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“人”とは何でしょう。
“人として生きる”こととは。
わたしは、死について研究することで、生を知ろうとしてきました。
──生きている限り、探求し続けるでしょう。
それがわたしの在りよう…、
あなただけが認めてくださった、わたしの生きる意味なのだと思います。
[向かい合いに座ったテオドールの顔を見上げながら、感情を抑えた声で研究の進捗を報告する。]
閣下に飲んでいただく”霊薬”の開発を進めています。
屍鬼から抽出したエキスに、拒否反応を押さえる成分を調合したものです。
それを日々、飲んでいただくことで、生きながらにして肉体を屍鬼に造りかえてゆきます。
屍鬼化した肉体はそれ以上、老いることなく、痛みを覚えることもなく、仮に損壊したとしても、別の屍鬼から部位を移植することが可能です。
記憶の書庫たる脳幹以外は、ですが。
肉体が変化を完了した後も、拒否反応を押さえるために霊薬を飲み続けなければならない手間はあります。
むろん、わたしがいなくても調合ができるよう手順は残します。
それと、身体が完全に屍鬼化すれば、食事をとる必要がなくなると同時に──霊薬以外のものを糧にすることができなくなります。
──これが「不滅の魔王」の基本方針となります。
わたしは、閣下の肉体と意志を永遠に地上に止める代わりに──《魂》を壊してしまうかもしれません。
それでも、 お望みになられますか。
許す。
[ 知識を渇望することを。
探究することを。
そのままの有り様を、全て。 ]
──御心のままに。
[「不滅の魔王」の実施を望むテオドールから視線を外さずに答える。>>156
多くの者が悦楽を追い、あるいは死を嫌って永遠に生きたいと願う。
だが、テオドールは違った。
季節の実りや美酒を味わう喜びも、温もりを感じることも捨てて、なお時間と力が必要なのだと言う。
それは己に修行を課すストイックな聖騎士のようですらあった。]
[動き出した馬車の中、不規則な揺れを背に受けながら、ベリアンは先程の光景を思い出す。
哀愁滲む男の背中を。>>111]
…かつて、あそこに暮らしていた者の
[モーリスへ向かうテオドールの背後に遠ざかる家。
今、ここでしか口にできないだろう問いは、死霊魔導士として発したものではなかった。
自ら屍鬼にならんとする者への、祈りにも似た想いだ。]
○月○日
死体から情報を取り出すことにまだ成功しない。
仮説 : 記憶とは、経験とは、頭の中の書庫のようなもので、死んだ瞬間に灰燼に帰す。
○月○日
屍鬼同士でなんらかの意思疎通は可能なのだろうか。
現状、その証拠は見出せていない。
[魔導士に真の名を預けることが、いかなる意味を持つか知らないテオドールではあるまいと思う。
その名を口にした時のテオドールの表情は複雑だったが、偽わりの色はなかった。>>184
やはり、かつてあの場所で”人として”暮らしていたのは、このテオドール自身であったのだと得心する。]
[そして、その家名は、先日、別の質問に答えてテオドールが口にしたものと同じ響きをもっていた。
「"鍵"に選ばれた者」であり、「騎士団を率いる盟主」である「元は一介の田舎者」、「俺の父」ヤコブ・バルト。>>3:251]
──…、
[さらに語られる「グラムワーグ」の末路。>>191
"門"の向こうへ取り残されたクロドルフ・グラムワーグ王が、世界を滅ぼすことだけを望んでいる──と。]
“裏切られた”のは、クロドルフ・グラムワーグ王のみではありますまい…
[高い克己心。苛烈なまでの使命感。焦燥と怒り。 そして、悲哀。
自分の目の前にいる男こそ、裏切られた者の目をしている。]
[ひとつの問いがいくつもの物語を引き出した。
けれど、ベリアンにとって一番重く感じられたのはテオドールの真の名だ。
術に使うつもりはない。
