情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新
[クレステッドは十文字槍を携え、ナサニエルの背に従う。
銀色の装甲をまとっているが、兜はかぶっていない。
ナサニエルの指示だった。
視野が広い。
その中に、不明瞭な動きを認めて、クレステッドは鋭く警告を飛ばした。**]
− 黄昏の地 −
[こちらが気づくと同時に、瘴気の雲に隠れていた魔物たちが飛び出してきた。
クレステッドは、その距離、方向、概数を声に出して報告する。
天使たちの反応も早かった。
もとより交戦の構えで遠征しているのである。
部隊長たるナサニエルを筆頭に、天使たちは魔物の群れに対峙した。]
…指揮を!
[クレステッドは、先陣を切って疾駆しそうなナサニエルに要請した。
陣形や攻撃のタイミング、そういったものを決定するのは指揮官である。
まして、こちらは寡勢だ。
闇雲にぶつかっては不利になる、と思われた。]
[けれど、ナサニエルは、うるさげに眉をひそめ、
一言、「容赦するな」と宣言したのみで、煌めく翼を翻して躍り込んでゆく。
すぐさま、援護の矢が流星雨のごとく、敵へと放たれた。
その阿吽の呼吸は、これまで共に戦ってきた仲間ゆえのもの。
彼らの間では、言葉による采配など不要らしい。]
── …ッ
[初陣のクレステッドは取り残されたような気分を味わったが、そんなことに拘泥している暇はないと、
すぐさま頭を切り替え、自分の務めを果たすべく、ナサニエルに続いた。*]
/*
ギィ様来た♡ にやける
そして、小規模軍団戦♪♪
使ってもらえない参謀プレイというのも楽しい (←
肩書き、「白銀の扶翼」でもよかったな。
え、色、染まるかもって? あ(
/*
魔物にタッチされて、もう受肉しちゃってる天使もいるようだけど、戦闘員でそれやってたら瞬殺なので、個体差!と唱えておくぞ。
キスとかされてから、じわじわ変容したい「性別 : 天使」です。()
[異臭を含む淀んだ空気がまとわりつくようだ。
初めての実戦なのに、そんなことを感じていた。
否、初めてゆえに、そんなことに意識を取られるのか。
そこかしこで呻きがあがり、魔物が落ちてゆく。
だが、味方も無傷ではない。元より寡勢なのである。
大きな魔物に行く手を塞がれた天使らが、魔を見上げることなど業腹とばかりに、機動力を駆使してさらに上空を抜けようとしたところへ、巨躯に隠れていた”サソリの尾”に奇襲を受けて散開する。
そうなれば各個撃破もされやすかった。
毒霧に包まれたきり、行方の知れぬ天使もいる。]
[クレステッドは、刻々と変わりゆく戦況を理性と身体とで把握し、処理せんと務める。
やはり、戦術指揮は必要なのでは?
地の利をもつ敵の増援が来たら、どうする?
乱戦に嵌り込んでは、客観的な状況把握が困難になる。
しかし、ナサニエルが突撃している今、戦場から離れるわけにはいなかい。
相反する任務に板挟みになったまま、
クレステッドは翼と同じ銀光を宿す槍を振るい続けた。]
[幸い、周囲の敵はそう多くない。
それが敵将の指示によるものだとは察せぬまま、
クレステッドは指揮官を探し求め ── ]
な…
[一点に視線が釘付けになる。]
[一瞬、ナサニエルが魔に取り込まれたかと錯乱した。
戦いの生成点に認めたのは、部隊長と同じような紅蓮のいろを戴く武人。
ましてや、その背には、風を捕らえる勇猛な翼の形も見て取れたのだ。
けれど、その四肢は異形に取って変わられている。
この魔族 ── 否、
これが堕天使 だ
かつて同胞だったのであろう存在は、鮮烈なまでの存在感で周囲を睥睨していた。]
[その敵将と、大天使の光が交錯する。
もはや、逡巡している場合ではない、と決断した。]
ナサニエル様を支援する。
鶴翼に結集せよ!
