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[想定外の邂逅から気を取り直した頃、遠雷の響きが遠くから迫ってくるのを感じる。
響きの源を視認して、相手にも頭の回る奴がいるらしいと悟った。
体格のいい鹿の類が五頭、角を揃えて突進してくる。
さながら、重装騎兵の突撃という風情だ。]
上等。
[牙剥くように笑って、得物を低く構える。]
[突撃してくる騎兵の正面へ、自分から向かっていく。
普通の人間ならば、狂気の沙汰と言われるだろう。
だが、この男は、そういう類の人間だった。]
……!
[無言の中に気迫を込め、刃を振るう。
同時に自ら身体を地面に投げ出し、相手の足元をすり抜ける。
身体能力と、何より度胸が無ければできない芸当だったが]
[浅いな。と、胸の奥で呟くのは、刃に届いた手応え。
中央を斬り倒すつもりで放った斬撃は、一頭の足を裂いてよろめかせたのみにとどまった。
ふらついて離れる一頭を除き、四頭で再び列を組んで向かってくる鹿たちを睨み据える。]
──四牙点穴。
[呟きと同時、放つのは四の刺突を連続で放つ技。
風巻く刃が正確に四頭の角の間を穿つ。
乱れる足並みは、だが止まることはなく。]
……ぐ、 は、 …
[一頭の角に鎧を通され、引きずられた。]
[光の矢が幾筋にも分かれて周囲に降り注ぐよう。
文字通り天より降った災難に獣たちが慌てふためく隙に、得物を手にして駆けた。
雷撃に打たれ痺れる馬の喉を裂き、驚いて飛び跳ねる鹿の足を薙ぐ。
再び、獣たちを薙ぎ払う鋼の旋風が吹き荒れた。]
[刃の前に立つ獣の数は確実に減っていく。
それは、個々のメンバーがそれぞれに獣たちを討ち取っているからに他ならない。こちらへの支援が飛んできたのも、それだけの余裕が生まれているからだろう。
戦いつつ、皆と合流するようにじわりと後退する。
それは、前線を支えきれなくなったというわけではなく、次の一手のため。]
道を、切り拓く。
[カークの言葉に頷いて、皆へと呼びかける。
他の者達が黒の巨獣へ到達する道を、自分が作ると。
未だ寄せてくる眷属たちの壁を破り、かの神獣を目覚めさせる、第一の楔となろう。]
王国兵 トールは、精霊師 コンスタンツェ を投票先に選びました。
[そうして地の眷属たちの壁を切り抜ければ、前方の視界が開ける。
草原の中央に鎮座する神獣は、自らの前に現れた不届きものへの怒りを露わに嘶き、大地を踏み鳴らした。]
……! 殿下!
[不穏を察知して声を上げ、公子を突き飛ばすよう手を出しながら、自分は逆側へと飛ぶ。
直後、漆黒の二角獣の足元から地割れが走り、中から無数の岩の錐が突き出した。]**
[地割れから逃れたはいいが、公子とは左右に分かれてしまった。
受け身を取って立ちあがる眼前に、なおも主を守ろうとする地の眷属たちがにじり寄ってくる。
長柄刀を構えなおした時、ふわりと周囲に爽やかな香りが流れてきた。
自分は良い香りだな、程度の感想しか持たなかったが、狂った獣たちは香りに包まれるや否や、戸惑ったように足踏みする。
それはあるいは、彼らの主の影響を受けているのかもしれず。
脅威にはならないと判断し、漆黒の巨獣に向き直れば、真白が空を飛ぶのが見えた。]
[後方に炎の渦を噴きながら飛んだユーリエの足が、黒い頭をしたたかに揺らす。
流れるように放たれる、虹の矢と全てを塗りつぶす白。
空を舞う彼女の背に、翼が見えたような気がした。
ああ、終わりだな、と。
そう思ったから、武器を構えずに歩いて近寄っていく。
傾く巨躯の方は見もせず、ユーリエが万が一にも落ちてくるようなら、受け止めてやろうか、と。]*
[あれほど見事に神獣をしずめてみせたユーリエなのだから、きっとなにくわぬ顔で地面まで飛んで降りるのだろう、と思ってはいたのだが、放物線描く身体を目にして顔色を変えた。
歩きから小走りへ、さらに得物を投げ捨てての疾走に移る。
背中から落ちてくる体を受け止めたのは、我ながらぎりぎりだった。]
…………は、
[軽くはない衝撃に息を詰めてから、ゆっくり吐き出す。]
……これで、貸し借り無し、だ。
[前に言われた言葉を返し、彼女を地面に下ろす。
ところで、ユーリエは酸欠でも起こしたのだろうか───とパクパク動く口を見ている間、傷を負った自分の胸を無意識に手で押さえていた。]*
あ、 おい。
そんな騒ぐような傷じゃない、から、
[ユーリエのパニックっぷりと、全力でローランドを呼んでいるのとに、こちらも釣られて若干慌てる。
押さえていた手を見たら赤が付いていたので、鎧の端で拭っておいた。]
その……、ああ。
[押されるままに頷いて、勢いのまま腕を引っ張られ、ユーリエと一緒にローランドの前へとやってくる。
その手にも顔にも紅が何本も引かれているのを見れば、どこか複雑な思いがした。]
俺の手当ては自分でできる。
それより彼女をみてやってくれ。
[過呼吸を起こした(とトールが思っている)くらいだから、かなり消耗しているのだろう。彼女を先にと頼む。]
[ユーリエの証言は間違っていないので何も言わず、ローランドの主張も説得もまったくもって正論だったので、押し黙って頷いた。]
…頼む。
[ひとこと告げてから、その場で脱ぎ始める。
女性の前だとか、そういう配慮は特になかった。]
[革鎧を外せば、相応の出血が見て取れるだろう。
右胸の上あたり、角に抉られた傷がある。
内臓までは届いていないが、ある程度は深さがあった。
なおユーリエを受け止めた程度では打撲にもなっていない*]
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