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− 魔術協会学舎 (回想) −
[観察と推測の下に試みた解錠はうまくいった。
少年は門をくぐって魔術協会学舎の敷地内へ潜入する。
食べ物を見つけて盗んでさっさとおさらば──の予定が、あの音を聞いたとたんに不意に立ち眩んで意識を失ったらしい。
意識を取り戻したら四阿のベンチに寝かされていた。
庭師みたいな恰好の男たち──中年と老人と──が、話をやめてこちらを向いてニコリとした。]
[「追肥をやるのは雨の前がいいか後がいいのか協議していたんだ。キミはどっちがいい?」
中年の方がいきなりそんなことを訊くもんだから面食らっていたら、老庭師の方が楽しげに制した。
「ほらやはり、普通の子供だろう」
「薔薇の精じゃないのかい、本当に」
相手が正気でないか、からかわれているんだと思った。
だが、どちらでもなくて、この学舎の人間にとっては、部外者の人間が入り込んでくる方が異常事態なのだと程なくわかった。
どうやって門の魔法を解いたのか、と問われた。
二人があまりに褒めたり感心したりするので、抑揚だの印だのをよく観察すれば誰にでもコピーできるはずだと、口数少なく手の内を明かした。]
[二人はしばらく話し合っていたが、導き出した結論は「キミ、ここの学舎で魔法を学んでみる気はないか」だった。]
──…、
[この学舎には金持ちが通って、いいもの食べて、部屋も快適で──ってストリートでは噂されていた。
こんな立派な薔薇園と専属の庭師を二人も抱えているくらいだから事実なんだろう。]
代償は。
[裏がないオイシイ話なんて信用しない。
二人は顔を見合わせたけれど、中年の方が、「実はうちの息子が退校することになって、部屋がひとつ空くんだよ」と言った。
単なる状況のようにも聞こえたけど、彼にとっては隠したい身内の恥なのかもしれない。
「ああ、来た。あれが息子のアラン」
指ししめされた場所には、竪琴を抱えた金髪の少年がいて、瞬間的に、さっき自分を失神させた呪歌を作ったのはアイツだと悟った。
関わるとマズいヤツ──と直感で思った。]
[理由はどうであれ、アイツが勉強を止めて外に出て、自分が学舎に入るなら安全だ。
何がどういうわけでもないのに、それが背中を後押しした。]
魔法の勉強するだけで、ここに住まわせてくれて、金とらないっていうなら。
[条件を確認すれば、老庭師は大丈夫だと請負った。
なんで庭師の老人ごときにそんな権限があるのか疑わなかった当時の自分はやはり幼かったのだと思うが──ともあれ、交渉は成立した。
「喜ばしい。今日からキミはこの学舎の仲間だ」]
[「名は?」と問われて、少年は答えた。]
ベリアン。
[老庭師が名誉学長だったとか、中年の薔薇マニアの方は騎士団のお偉いさんだったとか判明するのはその後の話。
自分と入れ替わりに学舎を去った少年との縁が現在につながると気づくこともなく、死霊魔導士ベリアンは簡易寝台に横たわって毛布をかぶった。
あれ以来、呪歌は毛嫌いして習わず仕舞いであることを付け加えておく。
── 回想・終わり]
− 魔王軍野営地・朝 −
[硬く絞った布で体を拭う。
肌の色は変わらないが、そのための清拭でもない。
朝食代わりのナッツを齧る。
我ながら小動物めいている。
野営地のあちらこちらで炊事の煙が見えた。
ゴブリンどもが何を料理しているか知る気もないが、例の薬が食事に混ぜられているのは知っている。]
[こうして屍鬼が増えてゆけば、生者はやがて単純な肉体労働から解放されて知的探求と後進の育成に専念できるようになるのではないか。
そんな未来を思い描く。]
[どうせ100年もすれば、一部の長命種を除いて、皆死んでいる。
テオドールは永生を望んでいるが――]
《魂》の捉え方に正解などないのでしょう。
[昼の間は、新しく入手した素材での研究と、カレン戦に用いる魔法陣の作成に努めた。
手を切り落とされた屍鬼に、足をなくした屍鬼の腕を継ぐ。]
移植の術式はほぼ計算どおりにいきましたね。
[これで、破損した屍鬼をふたたび戦線へ戻すこともできる。
新しい屍鬼を作った方が手っ取り早いのは事実だったが、屍鬼の合成技術の確立は多くの可能性を秘めていた。]
[魔法陣は、トロールが岩を引っこ抜いて投げた跡の丘陵を屍鬼に地ならしさせて、その上に骨灰で描いてゆく。
夕刻になって、海上に光が点っていると報告があった。
完成した魔法陣から目視で確認する。
魔法の光だ。]
屍鬼の運用が困難になりますね…
ですが、このまま進めます。
[送り込んだ屍鬼たちはすでに現場海底付近に到達していよう。]
− 海を臨む丘陵の魔法陣・夕刻 −
[海を緋に染めて日輪が落ちゆく。
半身にその残照を浴びつつ、ベリアンは魔法陣に立った。
周囲には、幾足かの屍鬼がトーテムポールのごとく佇んでいたが、むろん、士気鼓舞の演説も鯨波の声もここにはなく、静謐な魔力だけが空間を支配していた。]
[同じ時刻、この魔法陣とほぼ高さを同じくするカレンの城壁上に、かつての同窓生が立っていることは、鷹ならぬ目では知るよしもない。>>396
