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[その後もたらされた報せは、あまり良くないものだった。
でもこれが予感の正体かはよくわからない。]
へえ、チャールズが。
あのひとでも負ける時があるんだね。
………って、俺に様子見てこいって言ってる?
[どうしようかなー、という気配の間が空く。]
そういえば、向こうの陣地を水浸しにしたら、チャールズも水浸しになるかな。
ちょっと予定立て直さなきゃ。
[口にしたのは、もう少し実務的なことだった。*]
― 王都アマンド ―
[しばらく走るうち、王都の城門が見えてきた。
固く閉ざされた門の上には厳戒態勢で並ぶブリュノー兵の姿もある。
さすがに正面から入り込むなどという芸当はできそうにない。
だが王都ほど大きい街なら、抜け穴のひとつふたつはあるものだ。
城門に向かう道から逸れ、側面へ回り込む。
向かうのは王都の中でも外れにあたる場所。
城壁の向こうにはごちゃごちゃとした建物が積み重なるように建っている。]
[一緒に来た仲間が小鳥を真似てさえずる。
幾度か繰り返すうち、城壁の中からも答えがあった。
鳴き交わしは、放浪の民の一部が使う符丁だ。
大きな町には大抵放浪の民がいて、同じ仲間であれば手を貸してくれることが多い。
期待はどうやら正しく報われたようだ。
やがて誘導されて、城門の下を潜る排水溝を発見した。
ここならなんとか人間が通れる。
乗ってきた馬を二人の仲間に託して残し、あとの二人と共に王都へ潜入した。]
[王都へ向かう間に、チャールズが捕縛されたと知らされた。
無口で実直で、ぴしりと伸びた背が印象的な人だ。
自分に厳しく部下にも厳しい、との前評判を聞かされた時には近づかないでおこうと思っていたけれど、会ってみた印象は少し違う。
無軌道もいいところな自分や《猿》たちに、戸惑いながらも理解し対等に扱おうとしてくれる人だ。
この間、土産に南方の揚げ菓子を持っていったら嬉しそうにしていたから、きっと甘党に違いない。
元気にしているといいな、とティルカン軍の方を眺める。
無事かどうか、そのうち確認しておきたい。]
[王都の中に入り込んだ後、引きこんでくれた者たちと情報を交換する。
勿論、自分がマルールの軍に属しているとは伏せた上でだ。
王都の近くで繰り広げられている大軍同士の戦いに、やはり王都の民は戦々恐々としているらしい。勝った方が占領しようと攻めてくる、と怯える者もいた。
ただ、戦場から来た身からみればやはりどこか暢気だ。
戦っているのがブリュノーの人間ではないからかもしれない。
自分たちの問題で、他人に血を流す役を押し付けたのだったら許さない。
なんて、ふと思う。]
[戦っている連中を見たいと言ったら、教会の尖塔に案内してくれた。
城壁よりも高いそこからは、遠くまでよく見える。
同じように見物している連中もいた。
砂塵霞む平原に、無数の蠢くものがいる。
黒い点にしか見えないそれらひとつひとつが人馬なのだろう。
ここからでは敵とも味方とも判別がつかない。
今、兄はどこにいるんだろうと思えば、急にこの距離がもどかしくなった。]
「あそこ、あれきっと司令官ですよね」
[一緒に連れて来たやたらと目のいい仲間が指をさすけれど、正直わからないから。]
クリフ?
今、クリフと会ってるの?
