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お前なぁ……。
戦局より個人としての意識を優先するとは
指揮官としては失格だぞ。
[ため息をついて琥珀を見詰める。
が口ぶりとは裏腹に、視線は優しく]
ま、そんなことをいったところで、俺も同類だな。
お前の姿を見たら熱くなってしまって、
止まらなかったんだ……。
[顔を埋めるリエヴルの頭を、
大きな掌でで愛おしげに撫でた]
[続くリエヴルの訴えにはくすくすと笑う]
お前がディークに妬いてたって?
……それも知ってた。
もっとも、後から考えたら
妬いてるんだろうなってくらいだったけど。
そんなヴィーも可愛いって思ってたよ。
[リエヴルが長い睫毛に縁取られた瞳を閉じても、
暫くは飽きることなく彼の安らかな寝顔を見守っていたが
もう彼と争わなくてもよいのだという安心感と、
さすがの自分も疲労するほどにリエヴルに消耗させられたのか。
いつしか夢の中に意識は落ちていた]
― いつかの海 ―
[青い空に青い海に白い砂浜。
太陽がきらきらと地上を照らしていて、
何の憂いもないと信じていたあの頃。
[リエヴルが注文しすぎた西瓜を前に不貞腐れていた。
その表情がなんとも可愛らしくて、
これだけで西瓜を頼んだ甲斐があったとも思う]
[場面はかわり、
むっとしたリエヴルが2本の刀をもち、
目隠しやぐるぐる回ったことなど微塵も感じさせない動きで、
次々と西瓜を叩き潰してゆく]
[狂ったような嘲笑をあげて、
リエヴルが見知った人々を西瓜のように叩き潰していた。
潮の香りに濃い鉄錆の臭気が交じり、
白いキャンバスに赤い絵の具で
『死』という名の絵が、見事に描き出されてゆく]
リエヴル!
[彼は嗤っていた。
それにも関わらず彼は、
その場にいるもの全てを傷つけながら、
自分を傷つけているようにも思えた。
そう考えるのはあるいはそうであって欲しいという、
自分の願望だったかもしれないが]
[自分がその萌黄にうつしていたいのは。
クールを装っていてもどこか可愛げが滲んでしまい、
誰からも愛されているのに、自分ではまるで自覚のない。
そんな今の彼であって。
見知った人を西瓜のように屠って眉ひとつも動かさない、
愛を知らない子のようなリエヴルじゃなかったから。
斬られるのを覚悟で構わずに飛び込んで、
後ろから彼の背を抱きしめる]
ヴィー……!
やめろ!
俺はそれ以上お前のこんな姿を見ていたくない。
……愛してる。
お前の為なら何だって出来る。
俺の命だって差し出せるから……。
もう止めて欲しい。
[それでも。
どんなに彼の手が血で朱く染まっても。
リエヴルを愛することには代わりがないのだ]
― 現在・青い世界 ―
[そこで意識は途切れ、はっと目が醒める。
夢の名残か、リエヴルの身体をきつく抱きしめ、
一筋の涙の跡が頬に残っていた。
腕の中でリエヴルが不安げな瞳をしている。
彼も同じ夢を見たのだろうか。
理由もなくそう思い]
大丈夫……。
ずっと側にいるから。
[手を伸ばしてその頬を撫でた]
ディーク……?
[一方的な再会を果たしたディークは、
手の中に認識票を握りしめてあの日のように泣いている。
彼に何が起きたのだろう。
一語一句を聞き漏らすまいと神経を集中させて]
普通の女……?
フレデリカ……か?
