情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新
[手を拒まれれば別の方法を考えなくてはならないところだったが、拒絶は無かった。受け入れられたことに安心して、大切に持ち上げる。]
…はい。
[囁かれた言葉に短く答えて頷いて、ほんのりと微笑んだ。]
[どこか落ち着ける場所を、と立ちあがったところで真白の神獣が身を震わせた。]
どうぞ。
[ふわりと落ちてきた角の欠片を受け止めて、当然のように公子に渡す。
カークとの遣り取りには、ちらりと視線を向けたのみで、もう口を差し挟まなかった。]
[乾いている場所を探して歩き、公子が起こした熱で水気の飛んだ小高い場所を見つけ出す。
ある限りの布などを敷いて整えた上に公子を下ろせば、後はローランドの手にゆだねた。]**
― 封印の間 ―
[吼え猛る炎の獣。
いくつも生み出され、牙を剥く緋色の狼。
人智を超えた光景にも怯むことはない。
今まで通り、斬れるのならば斬るだけだ。
長柄刀の柄を軽くしごき、駆ける。
その頭上を翡翠の龍が飛んだ。
気高く雄々しい姿に視線を奪われるが、見惚れるより先に狼が飛び込んできた。]
[牙を剥き、向かってくる狼の口を狙って真横に薙げば、緋色は弾けて消え、橙の淀みを残す。
返す刀で散らしたが、手ごたえというほどのものは感じなかった。
これは面倒だ、と思いながら次の獲物を求めて踏み出したとき、頭の奥でなにかが疼く。
楽しい。
戦いの高揚が、全身を満たしていくあの感覚。
生きていると実感する。
熱い。]
[昂る心のまま新たな獲物を探し、駆け寄って斬りつける。
横薙ぎの刃は狼の身体を両断し、さらに身体ごと回転させて放った二撃目は残る淀みを巻き込み寸断し、消滅させた。
ああ。良い。
生きている。そう実感する。
この感覚のために、自分は戦っているのだ。
血をたぎらせるもの。この身を熱くするもの。戦場の熱こそ、我が魂。]
[吐きかけられた炎を寸前で躱し、円の軌道で体を運んで刃を回す。
残、滅。散らしきらなかった淀みに踏み込んだとき、目の奥でちかりと赤が光った。
次の狼。いなす。払う。
違う。おまえたちじゃ足りない。
もっといい獲物が欲しい。
獲るならば最上級がいい。
もっと心躍るような相手が。]
[側に気を感じた。
とても大きく、涼やかで、強い気。
あれこそ、自分が欲しいものだ。
思った時には身体が動いていた。
重い刃が、熱い風を引き裂いて奔る。]
[瞬間、ぞくりと体の芯が冷気に貫かれたような気がした。
今、 自分は、 …何に刃を向けた?
混乱と自失の間隙に、赤い気配が押し寄せてくる。]**
俺の命は、 あなたのものです。
我が君……!
[誓いの言葉を、自らの精神をつなぎ止める錨とし、
己の生きる場所を定めて、足下を確かなものとする。
斬りつけたと同じ箇所を己が刃で裂いた。
痛みと、怒りが、思考を覆う緋をクリアにする。]
[先を行く公子の背を追い、死角をカバーするように動く。
飛びかかってきた狼を斬り飛ばし、残滓も散らし砕いた。
在るべき場所を定めた心は迷いなく、曇りない。
鏡のように凪いだ精神は、狂焔の気を撥ね除ける。]
[横合いから突っかかってきた狼は、視線を合わせもせずに刃を突き入れ、貫いた。
まとわりつこうとする淀みを、振り払う。]
…おまえの狂気に中てられるような俺の未熟は、今、斬り捨てよう。
神代の存在であろうと、もはや惑わされはしない。
[決然と告げ、狂乱の獣へと走る]**
[小物たちも討ち減らされ、周囲には浄化の香が漂う。
趨勢の傾いた戦場に、狂狼の咆哮が響き渡った。
近づけば、先ほど自分を捕らえた力が強くなるのを感じる。
触れられそうなほど濃密な緋の気配。
もはや負けてやる気は無いが、無策で行くのは無謀だ。]
[思案していると、カークとその龍からユーリエに何か渡されるのが見えた。
前を行く公子が漏らす言葉を聞き、なるほどと思う。
その公子から言葉を向けられて、刃を構えなおした。]
応!
