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『君ぐらいの歳の子が読むには、少々難解そうな本ではないか』
[【図書館でのお喋りは控えて下さい】
白地に黒の文字で、そんな文言を記した細長いプレートが、書架のあちこちに取り付けられているはずだった。
にも拘らず、不干渉の約束――これは勝手に永恋が感じているだけだったけれど――を破って、声を掛けてきたものがいる。
その事実に驚いて、永恋は反射的にそちらを振り向いた。
けれど、声の聞こえてきた方向には誰もいない]
『下だ』
[リアルすぎる幻聴、というわけではないだろう。
静かに目を瞠っていると、再度先ほどの声が呼ばわった]
『君達人間は、誰もが自分の目線の高さにあるものしか見ようとしない。実に視野が狭い』
[思慮深げで低い、非難めいた声。
視線を下ろした永恋の目に飛び込んでくるその主は、白い毛色の立派な雄ライオンだった]
……嘘っ!
[こんな場所にどうしてライオンが!?
思わず身の危険を感じて小さな悲鳴を上げた永恋に、ライオンはゆらりと尾を揺らす]
『心配しなくても、人を襲うつもりはない。私は“そういう生き物”ではないのだ。
それよりも、気を付けることだな。
私の姿が見え、声が聞こえるのはここでは君だけだ。
頭のおかしい娘扱いはされたくないだろう』
[驚愕に強張った表情で、永恋は辺りを見回した。
いぶかしげな眼差しでこちらを見据える数人の利用客――、彼らの瞳は、確かに永恋だけを捉えているようだった]
どういう、ことなの?
[ライオンの方を振り返り、囁くような声で問い質す。
あぁ、そういえばこのライオンは喋っているのだ、と認識したのはその頃になってようやっと。
誰かのたちの悪い悪戯と言われた方が、まだ納得できる。
そんな非日常が、目の前に広がっていた]
『……君は魔法少女もののアニメや漫画を見たり読んだりするかね?』
[ライオンの返答は、なんだかずいぶんと素っ頓狂なものに聞こえる。
彼の黒い瞳が束の間、隣の書架に移されて、すぐさま永恋の元へ帰ってきた。
書架の上部に取り付けられたプレートは【政治・法律】
何を言わんとしているのかうっすらと察して、永恋は困惑しながらも首を縦に振る]
子供のころ、よく先生に見せられたわ。
趣味かどうか、と言われるとちょっと返答に困るけれど、話題の種には丁度良かったし。
法律の本は、将来の為に読んでるの。
私、裁判官になりたいのよ。罪人を裁ける人に。
[その言葉を、ライオンがどう取ったのかはわからない。
ただ、思案げに鼻を鳴らして、少しの間沈黙した]
『“誰”を裁きたいのかね』
[ややおいて、重々しく押し出されたのはそんな声。
鋭いな、と真っ先に感じて舌を巻いた。
そんなにわかりやすい顔をしていただろうかと、思わず自身の口元を手で覆う]
……罪人を。
善良な人々を虐げ、搾取する連中を。
[囁く声は、自分自身の耳にすらろくに届きはしなかった]
『それは、君の正義感かね?』
[けれど、ライオンは正しく聞き取った。そして問いを重ねる]
[頭の中を掠めるのは、優しくて儚げな青年の微笑み。
数年たった今なお、胸を掻き乱すほどに哀しく、永恋を悔恨に苛む面影]
――そう、ありたいと思うわ。
[ぽつり、と。
こぼした言葉には、祈るような響きが籠っている。
私怨ではなく。
過去の妄執に縛り付けられ、踊らされているわけでもなく。
彼のような人を救うために、永恋は進む未来を定めたのだ。
特定の誰かを、捌きたいわけではなかった。そう信じたい。
たとえ、胸の底に蟠る思いがあったとしても]
『……君が善良な人々を救いたいと願っているのならば、私はきっと力になれるだろう。
“趣味ではない”かもしれないが、私と手を結ぶ気はないかね?』
[永恋の答えを受け取って、ライオンがそう切り出す。
趣味じゃない。
そう、先ほどの魔法少女の話だ]
……あなたは、魔法少女のマスコットかなにかだと言うのかしら?
