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― 艦長室前 ―
[芳醇なワインの香りが未だ鼻腔に残っている。
リヒャルトは、は、と短く息を吐き出し背にした扉を振り返る。
「何かあれば、副長に」と片付けに勤しむ艦長の言葉を聞いたのは少し前の事。
前線を離れたからこそこうしていられるのだろうが、
艦長と副長の姿を順に思い浮かべ微苦笑を浮かべた。]
副長もまた大変だな。
[あの二人だからバランスがとれているのかもしれないとも思うが
司令塔に居るその人を思えばそんな言葉が零れてしまう。]
[当初は艦隊参謀として配属されるという話だった。
けれど蓋をあけてみれば軍艦ヴィスマルクの参謀という肩書。
理由はまだ年若く経験が浅い事があげられ既に納得済みではあるが
艦に配属され間もない頃は近しい者に『話が違う』とぼやく事もあった。
情報収集や情報処理などで指揮官の補佐をするのが主な役割ではあるが
それも、出来た副長のお蔭で、思いのほか気楽な身の上となっていた。]
さてと、戻りますか。
[白手袋のはまる左手で整えられた髪を軽く撫で遣る。
きちりとはまる白手袋はリヒャルトには必需品で
常にその手にあるものと認識されていても不思議ではない。
背にした艦長室で片付けの手伝いをするという選択がないのもそれが所以。
潔癖な参謀は仄かな酒気が消えるのを待ってから
ゆったりとした足取りでリヒャルトは指令塔へと歩み出す。**]
なるほど。
じゃ、そろそろ副長の手伝いに戻るかな。
[軽い笑み浮かべるオズワルドに眉尻を下げる。
面倒、と小声で呟いて、悪戯が見つかったような顔で笑った。]
興味があるなら覗いてみるといいのに。
ま、それどころじゃないのは、確かに。
――…あ、好みすぎると、舌にその味がうつっちゃうよ。
[一歩二歩と近付くとシガーを横目に見遣り
戯れるように囁いて、離れる。]
[咳はおさまったようだが言葉は途切れ辛そうに見える。
ウェルシュが落ち着くのを待つ間に伸ばした手を下した。]
ん。
[間に入る音にことと首を傾げる。
元より彼が呼び止めたのはオズワルドだと思っていたから
参謀なる名称が続ききょとりと瞬いた。]
嗚呼、うん。
リヒャルトでいいよ。
[名を示してからゆるく首を傾げ]
で、如何かしたの?
[尋ねを向けてうっかり死に際に立ちかけた彼の言葉を待つ。]
[飴玉と凶器が一瞬繋がらずオズワルドの言葉に首を傾げる。
一拍置いて合点がいったのか頷き]
なら飴を勧めるのは止めておくか。
僕は結構好きなんだけどな。
[軽口のように返しその背にひらと白纏う手を振った。]
[噂はちらと耳に挟んだ事がある密偵の話。
ウェルシュの言葉に驚いた素振りはなく相槌を打ち]
密偵の噂かぁ。
うん、そちらでも調べて貰えると助かる、かな。
[不穏な噂を聞き流すことも出来ず噂話に混じった事もあったが
彼と同じく出所は知れなかった。]
経歴あらうにしても多いからなぁ。
[面倒、と思うもぼやきは飲み込み神妙な面持ちを向ける。]
ま、調べて何事も無かった、が一番だが。
[不安を飛ばすようにからりと笑い]
名簿はキミが閲覧できるよう手配しておくよ。
[ウェルシュに軽く手を掲げて司令塔へと足を向ける。**]
[中佐という呼びかけの前にあく間>>154に小さく笑うのは
中途半端な名乗りをしてウェルシュを困らせている自覚があるから。]
それも大事な仕事のうち、だろ。
使えそうなものは遠慮なく使え。
[とはいうものの彼くらいの塩梅が適切だろう。
遠慮なくしていれば出世に響く事も考えられる話。
階級にとらわれぬものももちろん居ようが軍に属する者なら
呼び方ひとつにも気をつかうのも道理と理解している。]
様は要らない、って言っても困るか。
リヒャルト・レーデ。
君が呼びやすいよう、――…嗚呼、肩書でも構わない。
[改めて名乗り、呼び方は彼にゆだねる事にした。]
[手伝いについては、首肯するものの
疑うのを忘れていたとウェルシュに言われれば、
きょとんとしてから、声を漏らし笑う。]
……く、はは。
正直だな、そこは誤魔化してしまえばいいのに。
[礼の言葉を受け取るように浅く顎を引く動作をみせその場を離れる。]
[仕事はそつなくこなすが然程熱心というわけでもない。
どちらかと言えばゆるい空気を纏う事が多いのだが
そのままであれるのはヴィスマルクの艦長がバイヤー大佐であるからか。
リヒャルトは白手袋の端を軽く引き緩みを整える。
薄く滲んだ赤は洗い過ぎによるアカギレが原因だが
それでも事あるごとに消毒してしまうあたり自分でも難儀と思う。]
消毒用アルコールも補充が必要か。
医務室――…に行くと軍医殿が……
[怪我人も出て忙しいだろう事を言い訳に
念のためのカウンセリングを延ばし延ばしにしている。
渋い表情を浮かべて小さく息吐いた。]
― 司令塔 ―
[ふらりと戻って名簿の管理を任せる者を呼び止める。
フィッシャー少尉の名を出し自由に閲覧できるよう言うものの
