見返した。]
そうか。マルコ・クロイツ…、。
… ほう、……?
優秀な元正規兵を、な。
やれやれ。どうやら形だけではないらしい。
[告げられた名を心に刻みながら、苦笑めいた顔で感慨を零すのはオクタヴィアスについての評である。
先の邂逅が思い起こされる。
話を聞かんと、心を届けんと差し伸べられた真摯な手。
それは形のみにあらず、どうやらウェストマールの人間の心までも掴むほどのものであるようで。
見事なものだ、と。
賞賛は心にのみ密やかに落とされる。]
一騎打ちか。……ふむ。
手が足りんのは事実だ。が、
[男が兵らに語った通りだ。
今この砦に詰める遊牧の民は、元来戦闘を専門とはしていない。
だから正面から当たれば勝機はないし、けれどそれより他に勢いとどめる手がないという局面に陥るならば、
───自分が出るより他、ないだろう。
そう考えている。
どうやらそれも見抜かれたな、と。
舌巻く思いは、こちらも心の裡に仕舞いこむまま。]
……。分かった。
己の命を最優先すると誓えるならば、考えておこう。
カーク、生きろよ。
この戦い、生き残ることも目的のうちである。
乱でどちらが勝利するにせよ、
のちには必ずウェストマールと対せねばならん。
その時にはお前も生きて働いて貰わねば困る。良いな?
───お前の親父さんに取り成すのは、容易じゃあない。
[戦いとなればそう甘いことを言ってもいられないとは百も承知で、けれど口にしてしまうのは、年寄りの性か。
案ずる言葉の最後には、軽く冗談めかした色を乗せ]
― クリーク砦 ―
[寄せてくる攻め手へと、森の民らの矢が降り注ぐ。
重い鎧を着た者には通じず、或いは盾に防がれる。
それでも諦めずに、矢が射掛けられる。
一軍が突出してきた。騎兵だ。>>458
それらが何かに足をとられたようによろめき、射倒される様子に、男はにわか仕込みの仕掛けが功を奏したことを知った。]
歩兵が来るぞ。矢に注意させろ。
射程が縮まってきている。
[手早く騎兵を下げ、すぐに重歩兵を編成する手並みは鮮やかなものだ。
重軽歩兵が組を成し、それに守られる形で弓兵が前進してくれば、いかに砦の優位を誇る防戦側とて些か辛い>>459
実際、距離詰められはじめた射撃に打ち倒される者が現れ始めた。]
──── 射かけよ!!!!
[歩兵らが踏み散らす枯れ草目掛けて、火矢が射ち放たれる。
ぱ。と、草に燃えた炎は、瞬く間に地の枯れ草へと燃え広がった。]
― クリーク砦・少し前 ―
カーク、いるな。……先程の話だが、
無理に一騎打ちはしなくていい。…が。
あれを掻き回して帰って来ることは出来るか。
[火矢を放つより少し前、男は影に退いた青年に話しかけている。
あれ。と、示すのは、じわじわと寄せ来る歩兵であった。
頭上より飛来する矢にもめげず、彼らは距離を次第に詰めつつある。
それを示して、男はカークに問い掛けた。]
じきにあれらは、網に掛かる。
…お前さんの土産を、少々使わせて貰ってな。
[土産はエディも持っていったらしい。
兵を通して判断を問われ、構わないと応じておいたから好きなだけ以っていったろうかとは思うが。]
───そこを、掻き回す。
[打って出る、と。
カークがなければ、自ら指揮を執ることも考えた案を示してみせ]
掻き回すだけだ。
混乱を大きくしたら、反撃を受けるより前に引いて来い。
出来るならば兵を持っていけ。…どうだ?
[素早さと同時に、その場の判断が高く問われる策だ。
やれるかと、ちらと軽妙なる青年へと視線を流した*]
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