[いつしかこの状況を受け入れている自分に少しだけ可笑しさを感じながら、永恋は揶揄の混じる声で問う。
望む将来の為にも勉強は欠かせない。
ファンタジーな世界に首を突っ込んでいる暇などない。
それなのに、このライオンの話を聞いてみようと思わせるのは何が理由なのだろう]
『そのようなものだな。
私はリエーフ。魔女の契約者だ』
[図書館の閉館を知らせるメロディがひそやかに流れはじめる。
心地よく響くそれに耳を傾けながら、永恋は彼とはきっと長い付き合いになるだろう、と心のどこかで予測していたのだった**]
[参考書を数ページなぞり終えた頃、先ほど地下室へ下りて行ったツアー客の一行が戻ってきた。
相も変わらず賑やかに、ガイドの案内に続いてぞろぞろと書斎を横切ってゆく]
あぁ、ようやく戻ってきたみたいね。
[口の中だけでそっと囁いて、参考書をぱたんと閉じた。
これで地下室は静かになったことだろう。
一度訪れた場所を、ツアー客の集団が再度訪れるとは考えにくい。
これで観察しやすくなったわね、と学校の指定鞄の中に参考書を丁寧に収める]
『……ツアー客の帰り待ちかね』
だって、あまり騒がしいと気が散るでしょう?
[人が悪いと言いたげなリエーフに、面白がるような視線を流して足を踏み出した。
向かうは地下室――、ではなく、ツアー客が去った後も開きっぱなしになった書斎の扉]
開けた扉は占めるのが閉めるのがマナーだと思うけれど。
[ツアー客の最後尾は子連れの親子だった。
子供が閉め忘れたのだろう、と代わりに扉を閉めに向かう。
ドアノブを掴んで、何の気なしに遠ざかろうとしているツアー客達へ視線を向けた瞬間だった。
異様な大男>>81の姿が目に飛び込んできたのは]
……。
…………リエーフ、筋肉がいるわ。
[口からそんな言葉が飛び出すのに任せたまま、ドアノブを握ったポーズで呆けたように硬直する。
ついさっきまではいなかったはずの大男が、いつの間にやらツアー客の最後尾に加わっていた]
『…………筋肉という名称の生き物はいるまい』
[もっともな指摘が白いライオンの口から飛び出し、ついでに嗜めるようにぽふんと前足で脚を叩かれた。
えぇ、そうねと生返事を落しながら、工事の方かしらと遠巻きに視線を送る。
観光客というよりは、異人館の補修に訪れた業者さんっぽい容姿だと勝手に思った。
なんというか、この異人館の雰囲気と見事に噛み合っていない。
異人館と言えば耽美な雰囲気、という女子高生の貧相な発想の所為かもしれないけれど]
[それとも、或いは試練の参加者なのだろうか。
ちら、と頭の片隅に思うのはそんなこと。
何と言っても異人館に観光に来るように見えないから。観光に来るように見えないから。
大事なことなので頭の中で二回繰り返しつつ、そうなったら手強そうねと生唾を飲み込む。
――強そう!(物理)]
……っ、と!
[あんまりまじまじと凝視していたら、気付かれて不審に思われるかもしれない。
思い出したように書斎に引っ込んで、慌てて扉を閉めた。
乱暴と言うほどではないが、ぱたんという乾いた音が廊下に響き渡る]
注目を集めてない事を祈りましょう。
[扉を背にして、ふぅとひといき吐いた*]
/*
ちょッ、用事を片付けて戻ってきたら4月馬鹿になってる……!(笑)
メイドさん姿が場所に似合いすぎる……!
*/
/*
>>117
すごい真面目なお話なのに、エイプリルフールの所為で草しか生えないwwww
ごめんなさいお腹抱えててごめんなさい……w*/
『今ので注目されない事を願うのは、少々都合が良くないかね』
[リエーフの指摘はいつも淡々としたものだ。
そうかもしれないわね、という返事と少々の意趣返しを含めて、白いライオンの頭を撫でると廊下の方へ聞き耳を立てる。
案の定、というべきか、近づいてくる何者かの足音が聞こえてきた>>133]
まぁ、そうなるわよね……。
[ふぅ、と重ねてため息をついて、適当な書棚の影にでも隠れようかと身を翻す。
しかしながら、退避行動をとるのは少しばかり遅すぎた]
えっ、ひゃッ!?
