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[あるいは痛みを伴うことこそを、望まれていたのかもしれないけれど。
戦闘の手段として研がれていない牙は、食餌に対してはただ甘美を与うための毒しかもたない]
──…
[眉を寄せる。
口腔に広がる滋味。淡い薫と力強い拍動、けれどこれは──]
ん…
[微かに吐息を零し、己の記憶のほつれを探して目を細めた*]
[血潮を吸い尽くせば、人間は脈も体温も保てず死へと転がり落ちる。
その程度のことは周知だろうけれど]
……
[少なくとも、最初に意図したよりもはるかに早く、吸血鬼はその唇を離した。
せいぜいが眩暈や脱力をもたらすだろうと思われる量。
牙の抜き際、破った血管と皮膚に流血を塞ぐ弱い治癒をもたらしながら、顔を離した]
[鎧を外した騎士の、胸へと左手をあてる]
どうして
人間ではない?…いいえ、お前は人間のはずだわ
[困惑めいた感情がおもてに過ぎった*]
そう、お前は人間
[言葉を重ねるように返し。
時間をかけてゆっくりと微笑を浮かべた]
たぶん吸血鬼とすれ違いでもしたのかしら
お前か、近しい親族あたりが
[親に対し、血の子は狗のごときもの。どれほど薄くとも決してその気配を見失わない]
ただほんの少し、お前から
どうでもよい、些事だわ
そう、それは良かったことだね
人間にとっては災禍そのもののような方だったもの
[唇についた血の雫を舐め取る。
甘やかな芳香が鼻腔に漂い、瞬いた。
ペンダントを拾う仕草を見て、鴉が肩へ戻って来る。
この男が何を考えているか想像しようとして、馬鹿らしいことと笑みを深め]
もう今のお前からは私の匂いしかしないでしょう
興は削げたけれど少し、そう。せいせいした
私は、結ばれた約束は違えないのメルヒオル
祈りならば、もっと大切なものに使うことだわ
[くるると喉で笑った。
騎士の務めと彼は言う。そのために、自らの命も顧みず、辱めと考えるだろう行為すら諾々と受けいれてみせた。
けれど騎士という役柄にすがって己を保とうとしている彼は、すべてを取り零した時には。
それでも立ち続ける術があるかしら]
私たちの間の塵ほどの縁によって、ひとつ教えて差し上げよう
先ほどの人間たち、私は手出ししないけれど
[それから、さきほど絢爛公がしたように>>1:316
彼の視線を導くよう、手を掲げて背後を示す。
人間たちが去った方、そこに降り積む、禍々しい霧]
お前がこれほどに働いても、手遅れかもしれないよ
聞こえない?
──彼ら、殺し合いを始めているのではないかしら
― 教会 ―
[バサ
澄んだ青(黒)の翼をはためかせ、鴉は霧の波間を泳ぐように翔び]
カァ
[聖堂、屋根の壊れた鐘楼に留まった]
くるる
[耳を傾けるように首を動かす*]
あら、また会えたらもっと悦くしてあげるのに
いつでも私を呼んで?メルヒオル
[駆け出していく背へ、少しドレスの裾を持ちあげ会釈した>>183]
ふふ
子供の泣き声は厭だわ
可愛らしくて、悲しくて
ねえ?アズリウ
[眷属たる鴉の名を呼ぶと、教会の鐘楼の上で鴉がちょこりと足踏みをした]
投げ出したからと言って
相手に届けなかったならばそれは、捧げたとは決して言わないでしょう
[聖女は失われたけれど、ナネッテはこの手を取らなかったのだから。
対価を受けていないのだから盟約は最初から成立してすらいない]
それに、私は"今この時"見逃すと言ったの
言葉を曲解されては困るわ
身代わりとして敬虔な聖女を破滅させておきながら。本当に身勝手ね?
[ふふ、笑って歩き出す*]
[約定はこの御方のものだろうか。
一族が奉仕するは絢爛公のみ、如何に貴き御方であろうと余人に従うつもりはない。
しかし公の客人の機嫌を損ねるのは如何なものか。粗相があれば、宴の主の器量が問われよう。
であれば。
一言ご挨拶申し上げねばなるまい。]
[丁寧に一礼し、大鴉に向かって話しかける。]
お客人のお一方とお見受けする。
教会の中の者どもに保護を保証すると仰られたのは貴殿でよろしいか。
― 鐘楼 ―
[くるる、鴉は喉を鳴らした。
上がって来た戦士に懐くように頭を擦り付け。
そうして細い声で言伝を囀る。ヒトの可聴域を外れた音色]
──御機嫌よう
[翼を半分畳んで、頭を下げる]
──是、けれど保証は不成
──この者達の怠惰と欺瞞の罪への贖いに
毒を流してあげようと思っていたのだけど
──それは貴方の御心に適わないね、オトヴァルトの子ら
[ちょこ、と足踏みをして]
──いくらでも見繕いになって?
──私、貴方達の戦舞が好きだと思うの
先ほどの流星、美しかったわ
……毒、ですか。
[戦に必要とあらば毒も使うが、確かにこの武門の一族の尊ぶところではない。]
いえ、先に貴殿が手を付けたのですから、如何様にも貴殿のご采配に委ねまする。
薄汚い鼠の駆除には十分かと。
ええ、ですが、そう、貴殿がお許し下さるのならば。
……奴らは自らの行いを恥じて死ぬべきだ。
[鴉はくるる、首を傾げ、翼を畳み直した。
ちょん、ちょんと足場を変えて広場を見下ろす]
カァ、クァ
[愉しげに口遊む**]
― 街の中 ―
困ったね
[困っていない顔で首を傾げた。
胸の谷間で同じように蝙蝠も首を動かす]
……そう
こういうの、迷子っていうのかしら?
[三叉路で立ち止まり、くるりとターンする。
鴉は今、この街の教会で目の役割を果たしている。くすくす笑って、目に止まった方へ気紛れに足を向けた*]
あら
[聴こえる。
呻きや叫び声に幼子の啼泣が混じっていた。
ふわり、距離を削いで歩み寄る。
指を口元へ上げて笑みを忍ばせ]
まあまあ…
[ちょうど。
小さな籠の上に覆いかぶさるようにして事切れた男が、光の球へと変じるところ。
その背へ欠けて歪んだナタをまた振り下ろそうとしていた女の動きが止まる。
止まり、やがてナタを取り落として、緩慢に頭を抱えた]
ふふ、愁嘆場ね?
[絶叫。
狂気から立ち返り、また次の狂気へ墜落していく妻の絶望に目を細めた]
美味しそう。そうね、あれにしよう
[喉を裂くような喚声と共に顔を掻き毟る女の傍まで進んで、その喉笛へ指を巻きつけた。
──ふつりと叫びが止む。
そのまま地面へ崩れ落ちた女を見下ろし、ドレスの裾を摘まんで踏み越えた]
ええ、やっぱり
まだミルクしか口にしていない
[あの前菜のような少年も好いけれど。雛は幼ければ幼いほど清んだ甘い味がする。
父親に命がけで守られていた乳児は元気に鳴いていた。
優しく籠から抱き上げて、ふくりと艶やかな頬を撫でる**]
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