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[A線から音を合わせる。
寒暖の差のない船内の空調のおかげか、狂いは殆どなかった。
エチュードをいくらかこなしてから、好みの曲を弾きはじめる。
古いクラシックから、最近耳にした流行りの曲まで。
プロの演奏家ではないが、昔から鍛錬を欠かさなかった腕は確かなもので、もし聞く者があったとしたら、耳の肥えた者にも技術はそれなりに満足してもらえるだろう。
けれど、音の出し方は、型にはまったものではない。
決して荒々しいわけではないけれど、思い切りが良く、緩急が気儘だ。
ホールの音楽というより、山賊の宴会だな、と言われたことがある。
言い得て妙というやつだ。
左手が軽やかに弦を押さえて走り、
弓を持つ右手は柔らかく。
興が乗るにつれて身体を音に任せて、体が楽器の一部であるかのように、全身から音を出すように。
時に軽快に、時に大らかに、馴染んだ楽器を思うままに歌わせる。]
[やがて選んだ曲は、とある映画の音楽。
陸路を旅する穏やかなロードムービーの後ろに流れる、ささやかで優しげなメロディー。
ザ・ロード・バックを彩るそのテーマ曲は、映画の古さもあって、知る者は少ないだろう。
行きて帰り来る主人公の歩みの、その先にあるものは……
弦を震わせ、高音が歌う。
みしらぬ果てへと手を伸ばし、未だ知らぬ場所へ。
弦を震わせ、低音が響く。
押さえる指に響く振動に、込めるべき感慨を知らない。
ぽっかりと空いた、虚ろな白い穴の周りを――知らないものであるがゆえに奏でられないそれを、眺め、触れ、切りこもうとする――…
熱や羨望を持つことすら知らない、透明な欠落。
音と瞳に虚ろが射したのは、僅かな間のことだったろう。
そしてその間にも、高音と低音のはざまにある、もっとも多く奏でられる音たちは、地についた足を一歩、一歩、前へと運ぶように、確かな旋律を奏でていた。
歩み続ける音なら、奏でることが出来るのに。]
[やがて曲が終わる。
次も映画の曲を、古い作品に興味がある者なら誰でも知っているような、とある巨匠の名曲を続けようかと思ったのだけれど。]
くっそ、気持ち悪りィ……
[演奏を止めた。
二日酔いの薬?
買いません絶対に嫌だ。
注射とか、医者とか、薬とか、そういうのは御免蒙る。
この体に溜まった、色々と悪そうな成分をしゃきっと分解してくれるような文明の利器も、探せばあるのかもしれない。
いや、あるだろう。
フロントに預けたコートが、あっという間に仕上がって来たときのように。]
水……
[バイオリンを拭いて弓を緩め、ケースに仕舞う。
しばらくの間身体を休めた後、店のある区画に向かってふらふらと歩き出す。
その途中、視界の片隅に、白い塊が横切った]
……今日は毛玉の当たり日か。
[乗船した際羊を見て以来、猫と兎の方は見かけたことがなかったのだが。
頭にちょこんと帽子を乗せた、柔らかそうな白い毛並みが、澄んだ鈴の音を鳴らしながら廊下を歩みゆく。
子供や動物好きなら、さぞ喜ぶことだろう。]
[兎と乗員の女性なら、迷わず後者に案内を乞うことにした青年であるが。
ふと興味が湧いて声をかけてみた]
おい、ニャン公。
お前、雪を見たことはあるか。
それとも、白いから『スノウ』?
[恐らくは彼女(あるいは彼?)の業務とは関係のない、そんな質問をなげかけてみた。]*
[演奏を始める前のこと。
こちらの質問に彼女は少し驚いた様子だった。
楽器を演奏して小遣い稼ぎをさせろという乗客など、そういるものではないだろう。
それでも頭ごなしに否定しようとせず、よく考えて検討してくれているようだ。
『少しくらいなら』、と許可の言葉が告げられれば]
ああ、感謝する。
到着まで弾けないとなると、鈍って仕方ないからな。
[にやりと笑ってケースを開き、手早く準備する。
小遣い稼ぎとは言ったが、呼び込みをするわけではない。
足元にケースを置いて弾いていれば、時折気が向いた通行人が何かしら投げてくれることもある、そういうことだ。
このご時世硬貨をポケットに入れている者などそういないから、実際に金銭を得ることは滅多にない。]
リクエストがあるなら聞くよ。礼だ。
好きな曲があるなら言ってくれ。
[その場に留まるのは、乗員としての仕事なのだろうけれど、
色よい返事をくれた彼女に、折角だから楽しんでいってほしいと思う。
もし好みの曲があるならば、最優先で弾いただろう。
そうして、それほど長い時間ではない演奏が終わり、二日酔いがぶり返せば。>>134]
済まんが、どこか休めそうな場所とか、ないかな。
……実は、二日酔い、で。
[バツの悪そうな顔で、そんなことも尋ねる。
彼女とは、そのあとも言葉を交わせることはあっただろうか。
もし教えてもらえる場所があるなら、そちらに向かおうとしただろう。
いずれにしても、途中店の方向に向かうことになり、白い猫を見かけたのはそのときだったろうけれど>>135]*
[演奏が始まる前のこと。
リクエストは次回への保留と言われれば、快く頷く]>>159
ああ、昼間は大体いつもこいつを持って歩いてるから。
聞きたくなったら、いつでも適当に捕まえてくれ。
[演奏中は音に没頭しがちだが、周りを見ていないわけではない。
仕事として留まった彼女が、曲が進むにつれて次第に引き込まれ、耳で、目で、真っ直ぐに音を受け止めてくれるその様子に。
嬉しく思う高揚は、次に奏でる音へと込められただろう。
演奏後に拍手を向けてくれたときは、惜しいことに、込み上げる吐き気のせいで顔を見ることが出来なかったけれど。>>150]
[医療スペースという単語に、医者嫌いが頭をもたげ、咄嗟に反発しそうになる。>>150
けれども、向けられる心配げな眼差しに、ぐっと言葉を飲み込んだ。
――行くと答えておいて、適当なところで休めばいいか?