[短く答え、走りだそうとしたところで公子の足が止まった。
疑問の目を向けたところで先陣を任されたと知り、身体の底から奮い立つ。]
[誰よりも速く。
誰よりも先に。
磨いてきた己の腕を頼りに狂焔へ向かっていく。
こちらに気づいた緋の巨狼が頭を上げて不快の唸りをあげ、叩き潰そうと前脚を上げる。
その動作を追い抜いて懐に飛び込んだ。]
はッ──!
[短く気を吐き、低い軌道で跳ぶと同時に身体を捻る。
狼の右前脚を、内側から外側へ、長柄の刃で切り裂けばそのまま駆け抜けて背後へ回るような動きを見せた。]**
[斬りつけ、離れた直後の空隙を埋めるように、巨狼の頭を凍気が揺らす。
ざ、と足元を滑らせて止まり、振り向いた目に公子が斬りかかる姿が映った。
長く伸びた氷の刃が、狂焔を圧して食い込む。
氷のように冴え冴えと澄み、炎のように熱く燃える心を持つ。
あの剣は、公子のありようをそのまま表しているようだ。
きっと、共に駆けて飽きるということはないだろう。
倦むことを知らぬあの方は、この心にいつでも熱い炎を送りつづけてくれる。
この命をあの方のために使っても良い。
そんな気持ちは、初めてだ。]
[思考が走る合間にも、身体は動いていた。
斬りつけられた痛みに憤る巨狼が怒りを叩きつけようとするより先に、燃え盛る尾を回り込んで左脇腹へと斬りつける。
傷は浅いが、痛みはあるだろう。
狼が咆え、火を吐こうとする動作の向こうで、氷の剣が煌いた。
綱で結ばれているように、あるいは振り子の両端のように。
見えざる糸を手繰って交互に挑みかかる。
声も、視線も交わさない。
けれど、熱を共有していた。
共に戦う戦士として、響き合う高揚を。]
[作戦の網が引き絞られる。
香が焔の勢いを押さえ、聖なる魔が闇を吞んで膨らむ。
巨狼の身体越し、純白の翼広げる翡翠と、見えざる翼で駆ける白が見えた。
そして、自分の名を呼ぶ声が届く。]
はっ!
[答えるのと、気を吐くのと、跳躍するのとを同時にこなし、距離を詰める。
氷と鋼が狼の左右の後脚を同時に切り裂いた。]
[ユーリエの放った弾が狂焔の額を穿ち、守り人が光を呼び封を為す。
その光景を、息を詰めて見守っていた。
守り人の声が軽い調子を取り戻したところで、ようやく終わりを実感して息を吐く。]
…殿下。
御無事ですか?
[最後の最後で炎に弾かれていた公子の元へ、ゆっくりと歩いていった。]*
[主君に刃を向けたのだ。
本来ならば、首を差し出すべきだろう。
でもきっと、この人は面倒くさがるだろうな、と思う。
けじめの形が同じ傷だったし、それも理解されているのだろう。
ならばいいか、とあっさり結論付けた。
この命はもう預けてしまったから勝手に処分できないし、それ以上のものはちょっと思いつかない。]
[今後のことも封印のことも自分の領分ではないと口を差し挟むようなことはせず、刃を拭い状態を確かめたりなどしていた。
武具を万全にしておくのは習慣のようなもの。
けれども弩の弦を緩めたのは、もはや戦いの匂いを感じなかったからだ。
ずっと張りつめているのは、よろしくない。
と、ユーリエの治療を終えてやってきたローランドに、釘を刺された。>>220]
一角獣の癒しの力を受けたから問題ない。
…はずだが、留意しておく。
[基本、動ければ何でもいい、ではあったけれども、治療の重要さは理解していたしローランドの腕にも信頼を置いていたから、頷いておく。]
それから、あなたも。
無事でよかった。
いてくれて、良かった。
[皆の無事に感謝した彼の言葉を、そのまま返す。
真心の心情を載せて。]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新