質とするつもりも、政治的にどうこうするつもりも。
ただ──、彼が持ってゆけなかったものを、拾い上げんがため。
生きながら死んでゆくことを決めたこの男への、せめてもの救済たらんと、胸に抱く。]
閣下の真の名、
確かに、お預かりいたしました。
不滅の魔王の通る後に歴史はできましょう。
人が立ち向かうなら制圧し、魔が逆らうなら切り捨て、神に逢っては神を殺し──
ゆかれませ。
− 廃都モーリス近郊 −
[ベリアンがテオドールに再び謁見を申し入れたのは、モーリスへの到着を控えた頃。
小箱を携えて歩むベリアンの後ろについて来るモノを見て、ゴブリンたちは落ち着きをなくす。
失禁して逃げ出す者すらいた。]
閣下、
ご検分いただきたいものが。
[現れたのは、8本の脚をアーチ状に曲げて歩く巨大な妖蜘蛛の屍鬼だ。
そして、本来頭部があるはずの場所には直立した人間の上半身が生えている。
かつてウェルシュだった肉体である。]
[これは、別種の素体を魔法的に融合させる新しい死霊魔法で──といった自慢話は手記に書いておくだけにする。
この人蜘蛛屍鬼は、動作速度こそ他の屍鬼と変わらないが、多脚と体躯の大きさとで歩幅は大きなものとなり、それが動きの鈍さを補っていた。
堅い外皮は鎧であり、武器でもある。
脚の尖端は金属の杭にも等しい。
人間部分の意義はというと、相手に与える恐怖のインパクトと──]
[伺候したベリアンが開いてみせた小箱には、ウェルシュの遺髪を編み込んだ腕輪と、遺品の大斧を融かして作った首輪が収められている。
テオドールが愛でた
あわせてひとつの魔力を付与した品である。]
この首輪をあれに、腕輪を閣下が装着することで、わたしと同じようにあれに命じることができます。
生前の記憶はありませんが、閣下が特定の音──例えば名を呼ぶことで近くに来いという命令を定めれば、以降はその音に──閣下の声だけに反応するでしょう。
[「不滅の魔王」については、程なく、とだけ告げた。
その表情は険しいものではない。
移動中には無理だろうが、モーリスに着いて、きちんとした実験器具が使えるようになれば進む目処はついている。*]
/*
ウェルシュ君が楽しんで見ててくれるといいのですが。>ウェルシュ改
人の上半身+蜘蛛の脚は、いろんなゲームなどに登場するから、あとで戦闘する際に全員にイメージしやすいかなと。
(「蜘蛛 妖怪」で画像検索するとたくさんヒットする。たいてい女性ボディですが)
脚8本+人腕2本だと、カウントは10脚だな…
− 魔王凱旋後のモーリス −
[今や、モーリスを廃都と呼ぶのは実情にそぐわない。
「グラムワーグ魔王国」と称する勢力の首都に定められたそこは、流れ込む者たちが無節操に建てた傾いだ住居や生活の匂いに満ちあふれた──混沌の都だ。
賞賛されることを喜ぶくせに、人目を避けたがるベリアンはそんな喧噪を離れ、モーリス近郊の森の中にある池の浮き島に草庵を結んで、死霊魔導の研究に専念していた。]
[池の周囲を屍鬼が徘徊しているせいで、魔物は近づかない。
そもそも、草庵へ歩いて渡る橋もなかった。
出かける必要がある時には、池に入った屍鬼に浮き島の根を掴ませ岸まで引かせる。
最近は、それらの屍鬼もますます奇矯な形をしたものが増えていた。
屍鬼同士を融合させる術の賜物である。]
[その日、ベリアンは草庵を離れて、モーリスへと向かった。
テオドールに”霊薬”を届けるべく。
浮き島と魔王城とにテレポーターがあれば、二者間の移動が手っ取り早いことは理解している。
だが、あれは実に精密な構築を必要とする論理魔法だ。
少しでも挿入要因が狂えば、うっかり壁の中なんて悲惨な事態にも起こりかねない。
あれを扱えるのは──
ともあれ、風で移動してしまう浮き島に設置するのはまず無理であった。]
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