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― 狭間の世界 ―
……うん……?
[混濁し、霧消した意識が、再び形を取り戻す。
苦痛も、地に縫い止められたような体の重さも今はなく、まるで泡のように頼りなく浮かんでいるような心地だった]
ここは……。
いや、俺はどうなった……!?
[慌てたように周囲を見回せば、自身が最期の戦いに臨んだ場とほぼ変わりない光景があった。
木々の梢が頭上でなく、目線の高さにあることを覗いては]
[ありもしない唾を呑み、覚悟を決めて真下を見る。
予想通りそこには、地に伏して動かない自分自身の体があった。
死の淵から生還した兵の話も聞いたことはあるが、あの手練れの軍人が、致命の一撃を加えたことは明白だった]
…………。
[自らの死を認めたせいだろうか、今際の際に聞くともなく聞いていた言葉を思い出す>>2:132]
定められた生き方、か。
[戦う事を望み、望まれた者。
定められた義務としてこなす者。
そして初めから、そうあるべきとされた者。
幾つもの邂逅の果て、最期に相見えた敵が語るのは]
しかしその先に、己の在り方を見出すこともある――か。
[それを知った所で、何が変わるものでもないだろう。
生きて何かを為すことなど、もう既に叶わない]
[ただ、自分を打ち倒す相手が、そうであったらいいという答えを、最期に得られたのだと思う]
[一時の静寂を打ち破ったのは、己が率いて来た精鋭兵だった。
――敢えて、戦い抜けとは言わなかった。
生きてこの先も戦うことこそ誇りと断じるなら、退却を選んだとしても責める心算はなかった]
[しかし彼らは、剣を取ることを選んだのだった。
対するゼファー軍は、礼を持って応じる――全力を持っての相対で、それに応えると宣言した>>2:134]
[決着まで、そう時間は掛からなかった。
見守ることしか出来ぬ身は、幾度届かぬ叫びを上げ、斃れる者の名を呼んだことか。
それでも、目を逸らすことだけはせず。
戦士が戦い散る様を、血の一滴たりとて見逃さぬよう、食い入るように見詰めていた*]
[戦いの最中、倒れた自分の方へ近付く人影があった>>11]
ミヒャエル……?
[数少ない、互いに名乗り合ったことのある敵の軍人だった。
何を思っているのか、心までは読むことは出来ないらしい。
ただ、兵士らの亡骸を扱う手付きは丁重であり、彼もそれに倣うようにマントをかけてくれた>>12]
――そうだな。
[一度やり合ってみたかったと。
語り掛ける声に言葉を返す]
"いい勝負"を……したかったよ、俺も。
[声なき声が言い終えるよりも早く、ミヒャエルはこちらに背を向ける。
それっきり振り返らず駆け出す背中を、その場に浮かんだまましばし見送った*]
― 回想 ―
[トルーンの町は、プラメージの中でも端の方――端的に言えば、田舎だった。
首都防衛から僻地の任務に飛ばされたと不満に思う者もいたが、現地の人々と生活を共にし語り合えば、自ずと愛着も湧いてくるものだ]
[カレルから誘いを受けた>>19のも、そんな時期の一幕だった]
俺はいい。
合図の仕方なら、プラメージ軍式があるからな。
[硬い口調で辞したが、その実、最大の理由は、指笛を吹く自分というものがどうにも想像がつかないものだったからだ。
自分とは何かと正反対の兄に、音楽の才というものも軒並吸い取られてしまっている。
練習中の姿など、とても見せられたものではない]
[しかし、ふと脳裏を過ぎった顔に、考えを改めた]
いや……やはり教えてくれないか。
相互理解の一環として、だ。
[口調こそお堅いが、要は兄に聞かせてやりたいと思ったのだった。
上手くは吹けないかもしれないが、それに纏わる土産話は喜ばれるだろう。
あまり家から出られない兄は、自分が遠出から帰った時には、よく話を聞きたがった。
兄に比べ口下手な自分の話に、それでも熱心に耳を傾けてくれていた]
[いつか町を取り戻せたら。
次々と歓迎案を繰り出す義勇兵に、セルウィンはいつになく柔らかく微笑んだ]
そうだな。
――連れてきたい人がいるんだ。
[町に平穏が戻り、自身も兵役を終えて、僅かでも自由な時間が出来たなら。
兄を連れて彼らの町を訪れるのもいいだろう。
かなりの遠出にはなってしまうけれど、兵役開け祝いの名目で、少しばかりの無茶は通させてもらう]
[そうして交わされた約束が叶うことは、もう、ない**]
/*
ミヒャエルもベリアン様も、とても格好いいのだ。
ちょっと表で動く余裕はないので、このままお休みなさい**
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