[背を離した直後、押し開かれる書斎の扉。
勢いのままに開かれた扉に背中を押されて、前方へつんのめって盛大に転倒した]
『……所詮は人間の運動神経』
(黙ってちょうだい、猫科と比べないで!)
[ふぅやれやれと言わんばかりに首を振るリエーフを、床に手をついた格好で振り返りざまにキッとひと睨みして黙らせる。
……運悪く、視線の先に扉を開けた張本人の姿がある、かもしれない*]
(リエーーーフーーーーーー!)
『責任転嫁はいただけないな』
[思いっきり睨んだ先には、先ほど工事業者の方かしらと勘違いした大男の姿があった。
盛大な自滅とはいえ、やるせない思いを契約者にぶつけずにはいられない。
日頃取り澄ましているのにこの道化っぷり。
あまりの虚しさに涙目になろうともいうものだ。私の馬鹿ぁ!
とはいえ、こちらの嘆きと裏腹に、大男はにこやかに微笑んで手を差し伸べてきた>>158
あら、思ったより紳士だわ、と虚を突かれて目を瞬かせる。
自然に手を差し伸べる様は、まるで補佐になれたメイドさんのよう。
……何てことを考えたら、目の前の彼がメイド服をまとってる図が脳裏を過ったので、慌ててぶんぶん首を振って打ち消した]
あの、有難う御座います。
私こそ、注意力散漫で恥ずかしいわ。
書斎に気をとられて、扉の前をぼんやりと横切るなんて。
『と、いう事にしたのかね』
[負けじとにっこり微笑み返し、差し伸べられた手を取った。
立ち上がってから丁寧に頭を下げて、胸元へ指を添える。
目の前の彼にできたのだ、永恋にだってメイドさんオーラを出す事は可能だろう。
リエーフの皮肉はさらりと聞き流した。
彼にどこまで見られていたかわからないけれど、覗き見していたのを悟られるのは避けたい。
書斎に戻るところを見られていたのなら「色々恥ずかしくて」と誤魔化せばいいし、そうじゃないのなら押し切るだけだ]
……あの、不躾な事を訊いてごめんなさい。
観光の方ですか、それとも補修工事の業者さん?
『結局聞くのかn、!?』
[追及されるのを避けたかったので、話題を変えるついでに気になっていた事を訊ねる。
ついでに、さりげなく立ち位置を変えるフリをしてリエーフの尻尾をつま先で踏んづけた。ぎゅむっ!**]
[観光の方ですか、それとも補修工事の業者さん?
二択の問いに、大男が返してきたのは第三の返答だった>>183>>184>>185]
…………。
(ねえリエーフ、これって……)
『ふむ、これは……』
[魔女と契約者、どちらも共に声を重ねて、目の前の大男を凝視する。
なんていうかこう、筒抜けな奴だ。
隠している事実が透けて見えるとかそういうレベルじゃなく、事実が丸見えの状態で放置されてる奴だ。
「しr」と「まj」を繋げて、『ここは吾輩のシマである!』とかそういう超解釈をしない限りほぼ間違いない気がする。
超解釈をしたらしたで、893的な危ない人でしかないけれど!]
[まさかの見習い魔女ならぬ、見習い魔筋肉が爆誕する未来が見える。
一体どんな魔法を使うのかしら、「120%!!」とかやるのかしら、と我知らず生唾を飲み込んだ。
あぁ駄目、筋肉から離れられない……!
とりあえず雑念を振り払おうと、永恋は左右に首を振った。
駄目だわ、今私も十分不審者になってるわ、と自責を促して、なんとか表情を取り繕う]
……実は私も、ここに用事があってきたんです。
[ややおいて、にっこりと微笑みながらそう言葉を連ねた。
首を捻って室内を振り返り、件の隠し階段の方へ視線を向ける]
今話題の地下室を、是非一度見てみたいと思って。
ずっと隠され続けてきた地下室だなんて、夢があると思いません?