[参謀たる身で越権行為とのお叱りは謹んで受けよう。
クレステッドは堕天使に狙いを定めることとし、残存勢力に号令を発した。*]
[向かう先、魔軍の導き手は、さらなる異形への転化を示す。
手妻めいた技であろう。
だが、確実に戦闘力は増していた。
暗黒の羽根が大天使もろとも空間を薙いで、光を呑み込む。
蟲めいた有象無象がそこへ殺到してゆく。
クレステッドが声にするまでもなく、天使らはその速度を速めて斬り込んだ。
巨大な顎門めいた魔の陣形がそれを迎え撃つ。]
[ふたつの鋏が分断する光の奔流。
その奥央にあるクレステッドり回りだけは、不自然なまでに空隙があった。
喚ばれた…? そんな莫迦な
待ち構える敵将と視線が絡む。
その貌に浮かんだ表情に、フラッシュバックする光景と、魂を律する正義。]
…ナサニエル 様
[とっさに喚びかけた相手は、誰だったのか。
揺らぐ心を振り払うように、十文字槍をまっすぐに繰り出した。*]
[宙に舞う羽毛は、天に殉じることを厭わない天使たちの煌めきに等しい。
庇われたわけではない。
けれど、己ひとり、無傷のままでいることに焦燥を覚える。
まして、
かつて養育係が「ナサニエル様でしょう」と誤って名指した、あの樹上の深紅の太陽が再び現れ、
同じ抑揚で改めて宣告を為すのを目の当たりにすれば、
これまで信じてきた常識が崩壊するほどの事実に溺れそうになる。
似ている。 否、似ているものか。
いまならば、はっきりとわかる。
── この人だ。]
[けれど、
鍛錬された身体は狙いをブラすことなく、槍の穂先で除名された堕天使の胸を穿つ。
迸ったのは、血ならぬ魔焔。]
…っく
[触れてはならない。
本能的な拒絶反応に顔をしかめ、銀の翼をかざして飛び退いた。*]
[視軸を異形の堕天使から外すことなく、部隊に退却の指示を出す。
帰還して報告する義務を思い出させてやれば、了見してもらえるはずだ。
実際に、無事に戻れる者がどれだけいるかは別として。
自分が足止めになる、などと格好をつけるつもりはなかった。
そもそも自分は ── ]
囮だった のですね。
[もはやこの場に居ない大天使の思惑を推し量る。
この堕天使との因縁、そして兜は無用と言われたこと。
標的を誘い出すことはできた。 だが、]
[堕天使の掌が蠢く暗黒を生成したところまではわからずとも、槍が光を失ったのは見えている。
それは、この先を暗示しているようで不吉だった。
紡がれた約定の言葉と、接吻けの仕草。
加護の指輪をはめた左手の小指が、わずかに反応する。
── その指輪の作り手もまた、悪魔の奸計に晒されていることは知るよしもなく。>>265
これは、ある種の封印だったのだと、今ではわかる。
内勤ばかり与えられてきた理由もまた。]
[手負いの堕天使の呪詛を受けた十文字槍が投げ返される。
それは飛びながら裂けて広がり、空を覆った。]
Kyrie eleison.
[クレステッドはすかさず聖句を発し、翼を打ち振るって、真空の刃を乱舞させる。
けれども、突破口を作るは能わず、黒い檻は嗤うような音をたてて、天使を捕えたのだった。**]
[檻が完成した瞬間、クレステッドの身体はその底部に吸い寄せられるように沈んだ。
倒れ込む前にかろうじて踏みとどまったが、事態を呑み込んで目を見開く。
翼の持つ常時浮遊の力が発揮できていない。
この檻は、天恵を奪うものだ。
檻自体が墜落しないのは、これを作った堕天使の魔力によるものだろう。
今、その相手は文字通り血煙を燻らせながら、近づいてくる。]
[鉄の匂いをさせた堕天使は、おそれげもなく檻に身をもたれかけさせた。
クレステッドは、反対側の柵に阻まれるまで身を引く。
ほんのわずかな距離。
けれど、そうしなければ焦点があわないとでもいうように見つめていた。]
── …、
[幼い頃の名で呼ばれる。
そんな呼び方をするのは、同時期に幼天使だったメレディスくらいなものだ。
── その幼なじみも、魔物との戦いで失われたことを思い出す。]
[この堕天使が、成人時に与えられたクレステッドの名を知らなくても無理はない。
クレステッドもまた、あの日、自分に触れた天使をずっと「ナサニエル」だと思っていたのだ。
本当の名はなんだったのだろう。
どの時点で堕天したのか。 その理由は。
教えてほしい、という気持ちと、堕天使のことなど知ってどうする、という反発が鬩ぎあう。
自分に導きを与えようと約束してくれた深紅の天使。
ずっとこの胸に住まわせてきたというのに ──
言えない。 言ってはいけない。
堕天使を喜ばせるようなことは。]
[唇を引き結ぶクレステッドの周囲で、堕天使の血を授受された檻が蠢き出す。]
── っ!