そんな思惑が過ったりもしたのだが。
“証人として、私がご一緒しましょうか?”
との申し出を耳にすれば、逃げ場はなさそうだと、こっそり観念する]
そうだな――…
ああ、一人でなんとかならないことも、ないけど。
“頼れる”乗員さんが着いてきてくれるなら、安心だろう。
[頼れる、という言葉は、『病人である証人』という言葉の響きに対する、ちょっとした茶目っ気でもあったけれど。]
[演奏する場所を尋ねた際、熟考の上指示してくれた様子は、真摯さを感じさせるものであったし。>>149
乗客に対する毅然とした態度とか。
船を褒めた言葉には、隠しきれない笑顔が浮かんでいた様子であるとか。
此方の体調を心配して、こんなところまで追ってきてくれたことだとか。
そういったことを、すべてひっくるめてのものだった。
からかう言葉でないことは、彼女にも伝わっていただろうか]
でも、無理にとは言わない。
もし他に仕事や予定があるようなら、そっちを優先してくれても
大丈夫だ。
そっか、名前言ってなかったな。
シメオン・ウォークス。
よろしくな、ベルティルデ。
[もし彼女が同行してくれるようなら共に、そうでなければ一人で、教えられた道を辿ることにする。
その区画の位置に覚えがあるような気がしたのは、何故だったか。
足を踏み出せば、ポケットの中で、一枚のカードがかさりと揺れた。**]
ブス… ∫ ; ∫ ジジ…
ブス… _____ ; ∫
;/ へ \ ∫ ;
∫;( >-/ /_イ\ ;
;/三>、_\ >)`z,>ミ)ヨ
/三(_rL__>ミ>≦三|
囮ヱヱヱヱヱヱヱヱヱ囮
囮災炎災炎炙災炒炎炭囮
◎┴┴┴┴┴┴┴┴┴◎
/*
とてもごめんなさいー!
投下タイミングいろいろ俺の方で間違えた。
うう、直してもらってありがとう、ベルティルデに申し訳なさすぎ。
医務室が多角になりそう? 話したことない同士で多めに話せればいい感じかな。
/*
あと、カークの…は、地球かネオ・カナンの、かなあと、予想。
俺の方は種が近い、他の惑星の異星人です。
村設定と齟齬らないように。
ーー第二エリア医務室前ーー
[医務室に向かう通路の曲がり角で、一人の男とぶつかりかけた。
やはり気分がよくないのが効いているのか、足音は聞こえていたものの、うまく体が動かない。
すんでのところで避けて顔を見る。身にまとった制服は、多少
の違いはあったかもしれないが、ベルティルデのそれと似た色合いのもので、船の乗組員だろうと知れた。
どこかで見覚えがーー…
ああ、と思い出す。]
悪い。
あんた、あんときの…
[数日前に訪れた第二エリアのレストラン。
創作料理に興味を惹かれ、注文しようとしたそのとき、『…をお持ちしました』と横合いから聞こえてきたのは、まさにそのメニューの名。
運ばれてきた皿を見れば。]
…腹でも壊して医務室送りだったのか?
