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生きる為に戦うのは、やぶさかではないのじゃ。
それこそ命の本分、生きるものの本質なのぞ。
じゃが、無駄な戦いは避けたほうが良いのも事実じゃ。
だから、おぬしが吾らに討ち果たされるより前に、御主のことやら、その剣のことやら、もっと喋ってくれても構わぬのだぞ?
[おおよそ強力な妖異が討ち果たされた戦場で、にこりと微笑んで術を編み始めた。**]
ひょっとするとあやつを打ち倒したら御主とやらに変身するかもしれぬのじゃ。
[ふふふ、という笑いつきで、しれっとそんなことを言う。]
倒された後のことをあれほど言うのだから、光や闇のもののように即消えるわけではないのだろう。
とはいえそれも、あやつのフェイクかもしれぬがの。
なに。
吾らだけでも光と闇どころか癒しの力も精霊の力も揃っておるのじゃ。
おまけに魔の者の力も当てにできよう。
聖魔も光闇も自然の力も怪しげな力も好き放題ぞ。
たかだか影程度、怖れることなどないのじゃ。
さて。
影の魔神とやら、
おぬしの本質、そろそろ見せてもらいたいものじゃ。
[動き出した影の魔神が紫の矢を驟雨と降らせる。
それを道化師の鏡が跳ね返し、魔王の力が喰い散らし、勇者の光が護りを広げる。
それでもあるいは抜けて来るものもあろうが、脅威とは感じなかった。]
文字通りの影ならば、消し去る方法はいくつもある。
役割としての影ならば、表に出てきた時点で負けなのじゃ。
対の存在としての影ならば、おぬしを倒せば御主とやらの力も削げるかもしれぬ。
これほど面白い相手というのもここにきて初めてなのじゃ。
[にこり笑って、印を組む。]
回る回る妖精の輪
光る光る蜘蛛の糸
飛べよ飛べよ蛍の子
踊れ踊れ時を止めて
輪の外は朝
輪の内は夜
いついつ出やる?
明けない夜が明ける時
[精霊に呼びかける呪文とは違うそれは、エルフの古い詩だった。
掲げた手の間から、森の妖精の力が溢れ出し、広がっていく。
淡く光る粒のようなそれは影の魔神の周囲を覆い、蛍のように熱のない光を投げかける。
森を荒らすものを"影無き光"で包み込み、内から外へ魔力が放たれるのを阻害する、森妖精の秘儀だった。]
しかし……
[不安といえばそういえば]
あの、奇妙奇天烈天外真境な色の飴はなんなのじゃ?
[絶対食べさせられないように、身体には気を付けよう、と思った。
とても思った。*]
ふふ。行ってこい、なのじゃ。
[「本物の面倒」との言い草に笑って、アルフレッドを見送る。
その背に護りの力が加わるのを見て取って、魔力の流れを辿った。
たどり着く先に、黒いエルフの姿がある。]
里の守り人にも負けぬ力よの。
さすがは吾の初めてさんなのじゃ。
[かみさまと呼ばれようと、敵味方となろうと、いまだに、初めて一緒に遊んだ友達、の認識なのだった。]
お見事なのじゃ!
[対の翼の如く飛び出すふたりが影縫い留められた時には息も飲んだが、その危機をも見事乗り越えて刃がふたつ、縦横に届く。
成し遂げた彼らに、声高く賛辞を贈った。]
さて。
[並の生き物であれば致命だろう、神すら断つ想いの刃を受けて、影の魔神はどう出るか。
警戒とかぬまま、じっと成り行きを見守る。**]
― 影の間で ―
相も変わらず、分かったような分らぬようなことを話す。
わからぬが、するべきことは明白になったのじゃ。
礼は言うぞ。
[鈴持つ影の魔神に向けるのは晴れやかな笑顔だ。]
役割のために生まれ縛られるおぬしらは不憫なもの
……と思ったが、吾らの多くも似たようなものなのじゃ。
吾らは吾らの役割を果たしに行くぞ。
おぬしも、達者でな。
[まさに消滅しようとしている相手にいくらか不適切な挨拶を残し、転移の力に身を委ねた。]
おお、おぬしは気が利くのじゃ。
ありがたくいただくのだぞ。
[勧められた水球を受け取って口に含む。
冷たく清々しい水が喉をうるおせば、心も体も癒されるようだった。]
借りなどと思わずともよいものを
おぬしは律義で良い子なのじゃ。
頑固者どもも少しは見習えばよいのじゃ。
美味かったのじゃ。
ありがとう、なのじゃ。
[誰に対してかの判然としない文句を言った後、すぐにも離れそうなイースに笑顔で礼を告げた。]
[そのときふと、胸に下げたヤドリギの枝が微かに光る。
樹精にそっと耳打ちされて、丸い目の笑みになった。]
そうか。あのときのあれを未だ持っていてくれたのか。
[かつて出会った時に渡したヤドリギの実は、持ち主の身から災厄をほんの少し遠ざける程度の力を持っている。
あの時よりも神樹に親しんでいる今なら、もっと力を引き出せるだろう。]
頼むのじゃ。