[鎧の守りも物ともせず絡み付いてくる粘質の闇は、重く昏い。
かろうじて怯懦の声は抑えたが、それも無駄な努力だった。
喉を塞がれ、視界を閉ざされ、抵抗虚しく意識をもってゆかれる。
死んで光に還るのだ、
後悔など すまい…
**]
― スライムプール ―
[魔王の元を辞した後は、割り当てられた部屋ではなく遊興施設に向かった。
いくつか種類のあるスライムプールの中から、広さはそこそこだが底に立てば頭が出ない程度の深い竪穴に、薄緑の粘体が満たされたものを選ぶ。
連れてきた天使を、そこに放り込んでおいたのだ。
息はできるように吊っておいたから、溺れていることはないだろう。]
目は覚めたか?
目覚めのキスが欲しいか?
[計算通りなら衣服も程よく溶けて、いい具合になっている頃だ。
翼枷を鎖で吊られた天使に声を掛けてみる。
まだ未覚醒なら、軽く鎖でも揺すってやろう。*]
− スライムプール −
[目を覚ましたとき、周囲に広がっていたのは光あふれる草原 ── ではなく、薄緑色の液体だった。
首から下は、とっぷりと生温かなものに浸されている。
己が天なる光に戻る寸前で魔界に掠め取られたと気づくのに、さして時間はかからなかった。]
っは …
[身じろぐ。
けれど、それ以上、身体が沈む感じはなかった。]
[いつもと変わらず、足裏は地についてはいない。
四肢も動かせる。
それでいて、拘束されていた。
顔を仰のかせ、天井から下がる鎖を認める。
翼を縛ってあるようだ。聖光の奇蹟も使えなかった。
この身を捕えたのは堕天使だったのだ。
天使の技は熟知していよう。それを封じる方法もまた。]
[仄かなむず痒さを覚えて腕をもたげてみれば、銀の鎧の表面は細かい泡で覆われていた。
袖などはもうボロボロと崩れ始めている。
溶かすのか。
漠然とした結論に辿り着き、悄然とした。]
[慣れ親しんだ光と風の世界から隔絶され、魔物の滋養となるのはむろん、好ましくない。
ましてや、生きながらじわじわと溶かされてゆくなど。
けれど、嘆願の声をあげるつもりはなかった。
せめて束縛から逃れることはできぬものかと、密かに試している最中、硬質の足音とともに深紅の影が竪穴の
縁に現れた。
意識を取り戻している頃合いだと知っていたのだろう。
揶揄うような声に、律儀に首を振った。肯定と否定と。*]
[覗き込んでくる堕天使は鎧を着ていなかった。
ここは居城なのかと考える。
痛みについて問われ、やはり正直に首を横に振った。
これから痛む頃合いなのだろうか。
それを見に来たと?
けれど、そう断じるには、声に慈悲が滲んでいるように感じられた。]
[脱がせるのも面倒だった、と堕天使は言う。
それにしては大掛かりだから、他の理由もあるのだろう。
聖なる光をまとった槍は、その身を傷つけた。
同様に、聖銀の鎧もまた、魔物には触れがたいはず。
それを裏付けるかのように、堕天使はわざわざ手袋をして手を差し伸べる。
ほとんど無意識に、こちらからも手を伸ばして、その手をとった。
救いを求める者にするように。]
[一瞬の空隙の後、相手は未だ敵であることを思い出す。
だが、振り払うのは躊躇われた。
逆に、薄緑の溶液に引っ張り込むよう力を込める。*]
情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新