あのときは助かった。おかげで普通のメニューを頼めた。
[数日前のことだったというのに、そんな言葉がつい口からでたのは、あの一皿の見た目とか色合いとか、名状しがたい気配とか、そういったものがあまりに、こう。
近くの席だったから、その味どうだ? などと話かけた記憶がある。
そういえば、一緒にいるベルティルデとは乗員同士知り合いだろうか? もし話すことがあるなら、会話を聞いていただろう。]*
―― 医務室前 ――
ああ、そういえばあのときも、そう言ってたっけな。
ただ、俺だったら――…
手前一人で食うより、一人くらい道連れにしてやるかと思うから。
どんな味だろうと、悪くねえって言うだろうと思ってさ。
だからあの時は普通の飯にしといたんだ。
[いいえがおで、そんなことを言った。
冗談である。本気に見えたかもしれないが。
実際は、見た目があまりに壮絶だったから回避したのだ。
この男はシェフと顔なじみの様子だったし、口ぶりから、常連であることは窺い知れる。
味が悪くないというのは本当なのだろう]
まあ、見た目がアレでも味は悪くねえってものも、よくあるしな。
フォッケンマゴットとか、
食ってみたら、あれも意外と行けたわ。
確かに普通の料理も美味かったな、今度行ったら色々試してみるか。
[出した名前は、とある惑星に生息する、大型の蛆虫。
脂ぎっててらてら光る、グロテスクな姿を思い浮かべる。
あれを捌くのはさすがに気分が悪くなったが、意外と行けた。
6(6x1)日ぶりの食事だったからかもしれないが。
なお、彼がこれからレストランに向かおうとしていることは、全く気付いていない。
ぶつかった時にふらついた様子だったことや、医務室から出てきたことは気になったが、空腹のせいとは知らず。
体調が悪かったとしても、医務室に行ってきた後なら大丈夫だろうかと、そこは触れずにおく。
ベルティルデと話し始めた二人が会話を終えたなら、挨拶に応えて男を見送っただろう*]
―― 医務室前 ――
[壁に凭れ、ポケットを探れば、二枚のカードに指が触れる。>>239
今時、紙媒体に連絡先を書いて人に渡す者も珍しい。
それも、二日連続で。
考えてみれば、昨日のあいつは船医だったようだから――この時点で、認識をホストから女たらしの医者に修正――ダーフィトとは知り合いなのかもしれない。
異なるようでいて、音に似たところがある二人は、思い返してみれば共通点も多々思い浮かぶ。
軽妙な話口調とか。
先程すれ違いざまに微かに香った、種類は違うようだが、喫煙者特有の香りだとか。
気になるようなものではないが、視覚以外の感覚が少々鋭いため、普通なら気にならない程度の香りに気づいてはいた。
ああ、もし知人友人なら。
ダーフィトは体調不良ではなく、茶飲み話で此処を訪れたという可能性もあるか。
そちらの方なら、いいのだけれど。]
[渡された紙片は二枚とも、中味を覚えこんでから捨てるだろう。
物は持たない。
“ 持ち去ることもなく すがることもなく
朽ちたものたちを 眠るべき地に 葬り
その身一つで ただ ”
――…
一度だけ、小さく息をつく。
右手に下げたバイオリンを持ち直し、ここまで案内してくれたベルティルデを案じさせないよう、静かに。
彼女と、あるいはもし近くを通る者がいたとしたら、言葉を交わすこともあったかもしれない。
医務室のドアを開けたのは、前の患者の診療が終了したと確信できる、十分に時間が経った頃合いだったろう。*]
―― 医務室 ――
[殺風景な医務室を軽くぐるりと見渡して、目の前の着崩した白衣の男の姿を見れば、病院嫌いの性分が疼く。]
ん? 安心しろよ、忘れたから。
此方の記憶ぶっ飛ばすまで飲ませてくれて、
手前はどれだけ飲んでも顔色も変えないでケロッとしやがって
二日酔いを処方してくれた不良医者が、
どんな風に患者を勧誘してくれたか、とかはな。
[ベルティルデは、そばにいただろうか。
それとも、医務室のあたりにいる誰かと、話すことでもあっただろうか。
もし聞こえていたとしたら、あれを同僚に知られるのは、彼にとって喜ばしくないことだろう。
その体面を慮れば、ばらすつもりはないけれど、少しばかりの意趣返し]
楽しかったんで、忘れた。
[こちらを案じる気配に、大したことはないという顔をしてみせるけれど、しばらく動いていたからか、やはり辛いものはある]
―― 医務室前 ――
[少し前のこと。
暫く待っていると、出てくる女性とすれ違った。>>290
先程室内から聞こえてきた声の張りや>>275、その足取りを見れば、先程覗いたときより加減は良いようだ。
どうやら、ここの医者は、患者を作る方ではない様子。
すれ違う彼女がこちらを見遣り、不安そうにしていることに気づけば、素知らぬ顔で目を逸らす。
そのまま医務室へと向かったので、不自然には見えなかっただろう。
お大事に、の一言は、互いの顔が見えなくなったあとの、口の形だけにとどめておく。
このようなときの常套句であろう――そして、先ほどダーフィトからも受けたその挨拶>>239、『良い旅を』は、
この青年が容易く口に出す言葉では、なかったので。]*
[そういえば、医務室には乗客のデータはあるだろうか。
乗船手続きの際、出身星系やこれまで訪れたことがある惑星等、一通りの履歴の提出をした。
……なんか、適当に申請した覚えがあるな。
メディカル・チェックがあったものについては正確だろうし、右足の義足については検査を受けたが。
ついでに言うなら、出身惑星も、気分的には『なし』だ。
書類上は、名前がきちんと書いてあるけれど。
航宙船の船内で生まれ、次に寄港した惑星で届けが出され。
戸籍上は両親どちらかの星系になっているようだが、彼にとっては文字だけのものだった。
まあ、二日酔いでデータが引っ張り出されることがあるかどうかは、医者の気分次第といったところだろうけれど。]
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