[同じ木から取った己のヤドリギを両手で包み、そっと祈る。
彼の懐で、赤い石が微かな熱を帯びたことだろう。
身代わりの力を帯びたその石は、いずれ彼の身を守ることがあるかもしれない。
たとえ自分たちと戦う時であっても構わない、と思っていた。*]
― 玉座の間 ―
[待ち構えていたそれは、影が言っていた通り、話の通じそうな相手ではなかった。
意思を持ってというよりは目的のためだけに動いているようなものだ。
影よりは、光や闇の方に近い感じがした。]
そのほうが分かりやすくてよいがの。
[樹精と手を繋ぐように重ね合わせ、周囲に沸く戦乙女たちを睨む。]
そちらのつごうや手違いで消滅させられては、吾らも困るのじゃ。
大人しくしていてもらおうぞ。
[樹精が力弾けさせたのと、戦乙女が翼羽ばたかせたのはほぼ同時だった。]
[捕らえた相手を、木の網はそのまま包み込み締め付ける。
圧の中で相手は消滅し、光に帰したが、光はそのまま玉座へ漂い、黄金の翼の彼女に取り込まれたように見えた。]
ふむ。
なかなか厄介な。
[これでは力を散らしたことにはならないようだ。
次の手を考えるより先に、上空から槍を構えた戦乙女が文字通り降ってくる。
咄嗟に飛びのいたが、穂先が腕を掠め、布地が悲鳴を上げて裂けた。]
[来い、と呼びかければ床材を割って鋭い枝が飛び出した。
それは襲い来た相手を食らうかのように、交差した。
実際、枝に続いて伸びてきたのは、木や蔦が絡み合って形作られた、翼のない竜のような姿である。
呑み込まれた戦乙女がそのまま消滅するのを見れば、小さく歓声を上げた。]
よいぞ。このままどんどん行くのじゃ!
[力解放した樹精が操る木竜の頭に乗って、はしゃいだ声を上げる。]
やったのじゃ!
[手ごたえと共に、戦乙女が消滅し、半ばが消える。
だがいくらかは向こうに取り込まれたようだ。
惜しい気持ちで見送っていたら、背中に圧を感じた。
竜が軋んだ声で咆え、樹精が警告の声を上げる。
取りこぼしていたもう一体の穂先が、真っ直ぐ背中の中央へ向けられているのを皮膚感覚のレベルで感じた。]
[間一髪、前方に身を投げ出した背中の上を、熱い痛み一筋残して穂先が通り過ぎる。
直後、振り回された竜の尾が戦乙女をひと薙ぎに叩き落とし、消滅させた。]
……危なかったのじゃ…。
[もう少しで、あの飴を食べさせられるところだった。
と、青い顔で立ちあがる。
はらりと背中はだけかけた服を、そっと樹精が押さえていた。]
ぬあぁぁぁぁぁ!!!
[味覚への壊滅的な打撃と引き換えに、体力も気力も充実していた。
そんな体験をする羽目になった元凶に、八つ当たりぎみの攻撃を飛ばす。
声と共に突進させた樹竜が、動き鈍った戦乙女たちを巻き込んでいき、壁に激突して動かなくなった。
巻き添えを逃れた戦乙女たちが、再び攻撃の態勢を取る。]
……少し下がるのじゃ。
[周囲に声を掛けたのは、尖塔を離脱する意思を示すものではない。
己の身を守るのを止めて、大きな術を行使するためである。
そして、タイガとイースの会話を耳にしたからでもあった。
彼の言うことは理にかなっている。賭けても良い、と思えた。
大地を消滅させる黄金の槍を止めるため、できる限りのことしよう。
ヤドリギのペンダントを外して握り、詠唱の態勢に入る。*]
[言葉と共にヤドリギの小枝を振れば、それは一本の矢の形になる。
蔓を編んだ弓に番えた矢を、上空に向けて引き絞った。]
神樹よ。吾らを守りし者よ。
空と大地を繋ぐ力を今ここに顕現せしめよ。
大地の力を、吾らに分け与えよ。
[呼びかけの言葉と共に放たれた矢は上空で砕け、細かな光となって舞い散った。]
[光が形作るのは、巨大な木の幻影だった。
それは空に向かって枝葉を広げ、大地に向けて根を伸ばす。
その狭間にいる始原の秩序にも、刻々と輝きます黄金の槍にも根を伸ばした。
幾度も焼かれ、打ち払われながら、飽くことなく無数の根が伸びる。
数多の灰の中から届いた根は、その純粋なる力を吸い上げ始めていた。]
イース!!!
[精神力を使い果たし、床に膝をつきながら叫ぶ。]
おぬしは神樹に護られておる!
心置きなく、ぶちかましてくるのじゃ!! *
[蒼穹の下を黒の獣が駆けていく。
その背を離れて小さな黒い影が跳ぶのが見え、すぐに爆発と、もうもうと上がる蒸気で見えなくなった。]
……。
[動けないまま見つめる前で、蒸気は薄れ、舞い散る金の羽根が見えた。]
やったのじゃな。
[安堵の声を零すのと前後して、床が小刻みに揺れ始める。
崩れるのだな、と、どこか他人事のようにぼんやりと考えていた。*]
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