[意図して声を届けるというよりは零れ落ちたような声だった。
だが兄の状況を察するなどせず、暢気に聞き返す。]
あれ。タイガってクリフに会ったことあるんだっけ。
/*
ここからティルカンの野営地が見えるかな、と検討してみる。
ケノワ砦までたぶん50kmくらいだし、間に平原が続いていることを考えると、見張り塔の頭位は見えるんじゃないかな。野営地は、炊事の煙くらいは見えるかもしれない程度。
/*
なんかめちゃめちゃ便利なサイトがあった。
https://keisan.casio.jp/exec/system/1179464017
いろいろ自動で計算できるサイトの中の、「地上から見渡せる距離」計算。
ほかにもいろいろあって楽しげ。
あー。
そういえば見たことある。
あー、あー、確かに、言われてみればクリフだね。
[見せられた絵と子供の頃のクリフを結び付けるのは難しかったが、成長した当人を見た今なら思い当るところがあった。]
へえ。
あれだよね。祝いの盃あげたっていう。
あー、そうだったんだ。
世界は意外と狭いね。
[子供が生まれた日に、というのも聞いた。
生まれた子にルーリーの祝福をしに行ったときのことだ。]
そっかあ。
三年前かあ。
[隣の仲間から、頭は急に何を言い出したんだ、の視線を向けられたけれど、全く気にせずにやにやとしていた。こんな時は大抵、どこかと声を飛ばし合っているのだ。]
♪〜その名はタイガ タイガ
希望の戦士 ユリハルシラの守護者〜♪
[おまけになにか歌い始めた。
何年か前に悪乗りして作ったら、意外とみんなにウケたやつだ。]
/*
チャールズを助けに行くのはいいけどさ。
野営地に襲撃を仕掛けてみたけど、チャールズはケノワ砦の方にいました、とかだったらすごく間抜けだよね。
そして、水計は野営地の方にし掛けるつもりだけど、負傷者は砦に一時収容するってどこかに書いてあったから、チャールズもそっちの可能性が高いわけで。
[王都にも雨は降っていた。
どこかで雷の音が鳴る。雨特有の匂いが立ち、屋根にぽつりぽつりと模様が描かれ始める。
とりとめもなく歌っていた英雄譚の元凶は、急に歌を止めて窓から身を乗り出した。]
ねえ。タイガの居場所わかる?
相手の指揮官は?
「えっ?ええ。司令官なら多分あそこで、相手は、司令官のすぐ近くにいるのがそうじゃないですかね」
えっ!そんなに近くにいるの?
…あ、でも会ったとか言ってたからそうか、近くか。
[仲間に言われても、やっぱり黒い粒にしか見えない。
おまけに雨で視界が遮られ、見えづらくなってきていた。]
大丈夫だよ。これくらい平気。
ちゃんと屋根の下にいるし。
教会の連中にも見つからないし。
[ちゃんと鐘楼の中にはいるが、そこに至るルートが正規のものではない、とまでは言わずともいいところ。
説教は聞きたくないなあ、と内心が漏れる。]
華冑の影 レトは、後世の歴史家 ベネディクト を投票先に選びました。
[だが、暢気な空気はもたらされた報せの前に吹き飛んだ。]
ノーラが?まさか、そんな!
……俺、すぐ行って取り返してくる。
[常よりは低い声で告げる。
こんな時はたいてい、即行動に移しているのだ。]
― 王都アマンド ―
[遠くから眺める戦場では、つぶつぶ黒々した渦がぶつかり合い分かれ混ざり合い、まるで海岸に集まる魚の群れのようだった。
しばらくその様を眺めていたが、ふたつの群れが東西に分かれて流れ始めた頃、不意に駆け出した。
来た時と同じルートを通って外に出る。
慌ててついてきた仲間に《猿》を集めろと言い置いて、自分はイルフェに飛び乗った。]
[ティルカンの兵の流れを遠望し、ケノワ砦に向かっていることを見て取ると、追いついてきた《猿》たちと共に砦へ向けて駆けた。
制止する者がいても構わず、止めれば斬り倒すという気迫で砦の前まで駆け抜ける。
集まってきたティルカンの兵と一触即発になりながら、砦へ向けて叫んだ。]
ノーラに会わせろ。
邪魔だてするなら推し通る。
[騒然とする周囲の空気を貫いて声が通る。**]
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