[取って付けたような理由だけれど、きっと彼は深く追求しないであろう気がしたから。
スカートを翻しながら、踵でくるりと半回転。
そのまま、ステップを踏むみたいに数歩、書斎の中央へ向けて足を進めた]
だから私、もう地下室を覗きに行ってきますね。
手を差し伸べてくれて有難う御座いました。
[半ばで再びくるりと反転、大男の方を振り返り、足を止めて頭を下げる]
私、楪 永恋です。
永遠の恋と書いて、“えれん”
それじゃあ、また。
[試練の場で、とまでは言い足さないけれど。
きっと、彼とはまたすぐ再会できるだろう。
その時に、彼がメイドの姿じゃない事を祈ろう。
掴みどころのない意味深な笑みを残して、それっきりひらりと歩み去るのだ*]
/*
>>259 くっそ、そのポーズで待機ズルいくっそ!!(笑)
ゲオルグさん本当に素敵な筋肉だわぁ……!
*/
/*
ところで、今女子は私と詩奈ちゃんだけだと思うのだけれど、試練が始まったらこの男女比がどう覆るのかちょっと楽しみにしている私がいるわ……(うずっ)
*/
――地下・休憩室――
[とん、とん、とん、と軽やかに跳ねながら階段を下ってゆく。
隣を並走するリエーフは少し物言いたげな様子だが、いつものことだ。気に留めるほどの問題でもない。
階段を全て降りきった所にあるのは、休憩室らしき場所。
広さは上階の書斎と同じ程度、だろうか。
地下という閉塞感はわずかにあれど、書棚がない分だけ、こちらの方が少し広く見えるくらいだ]
『……何も名乗る必要はなかったのではないかね?』
[辺りを見回しながら、ゆっくりとした足取りで部屋を横切る。
少し古びてこそいるものの高級そうな絨毯が敷かれ、中央には花瓶の乗った円形のテーブル。
暖を取るためだろう、暖炉が見受けられるけれども、赤いロープとポールで囲われたそこは使われた形跡がない]
(だって、その方が面白そうだと思ったんですもの)
[たっぷり時間を置いてから、リエーフの問いにそう応じた。
隠し事がいかにも下手そうな――、というよりも、隠す気すら薄そうな箕土路氏。
あそこまで真っ直ぐに接されたら、些細なことに神経を張り詰める方がばかばかしいではないか]
(第一、明かして困る名前でもないわ。彼も試練に参加するのであれば、友好的にしておいて損はないでしょう?)
[ああいう、真っ直ぐな人は好ましい。
ポージング>>244を思い出すと本当に好ましいと思って大丈夫かしら、という一抹の不安こそ感じるものの、彼の気質は確かに好ましい方だった]
[そこまで考えたところで、次の部屋への扉の前に辿り着く。
噂では、この先にあるのは訓練室だとか。
長い間地下に隠匿されてきた、ロマンあふれる部屋がよりにもよって訓練室。
いったい何の訓練なのだろう、と興味をそそられる。
まさか、屋敷の主が箕土路氏のように筋肉だった、という事もあるまい。
おそらく、この先で鍛えられていたのは筋肉ばかりじゃないだろう。
キィ、と微かに軋む音。
両開きの扉を押し開けて、滑るように中へ踏み入った]
――地下・訓練室――
……すごいわね、体育館みたいに広いわ。
[広い部屋は、なによりもがらんとした印象が先に立つ。
訓練室、と言う言葉の印象から受けるような、トレーニングマシンの類はないようだ。
もっとも、ここが歴史ある異人館であることを考えると当たり前だけれど]
(わざわざ試練の会場に選ばれたわけだし、魔女繋がりなのかしらと思ったけれど。
目に見えて、それとわかるものはなさそうね)
[或いは、試練の空間に切り替わったら何かが現れるのだろうか]
[……と、遠く響く古時計の音>>#6
地下室を観光していた客たちが、閉館が近い事を悟ったのか早足に訓練室を出ていくのが見える]
『試練の時が近い、か』
えぇ、そのようね。
[左の薬指にはまるシャンパンゴールドの指輪へと視線を落とした。
徐々に大きくなっていくように感じる針の音。
錯覚か、それとも試練に挑む者達には実際にそう聞こえているのか。
どちらであるにせよ、覚悟はもう固めてある。
永恋はただ、その時を待ち受けるのみだ。
リエーフの首筋に手を置いて、ゆっくりと瞼を下ろした*]
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