騎士ではなく、術士として場に臨んだシェットラント。
彼が己の名を口にしたことを知ったなら、ベリアンは歪んだ笑みを浮かべるだろう。
まるで眼中にないと言われ、ゴブレットを床に叩きつけたあの日から今にいたるまで、シェットラントの存在は心臓に刺さった棘のようなものだった。>>1:279]
[時を見定めたベリアンは海に向かい、詠唱を開始した。]
あはれ、こはもの静かなる幽潭の
深みの心こゝろ──おもむろに瀞みて濁る
波もなき胎のにほひの水の面おも。
をりをり鈍き蛇のむれ首もたぐれど
いささかの音だに立てず、なべてみな
重たき脳の、幽鬱の色して曇る…
[冷たい力が足元に蟠るのを感じる。]
[見つめる視線の先、刻々と色を変えてゆく海の面に、ゆっくりと灰色の霧が生じはじめた。
死人の脳髄を連想させる陰鬱な紗幕の中、魔女の光珠のまわりだけが澄んでいる。
流れよる霧に包まれた者は体が麻痺し、やがて昏睡にいたるだろう。
その毒霧の中を、海の底を歩いてきた屍鬼たちが上げ潮にのってカレンの港へ侵攻をはじめる。
船の碇を這い上り、下水道を辿り、ぬめぬめと。
そして、光の結界に触れておののく。 >>232>>394**]
/*
ふふふふ、ベリアンのイベント絵、イイですよ、とてもイイ。
流し目の向きと虹彩の色の違いがなんとも。
このチップでSFやりてえ。
…ん っ、
[屍鬼たちの侵攻を妨げるものがある。
張り巡らされた漁網に絡まった、といった物理的な感覚ではない。]
聖結界か…
[押し通せないことはない。
だが、同時に儀式魔法を維持するのは困難だ。
自分は二人いない。
ベリアンは迷わず、「葬送の霧」>>405の維持を止めた。]
──捩じ込む。
[屍鬼に船と港を占拠させるのだ。
頭にあるのは、船同士をぶつけて櫂をへし折り、あるいは埠頭に激突させてもろともに砕く計画。
だが、その時すでに透き通る欠片が魔力の流れを辿って投げられていることをベリアンは知らなかった。>>432
澄んだ硬質な音が響くまで。>>434]
(リン)
──…!
[耳元に届く、怜悧でありながら熱い力。
探りあてられた気配を察する。]
…誰だ。
[反呪の可能性に身構えた。]
[即座には仕掛けてくる様子がない。
案外と遠い場所にいるのかも知れなかった。
その距離で探知を成功させる相手であれば、手練であることを認めざるを得ない。
安閑としている余裕はなかった。]
「虚ろな棺」…っ!
[惜しまず緊急回避の切り札をきる。
魔法陣を囲んでいた屍鬼たちが紫の炎柱となって燃え上がった。
七芒星の配置。
それを身代わりの囮に、身を翻して魔法陣から駆け出す。]
[魔法陣を捨てた、となればなるべく近い場所から屍鬼を指揮する必要がある。
「骨の馬」を組み上げたベリアンは、カレン港へ向けて移動を開始した。]
最低限、と言われたのですから── >>234
− カレン港近く −
[探知の術をかけた者以外にも捉えられているとは思っていなかった。>>492
燐光をまとう骨の馬を走らせていると、海の匂いがした。
攻略拠点はそう遠くない。
光の結界の間際で蠢いていた屍鬼たちが、神官の浄化魔法で消されるのを感じる。]
──押し破れ。 浄化魔法とて無限ではない。
[屍鬼のドームを作ってでも光を遮らんと、念をこめた。]
[…まったく面倒な話だが。
テオドールが無事で戻ってきたから、
イングリッドはべリアンに対して、幾分態度が柔らかくなっていた。]
[笛を持っていて良い、というのは、
イングリッドなりに、一時的にでも彼を認めたからだったけれども。
何も言わなかったべリアンに対して、背後を警戒せよというのは――
――べリアンに要らぬ疑惑を抱かせたかもしれなかった。
イングリッドとて武人の端くれ、
故に軍の魔物が彼に敵意を持っていることには気付いていたから、そう言ったまでのことだが。
…今まで注意することがなかったのは、そうしたいと思わなかったから。]*
[海上では、屍鬼によじ登られてしまった一艘の船が碇を切ってフラリと動き出す。
やがてその船からは炎があがった。
屍鬼は炎に耐性がない。
だが、ベリアンの意志に縛られた屍鬼は燃え上がりながらも櫂をこいで埠頭へと邁進するのだった。]
なに──、
[炎上する船がゆらりと傾いだ時、不意に大気が鳴動し、これまでとは比べ物にならない程の聖光が溢れ出した。
それは、互いに連鎖し、街を覆いつくす。>>518
包まれた屍鬼が影さえ残さず蒸発した。
離れた海上で時ならぬ旭光を仰ぎ、ポタポタと波間に落ちた屍鬼たちですら無事ではなかったかもしれぬ。]
[跨がっていた骨の馬が色あせて砕け、ベリアンを地面に投げ出した。]
く、
これほどの力を集めるには、「要」があるはずだ…っ
流し込めるか、 逆呪文──
[地面に膝をついて、擦りむいた指先でそのままに簡易魔法陣を描く。]
刹那の刹那、歎く血の歓楽にこそ、
痛ましき封蝋色の汝が胸も、
焦げつつ聴かめ…
[低い位置から見上げた空に──それを見た。>>548]
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