[彼が自分以外の、そして女で泣くとなれば、
それはフレデリカ以外にないのではないか]
ディークとフレデリカの交流が
公国に戻ってからも続いていることは、
ディークとサシで呑んだ時にでも話しをしただろうか。
フレデリカを語る時の彼は、
とてもフレデリカを大事に、
眩しそうに見つめているように感じた、
それゆえに2人の間に何かあるのではと思いながらも、
リエヴルの件もあって彼と色恋沙汰の話をするのは
自分からは避けていたから。
実際のところを知ることはなかった。
ちなみにそこまで2人の仲を想像しながらも、
フレデリカが女性であることまで思い至らなかったのは、
自身の性癖が邪魔をしていたのだった]
[だから戦争が始まった当初。
敵指揮官の暗殺案が出た時に、
彼は彼自身の理念とは別に。
フレデリカの手を汚させたくなくて、
暗殺にあそこまで強固に反対したのではと思っていた]
あの後さ、俺、お前とフレデリカのこと、
どうなってるのか話したかったのに……。
結局話せないままだったな。
[止むを得ない。
自分も彼も部隊への指示やら、本国の連絡やら
やらなければならないことがたくさんあって
友とゆっくりする時間も持てなかったのだ]
[そして今、彼が泣いている。
いなくなったものより遺されたもののほうが遥かに辛い。
その辛さは自分がよく知っているから]
ディーク……。
無理はするなよ。
俺の……お前の後輩は揃いも揃って優秀なんだからさ。
どうしても辛くなったら、少し休め。
出すもん全部出しちまえば、
その後は、前に歩き出すしかなくなるからさ。
[彼にこの言葉が聞こえたら、また甘いと怒られるだろうか。
だが死んだ今だからこそ、
彼を指揮官としてではなく、ただの親友として。
言葉を掛けたかった]
[やがて友は再び立ち上がる。
この戦争を終わらせる為に。
リエヴルに焦がれるあまりに彼に渡した通信石が、
今は帝国と公国を結ぶか細い繋がりとなっている。
それで自身の犯した罪が消えるわけではないが、
遺されたものの未来に繋がるのであれば、少しは心が慰められた]
[ディークの指示で執務室に呼ばれたのは、
僅かにベリアンとレナトのみ]
……少なくなったな。
[そう呟いて、軽く息を吐く。
シロウは本国に送られ、
カサンドラは帝国によって「奪還」された。
ミヒャエルもまた行方が知れない。
フレデリカは先の会話で死んだものと予想され――]
ウーツもいなくなった、か。
[元より傭兵の彼だ。
敵との戦いで死なずとも、
敵への寝返りや、戦場からの離脱でいなくなる理由は
いくらでもつけられる。
そしてもし彼が本当はエルンストならば。
どこかで生きていてくれたほうがいい]
お前ら、あんまり早くこっちに来るようだったら。
寮長として、罰を与えるからな……?
[そう独り言を零している間にも、
ディークの話は先に進み、
先のジェフロイとの会談の内容が、
ベリアンとレナトに伝わる]
[2年もの間続いた戦争は、
両軍の海軍をほぼ全滅させ、
妻や子から大事な父親を奪い、
シュヴァルベの地を焼きつくし
若者たちを旧友との戦いに向かわせた。
だが、今度こそ終わって欲しい。
また戦争が起きて。
自分ではない誰かが。
自分のように最愛の人と引き裂かれる思いを
味わうことがないように。
だから――]
ディーク。
………………頼むな。
[自分はどれだけ親友にこの言葉を投げたのだろう。
そしてその期待が裏切ることは一度もなかった]
『 俺に、貴方といる資格が――…あるので、しょう……か……。』
[意識が浮かび上がる直前に聞こえたリエヴルの声が、耳に木霊する
資格なんてあるはずがない。
だって他ならぬ自分が彼と共に居たいのだ。
それなのにどうして資格なんて必要だと思うのだろう。
それは彼が自分を信じていないということではないか]
[現実ではない出来事なのに、
それが彼の心を暗示している気がして。
こうして寄り添っていても、
心の奥底で彼は自分を――
そう思った時、思わず手が伸び、
パンと乾いた音とともに、手が彼の頬を打っていた]
ヴィー……。
俺は、お前からそんな言葉を聞くために
今まで戦ってきたのか?
俺たちは互いに命を賭けたのに。
それなのに、今更資格なんて訊くのか?
一緒にいる資格がないのなら、お前と直接戦ったりはしない。
お前の相手なんかしないで、部下に撃たせればいいだけだ。
そうしなかったのはお前を殺すなら俺の手でって思ったし、
殺されるならお前にって思ってた。
俺にはお前だけなんだ。
他の誰でもお前の代わりはつとまらない。
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