「名簿なんて何の為でしょうね」と声が返り]
ん、確認したい事があるそうだ。
[などと答えれば「そうでしたか」と分厚い名簿が机に置かれた。
一応一通り覚えているはずのそれをちらと見遣り息を吐く。
得意な方であるとはいえ、これだけの量はさすがに苦労したな、と
名簿と睨めっこした過去を思い苦い表情を浮かべた。]
― 司令塔 ―
[報告に来たカサンドラ>>227に会釈し、チラと副長を見遣る。
彼女の呼び方は今に始まった事でもないし
己もまたヒャルるん中佐などと気の抜ける呼び方をされるのだが
当人と呼び名のギャップがあればあるほど複雑そうな面持ちとなってしまう。]
――嗚呼、そうだ。
ゾンダーリング中佐、先ほど副長から話があったんだが
航空兵、コンラート・エーレンブルグ大尉だったか……、
見かけたら、司令塔で副長がお呼びだと伝えてくれないか。
一応僕も探してみる予定だけど、なんせ広いからね。
[カサンドラにも航空兵の話をしてみるものの
急ぐようならそれ以上引き留めることもなく]
では失礼します。
[件の航空兵がカサンドラによりあっさり見つかるとは知らず
遅れて司令塔を辞する。]
さて何処から回るか。
[ぽつぽつと呟きながら足が向くのは自室のある方向なのだが。]
― 自室 ―
[白纏う手が扉を閉める。
部屋に備える消毒用アルコールの前まで行くと
手袋をはずして傍らに置いた。]
困った癖だな。
[一般的に汚れる事をしていなくとも汚れているような感覚を懐く。
消毒液がひび割れた手に些か沁みた。
環境が変われば消えるかと思っていた癖だが少しずつ悪化している気がする。]
触れられない反動、だよなぁ。
[軽口も、距離を縮めようとするのも、触れたいのに触れられぬ反動。
自覚があるからこそ厄介でまた溜息が漏れた。]
[白手袋をはめて、部屋を出る。
ふらふらと行くあてもなく艦内をめぐり――
探し人は見つかり探す必要もなくなったと知るのはもう少し先の話。**]
― 自室近く ―
[結局新しい手袋を使用してまた洗濯物を増やしてしまった。
洗いたてのものを身につけると安心するようで心もち表情が緩む。
子供の頃は泥だらけになって外で遊んだものだが
親に、汚い、病気になる、等ときつく叱られそんな観念が植えつけられた。
潔癖の徴候はあれど症状と呼べるほどになったのは大分後の事だったが。
過去を思い出して、そっと息を吐く。
下げた視線を前に向ければ、軍医>>350の姿が見えた。]
あ。
[驚きに間抜けな一音が漏れる。
踵を返そうとして、さすがにあからさま過ぎるとそれを断念する。]
こんな場所で会うなんて珍しいですね。
往診か何かですか?
[尋ねを向けるもののアレクシスの手には見覚えのある消毒液と
缶>>346があり瞬いてからコトリと首を傾げ彼を見る。]
[素手で共用の物や他者に触れられない。
肌に触れなければ問題ないあたりで白手袋さえはめれば良かった。
階級からして気安く触れようとする者が居ないのも幸いしたか
リヒャルトが潔癖症である事を知るのも多くない、――と、
当人はそう思っているが実際気付いている者がどれほどかは把握していない。]
えー、と。
もしかして僕に用、とか。
[考えてみれば往診に消毒液と缶が手荷物というのも妙だ。
包帯やら手当に必要な道具を持つものだろうと思う。
アレクシスに控えめに言葉を続ける。
彼を避けるようにして状態の報告をさぼっていたのは
無論、彼が嫌いであるとかそういったことではなく
ようは自分に問題があることを自覚して逃げていただけ。**]
[アレクシスから用件>>364を聞けば軽く握った白纏う手を顎先に宛がい]
嗚呼、ちょうど貰いに行こうかと思ってたんですよ。
よくわかりましたね。
[微かな動揺を隠し目許をなごませた。
幾分年上の彼に少しばかり言葉づかいが丁寧になる。
逃げていたから症状については相談できぬままあれど、やはり軍医ということもあり察されていたと続く言葉で知れた。]
自家製のハンドクリーム……。
[自身の手に視線が落ちて血を滲ませた事を思い出す。
その手を伸ばして彼から品を受け取る。]
少し荒れていたので助かります。
ありがとう、――…先生。
[咎める言葉なくあれば、案じてくれたのだろうと思え、彼の厚意を在り難く頂戴することにした。
勝手な苦手意識も罪悪感とともに薄れていた。**]
― 自室 ―
[消毒液のスペアと缶を並べ置く。
罪悪感を抱きながらアルコールを浸した布巾で容器を拭う。
缶の蓋をあけて、漸く白手袋をはずし、再び己の手を消毒してから
ハンドクリームを指ですくい手に馴染ませてゆく。]
――…ッ。
[ささくれ立った肌にしみ渡り油分が補われるのを感じる。
動かすごとに裂ける個所はジンジンと痛むが効いている証拠だろう。
目の前にある鏡を見れば眉間に皺を寄せる自身が居た。]
酷い顔だな。
[軽く肩を竦めて、手袋をはめなおし、缶の蓋を閉める。]
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